特別調剤基本料Aの要件見直しで働く薬剤師が受ける本当の影響

特別調剤基本料Aの要件見直しで働く薬剤師が受ける本当の影響
【この記事でわかること(3秒で解説)】
  • 特別調剤基本料Aは5点で据え置かれた
  • 敷地内薬局は給与の天井が構造的に低い
  • 対人業務の経験は転職市場で武器になる
目次

敷地内薬局で働くあなたへ伝えたい一次情報

今の薬局の基本料が、よその店よりずっと低いと感じたことはありませんか。

敷地内薬局で働く薬剤師の多くが給与や賞与の伸び悩みに直面しています。その背景には特別調剤基本料Aという公定価格の構造があります。

2026年6月1日に施行される調剤報酬改定では、この特別調剤基本料Aの要件が見直されます。対象となる薬局の範囲が変わり、働く薬剤師の処遇にも影響が及びます。

私は元調剤薬局チェーンの人事部長として、また調剤薬局の経営コンサルタントとしての経験があります。採用と人事評価の両面から、薬局の収益構造が薬剤師の給与にどう跳ね返るかを見てきました。

本記事では制度の変更点を厚生労働省の一次資料で確認します。そのうえで敷地内薬局で働く薬剤師が取るべき判断軸を解説します。

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特別調剤基本料Aとは何か【まず全体像を押さえる】

特別調剤基本料Aは、いわゆる敷地内薬局に適用される基本料です。調剤基本料の区分の中で水準が低い部類に入ります。

この区分の対象は二つの条件で決まります。まず保険医療機関と不動産取引等の特別な関係を有していることです。次にその医療機関からの処方箋集中率が50%を超えていることです。

点数の差は小さくありません。2026年改定後の調剤基本料1は47点へ引き上げられます。一方で特別調剤基本料Aは5点に据え置かれました。

調剤基本料の区分別点数(2026年改定前後の比較)
区分 改定前(R6) 改定後(R8) 増減
調剤基本料1 45点 47点 +2点
調剤基本料2 29点 30点 +1点
調剤基本料3 イ 24点 25点 +1点
調剤基本料3 ロ 19点 20点 +1点
調剤基本料3 ハ 35点 37点 +2点
特別調剤基本料A 5点 5点 据え置き
特別調剤基本料B 3点 3点 据え置き

出典:厚生労働省「調剤報酬点数表」「個別改定項目について」令和8年2月13日。1点は10円に相当します。特別調剤基本料A・Bは引き上げの対象外です。

賃上げと物価高への対応として各基本料は引き上げられました。しかし特別調剤基本料A・Bはその対象から外れています。

減算はこれだけではありません。特別調剤基本料A・Bの薬局では、内服薬が7種類以上の場合の薬剤料が所定点数の90/100となります。

該当しやすい薬局の特徴は、具体的には次の通りです。

  • 大きな病院の敷地内や同一の建物に出店している
  • 開設時に医療機関と土地や建物の取引関係がある
  • 処方箋の大半をその医療機関から受けている

特別調剤基本料にはBの区分もあります。Bは調剤基本料の届出をしていない薬局が対象で、点数は3点です。Bでは服薬管理指導料や調剤管理料など多くの項目が算定できません。

2026年改定では一つの下支えも設けられました。各種の減算を適用した後でも、合算した点数が3点を下回る場合は3点を算定します。とはいえ、これは底が抜けないようにする最低限の措置に過ぎません。

2026年改定で変わった3つの要件【一次資料で確認】

2026年改定で変わった特別調剤基本料Aの3要件
変更点 内容 働く薬剤師への意味
へき地特例の新設 地方自治体所有の土地にある診療所の敷地内薬局で周囲に他薬局がない場合は調剤基本料1を算定可 地方で医療を支える薬局には追い風
除外規定の削除 建物内に診療所がある場合に特別Aを算定しない扱いを削除 これまで対象外だった薬局も特別Aに該当しうる
オンライン診療施設併設 同一敷地内にオンライン診療の受診施設を設置する場合は特別Aを算定 窓口併設で思わぬ形で特別Aの対象に

出典:厚生労働省「個別改定項目について」令和8年2月13日。見直しの狙いは健康保険事業の健全な運営の確保とされています。

今回の見直しは三つの柱で構成されています。出典は厚生労働省の個別改定項目です。

まず一つ目はへき地への配慮です。へき地等で地方自治体が所有する土地にある診療所の敷地内薬局であり、周囲に他の薬局がない場合が対象です。この条件を満たせば特別調剤基本料Aではなく調剤基本料1を算定できる規定が新設されます。地方で医療を支える薬局には追い風となります。

次に二つ目は除外規定の削除です。これまでは薬局のある建物内に診療所がある場合、特別調剤基本料Aを算定しない扱いでした。この除外規定が削除されます。

そして三つ目はオンライン診療受診施設への対応です。薬局と同一の敷地内にオンライン診療の受診施設を設置する場合が対象です。その薬局は特別調剤基本料Aを算定する規定が新設されます。

この三つ目は見落とされがちです。オンライン診療の窓口を併設したことで、思わぬ形で特別調剤基本料Aの対象になる薬局も出てきます。

国はこの見直しの狙いを健康保険事業の健全な運営の確保と説明しています。立地に依存する薬局への評価は、改定のたびに厳しくなる方向です。

関連記事:調剤基本料が変わる本当の理由は「集中率85%の壁」でした|2026年調剤報酬改定

関連記事:門前薬局等立地依存減算で今後の調剤薬局出店計画はどうなる??【元人事部長が解説】

なぜ敷地内薬局への評価は厳しくなるのか【政策の背景】

要件が厳しくなる流れには明確な狙いがあります。国は薬局を立地依存から脱却させようとしています。

患者のための薬局ビジョンが示されてから10年が経ちました。それでも特定の医療機関に依存する門前型の薬局の割合は、むしろ増えています。(出典:厚生労働省「個別改定項目について」令和8年2月13日)

国が評価したいのは、地域の住民へ広くサービスを届ける薬局です。特定の病院の前で処方箋を待つ薬局は、評価の対象から外れていきます。

この方針は薬局ビジョンが掲げる立地から機能へという考え方に沿っています。立地の良さで処方箋を集める時代から、機能で選ばれる時代への転換です。(出典:厚生労働省「患者のための薬局ビジョン」平成27年10月)

敷地内薬局はこの政策の影響を受けやすい形態です。改定のたびに点数や加算が抑えられる背景には、この一貫した方針があります。

国の財政事情も無視できません。医療費の伸びを抑える流れの中で、評価の重点は対人業務へ移っています。立地に頼る薬局への評価が緩む見込みは薄いと考えられます。

働く薬剤師への影響① 給与と賞与にかかる構造的な圧力

基本料が据え置かれた事実は、働く薬剤師の処遇に直結します。薬局の収益構造が給与原資の上限を決めるからです。

薬局の売上は調剤報酬という公定価格で決まります。基本料が5点の薬局と47点の薬局では、処方箋1枚あたりの基本収入に大きな差が生まれます。

1点は10円に相当します。基本料だけで見ると、処方箋1枚あたり470円と50円の差です。月に何千枚も受ける薬局では、この差が積み上がります。

影響は基本料だけにとどまりません。地域支援・医薬品供給対応体制加算について、特別調剤基本料Aの薬局は所定点数の100分の10で算定する扱いとなりました。

本来の点数の1割しか取れないとなると、薬局の収益への影響は小さくありません。加算も基本料も抑えられる以上、収益の天井は構造的に低くなります。

賃上げのための調剤ベースアップ評価料は2026年改定で新設されました。ただし、この評価料の収入は職員の賃金改善に充てる前提のものです。基本料そのものの低さを埋め合わせる性質ではありません。

少し想像してみてください。同じ法人でも、面分業の店と敷地内の店では利益の構造が違います。賞与の原資や昇給の余地に差が出ても不思議ではありません。

人事の現場では、店舗ごとの利益を見ながら賞与の配分を考えます。利益の薄い店に手厚い原資を回すのは難しいのが実情です。

これは個人の評価とは別の力学です。あなたがどれだけ貢献しても、店舗の収益が低ければ還元の原資が細るのです。

ここで一つ、説明のための架空の例を挙げます。都心の大学病院前の敷地内薬局で働く32歳のCさんがいたとします。処方箋の枚数は多く、毎日忙しく働いています。

それでも昇給の話になると、店長は渋い顔をするばかりだとします。「うちは基本料が低いから本部も評価を上げにくい」と言われたとします。本人の努力とは別の次元で、処遇の上限が引かれているのです。

採用に携わっていた頃にも、店舗の収益構造を知らないまま評価面談で消耗している薬剤師を見てきました。自分の市場価値と、今いる薬局の収益力は分けて考える必要があります。

労務や給与の細かい条件を面接で自分から尋ねると、角が立つ場面があります。エージェントに任せれば、あなたはエージェントが代わりに確認してくれたというスタンスを取れます。企業側もエージェントの要求だからと受け止めやすいのです。

実際にこれまで採用の裏側を見て信頼できると判断した会社だけを厳選しました。失敗したくない方は、実名を挙げて解説したこちらの記事をご覧ください。

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働く薬剤師への影響② 対人業務の負担とキャリアの方向性

特別調剤基本料Aの薬局では、対人業務の負担が相対的に重くなります。減算を避けるための要件が厳しいからです。

薬剤師のかかりつけ機能に関する基本業務には、年間の実施回数の基準があります。通常の薬局は年10回が目安ですが、特別調剤基本料A・Bの薬局は年100回が求められます。この回数を下回ると基本料が50/100に減算されます。

かかりつけ機能の基本業務とは何かを補足します。服薬情報の一元的な把握や、患者への継続的なフォローなどが含まれます。

これらは患者一人ひとりと向き合う対人の仕事です。処方箋の数をこなすだけでは、回数の基準を満たせません。

回数の基準が10倍である意味は重いです。少人数の体制で対人業務の件数を積み上げる負担は、現場の薬剤師にのしかかります。

国の政策は対物業務から対人業務への転換を進めています。敷地内薬局はその波を強く受ける立場にあります。処方箋を捌くだけの働き方では、薬局も薬剤師も評価されにくい時代です。

不思議だと思いませんか。忙しさは変わらないのに、求められる役割だけが増えていくのです。

ここで視点を変えてみます。対人業務のスキルは、転職市場では強い武器になります。在宅医療や服薬指導の実績は、面分業店や在宅特化型の薬局で高く評価されます。

つまり、今の負担は将来の市場価値に変わり得ます。対人業務の経験を、次の職場への切符として捉える視点も持てます。

ただし、評価されるのは実績が見える形で残っている場合です。日々の対人業務を記録し、面接で語れるよう整理しておくことが役立ちます。

関連記事:対物業務から脱却する薬剤師の生存戦略|3つの必須スキルを解説

関連記事:在宅薬剤師の仕事内容と将来性|年収800万円超のキャリアを解説

敷地内薬局を続けるか離れるかの判断軸【冷静に見極める】

敷地内薬局が一律に不利というわけではありません。立場や地域によって意味合いが変わります。

へき地で地域医療を支える薬局には、調剤基本料1を算定できる道が開けました。安定した処方の流れや、特定の診療科の専門性を磨ける環境という利点もあります。

問題は、その薬局の収益構造と将来性をあなたが把握できているかどうかです。求人票には基本料の区分も加算の取得状況も書かれていません。

ここに情報の非対称があります。働く側は入ってみるまで収益構造を知りにくいのです。

だからこそ、外部の専門家を通じて事前に確かめる意味があります。年収だけでなく、薬局の基本料区分や加算の状況まで踏み込んで確認したいところです。

転職や残留を考えるときに確認したい点は、具体的には以下の通りです。

  • その薬局がどの調剤基本料を算定しているか
  • 地域支援・医薬品供給対応体制加算などを取得しているか
  • 賃金改善の体制と評価制度が整っているか
  • オンライン診療施設を併設する予定があるか
  • 在宅や対人業務への移行方針があるか
転職・残留を考えるときに確認したい5項目
確認項目 なぜ重要か 確認の手段
どの調剤基本料を算定しているか 給与原資の上限を左右する エージェント経由で確認
地域支援・医薬品供給対応体制加算の取得状況 特別Aは100分の10でしか算定できない エージェント経由で確認
賃金改善の体制と評価制度 昇給や賞与の基準が明確か 労働条件通知書で確認
オンライン診療施設の併設予定 将来的に特別Aへ移る可能性 面接やエージェント経由で確認
在宅や対人業務への移行方針 将来の市場価値につながる経験 面接で確認

労務や給与の細かい条件を自分から尋ねると角が立つ場面があります。エージェント経由なら角を立てずに確認できます。

知人の薬剤師から聞いた話があります。ある敷地内薬局では、面接で評価制度はしっかりしていると説明されたそうです。しかし具体的な昇給の基準は最後まで示されなかったといいます。

入職後に分かったのは、基本料の低さを理由に賞与が抑えられている実態でした。事前にこうした収益構造を確認できていれば、判断は変わっていたはずです。

転職を急ぐ必要はありません。まずは今の薬局の立ち位置を正しく知ることが先です。

そのうえで、面分業店や在宅型など選択肢を比べてみてください。情報がそろえば、残るにせよ動くにせよ納得して決められます。

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あなたのキャリアは基本料の区分では測れない【行動する勇気を】

今の薬局で処遇に悩み続けたあなたを、誰も責めることはできません。基本料の低さは制度の問題であって、あなたの能力の問題ではないからです。

特別調剤基本料Aの見直しは、敷地内薬局で働く薬剤師に静かな影響を与えます。給与の天井や対人業務の負担、そして該当する薬局の拡大という形で表れます。

ただし、対人業務で磨いた力はどこでも通用します。あなたの市場価値は、今いる薬局の基本料の区分では測れません。思っているよりずっと高いのです。

特に対人業務やかかりつけの経験は、これからの薬局がほしがる力です。今いる環境がそれを正しく評価してくれるかは、別の問題です。

大切なのは、感情ではなく情報で次の一手を決めることです。収益構造や評価制度を冷静に見極めれば、後悔のない選択ができます。

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よくある質問

特別調剤基本料Aの薬局で働くと給料は下がりますか。

一律に下がるわけではありません。基本料が5点に据え置かれた事実は給与原資の上限に影響します。ただし処方箋枚数が多い薬局はトータルの売上で成立する場合もあります。大切なのは個別の薬局の収益構造と評価制度を確認することです。

今の敷地内薬局を辞めるべきか迷っています。判断の基準はありますか。

感情ではなく情報で判断することをおすすめします。まず今の薬局がどの調剤基本料を算定しているかを確認してください。次に賃金改善の体制や評価制度が整っているかを見極めます。求人票に載らない情報はエージェント経由で確認すると角が立ちません。

転職エージェントはどこを選べばよいですか。

交渉力と情報の確かさで選ぶことが重要です。労務や給与の細かい条件をエージェント経由で確認すれば、企業側も受け止めやすくなります。

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業界の動向を調べているあなたは、すでにキャリアについて真剣に考え始めています。

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この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

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