薬剤師のキャリアの軸が見つからないときは?元人事部長が自己分析の4ステップを解説

キャリアの軸が見つからない薬剤師へ|元調剤薬局人事部長が教える自己分析法
この記事でわかること
  • 薬剤師のキャリアの軸とは何を指すのか
  • 年収・働き方・仕事内容などの優先順位を整理する方法
  • 今の職場への不満と、次の職場に求める条件を分ける方法
  • 自分の経験・強みと希望するキャリアを整理する方法
  • 自己分析後に現職継続・転職・情報収集をどう判断するか

このまま今の薬局で働き続けてよいのか分からない。転職したい気持ちはあるものの、次に何を重視すればよいのか決められない。

こうした状態になったときに役立つのが、自分の仕事選びの判断基準を整理することです。

この記事では、その判断基準を分かりやすくキャリアの軸と呼びます。

これは公的制度上の正式な用語ではありません。年収、勤務時間、仕事内容、勤務地、役割、将来のキャリアなど、仕事を選ぶときに自分が何を優先するのかを整理したものです。

私は調剤薬局チェーンで薬剤師採用に約6年間携わり、約4年間は人事部長として採用・人事・労務に関わってきました。

採用側で応募者と話すときにも、その人が何を変えたいのか、今回の求人で何を実現したいのかは重要な確認事項でした。

ただし、キャリアの軸が明確なら必ず採用されるわけでも、軸が曖昧なら転職に失敗すると決まっているわけでもありません。

自己分析の目的は面接官に評価されることではなく、自分が後から納得できる判断をしやすくすることです。

目次

薬剤師のキャリアの軸とは仕事を選ぶときの優先順位

キャリアの軸を一つの言葉に決める必要はありません。

仕事には複数の条件があるからです。

判断軸 確認する内容
収入・待遇 基本給、手当、賞与、昇給、退職金など
働く時間 勤務時間、休日、残業、夜間・休日対応
勤務地 通勤時間、転勤、店舗異動、在宅勤務等
仕事内容 外来、在宅、病棟、OTC、管理業務など
役割・責任 一般薬剤師、管理薬剤師、教育、マネジメント等
成長・専門性 経験したい業務、研修、資格、将来の職務
職場環境 人員体制、教育、評価制度、意思決定の仕組み等
生活との両立 育児、介護、健康、配偶者の仕事など

大切なのは、これらをすべて最大化しようとしないことです。

高い給与と短い勤務時間と希望勤務地と希望業務と豊富な教育機会を、すべて同時に満たす求人が見つかるとは限りません。

だからこそ、何を優先し、何なら調整できるのかを決めます。

ただし、高年収なら激務、ワークライフバランスを取れば必ず年収が下がる、といった単純な関係でもありません。条件の組み合わせは職場ごとに確認してください。

キャリアの軸を考える前に転職するかどうかを決めなくてよい

自己分析を始める段階で、転職すると決める必要はありません。

むしろ、転職するか残るかを決める前に整理するから意味があります。

たとえば現在の不満が残業時間だけなら、勤務先でシフトや業務分担を改善できるかもしれません。

一方、今後経験したい仕事そのものが現在の会社に存在しないのであれば、社内異動では解決しにくい場合があります。

キャリアの軸は、転職先を探すためだけではなく、現在の職場に残る判断にも使えるものです。

関連記事:薬剤師が仕事のやりがいを見失ったときの整理方法

ステップ1|今の職場で変えたいことと残したいことを分ける

最初から理想のキャリア像を考えようとすると、答えが出ない人も少なくありません。

その場合は、現在の職場から考える方が簡単です。

紙やメモに、次の2列を作ってください。

変えたいこと 次の職場でも残したいこと
残業が多い 通勤30分以内
昇給基準が分からない 現在の休日数
在宅を経験できない 人間関係
店舗異動が多い 現在の年収水準

不満だけを並べるのではなく、現在の職場で失いたくない条件も書くのがポイントです。

転職を考えると、今の職場の悪いところばかりに目が向きやすくなります。

しかし、転職によって改善した条件がある一方、今まで当たり前だった良い条件を失う可能性もあります。

現在の職場を基準に、何を変え、何を維持したいのかを分けることで、転職先を見る基準が具体的になります。

ステップ2|希望条件を必須・希望・調整可能の3段階に分ける

次に、仕事選びの条件を3段階へ分けます。

区分 意味
必須条件 満たさなければその職場を選ばない条件
希望条件 できれば満たしたいが他条件との比較は可能
調整可能 仕事内容や全体条件によって受け入れられる条件

たとえば子どもの迎えがあるため18時までの退勤が必要なら、これは単なる希望ではなく必須条件になるでしょう。

一方、年収550万円を希望していても、通勤時間が大幅に短くなり休日が増えるなら540万円でも検討できるという人もいます。

重要なのは、他人の正解ではなく自分の条件として整理することです。

条件を整理するときの例
  • 必須:自宅から45分以内、日曜日勤務なし
  • 希望:現在年収を維持、在宅を経験できる
  • 調整可能:薬局の規模、チェーンか個人薬局か

この段階で完璧に決める必要はありません。求人を見る中で優先順位が変わることもあります。

ステップ3|過去に満足した仕事・つらかった仕事から価値観を探す

将来やりたいことが分からない人は、過去の経験から探します。

これまで働いてきた中で、満足感が高かった場面と、強く負担を感じた場面を3つずつ思い出してください。

その出来事自体より、なぜそう感じたのかを掘り下げます。

  • 患者との継続的な関係にやりがいを感じた
  • 後輩を教えることが楽しかった
  • 店舗改善を任されたときに充実感があった
  • 一人で判断し続ける勤務が負担だった
  • 急なシフト変更が続くことがつらかった
  • 評価基準が分からないことに不満を感じた

同じ在宅業務でも、患者との関係を好む人もいれば、移動や時間管理を負担に感じる人もいます。

仕事内容の名称だけではなく、その仕事のどの部分に満足・不満を感じたのかまで考えることが大切です。

厚生労働省も、キャリア形成では自分の適性・能力・関心等への理解を深めることを重視しています。

参考:厚生労働省「キャリアコンサルティングの活用・効果」

ステップ4|やりたいこと・できること・求人側が求めることを分ける

最後に、自分の希望だけではなく、現在持っている経験と、希望する仕事で求められる条件を確認します。

整理するときは、次の3つに分けると考えやすくなります。

観点 考えること
やりたいこと これから経験したい仕事・働き方
現在できること これまで経験した業務・役割・スキル
求められること 希望する求人・役割で必要とされる経験や条件

いわゆるWill・Can・Mustに近い整理方法ですが、3つが完全に重なる仕事を見つけなければならないわけではありません。

たとえば在宅をやりたいものの経験がない場合、在宅未経験だから候補から外すのではなく、未経験者を育成する職場を探すという方法があります。

管理職を目指したいものの店舗管理経験が足りないなら、まず現在の職場で教育・在庫管理・シフト等の一部を経験する方法もあります。

自己分析は、自分にできる仕事を固定するためではなく、希望する方向と現在地の差を把握するために使います。

自分だけで整理しにくい場合は公的ツールも使える

自分だけで考えていると、同じ答えを行き来してしまうことがあります。

その場合は第三者や自己診断ツールを使う方法があります。

厚生労働省の職業情報提供サイトjob tagには、仕事価値観検査、職業興味検査、キャリア分析、しごと能力プロフィール検索などが用意されています。

参考:厚生労働省 職業情報提供サイト job tag「個人での利用」

仕事価値観検査では、働くときに重視することについて自分の傾向を確認できます。

参考:job tag「仕事価値観検査」

診断結果だけで職場を決めるものではありませんが、自分では言葉にしにくかった価値観を考えるきっかけにはなります。

必要であれば、キャリアコンサルティングなど第三者との対話を利用する方法もあります。

転職エージェントは市場価値の判定者ではなく情報源の一つ

転職を検討している場合には、転職エージェントへ相談して求人情報を得る方法もあります。

ただし、担当者があなたの市場価値を一つの正確な数字として判定できるわけではありません。

給与条件は、地域、職種、勤務時間、担当業務、役割、会社の給与制度、採用状況などによって変わります。

エージェントから年収水準について説明された場合も、次のように確認するとよいでしょう。

「その年収水準は、どの地域・役割・求人を基準にしたものですか?」

求人企業の採用ページ、ハローワーク、求人サイトなど他の情報源と比較することもできます。

転職エージェントの使い方については、次の記事で詳しく整理しています。

関連記事:薬剤師転職エージェントの使い方|元人事部長が7つの確認ポイントを解説

キャリアの軸が決まったら現在の職場と比較する

キャリアの軸を整理したからといって、すぐに求人へ応募する必要はありません。

最初に現在の職場を同じ条件で評価します。

確認項目 現在の職場 改善可能性
年収 現在の給与・手当 昇給・役職変更の可能性
勤務時間 現在の残業・シフト 配置・シフト調整の余地
仕事内容 現在担当している業務 異動・新しい業務を担当できるか
将来 現在のキャリアパス 希望する役割へ進めるか

現在の職場で問題を解決できるのであれば、転職しない選択もあります。

反対に、自分の必須条件と現在の会社の仕組みが大きく合わず、改善も難しいのであれば、外の職場を比較する意味が出てきます。

求人を見るときはキャリアの軸を質問に変える

自己分析の結果は、求人検索だけでなく面接や職場見学でも使えます。

たとえば自分の必須条件が教育体制なら、研修充実という求人文言だけで判断せず具体的な運用を聞きます。

自分の軸 確認する質問の例
残業を減らしたい 配属予定店舗の通常の終業時刻と、閉局後の業務を確認する
在宅を経験したい 一般薬剤師も在宅を担当するのか確認する
管理職を目指したい 管理薬剤師候補になるまでの要件や育成方法を確認する
転勤を避けたい 就業場所の変更範囲を確認する
子育てと両立したい 実際のシフト時間と急な欠勤時の運用を確認する

キャリアの軸を具体的な質問へ変えることで、求人広告の印象だけではなく、自分に必要な情報を集められるようになります。

採用側では軸そのものより応募理由との整合性を確認していた

採用面接をしていた立場から補足すると、応募者に立派なキャリア理念を求めていたわけではありません。

確認したかったのは、転職理由と応募理由、希望している働き方と実際の求人内容に大きなずれがないかです。

たとえば管理業務を今後は避けたいと考えている人が、管理薬剤師候補の求人へ応募している場合は、その理由を確認します。

これはキャリアの軸がないから不採用にするためではありません。

入社後に、想定していた仕事と違ったというミスマッチが起こらないかを確認するためです。

面接で無理にきれいなストーリーを作る必要もありません。

「現在の職場では異動範囲が広く、今後は家族との生活を考えて勤務地を限定したいと考えています。御社の求人では勤務地の変更範囲が○○と確認したため応募しました。」

このように、事実、自分の希望、応募先との接点がつながっていれば十分です。

キャリアの軸は途中で変わってもよい

20代で重視していたことと、40代で重視することが同じである必要はありません。

結婚、育児、介護、健康状態、収入、仕事内容、役職などが変われば、仕事に求める条件も変わります。

そのため、一度決めたキャリアの軸を一生守る必要はありません。

むしろ、環境が変わったときに優先順位を見直すことが自然です。

半年後に考えが変わったから自己分析に失敗した、ということでもありません。

キャリアの軸は自分を縛るルールではなく、その時点での意思決定を助ける基準として使います。

キャリアの軸を整理した後の4つの選択肢

自己分析を終えたら、必ず転職へ進むわけではありません。

  1. 今の職場に残る
    現在の職場が自分の必須条件を満たしているなら、残ることも合理的です。
  2. 現在の職場で改善を相談する
    シフト、役割、異動、昇給など社内で改善できる可能性を確認します。
  3. 外の求人を調べる
    転職を決めずに、現在の条件と外部求人を比較します。
  4. 転職活動を始める
    現在の職場では必須条件を満たせず、希望に近い求人がある場合に応募を検討します。

転職活動の進め方全体については、次の記事で整理しています。

関連記事:薬剤師の転職戦略|初めての転職とキャリアアップ転職の考え方

キャリアの軸は正解を当てるためではなく、選んだ理由を明確にするために使う

キャリアの軸に、すべての薬剤師に共通する正解はありません。

年収を重視する人もいれば、家族との時間を優先する人もいます。専門性を高めたい時期もあれば、仕事以外を優先したい時期もあります。

大切なのは、何となく今の職場が嫌だから、年収が高いから、有名な会社だからという理由だけで決めるのではなく、自分が何を変えたいのかを理解したうえで比較することです。

変えたいことと残したいことを整理する。必須条件と希望条件を分ける。過去の経験から価値観を探す。希望と現在の経験、求人側の条件を比較する。

ここまで整理できれば、キャリアの軸を一つの格好いい言葉にまとめられなくても問題ありません。

自分が次の職場を選ぶときに、何を確認すればよいかが分かっていれば、自己分析は十分に役割を果たしています。

FAQ

キャリアの軸がどうしても見つからない場合はどうすればよいですか?

一つの言葉にまとめる必要はありません。まず現在の職場で変えたいことと残したいことを書き出し、次の職場で必ず満たしたい条件を2〜3個に絞ってみてください。それだけでも職場を比較する基準になります。

キャリアの軸は年収・働き方・やりがいのどれか一つに決める必要がありますか?

必要ありません。仕事選びには勤務地、勤務時間、仕事内容、役割、家族との生活など複数の条件があります。大切なのは一つに絞ることではなく、必須条件・希望条件・調整可能な条件へ優先順位をつけることです。

キャリアの軸が決まるまで転職活動を始めない方がよいですか?

転職を決断する必要はありませんが、求人を調べることはできます。実際の求人を見ることで、自分が重視している条件に気づくこともあります。情報収集と入社の決断は分けて考えてください。

転職エージェントは複数登録した方がよいですか?

必須ではありません。まず目的に合う1社を利用し、必要な求人や情報を得られない場合に2社目を検討する方法で構いません。企業の採用ページ、求人サイト、ハローワークなども情報源として利用できます。

キャリアの軸は途中で変えてもよいですか?

問題ありません。生活環境、年齢、家族、仕事内容、役職などが変われば仕事に求める条件も変わります。キャリアの軸は自分を固定するものではなく、その時点での意思決定を助ける基準として定期的に見直してください。

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