薬剤師の多くがAI活用に前向きである一方、実際に業務で使っている人は4割未満――そんな調査結果が公表されました。
株式会社マイナビが2026年9月28日に公表したメディカルサポネット「薬剤師白書2026年版」では、薬剤師業務でAI活用を積極的に進めるべきだとする回答が75.4%だった一方、現在働く薬剤師のうち実際にAIを活用している人は39.4%でした。
もう一つ注目したい数字があります。現在働く薬剤師のうち、精神・心理面の「ゆとりがない」と答えた割合は59.2%、時間的な「ゆとりがない」は58.1%でした。
AIやDXは、こうした業務負担を軽くする手段として期待されています。ただし、勤務薬剤師の立場から見ると、「AIを導入している職場=働きやすい職場」とは限りません。
重要なのは、AIでどの工程が変わり、薬剤師の確認業務がどう残り、導入後に人員配置や業務量がどうなったのかまで見ることです。
この記事では「薬剤師白書2026年版」の調査結果を確認しながら、薬剤師・人事の視点から、AI導入職場で確認したいポイントを整理します。
- マイナビ調査では薬剤師の75.4%がAI活用に前向きだった
- 一方、現在働く薬剤師の実際のAI活用は39.4%だった
- AI利用業務は薬歴・記録、処方確認・監査、在庫・発注が上位
- 精神・心理面59.2%、時間面58.1%が「ゆとりがない」と回答した
- AI導入の有無だけでは、残業・人員余裕・働きやすさは判断できない
- 勤務先では「何をAI化したか」より「導入後に仕事がどう変わったか」を確認したい
薬剤師の75.4%がAI活用に前向き、実際の利用は39.4%

株式会社マイナビ メディカルサポネット「薬剤師白書2026年版」は、薬剤師人材紹介サービス「マイナビ薬剤師」の登録会員を対象に行われた独自調査です。
調査期間は2026年6月22日から7月16日。有効回答数は313人で、内訳は就業者284人、非就業者で転職活動中の人29人でした。
| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| 薬剤師業務でAI活用を積極的に進めるべき | 75.4% |
| 現在の業務でAIを活用している | 39.4% |
| AIを薬歴・記録業務で利用 | 50.9% |
| AIを処方内容の確認・監査で利用 | 33.9% |
| AIを在庫管理・発注で利用 | 25.0% |
| オンライン服薬指導をポジティブに評価 | 60.7% |
出典:株式会社マイナビ メディカルサポネット「薬剤師白書2026年版」(調査時期:2026年6月22日~7月16日)
ただし、この39.4%を「日本の薬剤師全体のAI利用率」と読み替えることはできません。調査対象はマイナビ薬剤師の登録会員であり、無作為抽出された全国の薬剤師ではないからです。
この記事でも、各数値はあくまで今回の回答者における結果として扱います。
注目したいのは「AIに消極的だから普及しない」構図ではないこと
75.4%がAI活用に前向きである一方、実際の活用は39.4%でした。
この結果から少なくとも分かるのは、「薬剤師がAIそのものを嫌がっているから現場利用が進んでいない」と単純には説明できないことです。
実際に業務へ導入するには、システム選定だけでなく、個人情報・医療情報の取り扱い、入力方法、出力内容の確認、既存システムとの連携、教育、障害時対応、費用などを職場側で設計する必要があります。
人事・組織の視点で見るなら、AI導入は「使ってください」と従業員へ伝えて終わる施策ではありません。誰がどの業務で使い、どこまでAIへ任せ、どこから薬剤師が確認するのかを決めなければ、現場では使いにくいままです。
AIを導入できるかという技術の問題と、AIを日常業務へ組み込めるかという組織設計の問題は分けて考える必要があります。
AIは薬歴・記録業務で最も多く使われている
今回の調査でAIを利用している薬剤師へ活用業務を聞いたところ、最も多かったのは薬歴・記録業務の50.9%でした。次いで処方内容の確認・監査33.9%、在庫管理・発注25.0%です。
ここから「薬剤師業務の半分がAIに置き換わった」と考えるのは適切ではありません。50.9%という数字は、AI利用者の中で薬歴・記録業務へAIを使っている割合です。
また、薬歴入力を支援することと、患者から必要な情報を確認し、薬学的に評価し、記録内容が適切か最終的に確認することは同じではありません。
勤務薬剤師が確認したいのは、AIという名称ではなく、具体的にどの工程を支援しているかです。
| AIを使う業務 | 職場で確認したいこと |
|---|---|
| 薬歴・記録 | 要約・音声入力・文章生成等のどこを支援し、誰が最終確認するか |
| 処方確認・監査 | AIが確認する範囲と、薬剤師が判断する範囲をどう分けるか |
| 在庫・発注 | 通常発注と欠品・供給不足時の判断をどう分けるか |
| 患者対応支援 | AI出力をそのまま患者へ提示せず、薬剤師がどう確認するか |
AI利用経験そのものより、AIの支援範囲と人の判断範囲を説明できることの方が、今後は実務上重要になると考えます。

約6割が「精神・時間のゆとりなし」|AI導入後に何が減ったかを見る

今回の調査で、私が人事の視点から最も注目したのはこちらです。
現在働いている薬剤師では、「精神・心理面のゆとりがない」が59.2%、「時間的なゆとりがない」が58.1%でした。さらに、体力・健康面のゆとりがない54.6%、経済的なゆとりがない48.2%という結果です。
| ゆとりがないと回答した領域 | 割合 |
|---|---|
| 精神・心理面 | 59.2% |
| 時間 | 58.1% |
| 体力・健康面 | 54.6% |
| 経済面 | 48.2% |
AIは業務効率化の手段になり得ます。しかし、AIを導入しただけでこの「ゆとり」が自動的に増えるわけではありません。
例えば薬歴作成時間が短くなっても、その分だけ受付件数を増やす、薬剤師配置を減らす、別の事務作業を追加する運用になれば、勤務時間全体の負担感が下がるとは限りません。
反対に、削減できた時間を患者との対話、疑義照会、在宅、教育、休憩取得、時間外労働の削減などへ振り向けられれば、現場にとって意味のある業務改善になります。
これは今回の調査結果そのものではなく、人事・業務設計の視点からの考え方です。
AIの効果を見るなら、「導入したか」ではなく「導入前後で誰の何分が減り、その時間を何に使うようになったか」を確認する。ここまで見た方が、勤務薬剤師にとっての実際の価値を判断しやすくなります。

AIで薬剤師の仕事の価値は上がる?下がる?回答はほぼ三分した
AIの活用拡大によって薬剤師の仕事の価値がどう変化すると思うかという質問では、「高まる」が31.3%、「変わらない」が35.6%、「低下する」が33.1%でした。
かなり意見が分かれています。
さらにAI活用者では、「価値が高まる」と考える割合が35.7%で、AI非活用者より7.2ポイント高い結果でした。
ただし、この結果から「AIを使えば薬剤師としての価値が上がる」と因果関係を断定することはできません。もともとAIへ前向きな人ほど利用している可能性もありますし、勤務先や担当業務など別の要因も考えられます。
キャリアを考えるうえでは、「AIに勝てる薬剤師になる」といった抽象的な目標を置く必要はないと思います。
自分の業務の中で、機械やAIへ任せやすい工程と、患者情報の確認、薬学的判断、説明、他職種との連携など人が担う工程を分けて理解する方が具体的です。

「AI導入済み求人」を見たら確認したい5点

今後、求人票でも「生成AI活用」「AI薬歴」「DX推進」といった表現は増えていく可能性があります。
しかし、AIを導入していることだけでは、残業が少ない、人員に余裕がある、教育が充実している、給与が高い、といったことまでは分かりません。
- 何に使っているか:薬歴、監査、在庫、患者対応など、具体的な利用業務を確認する
- 誰が確認するか:AI出力をどの段階で薬剤師が確認・修正するか
- 教育があるか:入社時研修、操作マニュアル、利用ルール、問い合わせ先があるか
- 導入後に何が変わったか:薬歴時間、残業、受付量、在宅、人員配置等の変化を確認する
- 浮いた時間を何へ使うか:患者対応、専門業務、教育、休憩、追加業務のどこへ振り向けているか
例えば面接や職場見学で「AI薬歴を導入しています」と聞いた場合、「便利ですか」と尋ねるだけでは実態は分かりません。
「導入前後で薬歴作成時間や残業はどう変わりましたか」「AIが作った内容は誰がどの段階で確認しますか」「導入後に薬剤師の担当業務や人員配置は変わりましたか」と聞けば、実際の運用を確認しやすくなります。

オンライン服薬指導も60.7%がポジティブに評価
今回の白書ではAIだけでなく、オンライン服薬指導についても調査されています。
薬剤師の仕事という観点からオンライン服薬指導をポジティブに評価した割合は60.7%で、ネガティブな評価は8.0%でした。
ポジティブな理由としては、患者の来局負担、地域による医療アクセス差、薬剤師の働き方の選択肢などが挙げられています。一方、コミュニケーションの難しさや画面から得られる情報の限界、安全面への懸念も示されています。
ここでも、「オンラインだから良い・悪い」と一括りにはできません。どの患者を対象とし、必要な情報をどう確認し、安全性をどう担保するかという運用が重要になります。
AI時代の職場選びは「設備」より「仕事の設計」を見る
薬局がAIやDXへ投資していること自体は、職場を知る一つの情報になります。
ただし、設備投資と人員配置、給与、教育、残業、休憩はそれぞれ別の経営判断です。
AIを使っている薬局だから人員に余裕があるとは限りません。AIを使っていないから非効率とも限りません。同じシステムでも、処方内容、受付件数、在宅件数、スタッフ構成、他システムとの連携、職場ルールによって効果は変わります。
採用・人事の視点で職場を見るなら、AIの製品名より次の順番で確認する方が実務的です。
- 現在どの業務に時間がかかっているか
- そのうちAI・システムが支援している工程はどこか
- 人の確認・判断として残っている工程はどこか
- 導入後に業務量と人員配置はどう変わったか
- 結果として残業・休憩・患者対応時間はどう変化したか
「AIを導入している会社」ではなく、「AIを使って仕事をどう再設計している会社か」を見る。今回の白書を勤務薬剤師のキャリアへ読み替えるなら、ここが一つのポイントだと考えます。
薬剤師のAI活用についてよくある質問
- 日本の薬剤師の39.4%がAIを使っているという意味ですか?
-
そのようには言えません。今回の調査対象は「マイナビ薬剤師」の登録会員313人です。39.4%は今回の調査における現在就業中の回答者の結果であり、日本の薬剤師全体を無作為抽出した公的統計ではありません。
- AIを導入すると薬剤師の人数は減りますか?
-
今回の調査だけから、人員数が今後どう変わるかを判断することはできません。AIは薬歴・記録、処方確認、在庫管理等で利用されていますが、職場ごとの人員配置は受付量、在宅、営業時間、役割分担、経営方針など複数の要因で決まります。
- AI導入薬局なら残業は少ないですか?
-
AI導入の有無だけでは判断できません。一つの業務時間が短くなっても、受付量や在宅、電話対応等が増えたり、人員配置が変わったりすれば勤務全体の負担は別に確認する必要があります。導入前後の残業、業務量、人員配置まで確認してください。
- 今から薬剤師もAIを勉強した方がよいですか?
-
特定のAIサービスを一律に学ぶ必要があるとは言えません。勤務先によって利用するシステムは異なります。まず、自分の業務のどこでAIが使われ、出力をどこで確認し、誤りや例外時にどう対応するかを理解できることが実務上重要です。
まとめ|AIの導入率より「導入後の仕事」を見る
株式会社マイナビ メディカルサポネット「薬剤師白書2026年版」では、薬剤師業務へのAI活用を積極的に進めることに前向きな回答が75.4%だった一方、現在働く薬剤師の実際のAI活用は39.4%でした。
AI利用業務では薬歴・記録が最も多く、処方内容の確認・監査、在庫管理・発注が続きます。一方、現在働く薬剤師の約6割が精神・心理面や時間面でゆとりがないと回答しています。
勤務薬剤師にとって重要なのは、AI導入率の数字だけではありません。
AIで何の作業が減ったのか。人が確認する工程は何か。人員配置は変わったのか。そして、浮いた時間を患者対応、専門業務、教育、休憩、残業削減のどこへ振り向けているのか。
AIを導入しているかではなく、AIを使って仕事をどう設計し直しているか。これからAI・DXを掲げる薬局や求人を見るときは、その一段先まで確認したいところです。
