- 2025年の調剤薬局倒産件数と、現在の業界状況
- 勤務先の経営が不安なとき、比較的重く見るべき事実
- 処方箋減少・欠品・退職者増などを単独で倒産サインにしない理由
- 倒産・店舗閉店・休廃業・M&Aを分けて考える方法
- 給与遅配や未払いが起きた場合に確認したいこと
- 万一に備えて薬剤師本人が整理しておきたい雇用関係書類
- 未払賃金立替払制度の概要
勤務先の薬局で処方箋が減っている。複数の店舗が閉店した。賞与が減った。給与の振込日が遅れた。
こうした変化が重なると、会社の経営は大丈夫なのかと不安になることがあります。
実際、東京商工リサーチによると、2025年に倒産した調剤薬局は38件となり、2024年の28件を上回って2年連続で過去最多を更新しました。
ただし、業界全体で倒産件数が増えていることと、あなたの勤務先が倒産することは別です。
また、社員から見える一つの変化だけで会社の資金繰りや倒産時期を正確に予測することも困難です。
私は調剤薬局チェーンで人事・経営企画に関わり、店舗別の人員配置や業績を見る立場を経験しました。店舗閉鎖や事業再編を考える場面では、処方箋動向だけでなく、損益、人員配置、処方元医療機関、店舗の契約条件、会社全体の事業方針などを複合的に確認します。
処方箋が減った、設備が古い、退職者が増えたという一つの出来事だけで倒産を判断するものではありません。
この記事では、中小企業診断士・元調剤薬局チェーン人事部長の立場から、薬局で働く薬剤師が経営不安を感じたときに、何を重く見て、何は慎重に解釈した方がよいのかを整理します。
結論|一つのサインだけで薬局の倒産は判断できない
勤務先の経営状態を考えるときは、サインの数を数えるより、その事実が会社の支払能力や事業継続とどの程度直接つながっているかを見る方が重要です。
| 確認レベル | 例 | 考え方 |
|---|---|---|
| 直接性が比較的高い | 給与の継続的な遅配・未払い、未払いを理由とした取引停止が正式に確認された、法的整理等の公表 | 事実関係を早めに確認し、自分の雇用・賃金関係書類も整理する |
| 事業リスクとして確認 | 主要処方元の閉院・診療縮小、処方箋や収益の長期低下、複数店舗の縮小 | 倒産確定ではない。会社全体への影響と対応策を確認する |
| 単独では判断しない | 退職者増、古い設備、賞与減額、固定残業代制度への変更、医薬品欠品、経営者の発言 | 他の理由でも起こり得るため、倒産予測へ直結させない |
不安を感じたときほど、噂や印象ではなく確認できる事実へ戻ることが大切です。
2025年の調剤薬局倒産は38件で過去最多
東京商工リサーチの暦年集計では、2025年の調剤薬局倒産は38件で、前年比35.7%増となりました。2024年の28件を上回り、2年連続の過去最多です。
負債総額は44億8,400万円で、負債1億円未満の倒産が29件、全体の76.3%を占めています。
一方、帝国データバンクは2025年度について、負債1,000万円以上・法的整理を対象に30件と集計し、こちらも2年連続で最多としています。
2つの数字が違うのは、集計期間や倒産の定義が同一ではないためです。本記事では、暦年の業界動向を見る数字として東京商工リサーチの38件を主に使います。
過去最多という事実は軽視できません。ただし、日本全国の薬局のうち38社が倒産したという統計から、特定の勤務先が危ないと判断することはできません。
倒産・店舗閉店・休廃業・M&Aは同じではない
勤務先の将来を考えるうえで、最初に区別しておきたいのが会社倒産と店舗閉店です。
| 出来事 | 意味 |
|---|---|
| 店舗閉店 | 一つの店舗を閉めること。会社全体が存続するケースも多い |
| 休廃業・解散 | 事業をやめること。法的倒産とは異なる形で終了する場合がある |
| M&A・事業譲渡 | 事業や会社の所有・運営主体が変わること。経営危機だけでなく、事業承継や成長戦略でも行われる |
| 倒産 | 企業が債務を支払えなくなるなどして事業継続が困難となり、法的整理等に至る状態を含む |
例えば、採算の合わない1店舗を閉めても、他店舗へ経営資源を集中することで会社全体を立て直すことがあります。
反対に、店舗数が変わっていなくても会社全体の資金繰りが悪化している可能性はあります。
店舗閉鎖があったという事実と、会社倒産を同義にしないことが大切です。
勤務先がM&Aされた場合の雇用契約・給与・勤務地の扱いは、倒産とは別に確認します。詳しくは薬局がM&Aされたときの薬剤師の雇用・待遇で整理しています。
サイン1|給与の遅配・未払いは原因を必ず確認する
従業員にとって、給与の支払遅延や未払いは特に重く確認したい事実です。
労働基準法では、賃金は原則として毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うことが求められています。
ただし、給与振込が一度遅れたという事実だけで倒産を断定することもできません。
給与計算上の事務ミス、金融機関の処理、システム障害など、資金不足以外の原因も考えられます。
確認したいのは次の点です。
- 会社から遅延理由の正式な説明があるか
- いつ支払われるのか具体的な予定が示されているか
- 一回限りなのか繰り返しているのか
- 一部だけ未払いになっていないか
- 給与明細と実際の入金額に差がないか
継続的な遅配や未払いが生じている場合は、会社の経営状況とは別に、労働条件上の重大な問題として対応を考えます。
給与や労働条件の確認項目については、次の記事でも整理しています。
関連記事:薬剤師が面接で確認したい労働条件と職場選びのポイント
サイン2|処方箋枚数の減少は長期トレンドと原因を見る
薬局の主な収益は処方箋受付と調剤・薬学管理等に関係するため、処方箋枚数は重要な事業指標の一つです。
2025年11月の中央社会保険医療協議会でも、医療経済実態調査をもとに、処方箋受付回数が少ない薬局では損益状況が厳しい傾向が議論されています。
ただし、前年同月比で3か月連続減ったら倒産サインという全国共通の基準はありません。
処方箋枚数は次のような事情でも変動します。
- 季節性
- 営業日数
- 長期処方の増減
- 主要な処方元医療機関の患者数
- 診療日の変更
- 近隣薬局の新規開局
- 在宅業務など処方箋枚数だけでは捉えにくい業務構成の変化
したがって、一時的な枚数減ではなく、長期的な傾向と会社側の説明、店舗運営への影響を合わせて見ます。
サイン3|主要な処方元医療機関の閉院・診療縮小
特定の医療機関への依存度が高い薬局では、その医療機関の閉院や診療縮小は重要な事業リスクです。
厚生労働省の調査では、薬局の立地は診療所近隣が約6割、病院近隣が約2割とされています。
帝国データバンクの2025年度調査でも、大手ドラッグストアとの競争や近隣病院・クリニックの閉院の影響を強く受けた門前型薬局の苦境が指摘されています。
ただし、医師が高齢だから、最近休診があったからという推測だけで薬局閉店を判断しません。
確認したいのは、
- 閉院・診療縮小が正式に公表されているか
- 自薬局の処方箋がその医療機関へどの程度依存しているか
- 他の処方元・在宅・面対応など別の収益源があるか
- 会社が店舗継続についてどのような方針を示しているか
です。
サイン4|複数店舗の閉鎖や事業縮小が続いている
一店舗の閉鎖だけなら、不採算店舗の整理、賃貸借契約、処方元の閉院、移転などさまざまな理由が考えられます。
一方で、複数店舗の閉鎖、採用停止、事業売却などが続き、会社から事業縮小の説明も出ている場合は、会社全体の方針を確認する必要があります。
ここでも重要なのは、縮小=倒産と決めつけないことです。
経営改善のために赤字店舗を整理する場合もあれば、事業承継のためにM&Aを進める場合もあります。
サイン5|医薬品の欠品を資金繰り悪化と決めつけない
薬局で医薬品の欠品が増えると、卸への支払いができていないのではないかと不安になることがあります。
しかし、医薬品の欠品や入荷制限はメーカー側の供給不足、限定出荷、流通上の問題などでも発生します。
また、仕入先と支払条件を見直すこと自体も、直ちに経営危機を意味するものではありません。
資金繰りとの関連を考えるなら、未払いを理由とした取引停止や納品制限が事実として確認されているかというレベルまで区別する必要があります。
現場で薬が入らないという現象だけから、会社が卸へ支払えていないと推測しないようにします。
サイン6|退職者が増えても倒産の証拠ではない
薬剤師の退職が続いている場合、人員体制の維持という意味では注意が必要です。
ただし、退職理由は家庭事情、転居、待遇、キャリア、人間関係、定年などさまざまです。
退職者が増えたから、会社の将来性がないと社員全員が判断している、情報収集能力の高い人から逃げている、とまで解釈する根拠はありません。
むしろ確認したいのは、退職後の補充ができず、営業時間短縮や店舗運営に具体的な影響が出ているかです。
サイン7|設備・賞与・経営者の発言は単独で判断材料にしない
レセコンが古い、分包機の更新が遅い、賞与が減った、制度が変更されたといった出来事も、会社の経営状態と関係する場合はあります。
しかし、それだけで資金不足と判断することはできません。
設備には更新周期やリース契約があり、投資の優先順位も企業によって違います。賞与も業績だけでなく規程や評価制度によって変わります。固定残業代制度への変更も、その制度変更だけから資金繰り悪化を推測することはできません。
経営者の車、私生活、服装、抽象的な発言などから倒産を判断することも避けます。
経営方針そのものへの違和感と、財務上の経営危機は別問題です。会社との方針の相性を整理したい場合は、次の記事で詳しく解説しています。
関連記事:薬剤師が会社の経営方針に合わないと感じたら?残る・異動・転職の判断軸
従業員から会社の財務状況はどこまで分かる?
勤務先の経営が不安になると、会社の財務状況を調べれば倒産リスクを判断できるのではないかと考えることがあります。
しかし、小規模な非上場薬局では、一般社員が会社の詳細な損益、資金繰り、借入返済予定、手元資金まで把握できるとは限りません。
法人登記から確認できるのは会社の基本的な登記事項であり、それだけで資金繰りを把握することはできません。
企業によっては決算公告、会社ウェブサイト、信用調査情報などで追加情報を確認できる場合がありますが、公開範囲は会社ごとに異なります。
中小企業診断士として財務を確認するなら、本来は損益だけではなく、資金繰り、手元資金、借入返済、債権・債務などを複合的に見ます。
従業員が一部の数字だけを見て倒産時期を予測するのは難しいため、分からない部分を想像で埋めず、自分に直接関係する事実と備えを優先する方が実務的です。
勤務先の経営が不安なら、自分の雇用関係書類を整理する
倒産するかどうかを予想するより、万一の変化があったときに自分の雇用・賃金条件を確認できる状態にしておくことの方が重要です。
自分に関係する次の資料を確認しておきます。
- 労働条件通知書
- 雇用契約書
- 給与明細
- 給与振込を確認できる記録
- 源泉徴収票
- 有給休暇の残日数
- 自分に適用される退職金制度・就業規則の内容
- 雇用保険の手続きに必要となる自分の情報
- 会社から自分へ正式に通知された雇用・給与・異動等の文書
一方で、経営不安を理由に会社の非公開財務資料、取引先情報、患者情報、営業秘密などを私物端末や個人クラウドへ持ち出してはいけません。
自分の雇用関係資料を整理することと、会社・患者の機密情報を持ち出すことは明確に分けます。
給与が未払いのまま倒産した場合の未払賃金立替払制度
会社が倒産し、賃金が支払われないまま退職した一定の労働者には、未払賃金立替払制度があります。
厚生労働省の案内では、立替払額は原則として対象となる未払賃金総額の8割です。ただし、退職時の年齢に応じた上限があります。
| 退職時の年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払の上限額 |
|---|---|---|
| 45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
| 30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
| 30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
対象となる未払賃金には一定期間内に支払期日が到来した定期給与や退職金が含まれますが、賞与は対象に含まれません。また、制度の利用には倒産・退職時期などの要件があります。
給与未払いが起きた場合は、会社の倒産を待つという意味ではありません。勤務先からの説明を確認し、必要に応じて労働基準監督署などへ相談します。
経営不安を感じたら残る・異動・転職をどう考える?
勤務先の経営に不安を感じても、倒産する前に必ず転職した方がよいという全国共通の正解はありません。
本人の生活資金、家族状況、勤務条件、社内異動の可能性、次の職場の条件などで判断は変わります。
まず次の順番で整理します。
- 経営不安の根拠を、確認できる事実と推測に分ける
- 給与・雇用条件に実際の変更や未払いがあるか確認する
- 会社から正式な説明が出ているか確認する
- 自分の雇用関係書類を整理する
- 現在の職場に残る場合と環境を変える場合の条件を比較する
転職を検討する場合も、企業採用ページ、ハローワーク、求人サイト、転職エージェントなど複数の方法があります。
重要なのは、倒産が怖いから最初に見つかった求人へ移ることではなく、次の勤務先についても労働条件や職場環境を確認することです。
関連記事:ブラック薬局の見分け方|求人票・面接・職場見学で確認する9項目を元人事部長が解説
中小企業診断士として見ると、一つの数字だけで経営危機は判定しない
薬局の経営状態を本当に分析する場合、処方箋枚数だけを見るわけではありません。
- 売上・粗利益・営業損益の推移
- 人件費や家賃など固定費
- 医薬品仕入れと在庫
- 借入返済
- 手元資金と資金繰り
- 主要処方元への依存度
- 人員配置と採用可能性
- 店舗賃貸借などの契約条件
- 会社全体での店舗ポートフォリオ
などを組み合わせます。
従業員から見えるのは、その一部です。
だからこそ、経営者の言動や設備の古さから会社の内情を推測するより、確認できる事実、自分の労働条件、自分が備えられることを分ける方が、キャリア判断としても安全です。
まとめ|倒産を予言するより、事実を確認して備える
2025年の調剤薬局倒産は38件となり、東京商工リサーチの集計では過去最多を更新しました。
一方で、勤務先の処方箋が減った、退職者が増えた、設備投資が止まったというだけで、会社倒産を判断することはできません。
- 給与の継続的な遅配・未払いは重要な確認事項
- 主要処方元の閉院や複数店舗縮小は事業リスクとして確認する
- 処方箋減少は期間を決め打ちせず、原因と長期トレンドを見る
- 医薬品欠品、退職者増、設備の古さだけで資金繰りを推測しない
- 倒産・店舗閉店・休廃業・M&Aを区別する
- 自分の雇用・給与関係書類を整理しておく
- 未払賃金が生じた場合は公的制度と相談先を確認する
会社の将来を社員が完全に予測することはできません。
不安があるときは、分からない部分を推測で埋めず、確認できる事実と自分の備えから判断していきましょう。
- まだ転職するか決めていない
薬剤師のキャリアの軸を整理して、残る・動くを判断する - 念のため外の求人だけ確認しておきたい
企業採用ページ・求人サイト・ハローワーク・転職エージェントの探し方を比較する - 転職も現実的な選択肢として求人を比較したい
採用側の実体験から薬剤師転職エージェント3社を比較する
FAQ
- 処方箋枚数が減ったら薬局倒産のサインですか?
-
処方箋枚数は重要な経営指標の一つですが、減少だけで倒産を判断することはできません。季節性、営業日数、長期処方、処方元医療機関の変化などでも変動します。全国共通の3か月連続減少といった倒産判定基準もありません。長期トレンドと店舗運営への影響を合わせて確認します。
- 給与の支払日が遅れたら会社は倒産しそうですか?
-
一度の遅延だけで倒産は判断できません。事務ミスや金融機関の処理などの可能性もあるため、まず会社の正式な説明と支払予定日を確認します。ただし、賃金は原則として一定の期日に支払う必要があり、継続的な遅配や未払いは重大な問題です。給与明細や入金記録も保管してください。
- 卸から薬が入らないのは資金繰り悪化のサインですか?
-
必ずしもそうではありません。メーカーの供給不足や限定出荷などでも欠品は起こります。資金繰りとの関連を考えるなら、会社の未払いを理由とした取引停止・納品制限が事実として確認されているかを分けて考える必要があります。
- 門前の病院やクリニックが閉院すると薬局も閉店しますか?
-
自動的に閉店するわけではありません。影響は、その医療機関への処方箋依存度、他の処方元、在宅業務、会社全体の方針などで変わります。ただし、特定医療機関への依存度が高い薬局では重要な事業リスクなので、会社の対応方針を確認した方がよいでしょう。
- 複数の店舗が閉鎖されたら会社も危ないですか?
-
複数店舗の縮小は会社方針を確認したい材料ですが、倒産確定ではありません。不採算店舗の整理、事業再編、M&Aなどでも店舗数は変わります。会社からの正式説明や、自分の雇用・配属への影響を確認してください。
- 薬局が倒産して給与が未払いになったらどうなりますか?
-
一定の要件を満たす場合、未払賃金立替払制度を利用できることがあります。立替払額は原則として対象未払賃金の8割で、退職時の年齢に応じた上限があります。45歳以上は296万円、30歳以上45歳未満は176万円、30歳未満は88万円が立替払上限です。対象期間や倒産・退職時期などの要件があるため、厚生労働省や労働者健康安全機構の最新案内を確認してください。
- 勤務先の経営が不安なとき、何を手元に残しておけばよいですか?
-
自分の労働条件通知書、雇用契約書、給与明細、給与振込記録、源泉徴収票、有給休暇残日数、自分に適用される退職金制度等を確認しておくとよいでしょう。一方、患者情報、会社の非公開財務資料、取引先情報、営業秘密などを私物へ持ち出してはいけません。
