- 薬剤師向けの引継ぎ書テンプレートをそのまま使える
- 患者情報を引継ぎ書へ書きすぎない方法が分かる
- 未完了業務・在庫・在宅・医療機関連携を漏れなく整理できる
- 電子薬歴等のアカウント権限を安全に移管できる
- 管理薬剤師が追加で確認する項目を整理できる
退職や異動が決まった薬剤師にとって、引継ぎは最後に残った業務の一つです。
ただし、引継ぎ書は長く書けばよいわけではありません。患者情報を必要以上に複製したり、個人の評価を書き込んだり、システムのパスワードまで一覧化したりすると、かえって情報管理上の問題を増やします。
良い引継ぎ書は、後任者が次に何をすればよいか、どの正式記録・マニュアルを見ればよいか、分からないとき誰へ確認すればよいかが分かる資料です。
私は調剤薬局チェーンで人事・店舗運営に関わり、退職・異動に伴う業務引継ぎを見る立場も経験してきました。この記事ではその経験に加え、個人情報保護委員会と厚生労働省の現在の情報管理ルールを踏まえて、薬剤師向けの実務的な引継ぎ書を整理します。
結論|引継ぎ書は業務を継続できる状態を作るための資料
引継ぎの目的は、退職後の評判を上げることでも、転職時の市場価値を高めることでもありません。
退職者や異動者しか把握していない業務を組織へ戻し、後任者が安全に業務を継続できる状態にすることが目的です。
特に薬局では、患者情報、医薬品、行政対応、医療機関との連携、医療情報システムなどを扱います。そのため、一般企業の引継ぎ書よりも、書くべき情報と、正式記録へ残すべき情報を分けることが重要です。
そのまま使える|薬剤師の引継ぎ書テンプレート
まずは以下の表を、会社指定の共有フォルダ、社内システム、管理された紙ファイルなどへコピーして使ってください。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 業務名 | 担当している業務の名称 |
| 頻度 | 毎日・毎週・毎月・年次・随時 |
| 次回実施日 | 次に対応する予定日 |
| 現在の状況 | 完了・進行中・未着手 |
| 次にやること | 後任者が最初に行う具体的な作業 |
| 期限 | 法定・社内・取引先等の期限 |
| 関係者・連絡先 | 本部、他店舗、医療機関、卸、ベンダー等の正式な連絡先 |
| 参照資料 | マニュアル、薬歴、在宅記録、共有フォルダ等の保存場所 |
| 権限 | システム権限の追加・削除・移管が必要か |
| 注意事項 | 客観的な業務上の注意点 |
| 確認者 | 薬局長、管理薬剤師、上司等 |
| 引継ぎ完了 | 完了日・未完了理由 |
ポイントは、引継ぎ書そのものへ何でも書き込むのではなく、正式な記録が別にある場合は保存場所を示すことです。
引継ぎ書へ書くもの・書かないもの
| 書く | 原則として直接書かない |
|---|---|
| 業務手順 | 患者の病歴・服薬内容の複製 |
| 未完了タスク | 患者・医師・同僚の主観的な人物評価 |
| 次回実施日・期限 | 個人アカウントのパスワード |
| 正式な連絡先 | 個人携帯番号など私的な連絡先 |
| 正式記録の保存場所 | 会社が認めていない私物ノートへの業務情報 |
| 社内ルール・承認経路 | 退職後も本人へ連絡することを前提とした運用 |
薬局で扱う患者情報は、一般の業務メモと同じ感覚で扱わないことが重要です。
薬剤師なら引き継ぎたい7つの領域
1|日常業務
- 開局・閉局時の業務
- 日次の在庫・発注確認
- 申し送り方法
- 日報・本部報告
- 当日中に確認が必要な管理業務
個々の処方内容を引継ぎ書へ転記するのではなく、患者対応上必要な情報が正式な薬歴等へ残っているかを確認します。
2|週次・月次・年次の定期業務
- 棚卸し
- 期限切迫品の確認
- 本部への定期報告
- 研修・会議・委員会
- 行政・関係機関への定期的な提出物
次回の実施日と、資料が保存されている場所まで書くと後任者が使いやすくなります。
3|未完了タスク
引継ぎで最も重要なのは、まだ終わっていない業務です。
| 未完了タスク | 現在地 | 次の対応 | 期限 | 確認先 |
|---|---|---|---|---|
| 例:本部への申請 | 資料作成済み | 上長承認後に提出 | ○月○日 | 本部担当部署 |
| 例:設備修理 | 業者へ見積依頼済み | 見積受領後に決裁 | 未定 | 設備担当 |
担当者の記憶だけに残っている案件を、この段階で組織のタスクへ戻します。
4|在庫・発注・医薬品管理
- 発注方法と締切時刻
- 主な医薬品卸と正式な問い合わせ先
- 欠品・限定出荷時の社内確認方法
- 不動在庫・期限切迫品の確認方法
- 麻薬等、別途管理手順がある医薬品の正式マニュアル保存場所
特殊管理が必要な医薬品については、引継ぎ書だけで手順を完結させず、会社の正式マニュアルや法定帳簿等へ誘導します。
5|在宅・医療機関連携
在宅業務では、訪問予定、報告、連携先など継続性が重要です。ただし、患者固有情報を新たな私的リストへ複製するのではなく、会社の正式な薬歴・在宅記録等に必要情報が残っていることを確認します。
- 在宅業務で使用する正式記録の保存場所
- 訪問予定を管理している会社システム
- 医療機関・介護事業所等への正式な連絡方法
- 報告書の作成・確認・送付手順
- 緊急時の社内相談経路
6|電子薬歴・レセコン・各種システム
引継ぎ書へ個人アカウントのパスワードを直接書くのではなく、システムごとに誰がアカウント管理をしているかを整理します。
| システム | 引継ぎ書に書くこと |
|---|---|
| 電子薬歴 | システム名、管理担当、権限変更の依頼先 |
| レセコン | 管理担当、問い合わせ窓口 |
| 発注 | 利用システム、管理者、権限移管要否 |
| 勤怠・シフト | 管理権限の移管先 |
| 共有フォルダ | 必要フォルダの場所、アクセス権変更要否 |
退職者のアカウント停止、新しい担当者への権限付与などは、会社の情報システム管理手順に従って行います。
7|鍵・貸与物・管理物品
- 店舗・金庫等の鍵
- 社員証・入館証
- 会社貸与PC・スマートフォン
- 印鑑・カード・トークン等
- 会社が管理する紙資料
返却物全体については、退職前チェックリストの記事で別に整理しています。
関連記事:薬剤師の退職前チェックリスト|引継ぎ・有給・返却物・退職後の手続きを解説
患者情報は私物ノートへ転記せず、正式記録を参照する
個人情報保護委員会の医療・介護関係事業者向けガイダンスは、病院や診療所だけでなく薬局も対象としています。
個人情報保護委員会|医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
引継ぎで患者固有の情報が必要な場合は、退職者が新しく私物ノートや個人ファイルへ複製するのではなく、薬歴、在宅記録、会社が管理する業務システム等の正式記録へ必要事項が残っているかを確認します。
引継ぎ書側には、患者名や服薬内容を並べるのではなく、どの正式記録を参照すべきかを示す方法が安全です。
患者・医師・同僚の人物評ではなく、業務上の事実を書く
引継ぎ書は人物評価表ではありません。
| 避けたい書き方 | 業務上の事実へ変換 |
|---|---|
| 薬局長が細かい | ○○業務は薬局長承認後に実施 |
| ○○先生は気難しい | 疑義照会は院内で指定されている連絡先・手順を使用 |
| ○○さんはクレームが多い | 必要な患者情報は正式な薬歴等へ記録 |
| 本部の対応が遅い | 申請は締切の○日前までに担当部署へ提出 |
主観ではなく、後任者が同じ業務を再現できる情報へ変換します。
システムID・パスワードは会社の権限管理で移管する
厚生労働省は2026年6月に、医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第7.0版を公表しています。
厚生労働省|医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版
退職・異動時は、電子薬歴等の個人アカウントをそのまま後任者へ使わせるのではなく、会社の管理者による停止・新規発行・権限変更等で対応します。
引継ぎ書には、パスワードそのものではなく、権限変更を誰へ依頼するかを書きます。
管理薬剤師なら追加で確認する項目
管理薬剤師の退職・異動では、一般の担当業務に加えて、管理者変更に伴う手続きや管理業務の引継ぎも必要になります。
- 保険薬局としての管理薬剤師変更に関する届出
- 薬局開設許可等に関する行政手続きの確認
- 管理者名義で行っている社内承認・システム権限
- 行政・本部との定期連絡事項
- 医薬品管理・安全管理に関する管理者業務
- 従業者への周知・申し送り事項
地方厚生局は、保険薬局の管理薬剤師に変更があった場合、届出事項変更の手続きを案内しています。実際の必要手続きは、開設者・本部と所管の地方厚生局、自治体等へ確認してください。
引継ぎ期間は何日必要?固定期間ではなく最終出勤日から逆算する
引継ぎは必ず1.5か月、2か月必要という全国共通の期間があるわけではありません。
退職日と最終出勤日が決まったら、次の要素から必要な期間を逆算します。
- 担当業務の数と複雑さ
- 後任者がすでに決まっているか
- 月次・年次業務を実際に一緒に確認できるか
- 管理薬剤師等の役割変更があるか
- 有給休暇を含む最終出勤日までの勤務日数
- 会社の就業規則・退職手続き
重要なのは、引継ぎ書を完成させる日ではなく、未完了事項と相談先まで組織側へ渡せているかです。
引継ぎ資料の作成や後任教育は、会社の業務として時間を確保する
使用者の明示または黙示の指示により業務へ従事する時間は、厚生労働省のガイドライン上、労働時間に当たります。
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
会社から求められて引継ぎ資料を作成したり、後任者へ業務を説明したりするのであれば、休日や帰宅後に無償で完成させることを前提にせず、勤務時間内でどのように進めるか上司と調整します。
後任者が決まらない場合でも、引継ぎ先を会社と決める
退職日までに後任者が採用されないこともあります。
その場合、退職者が新しい人材の採用まで背負うのではなく、薬局長、エリアマネージャー、本部担当者など、現時点で在籍している人の中から会社が引継ぎ先を決める必要があります。
引継ぎ書では、未完了業務、次の期限、正式記録の場所、相談先を残し、誰へ提出したかも記録しておくと整理しやすくなります。
有給、返却物、退職後の書類など、引継ぎ以外の退職手続きは次の退職前チェックリストで整理しています。
関連記事:薬剤師の退職前チェックリスト|引継ぎ・有給・返却物・退職後の手続きを解説
退職後に個人携帯で問い合わせ対応する前提にしない
引継ぎは、できるだけ最終出勤日までに会社の中で完結する状態を目指します。
退職後も個人携帯へ患者・在宅・店舗業務について問い合わせが来る前提にすると、責任範囲や情報管理が曖昧になります。
後任者が困ったときは、薬局長、本部、他店舗、医療情報システムの管理者等、会社が用意する正式な相談経路で解決できる状態を作る方が持続的です。
元人事部長として、良い引継ぎ書だと感じる条件
私が人事・店舗運営に関わっていた範囲で、使いやすい引継ぎ資料に共通していたのは、情報量の多さより、後任者が次の行動を判断できることでした。
- 未完了業務が分かる
- 期限が分かる
- 正式な資料の保存場所が分かる
- 迷ったときの確認先が分かる
- 個人の頭の中にしかない判断手順が、客観的な業務手順として整理されている
一方、長文でも人物評や思い出話が中心だと、後任者が実務で必要な情報を探しにくくなります。
これは私が実務で見てきた範囲での経験であり、すべての会社が同じ様式を使うべきという意味ではありません。会社指定の引継ぎ書がある場合は、その様式を優先してください。
保存用|最終出勤日前の引継ぎチェックリスト
- 担当業務を一覧化した
- 日次・週次・月次・年次業務を整理した
- 未完了タスクの現在地・次の対応・期限を記載した
- 正式なマニュアル・記録の保存場所を記載した
- 患者情報を私物ノートや個人端末へ複製していない
- 患者・医師・同僚の主観的な人物評価を削除した
- 電子薬歴等のパスワードを引継ぎ書へ書いていない
- 必要なアカウントの停止・権限移管を管理者へ依頼した
- 鍵・端末・カード等の返却先を確認した
- 管理薬剤師の場合は必要な変更手続きを本部・開設者と確認した
- 後任者が未定の場合も、会社内の引継ぎ先を決めた
- 引継ぎ資料を会社管理下の場所へ保存した
- 提出先・確認者・完了日を記録した
一次資料
- 個人情報保護委員会|医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
- 厚生労働省|医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第7.0版
- 厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
- 近畿厚生局|保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の流れ
FAQ
- 薬剤師の引継ぎ書は何から書けばよいですか?
-
最初に担当業務と未完了タスクを一覧化します。そのうえで頻度、次回実施日、期限、次にやること、参照資料、確認先を追記してください。患者固有情報は新たに複製せず、正式な薬歴等の保存場所を参照できる形にします。
- 患者情報を引継ぎノートへ書いてもよいですか?
-
私物ノートや個人端末へ新たに患者情報を複製する運用は避けます。患者対応に必要な情報は、会社が管理する薬歴・在宅記録等の正式記録へ残し、引継ぎ書からその保存場所を案内する設計が適切です。
- 電子薬歴のIDとパスワードを後任者へ渡してよいですか?
-
個人アカウントをそのまま後任者へ渡す前提にはしません。会社の情報システム管理者等へ、退職者アカウントの停止と後任者への新規権限付与・変更を依頼してください。引継ぎ書にはパスワードではなく権限変更の依頼先を記載します。
- 引継ぎは退職の2か月前から始めるべきですか?
-
一律に2か月必要とは言えません。担当業務、後任者の有無、勤務日数、管理薬剤師かどうか等で必要期間は変わります。退職日・最終出勤日が決まったら早めに業務を棚卸しし、残り勤務日から逆算します。
- 後任者が決まっていなくても退職前に引継ぎできますか?
-
できます。薬局長、本部担当者、エリア責任者等の在職者から会社が引継ぎ先を決め、未完了業務、期限、正式記録の場所、確認先を渡します。新しい後任者の採用まで退職者が個人で背負う設計にはしません。
- 退職後も後任者からの電話に対応した方がよいですか?
-
退職後の個人対応を引継ぎ計画の前提にはしません。最終出勤日までに、会社内の正式な相談先、マニュアル、未完了タスクを整理し、後任者が在職者へ確認できる状態を作る方が適切です。
- 管理薬剤師が退職する場合は何を追加で確認しますか?
-
管理業務、権限、行政・本部への定期連絡事項に加え、管理薬剤師変更に伴う届出等を開設者・本部と確認します。保険薬局の管理薬剤師変更は地方厚生局への届出事項変更の対象です。薬局開設許可等に関する手続きは所管自治体にも確認してください。
まとめ|引継ぎ書は個人の記憶を会社の業務情報へ戻す
薬剤師の引継ぎ書では、情報量の多さより、後任者が安全に業務を続けられることを優先します。
- 担当業務と未完了タスクを最初に整理する
- 正式な記録がある情報は保存場所を示す
- 患者情報を私物ノートへ複製しない
- 人物評ではなく客観的な業務手順を書く
- パスワードではなく権限移管の担当者を書く
- 管理薬剤師は変更届等の手続きを追加確認する
- 引継ぎ期間は固定せず、最終出勤日から逆算する
- 退職後の私的な問い合わせ対応を前提にしない
引継ぎの完成形は、退職者へ聞かなくても、後任者が正式記録・マニュアル・社内の相談先を使って次の行動を取れる状態です。
- 転職活動を何から始めればよいか整理したい
薬剤師転職の流れを8ステップで確認する - 希望条件はある程度決まっていて、求人を探し始めたい
薬剤師求人を探す4つの方法を比較する - 転職エージェントも使って求人を比較したい
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