2026年9月18日、処方箋なしで一部の医療用医薬品を販売する、いわゆる零売をめぐる訴訟で、東京地方裁判所は薬局側の請求を退けました。厚生労働大臣も同日の会見で、国側が全面勝訴したとの認識を示しています。
このニュースを見て、零売を専門に行う薬局だけの問題だと感じた薬剤師もいるかもしれません。しかし私は、一般的な調剤薬局や調剤併設ドラッグストアで働く薬剤師にとっても、かなり重要なニュースだと考えています。
理由は、医療用医薬品を処方箋なしでどこまで販売できるかという法的な問題だけではありません。むしろ今後は、患者から必要な情報を聞き取り、OTC医薬品で対応できるのか、それとも医療機関への受診を勧めるべきなのかを見極める力が、これまで以上に薬剤師へ問われるのではないでしょうか。
この記事では、2026年9月24日時点で確認できる零売訴訟と制度の状況を整理したうえで、勤務薬剤師に求められるOTC対応、受診勧奨、ヒアリング力、さらに人事評価や職場選びまで考えていきます。
- 2026年9月の零売訴訟で何が判断されたのか
- 現在の零売とOTC対応の基本的なルール
- 患者相談で薬剤師が確認したいヒアリング項目
- OTC対応力を人事評価・採用・職場選びでどう考えるか
- 2027年5月20日の制度変更までに確認しておきたいこと
零売訴訟では何が起きたのか
今回の訴訟では、厚生労働省の通知によって零売やその広告が不当に制限されているとして、零売薬局を運営する薬局3社が国を相手取り、地位確認や損害賠償などを求めていました。
PHARMACY NEWSBREAKによると、原告側は「やむを得ない場合」に限らず零売できる地位の確認を求めたほか、医薬品の仕入れで不利益を受けたとして計約800万円の損害賠償を請求していました。2026年9月18日、東京地裁はこれらの請求を退けました。
同日、上野厚生労働大臣は記者会見で、13時15分に国側が全面勝訴する判決があったと承知しており、おおむね国の主張が認められたとの認識を示しています。一方、原告側は判決に反発し、上級審で判断を求める意向を示したと報じられています。
| 確認事項 | 2026年9月24日時点 |
|---|---|
| 東京地裁判決 | 2026年9月18日、薬局側の請求を退ける |
| 厚労省の認識 | 国側全面勝訴で、おおむね国の主張が認められたとの認識 |
| 原告側 | 判決に反発し、控訴する意向を表明したと報道 |
| 現在の位置付け | 第一審判決であり、司法判断が最終確定した段階ではない |
判決理由の詳細については、判決文そのものと今後の上級審の動きを確認する必要があります。そのため、この記事でも「今回の判決ですべての法的論点が最終決着した」とは扱いません。
一次資料は、厚生労働省「上野大臣会見概要(2026年9月18日)」で確認できます。訴訟の請求内容については、PHARMACY NEWSBREAKの判決速報も確認しています。
- 現在のルール:厚生労働省通知等による現行の取扱い
- 今回の裁判:2026年9月18日の東京地裁判決と今後の上級審
- 今後の制度:2027年5月20日に施行される改正薬機法関連の取扱い
今回の判決で零売のルールが突然変わったわけではない
今回の判決を受けて、2026年9月18日からあらゆる零売が突然全面禁止になった、と理解するのは適切ではありません。まず現在の行政上の取扱いと、今回の司法判断を分けて考える必要があります。
厚生労働省の2022年8月5日通知では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、薬局では処方箋に基づく薬剤師による交付が原則とされています。そのうえで、一般用医薬品等による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売等を行わざるを得ない場合に限って例外的な取扱いが示されています。
| 確認点 | 現行通知の基本的な考え方 |
|---|---|
| 基本原則 | 処方箋に基づく薬剤師による交付が原則 |
| OTC等で対応できる場合 | 同様の効能・効果を持つ一般用医薬品等による対応を優先 |
| 例外的な販売 | やむを得ず販売せざるを得ない場合に限定 |
| 受診勧奨 | 必要な受診勧奨を行ったうえで販売等する |
| 数量 | 受診までの期間や医薬品の特性を踏まえて必要最小限 |
| 患者情報 | 年齢、使用中の薬、性別、症状等を事前に確認 |
| 記録・管理 | 販売記録、薬剤服用歴、手順書等に基づく管理が必要 |
| フォロー | 使用状況を継続的に把握し、必要な情報提供・服薬指導を行う |
特に重要なのは、同様の効能・効果を持つ一般用医薬品等がある場合は、まず一般用医薬品等による対応を優先すると明示されている点です。在庫がない場合には、他の薬局や店舗販売業を紹介することも示されています。
現行ルールの詳細は、厚生労働省「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」で確認できます。
現行ルールから見えるのは、むしろOTC対応の重要性
私が今回の零売訴訟で特に注目しているのは、この部分です。厚生労働省の現行通知自体が、医療用医薬品を処方箋なしで販売する前に、一般用医薬品等で対応できないかを検討することを求めています。
患者から「以前病院でもらった薬と同じものが欲しい」「仕事が忙しくて受診できない」「いつもの症状なので薬だけ欲しい」と相談されたとき、医療用医薬品を販売できるかどうかだけを考えるのでは不十分です。そもそもOTCで対応できるのか、それともOTCでは対応せず医療機関につないだ方がよいのかを整理する必要があります。
私は今後、医療用医薬品を処方箋なしで販売すること以上に、OTCで対応できる患者と、受診を優先すべき患者を適切に見極める能力が重要になると考えています。

患者から相談されたときは4ステップで整理する
OTC対応を単なる商品選びにしないためには、患者から得た情報を一定の順序で整理すると考えやすくなります。ここでは日常業務や店舗研修でも振り返りやすいように、相談対応を4つのステップに分けます。
症状、発症時期、程度、経過、治療中の疾患、使用中の医薬品などを確認します。同時に、「特定の商品が欲しい」のか、「今ある症状を何とかしたい」のか、患者が本当に求めていることも整理します。
患者から得た情報と、OTC医薬品の効能・効果、禁忌、相互作用、使用上の注意などを照らし合わせます。商品を先に決めて患者をその商品に当てはめるのではなく、患者情報から対応方法を考える順序が重要です。
症状や患者背景からOTCでの対応が適切ではないと判断した場合は、販売すること自体を目的にせず、医療機関への受診を勧めます。商品を販売しない判断も、薬剤師が担う重要な対応の一つです。
OTCを使用する場合も受診を勧める場合も、なぜその対応になったのかを患者が理解できる言葉で説明します。OTCを使う場合には、どのような変化があれば使用を続けず受診するのかまで伝えられると、次の行動が明確になります。
OTC対応で問われるのは、薬の知識だけではなくヒアリング力
OTCに力を入れると聞くと、商品知識を増やすことや品揃えを充実させることを思い浮かべるかもしれません。もちろん商品知識は必要ですが、薬剤師としてOTCへ関わるのであれば、それだけでは十分ではないと考えています。
例えば患者から「以前病院でもらった薬と同じようなものが欲しい」と相談された場合、似た成分の商品を探す前に、症状や経過、既往歴、使用薬などを確認する必要があります。聞き取った内容によっては、OTCを選ぶのではなく受診勧奨へ切り替える必要もあります。
- 主訴:何が一番つらいのか
- 発症時期:いつから始まったか
- 経過:改善しているか、悪化しているか、変化しているか
- 程度:日常生活へどの程度影響しているか
- 随伴症状:他に気になる症状はないか
- 既往歴:治療中・経過観察中の疾患はないか
- 使用薬:処方薬、OTC、サプリメントなどを使用していないか
- 過去の使用経験:同じ薬・似た薬を使ったことがあるか、その際に問題はなかったか
- 患者背景:年齢、妊娠・授乳など医薬品選択で確認すべき条件はないか
- 患者の目的:特定の商品を求めているのか、症状の改善を求めているのか
- 受診の必要性:OTCで対応できる範囲を超えていないか
ここで求められているのは、薬剤師が診断することではありません。薬剤師として対応できる範囲を判断するために必要な情報を集め、不足する情報を質問し、必要に応じて医療機関へつなぐ能力です。
患者との対話から必要な情報を整理する考え方は、患者に伝わる服薬指導のコツでも詳しく整理しています。OTCだけではなく、普段の服薬指導でヒアリングを見直したい場合に参考になります。
OTCに強い薬剤師と、OTCをたくさん売る薬剤師は同じではない
OTCの販売額が多い薬剤師が、必ずしもOTC対応に優れた薬剤師とは限りません。患者の状態を確認した結果、「今回はOTCで様子を見るより、一度医療機関を受診した方がよい」と判断することも、薬剤師として重要な対応です。
売上だけを指標にすれば、商品を販売しなかったため成果はゼロに見えるかもしれません。しかし医療専門職として考えれば、OTCを販売しない判断や受診を勧める判断にも価値があります。
| 販売だけを見る場合 | 薬剤師の専門性まで見る場合 |
|---|---|
| 何個販売したか | 適切な患者へ販売できたか |
| 売上はいくらか | 必要な情報を聞き取れたか |
| 商品知識があるか | 患者背景まで踏まえて選択できたか |
| 販売につながったか | 必要な場合に販売せず受診勧奨できたか |
| 説明したか | 選択理由と次の行動まで患者へ説明できたか |
つまり、OTCに強い薬剤師を考える場合も、「何を売ったか」だけではなく「なぜその対応を選んだか」まで見なければ、専門性の一部しか評価できません。
人事評価・採用でもOTC販売件数だけでは測りにくい
ここからは、人事・採用の視点で考えます。調剤薬局やドラッグストアがセルフメディケーション支援を強化するのであれば、薬剤師の評価方法も、その役割に合わせて設計する必要があります。
単純にOTCの販売件数や売上だけを評価指標にすると、医療専門職として期待したい行動と評価制度がずれる可能性があります。必要な患者情報を聞き取れているか、適切な受診勧奨ができるか、判断に迷う事例を相談・共有できるか、後輩へ判断プロセスを説明できるか、といった行動も重要です。
- 必要な患者情報を適切に確認できているか
- OTCで対応できる範囲を整理できているか
- 必要な場合に受診勧奨へ切り替えられるか
- 患者に選択理由や注意点を説明できるか
- 迷ったケースを管理薬剤師等へ相談できるか
- 相談事例を店舗内で共有できるか
- 後輩へ判断の考え方を説明できるか
採用でも同じです。「OTC販売経験があります」という一言だけでは、その薬剤師がどの程度の対応力を持っているのかは分かりません。患者から何を聞き、なぜそのOTCを選び、あるいはなぜ販売せず受診を勧め、その判断をどう説明したのかというプロセスの方が、経験の深さを把握しやすくなります。
患者・医師・職場とのやり取りを含めたコミュニケーション能力については、薬剤師のコミュニケーション力の記事で、実務場面ごとの考え方を整理しています。
個人の能力だけでなく、勤務先の体制も確認したい
OTC対応力やヒアリング力は、薬剤師個人の努力だけで決まるものではありません。患者の話を丁寧に聞きたいと思っていても、処方箋対応に追われ続け、相談へ使える時間がほとんどない店舗では経験を積みにくくなります。
また、判断に迷った場合の相談先がない、OTC研修がない、事例共有の機会がない、受診勧奨の考え方が薬剤師ごとにばらばら、といった環境では、個々の薬剤師へ判断負担が集中します。今回の零売訴訟は、自分の勤務先がセルフメディケーション支援をどのように設計しているのか確認する機会にもなります。
- 処方箋なしで医療用医薬品を求められた場合の正式な対応手順があるか
- OTC対応時に確認すべき基本項目が整理されているか
- 受診勧奨について研修・手順があるか
- 判断に迷った場合の相談ルートが決まっているか
- 相談事例を店舗や会社で共有する仕組みがあるか
- 患者相談へ対応できる時間・人員配置になっているか
- 会社の正式方針と店舗独自の運用が混同されていないか
特に最後の点は重要です。店舗で昔から行われている方法と、会社として正式に決められている手順が同じとは限りません。制度や行政通知が関係する領域では、個人の経験則だけではなく、会社の正式な方針まで確認する必要があります。

OTC対応力を身につけたいなら、職場選びで見る項目も変わる
今回の判決だけを理由に転職する必要はありません。ただし、自分が今後どのような薬剤師になりたいかを考える材料にはできます。
調剤だけでなくセルフメディケーションにも関われる薬剤師になりたい、OTCと受診のどちらが適切か整理できるようになりたい、地域住民が最初に相談できる薬剤師になりたいと考えるのであれば、職場選びでも「OTCを置いているか」より一段深く確認した方がよいでしょう。
- 薬剤師がOTC相談へどの程度関与しているか
- 患者相談へ時間を使える人員配置か
- OTC・受診勧奨について研修があるか
- 相談事例を共有する仕組みがあるか
- 薬剤師の相談対応が評価制度へどう位置付けられているか
- 調剤とOTC部門がどのように連携しているか
一方で、すべての薬剤師がOTCをキャリアの中心にする必要もありません。在宅、専門領域、病院、マネジメントなど、薬剤師のキャリアには複数の方向があります。重要なのは、流行している領域だから選ぶのではなく、自分が伸ばしたい能力と勤務先で積める経験が一致しているかです。

2027年5月20日に向けて制度面も確認しておきたい
今回の東京地裁判決とは別に、制度面でも大きな節目があります。2025年に成立した改正薬機法では、医薬品の販売制度や薬局機能などについて複数の見直しが行われ、2年以内施行分については2027年5月20日が施行日とされています。
厚生労働省も9月18日の会見で、今回の判決文を精査したうえで、改正薬機法の施行に向け必要な手続きを進める考えを示しています。そのため、勤務薬剤師としては裁判の勝敗だけを追うのではなく、施行までに具体的な運用がどう整理されるかを見ることが重要です。
改正法・政省令等の最新資料は、厚生労働省「令和7年の薬機法等の一部改正について」でまとめて確認できます。また、令和8年6月30日付通知でも、関連する整備省令が2027年5月20日から施行されることが示されています。
今後このページで確認したい3つの動き
このニュースは、2026年9月18日の判決だけで完結する話ではありません。このページを後から見返す場合は、次の3点に新しい動きがないかを確認すると、現在地を把握しやすくなります。
- 控訴審の動き
第一審判決について上級審でどのような判断が示されるか。 - 2027年5月20日に向けた制度の具体化
政省令、通知、Q&Aなどで実務上の取扱いがどこまで整理されるか。 - 勤務先の対応
社内手順書、OTC研修、受診勧奨、教育、評価制度などが変更されるか。
零売訴訟についてよくある質問
- 今回の判決で零売は全面禁止になったのですか?
-
今回の東京地裁判決だけを理由に、2026年9月18日からあらゆる零売が新たに全面禁止になったと理解するのは適切ではありません。現行通知では、処方箋医薬品以外の医療用医薬品についても、一般用医薬品等での対応を考慮したうえで、やむを得ない場合の例外的な取扱いが示されています。今回の司法判断と現行制度、2027年5月20日からの制度変更を分けて確認する必要があります。
- 東京地裁の判決はすでに確定していますか?
-
2026年9月24日時点では第一審の東京地裁判決です。原告側が判決に反発し、控訴する意向を示したと報じられているため、最終的な司法判断が確定した段階ではありません。今後の上級審の動きを確認する必要があります。
- 医療用医薬品を渡せない場合は、OTCを勧めればよいのですか?
-
必ずOTCを販売すればよいわけではありません。患者の症状、経過、既往歴、使用薬などを確認したうえで、OTCで対応できる範囲なのか、医療機関への受診を優先すべきなのかを判断します。OTCを販売しないことや受診を勧めることも、患者の安全を考えた重要な対応です。
- 薬剤師は今後OTCを勉強した方がよいですか?
-
すべての薬剤師がOTCをキャリアの中心にする必要はありません。ただし、調剤薬局や調剤併設ドラッグストアで患者から健康相談を受けるのであれば、代表的なOTCの知識だけでなく、どのような情報を確認し、どの段階で受診勧奨へ切り替えるかを学ぶことには実務上の意味があります。
- このニュースを理由に転職を考えるべきですか?
-
今回の判決だけを理由に転職する必要はありません。まず勤務先の正式な方針、OTC研修、受診勧奨の仕組み、相談体制などを確認することが先です。そのうえで、自分が伸ばしたい専門性と現在の職場で積める経験が長期的に合っているかを考える材料にするとよいでしょう。
まとめ|零売の可否だけでなく、薬剤師の相談機能を考えるニュース
零売をどこまで認めるべきかについては、今後も司法・制度の両面で動きが続く可能性があります。ただ、勤務薬剤師のキャリアという視点から今回のニュースを見ると、「零売ができるか、できないか」だけではない論点が見えてきます。
患者が「病院でもらっていた薬が欲しい」「仕事が忙しくて受診できない」「この症状なら市販薬で何とかできないか」と薬局へ相談する場面は、今後も起こります。そのとき薬剤師には、患者の話を聞き、OTCで対応できる可能性を検討し、難しければ受診を勧め、その理由と次の行動を分かりやすく伝える力が求められます。
薬剤師の専門性は、医薬品の知識量だけではありません。目の前の患者から必要な情報を引き出し、その人が次に取るべき行動を整理することも、薬剤師の専門性の一部です。
零売訴訟は、処方箋なしで医療用医薬品をどこまで販売できるかをめぐる裁判です。しかし勤務薬剤師にとっては、OTC対応、受診勧奨、ヒアリング力を今後の専門性としてどう磨くか、そしてそれを伸ばせる職場環境になっているかを考えるきっかけにもなるニュースだと思います。
