薬剤師の評価が、勤務先ごとの人事評価だけではなく、研修や患者対応、地域活動などの「実践履歴」をもとに可視化される時代が来るのでしょうか。
2026年9月25日、薬事日報は、日本薬剤師会の岩月進会長が薬剤師個人を対象とした評価制度の創設構想を明らかにしたと報じました。患者対応や地域活動などの実践履歴を電子的に蓄積し、その情報から評価指標を策定して、薬剤師の適正な処遇につなげることを目指す考えです。
勤務薬剤師にとってはかなり気になるニュースです。ただし、最初に重要な点があります。2026年9月26日時点で、制度の開始日、評価項目、給与への反映方法、参加義務などが正式決定したわけではありません。現時点では日本薬剤師会会長が示した構想として理解する必要があります。
そのうえで、人事の視点から見ると、この構想には重要な意味があります。薬剤師免許や認定資格を持っていることだけではなく、「実際に何を経験し、患者や地域へどう関わってきたのか」を記録し、評価材料へ変えようとしているからです。
この記事では、現時点で決まっていることと決まっていないことを分けたうえで、勤務薬剤師の社内評価、給与、転職にどのような影響があり得るのか、そして制度ができる前からどのような実績を残しておくとよいのかを整理します。
- 薬剤師個人の実践履歴を評価する制度は、現時点では「構想」であり正式決定ではない
- 日本薬剤師会にはすでにJPALSという実践記録のポートフォリオ制度がある
- 将来、外部評価ができても、給与が自動的に上がるわけではない
- 勤務先が評価制度・等級・給与へどう取り込むかが処遇改善の鍵になる
- 転職では資格名より、実際に担当した業務・判断・連携・成果を説明できることが重要
- 制度を待たず、患者情報や社内秘密を持ち出さない形で自分の実践履歴を整理しておく価値はある
日薬会長が示した「薬剤師評価制度」とは
薬事日報の2026年9月25日付報道によると、日本薬剤師会の岩月進会長は、薬剤師個人を対象とした評価制度をつくる構想を明らかにしました。
構想では、薬剤師が受講した研修だけではなく、患者への対応、地域活動などの実践履歴を電子的に蓄積し、それらをもとに「どのような経験を持つ薬剤師をどう評価するか」という指標へつなげることが想定されています。
背景には、現在の調剤報酬は基本的に薬局という組織・施設の機能を評価する制度であり、そこで働く個々の薬剤師の能力や実践を直接評価する仕組みではない、という問題意識があります。
| 確認項目 | 2026年9月26日時点 |
|---|---|
| 薬剤師個人の評価制度 | 日薬会長が構想を表明 |
| 正式な制度要綱 | 未公表 |
| 開始時期 | 未公表 |
| 評価項目・配点 | 未公表 |
| 給与への反映方法 | 未決定 |
| 参加が義務か任意か | 未公表 |
| 勤務先をまたいだ記録方法 | 構想として報道されているが詳細未公表 |
したがって、「来年からこの点数で薬剤師の給料が決まる」「実践履歴がない薬剤師は転職できなくなる」といった段階ではありません。今後、正式な制度設計が公表された場合に改めて確認する必要があります。
実は日薬にはすでに「実践記録」を残すJPALSがある
薬剤師の実践履歴を記録するという考え方自体は、今回初めて出てきたものではありません。日本薬剤師会は2012年から、生涯学習支援システム「JPALS」を運用しています。
JPALSでは、研修会への参加、職場での勉強会、書籍やeラーニングによる学習などを「実践記録」というポートフォリオとして残します。2026年4月には認定制度が改正され、直近3年以内に18本以上の実践記録を提出し、Webテストに合格することなどがJPALS認定薬剤師の要件になっています。
さらに今回の改正では、実践記録へ「実践活用ができそうな例・学習を実践活用できた例」を記載することが必須になりました。単に研修を受けた事実だけでなく、学んだ内容を薬剤師業務へどう使ったかまで記録する方向へ変わっています。
JPALSは現時点では、生涯学習を支援し、認定薬剤師としての認定・更新につなげる制度です。今回報じられた「薬剤師個人の実践履歴を評価して適正処遇につなげる構想」と、JPALSが将来どのように接続するのかは公表されていません。
「JPALSに記録すれば給与評価になる」「JPALSがそのまま全国共通の人事考課になる」と考えるのは、現時点では早すぎます。

人事の視点では「資格」から「実際に何をしたか」へ近づく可能性がある
この構想で私が注目しているのは、評価対象として研修受講歴だけではなく、患者対応や地域活動などの「実践」が想定されている点です。
薬剤師の人事評価では、これまで資格や役職と、実際の仕事を完全には対応させにくい場面がありました。同じ認定資格を持っていても、日常業務でどこまで活用しているかは人によって異なります。反対に、資格名称には表れなくても、新人教育、医療安全、在宅、多職種連携、OTC相談、業務改善などで重要な役割を担っている薬剤師もいます。
外部から確認できる実践履歴が整備されれば、「資格を持っているか」だけではなく、「どの領域で、どの程度継続して実践したか」を評価する材料が増える可能性があります。
| 従来確認しやすかったもの | 実践履歴で見えやすくなる可能性があるもの |
|---|---|
| 薬剤師免許 | 患者対応でどのような役割を担ったか |
| 認定資格 | 学習内容をどのように実務へ活用したか |
| 役職名 | 教育・管理・地域活動をどの程度経験したか |
| 勤務年数 | その期間にどのような経験を積んだか |
| 研修受講歴 | 受講後にどのような行動・実践につなげたか |
ただし、実践履歴ができれば能力を完全に数値化できるわけではありません。薬剤師業務は、症例の難易度、店舗の役割、人員配置、地域特性などの影響を強く受けます。単純に件数が多い人ほど優秀という評価制度にすると、別の問題が生じます。
評価制度ができても給与が自動的に上がるわけではない
勤務薬剤師が最も気になるのは、「評価制度ができれば給料が上がるのか」という点でしょう。
現時点では、そのように断定できません。仮に日本薬剤師会等が薬剤師個人の外部評価を作っても、実際の基本給、賞与、等級、役職手当を決めるのは勤務先の人事・給与制度だからです。
例えば外部評価で高い実績を持つ薬剤師でも、勤務先の賃金規程が勤続年数中心であれば、すぐに基本給へ反映されない可能性があります。反対に、専門性や役割を等級・手当へ反映する会社であれば、新しい外部評価が昇格や役割認定の参考資料になる可能性はあります。
- 外部評価をどの等級で評価するのか
- 基本給・賞与・資格手当・役職手当のどこへ反映するのか
- 取得時だけ評価するのか、継続的な実践を評価するのか
- 会社内の評価項目と外部評価が重複した場合にどう扱うのか
- その役割を発揮できる仕事・配置を会社が用意できるのか
評価制度をつくることと、評価された薬剤師へ給与を支払える経営基盤をつくることは別の問題です。外部評価ができても、人事制度と経営の両方が動かなければ処遇改善にはつながりません。

転職では「全国共通の点数」より経験を説明しやすくなる可能性がある
転職市場ではどうでしょうか。もし薬剤師の実践履歴を一定の形式で確認できるようになれば、応募者と採用企業の情報差を小さくする材料にはなり得ます。
現在の職務経歴書では、「調剤業務」「服薬指導」「在宅業務」と書かれていても、どこまで担当したのかが分からないことがあります。在宅と一言でいっても、施設中心なのか個人在宅なのか、訪問だけなのか、医師や看護師との情報共有まで担当したのかによって経験内容は異なります。
実践履歴が整理されれば、採用側が経験内容を確認しやすくなる可能性があります。ただし、外部評価の数字だけで採否が決まると考えるべきではありません。求人ごとに必要な仕事が違うため、最終的には応募する職務と自分の経験が合っているかが重要です。

制度を待たず、今から「実践履歴」を残しておく価値はある
今回の構想が最終的にどのような制度になるかは分かりません。それでも、勤務薬剤師が今から自分の実践を整理することには意味があります。
評価面談、異動希望、職務経歴書、転職面接、管理職登用など、現在の人事制度でも「これまで何を担当してきたか」を説明する場面はあるからです。
- 期間:いつからいつまで担当したか
- 役割:一般薬剤師、教育担当、在宅担当、管理薬剤師補佐など何を担ったか
- 対象業務:患者対応、在宅、OTC、多職種連携、医療安全、教育、業務改善など
- 課題:何を改善・解決する必要があったか
- 自分の行動:何を確認し、何を判断し、誰と連携したか
- 結果:会社で確認できる結果や完了した仕事があれば記録する
- 学習:研修・文献等で学んだ内容を実務へどう活用したか
- 次の課題:今後さらに経験・学習したいことは何か
ここで重要なのは、患者情報や会社の機密情報を個人のキャリア資料として持ち出さないことです。薬歴、調剤録、患者氏名、処方内容などを私物端末へ保存する必要はありません。実績を整理する場合も、勤務先の規則と個人情報保護を守り、患者を特定できない形で記録します。
また、件数だけに偏る必要もありません。新人教育を担当した、手順書を改定した、勉強会を企画した、地域活動へ継続参加したなど、数値化しにくい役割もあります。重要なのは、自分が実際に担当したことを後から事実として説明できる状態にすることです。
「記録できる仕事」と「経験できる職場」をセットで考える
実践履歴が重視される方向へ進むなら、職場選びにも影響があります。何を記録するか以前に、現在の職場でどのような仕事を経験できるかが重要になるからです。
例えば在宅をキャリアの中心にしたいのに、現在の職場では在宅そのものを行っていなければ、記録できる経験は増えません。管理職を目指していても、シフト、人員配置、教育、数値管理などを担当する機会がなければ、管理職として説明できる経験は積みにくくなります。
一方、流行している領域だからという理由だけで仕事を増やす必要もありません。自分が今後どのような薬剤師になりたいかを先に整理し、その方向に必要な経験を積める職場かを見る方が合理的です。

評価制度を考えるときに注意したい4つの問題
実践履歴を可視化する仕組みにはメリットがありますが、制度設計によっては新しい問題も生まれます。勤務薬剤師側からも、評価されることだけを歓迎するのではなく、何を評価する制度なのかを見る必要があります。
| 論点 | 確認したいこと |
|---|---|
| 機会の差 | 勤務先によって経験できる業務が違う中で公平に評価できるか |
| 件数偏重 | 患者対応件数等だけで質を評価しない仕組みになっているか |
| 記録負担 | 実践記録の作成が新たな過重労働にならないか |
| 個人情報・機密 | 患者情報や勤務先の情報をどこまで記録するのか |
特に「経験する機会の差」は重要です。大規模薬局だから多様な経験ができるとも、小規模薬局だから経験できないとも一律には言えません。地域、店舗機能、人員、会社方針、担当範囲によって変わります。
評価制度ができるのであれば、実績を競わせるだけではなく、薬剤師が必要な経験・研修へアクセスできる仕組みも一緒に考える必要があります。
厚労省でも薬剤師のキャリアパスが検討されている
今回の日薬会長の構想とは別に、厚生労働省では2026年から「薬剤師のキャリアパスに関する懇談会」が開催されています。
第1回は2026年7月14日に開催され、第2回は9月30日に予定されています。第2回の議題は「創薬等を含む薬剤師の多様なキャリアに対応した専門性のあり方」です。
日薬の評価制度構想と厚生労働省の懇談会が同じ制度を検討しているわけではありません。ただ、薬剤師のキャリアや専門性をどのように整理・評価するかというテーマが、複数の場で議論されていることは確認できます。
9月30日の懇談会で新しい具体案が示された場合は、今回の記事も更新する必要があります。
薬剤師の評価制度についてよくある質問
- 薬剤師の全国共通評価制度が正式に決まったのですか?
-
2026年9月26日時点では正式決定ではありません。日本薬剤師会の岩月会長が取材で示した構想として報じられています。評価項目、開始時期、参加条件、給与への反映方法などの正式な制度要綱は公表されていません。
- JPALSに登録すれば将来の給与評価に使われるのですか?
-
現時点ではそのようには決まっていません。JPALSは生涯学習を支援し、実践記録の蓄積やJPALS認定薬剤師の認定に使われる制度です。今回報じられた評価制度構想とJPALSが将来どのように接続するかは、正式発表を確認する必要があります。
- 評価制度ができれば薬剤師の給料は上がりますか?
-
評価制度だけで自動的に給与が上がるとは限りません。基本給、賞与、等級、手当等を決めるのは勤務先の給与・人事制度です。外部評価を勤務先がどのように処遇へ取り込むのかが重要になります。
- 制度ができる前から実績を記録した方がよいですか?
-
将来の制度のためだけに記録する必要はありませんが、現在の評価面談、異動、昇格、転職面接等でも自分の担当業務を整理することは役立ちます。患者情報や社内機密を持ち出さず、期間、役割、担当業務、自分の行動、学習内容などを事実ベースで整理しておく方法が安全です。
まとめ|薬剤師の評価が「所属先」から「実践」へ動く可能性を追う
2026年9月25日、日本薬剤師会の岩月会長が、研修や患者対応、地域活動などの実践履歴を電子的に蓄積し、薬剤師個人の評価や適正な処遇につなげる構想を示したと報じられました。
現時点ではあくまで構想であり、正式制度や開始時期は決まっていません。ただ、日本薬剤師会ではすでにJPALSで実践記録の蓄積が行われ、厚生労働省でも薬剤師のキャリアパス・専門性について検討が進んでいます。
勤務薬剤師として今すぐ必要なのは、新制度を予想して資格を増やすことではありません。自分が現在どのような役割を担い、どのような仕事を経験し、何を学び、次に何を経験したいのかを説明できる状態にしておくことです。
薬剤師免許を持っていることから一歩進んで、「薬剤師として何をしてきたか」が評価される仕組みになるのか。今後、正式な制度設計が示されるかを継続して確認したいニュースです。
参考資料
この記事では、制度の確定事項と検討・構想段階の内容を区別するため、以下の原報道・公式資料を確認しています。
