薬剤師の退職前チェックリスト|引継ぎ・有給・返却物・退職後の手続きを解説

この記事でわかること
  • 退職日が決まってから最終出勤日までにやること
  • 薬剤師ならではの患者情報・在宅・医薬品管理の引継ぎポイント
  • 退職前に残った有給休暇をどう考えるか
  • 最終出勤日に返すもの・確認する書類
  • 退職後に健康保険・年金・離職票などで確認すること

退職日が決まったあと、最終出勤日までに何をすればよいのでしょうか。

薬剤師の場合、一般的な会社員の退職手続きに加えて、薬歴、在宅患者、医薬品の在庫・発注、医療機関との連携など、職場ごとに引き継ぐべき業務があります。

私は調剤薬局チェーンで人事部長を務め、薬剤師の入退社手続きや人員配置にも関わってきました。

退職時に重要なのは、最後まで完璧な社員として振る舞うことではありません。自分の担当業務、会社から借りているもの、退職後に必要な書類・手続きを整理し、抜け漏れを減らすことです。

この記事では、退職意思を伝えた後から、最終出勤日、退職後までを時系列で整理します。

まだ退職意思を伝える前であれば、先に次の記事をご覧ください。

関連記事:薬剤師の退職理由と円満退職の伝え方

目次

最初に確認|退職日と最終出勤日は同じとは限らない

退職手続きを考えるとき、まず区別したいのが退職日最終出勤日です。

退職日は雇用契約が終了する日です。一方、最終出勤日は実際に最後に勤務する日を指します。

たとえば3月31日付で退職し、残っている年次有給休暇を3月後半に取得する場合、最終出勤日が3月中旬、退職日が3月31日になることがあります。

確認項目意味
退職日雇用契約が終了する日
最終出勤日実際に最後に勤務する日
有給休暇取得期間最終出勤日後から退職日までに入る場合がある
次の入社日転職先との雇用契約が始まる日

退職日・最終出勤日・次の入社日を最初に並べると、その後の引継ぎや社会保険の手続きを考えやすくなります。

薬剤師の退職前チェックリスト|まず全体像を確認

時期主な確認事項
退職日が決まったら退職日・最終出勤日・有給残日数・引継ぎ対象を整理
最終出勤日まで業務引継ぎ、患者・在宅・在庫等の情報整理、会社物品の確認
最終週未完了業務、アカウント・権限、私物、返却物を確認
最終出勤日会社物品の返却、引継ぎ状況、退職後に届く書類の送付先確認
退職後源泉徴収票、離職票、健康保険、年金、退職金等を確認

何日前から始めなければならないという全国共通のスケジュールはありません。

担当業務の量、後任者の有無、有給休暇の残日数によって必要期間は変わります。退職日が確定した段階で、自分の状況に合わせて逆算してください。

1.残っている業務を一覧にして引継ぎ計画を作る

最初に、自分が担当している仕事を洗い出します。

薬剤師は日常の調剤・服薬指導だけでなく、特定の人しか把握していない業務を持っている場合があります。

  • 在庫管理・発注・返品
  • 在宅患者への対応
  • かかりつけ患者への継続的な対応
  • 医療機関や介護事業所との連携
  • レセプト・施設基準・各種届出に関係する業務
  • 麻薬・向精神薬等の管理で担当している業務
  • 新人・実習生等の教育
  • シフト・勤怠・店舗運営
  • 医薬品卸・取引先との連絡事項

すべての薬剤師がこれらを担当しているわけではありません。自分が実際に担当しているものだけを抽出します。

そのうえで、業務ごとに担当者、期限、未処理事項、保管場所を整理します。

業務次の担当期限残っていること
在庫・発注○○さん最終週まで定期発注品・供給不安品の確認
在宅○○さん次回訪問前次回訪問日・連携事項
月次業務○○さん月末前作業手順・保存場所

後任者が決まっていない場合は、誰に引き継ぐのかを上司と確認します。自分だけで後任者を決める必要はありません。

詳しい引継ぎ書の作り方は、次の記事で解説しています。

関連記事:薬剤師の引継ぎ書で整理したい項目と作り方

2.患者情報は個人用の引継ぎファイルを作らず、職場のルールに従う

薬剤師の引継ぎで特に注意したいのが患者情報です。

患者の氏名、服薬歴、疾患、アレルギー、副作用歴、家族情報、生活背景などは個人情報を含みます。

個人情報保護委員会・厚生労働省の医療・介護関係事業者向けガイダンスでも、薬局は対象となる医療機関等に含まれ、患者情報を適切に取り扱う必要があります。

参考:個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」

そのため、退職者が独自に患者情報をまとめたファイルを私物として作ったり、自分のスマートフォンや私用クラウドへ保存したりすることは避けます。

患者情報の引継ぎは、電子薬歴など会社が指定した正式な記録、承認された引継ぎ資料、社内システムを使用し、勤務先の情報管理ルールに従ってください。

患者情報の引継ぎで意識したいこと
  • 正式な薬歴・記録を最新の状態にする
  • 次回対応が必要な事項を職場指定の方法で残す
  • 必要な情報だけを後任者へ共有する
  • 患者情報を私物端末へコピーしない
  • 退職後に患者情報を持ち出さない

退職時だから特別な患者カルテを作るのではなく、普段から必要な情報が正式な記録に残っている状態を作ることが基本です。

3.ID・パスワードを後任者へそのまま渡さない

業務システムの引継ぎでは、操作方法とログイン情報を混同しないようにします。

電子薬歴、レセコン、在庫管理、勤怠、社内クラウドなどで個人ごとのアカウントが発行されている場合、自分のID・パスワードを後任者へ渡して使わせる方法は避けます。

後任者用のアカウント作成や権限変更は、勤務先の管理者・システム担当者に依頼します。

厚生労働省は2026年6月に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版」を公表しています。薬局も医療情報システムの適切な安全管理が必要です。

参考:厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版」

引き継ぐのはパスワードではなく、どのシステムを何の目的で使うのか、どの作業をいつ行うのかという業務情報です。

4.有給休暇は引継ぎ完了が法律上の取得条件ではない

退職前に年次有給休暇が残っている場合、取得を希望することができます。

厚生労働省は、年次有給休暇について原則として労働者が請求する時季に与えるものと説明しています。

事業の正常な運営を妨げる場合には使用者に時季変更権がありますが、退職直前の年休について、退職日を越えて別の日へ変更することはできません。

参考:厚生労働省「年次有給休暇」

したがって、引継ぎを完全に終えなければ有給休暇を取得する権利がない、という制度ではありません。

一方、実務上は自分の希望する最終出勤日、残日数、会社が必要としている引継ぎ期間を早めに共有しておくと調整しやすくなります。

「退職日は3月31日を予定しています。残っている年次有給休暇について、取得希望日を含めて最終出勤日と引継ぎスケジュールを相談させてください。」

権利を放棄する必要もなければ、同僚と対立する形で進める必要もありません。まず残日数を確認し、早めに勤務先と日程を整理します。

5.会社の物品・データ・私物を整理する

最終出勤日が近づいたら、会社から借りているものと自分の私物を分けます。

返却物は勤務先によって異なりますが、たとえば次のようなものがあります。

  • 社員証・入館証
  • 制服・白衣
  • 名札
  • ロッカー・店舗・薬品庫等の鍵
  • 会社支給のパソコン・スマートフォン
  • 法人カード・ETCカード等
  • 会社から貸与されている書籍・備品

2026年8月現在、従来型の健康保険証はすでに有効期限が終了しています。

厚生労働省によると、2025年12月1日ですべての従来型健康保険証の有効期限が満了し、現在はマイナ保険証または資格確認書を利用します。

参考:厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用についてよくある質問」

マイナンバーカード自体は本人のものなので会社へ返却するものではありません。資格確認書等について返却案内がある場合は、加入していた健康保険や勤務先の指示を確認してください。

6.業務データを勝手に削除せず、私的データも会社ルールに従って整理する

退職前にパソコンを整理するとき、業務ファイルを自分の判断でまとめて削除するのは避けます。

会社の業務として作成したファイル、マニュアル、メール、帳票などは、会社の情報資産に当たる場合があります。

必要なファイルの保存先や削除方法について、上司や情報システム担当者の指示を確認してください。

反対に、個人的なアカウントを業務端末へ登録していた場合も、勝手に端末を初期化するのではなく、会社の手順に従ってログアウト・解除します。

また、職務経歴書作成のためであっても、患者情報、企業の機密資料、売上データ、従業員情報などを私物端末へ持ち出すことは避けてください。

7.退職時の挨拶は職場の状況に合わせればよい

退職時の挨拶に全国共通の順番やマナーがあるわけではありません。

同僚、上司、連携先など、誰にどのタイミングで伝えるかは職場の文化や自分の担当範囲によって異なります。

医療機関や介護事業所など外部の関係者へ挨拶する場合には、自分の判断で先に連絡せず、まず勤務先に確認してください。

後任者や担当変更の正式な案内を、会社として行う必要がある場合もあるからです。

菓子折りも必須ではありません。職場の慣習や自分の気持ちに応じて判断すれば十分です。

退職時に重要なのは、高価な贈り物や形式的な挨拶ではなく、必要な業務情報が次の担当者へ渡っていることです。

8.最終出勤日に確認したい返却物と書類

最終出勤日には、返却物だけでなく、退職後にどの書類がどの方法で届くのかも確認しておきます。

項目確認内容
会社貸与物社員証、鍵、制服、端末など返却対象を確認
源泉徴収票退職後の送付方法・住所を確認
離職票必要な場合の発行方法を確認
雇用保険被保険者証会社保管の場合は返却方法を確認
退職証明書必要であれば会社へ請求
退職金制度がある場合は支給条件・予定日を確認
健康保険資格喪失後の手続きと資格確認書等の扱いを確認
企業型DC等加入している場合は移換等の手続きを確認

源泉徴収票は中途退職なら退職後1か月以内

国税庁によると、年の途中で退職した人の給与所得の源泉徴収票は、退職の日以後1か月以内に交付する必要があります。

参考:国税庁「給与所得の源泉徴収票の提出範囲と提出枚数等」

転職先で年末調整を受ける場合などに必要になるため、届かない場合には前職へ確認します。

離職票は最終出勤日に手渡されるとは限らない

離職票は、雇用保険の基本手当等の手続きで必要になる書類です。

2025年1月20日から、一定の条件を満たして事前設定を行っている場合には、ハローワークから離職者本人のマイナポータルへ離職票等を直接送付する仕組みも始まっています。

参考:厚生労働省「マイナポータルを通じた離職票の直接交付」

そのため、離職票を最終出勤日に紙で受け取ることを前提にせず、自分の場合にどの方法で交付されるのかを確認してください。

必要なら退職証明書も請求できる

労働基準法22条では、退職した労働者が使用期間、業務の種類、職位、賃金、退職事由などについて証明書を請求した場合、使用者は遅滞なく交付することとされています。

参考:厚生労働省「退職時の証明書について」

すべての人が必ず請求する書類ではありませんが、必要な場合には離職票とは別に請求できます。

9.次の入社日まで空く場合は健康保険を確認する

現在の健康保険の資格は、原則として退職日の翌日に喪失します。

翌日から転職先の健康保険に加入するのであれば、通常は新しい勤務先が資格取得手続きを進めます。

一方、退職から次の就職まで期間が空く場合には、自分で健康保険を選ぶ必要があります。

  • 現在の健康保険を任意継続する
  • 国民健康保険へ加入する
  • 要件を満たす場合、家族の健康保険の被扶養者になる

協会けんぽの任意継続では、資格喪失日の前日までに継続して2か月以上の被保険者期間があり、資格喪失日から20日以内に申請することなどが要件です。

参考:全国健康保険協会「任意継続」

国民健康保険の保険料と任意継続の保険料は条件によって違います。扶養家族の有無も含めて比較してください。

10.次の就職まで空く場合は年金の切り替えも確認する

20歳以上60歳未満で、会社を退職して厚生年金に加入しなくなり、次の厚生年金加入まで期間が空く場合には、原則として国民年金第1号被保険者への切り替え手続きが必要です。

日本年金機構は、市区町村窓口のほかマイナポータルからの電子申請も案内しています。

参考:日本年金機構「会社を退職した場合は、国民年金に加入しなければならないのですか」

なお、2022年4月から年金手帳は新規発行されておらず、基礎年金番号通知書へ切り替わっています。すでに年金手帳を持っている人は引き続き基礎年金番号を確認する書類として利用できます。

参考:日本年金機構「基礎年金番号・基礎年金番号通知書・年金手帳について」

11.退職金・企業型DCがある人は別に確認する

退職金はすべての会社に共通する制度ではありません。

制度がある場合も、支給要件、計算方法、勤続年数の扱い、支給時期などは勤務先の退職金規程等によって異なります。

そのため、勤続5年なら○円、退職後1か月以内に支給される、と一般化せず、自分の会社の規程を確認してください。

企業型確定拠出年金に加入している場合には、退職によって加入資格を失った後に移換等の手続きが必要になることがあります。

関連記事:薬剤師の退職金・企業型DCで確認したいこと

12.次の職場が決まっていなくても退職はできる

次の勤務先が決まってから退職しなければならない、というルールはありません。

退職してから転職活動をする選択もできます。

ただし、収入が途切れる期間がある場合には、生活費、健康保険、年金、雇用保険などを事前に確認しておく必要があります。

在職中に転職活動を進める場合も、求人の探し方は一つではありません。企業の採用ページ、ハローワーク、求人サイト、転職エージェントなどから、自分に合う方法を選べます。

転職エージェントを利用する場合には、入社日の調整について相談できることがありますが、現職との退職手続きを本人に代わって法的に処理してくれるサービスという意味ではありません。

転職先がまだ決まっていない場合の次の行動

最終出勤日に使えるチェックリスト

確認チェック項目
担当業務の未処理事項を後任者・上司へ共有した
必要な薬歴・業務記録を正式なシステムへ残した
患者情報・会社情報を私物端末へ残していない
自分のアカウント・権限について管理者へ連絡した
社員証・鍵・制服・端末などを返却した
ロッカー・デスク等から私物を回収した
源泉徴収票の送付先を確認した
離職票が必要な場合の受取方法を確認した
退職金・企業型DC等の対象か確認した
退職後の健康保険・年金の手続きを確認した

退職時に大切なのは、評判より手続きと情報をきれいに終えること

退職時に、業界で悪い噂が広がるのではないかと必要以上に心配する必要はありません。

自分で管理できるのは、担当している業務を整理し、必要な情報を後任者へ渡し、会社から借りているものを返し、退職後の手続きを確認することです。

特に薬剤師は、患者情報や医療情報を扱います。退職だからといって独自に情報をコピーしたり、個人用の引継ぎ資料へ持ち出したりせず、職場のルールに沿って引き継ぐことが重要です。

有給休暇についても、引継ぎを完璧に終えなければ取得できないわけではありません。残日数と退職日を確認し、必要な引継ぎと休暇取得を早めに調整します。

最終出勤日には、すべての書類が手元にそろっていなくても問題ありません。源泉徴収票や離職票など、退職後に発行・送付されるものもあります。

退職日、最終出勤日、引継ぎ、返却物、受け取る書類、健康保険・年金。

この6点を順番に確認すれば、退職前後の抜け漏れをかなり減らせます。

今の職場に不満があったとしても、必要以上に礼儀や評判を演出する必要はありません。自分と患者、後任者に必要な手続きを淡々と終え、次のキャリアへ進んでください。

FAQ

退職前に残った有給休暇はすべて取得できますか?

退職直前でも年次有給休暇を取得できます。使用者には一定の場合に時季変更権がありますが、退職日を越えて別の日へ変更することはできません。ただし実際の日程は残日数や退職日を確認し、早めに勤務先と調整してください。

引継ぎが終わらないと有給休暇を取れないのでしょうか?

引継ぎ完了そのものが年次有給休暇取得の法律上の条件ではありません。一方で、職場側も業務継続のため引継ぎが必要になるため、退職日が決まったら早めに引継ぎ対象と有給取得希望日を整理すると調整しやすくなります。

退職時に健康保険証を会社へ返却しますか?

2026年8月現在、従来型の健康保険証はすでに有効期限が終了しています。現在はマイナ保険証または資格確認書を利用する制度です。マイナンバーカード自体は会社へ返却しません。資格確認書等の扱いは加入していた健康保険や勤務先の案内を確認してください。

源泉徴収票や離職票は最終出勤日に受け取れますか?

必ずしも最終出勤日に受け取るものではありません。給与所得の源泉徴収票は中途退職者の場合、退職後1か月以内に交付されます。離職票も会社での離職手続き後に発行され、条件を満たす場合はマイナポータルへ直接送付される仕組みがあります。

次の職場が決まっていない状態で退職してもよいですか?

退職してから転職活動を始めることもできます。ただし収入がない期間の生活費に加え、健康保険・年金・雇用保険などの手続きが発生する可能性があります。在職中に転職活動をするか、退職後に集中するかは、自分の資金状況や現在の職場環境を含めて判断してください。

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