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地方への転職、本当に年収は下がるのか?
地方への転職を考えたとき、真っ先に頭をよぎるのは「年収が下がるのでは」という不安ではないでしょうか。
都心で築いたキャリアを手放すことへの躊躇。地元に戻りたい気持ちと、経済的な不安との間で揺れ動く日々。私は人事部長として、そんな葛藤を抱える薬剤師を何人も見てきました。
しかし断言します。適切な情報収集と戦略があれば、Uターン・Iターン転職で年収を下げる必要はないのです。
地方の薬剤師市場は、あなたが想像する以上に深刻な人材不足に直面しています。厚生労働省の「医療施設調査」によれば、人口10万人あたりの薬剤師数は都道府県間で最大2倍以上の開きがあります。この需給ギャップこそが、あなたの交渉力を高める最大の武器です。
ただし、その武器を活かすには「正確な情報」が不可欠です。地域ごとの求人動向を読み解き、表面的な求人票に惑わされない目を持つこと。それが、UIターン転職成功の絶対条件なのです。
この記事では、元調剤薬局チェーン人事部長として採用の最前線に立ってきた経験から、地方転職を成功させるための情報収集術と、地域別求人の本質的な読み解き方をお伝えします。
UIターン転職で失敗する人の共通点は「情報不足」
地方への転職で後悔する薬剤師には、明確な共通点があります。それは「都心と同じ感覚で求人を選んでしまう」ことです。
私が人事部長時代に目にした失敗例を紹介しましょう。
Cさん(32歳・女性)は東京から地元の北陸地方へUターン転職しました。「年収550万円・完全週休2日・残業なし」という求人票に魅力を感じての決断でした。しかし入社後、想定外の現実に直面します。
「完全週休2日」は事実でしたが、祝日は出勤が基本でした。「残業なし」も嘘ではありませんでしたが、開局30分前の出勤と閉局後の在庫整理は「サービス」扱いでした。年収も基本給が低く、各種手当で嵩増しされているため、賞与が驚くほど少なかったのです。
なぜこのような事態が起きるのか。答えは明快です。地方の求人市場には、都心とは異なる「文化」や「商慣習」が存在するからです。
地域別求人動向を読み解く3つの視点
視点1:地方都市の「薬剤師充足率」が示す真実
地方への転職を考える際、最初に確認すべきは「その地域の薬剤師充足状況」です。
都道府県別の人口10万人あたり薬剤師数を見ると、東京都や大阪府といった大都市圏が多い一方、青森県や沖縄県など地方では顕著に少ない傾向があります。この数字が意味するのは「需要と供給のバランス」です。
薬剤師が不足している地域ほど、あなたの交渉力は高まります。ただし注意が必要です。充足率が低い地域では、一人薬剤師の求人が多く、業務負担が重い職場も少なくありません。
私が採用を担当していた地方支店では、常に2〜3名の薬剤師を募集していました。しかし応募は月に数件程度でした。そのため、優秀な人材には都心部と同等かそれ以上の条件を提示せざるを得なかったのです。
この状況を利用すれば、年収交渉で有利な立場に立てます。ただし、単に「充足率が低いから好条件」と考えるのは早計です。なぜその地域で薬剤師が不足しているのか、その背景を理解する必要があります。
視点2:「地域特性」が生み出す求人の質の違い
地方の求人を見る際、見落としてはならないのが「地域特性」です。同じ地方都市でも、産業構造や人口動態によって求人の質は大きく異なります。
例えば、製造業が盛んな地方都市では企業の健康保険組合に属する調剤薬局が多く、比較的安定した経営基盤を持っています。一方、過疎化が進む地域では、在宅医療の需要は高いものの、経営が不安定な小規模薬局が目立ちます。
私が地方支店の立ち上げに関わった際、こんなことがありました。
地元の有力企業の門前薬局を展開していた競合他社が、突然その企業の健保から契約を切られたのです。理由は「調剤ミスの多発」でした。地方では一つの評判が地域全体に広がる速度が速く、一度失った信頼を取り戻すのは至難の業です。
このように、地方では「地域との関係性」が経営の安定性を左右します。求人票だけでは見えないこの部分を、どう情報収集するかが重要です。
視点3:「調剤報酬改定の影響」は地域で異なる
調剤報酬改定の影響は、地域によって大きく異なります。都心部では複数の医療機関の処方箋を応需できるため、改定の影響を分散できます。しかし地方、特に門前薬局が多い地域では、改定の影響をダイレクトに受けるのです。
2024年の調剤報酬改定では、対物業務から対人業務へのシフトがさらに進みました。この影響を最も受けたのが、地方の大型門前薬局です。処方箋枚数は多いが、服薬指導の質的評価では点数が取りにくい。結果として収益が圧迫され、人件費削減に動く薬局が増えました。
あなたが転職先を選ぶ際、その薬局が「どのような調剤報酬構造で収益を得ているか」を理解することは極めて重要です。特に地方では、かかりつけ薬剤師の算定率や在宅医療への取り組み状況が、将来の経営安定性を占う指標となります。
情報収集の「武器」を揃える:5つの情報源
情報源1:都道府県薬剤師会の会員向け情報を最大活用
地方転職で最も信頼できる情報源の一つが、都道府県薬剤師会です。会員向けに提供される求人情報は、一般の求人サイトには掲載されない優良案件が含まれています。
転居前でも、各都道府県薬剤師会のホームページから入会手続きが可能な場合があります。会費は年間数万円程度ですが、得られる情報の価値を考えれば決して高くありません。
私が人事部長時代、薬剤師会経由で採用した人材は、一般募集で採用した人材に比べて定着率が明らかに高かったのです。理由は明確です。薬剤師会を通じて応募する人は、地域での長期就業を前提としているからです。
情報源2:地域の保険薬局協会や医師会との関係性を探る
地方の薬局経営において、地域医師会との関係性は死活問題です。医師会との良好な関係がある薬局は、紹介患者が安定し、経営も安定する傾向があります。
転職先候補の薬局が、地域の保険薬局協会でどのような立ち位置にあるか。これは意外と簡単に調べられます。各協会のホームページで理事や委員の所属を確認すれば、影響力のある薬局が見えてきます。
ただし、協会での立場が必ずしも「良い職場」を意味するわけではありません。地域の有力薬局でも、実は離職率が高いケースもあります。重要なのは、複数の情報源を組み合わせて総合的に判断することです。
情報源3:転職エージェントの「地域専任担当者」を指名する
薬剤師専門の転職エージェントを利用する際、必ず「その地域を専任で担当している」コンサルタントを指名してください。
大手エージェントでも、地域ごとに専任担当者を配置しているケースが多いです。彼らは地域の薬局事情に精通しており、求人票には載らない情報を持っています。
私自身、人事部長として複数のエージェントと取引していましたが、地域専任の担当者は本当に頼りになりました。「この薬局は社長がワンマンで離職率が高い」「この地域は冬季の降雪で患者数が激減する」といった、現地でなければ分からない情報を教えてくれるからです。
特に以下の3社は、地方求人に強く、地域専任担当者の質も高いです。

これらのエージェントに登録する際は、必ず「地域専任担当者との面談」を希望してください。一般的な担当者では、地域特有の情報は得られません。
情報源4:SNSとオンラインコミュニティの「生の声」
最近では、薬剤師向けのSNSコミュニティが活発化しています。特にXやInstagramでは、地方で働く薬剤師が日常や待遇について発信しているケースが増えています。
ただし注意が必要です。SNSの情報は主観的で、極端な意見も含まれます。「この薬局は最悪」という投稿があっても、それが本当かどうかは検証が必要です。
私が推奨するのは、複数の情報源と照らし合わせることです。例えば、SNSで特定の薬局について否定的な意見を見つけたら、転職エージェントに確認する。こうした情報の「裏取り」が、失敗を防ぐ鍵です。
情報源5:実際に現地を訪れ「空気感」を確かめる
どれだけ情報を集めても、最終的には自分の目で確かめることが不可欠です。
転職活動の最終段階では、必ず現地を訪れてください。可能であれば平日の診療時間中に薬局を外から観察することをお勧めします。患者の流れ、薬剤師の動き、店舗の清潔感など、求人票では絶対に分からない情報が得られます。
私が採用した薬剤師の中に、こんな方がいました。
Dさんは面接前日に薬局周辺を散策し、近隣の住民に「あの薬局の評判はどうですか」と尋ねたそうです。すると「親切で丁寧」という声が多く聞かれ、安心して面接に臨めたと言っていました。この「現地での聞き込み」は、意外と有効な情報源です。
地域別求人票の「本当の読み方」
読み方1:「年収○○万円以上」の「以上」に潜む罠
地方の求人票でよく見かけるのが「年収500万円以上」といった表現です。この「以上」という言葉に、多くの薬剤師が惑わされます。
実際には、提示年収は経験やスキルによって大きく変動します。特に地方では、都心部での経験が正当に評価されないケースも少なくありません。
私が人事として面接した際、よく使った言葉があります。「都心部での経験は素晴らしいですが、当地では在宅医療の経験を重視しています」。これは婉曲的に「あなたの経験は、うちではそれほど高く評価できない」という意味です。
では、どう対応すべきか。答えは「具体的な年収モデルケースを必ず確認する」ことです。「35歳・経験10年の場合の年収」「入社3年後の想定年収」など、具体的な数字を引き出してください。
読み方2:「完全週休2日」と「週休2日」の決定的な違い
地方の求人票では「週休2日制」と記載されている場合が多いです。これは「月に1回以上、週2日の休みがある」という意味であり、「毎週必ず2日休める」わけではありません。
一方「完全週休2日制」は、毎週2日の休みが保証されています。この違いを理解していないと、入社後に大きなギャップを感じます。
さらに注意すべきは「祝日」の扱いです。完全週休2日制でも、祝日が出勤日になっている場合があります。年間休日数を必ず確認してください。120日以上あれば標準的、110日以下は要注意です。
読み方3:「基本給」と「みなし手当」の内訳を必ず確認
地方の求人で特に注意すべきが、給与の内訳です。
「年収600万円」と書かれていても、基本給が月20万円で、残りが各種手当というケースは珍しくありません。この場合、賞与の計算基準が基本給であれば、賞与は驚くほど少額になります。
私が人事部長として給与設定をしていた際、意図的に基本給を低く設定し、手当で調整していた時期がありました。理由は「賞与の支払いを抑えるため」です。経営が厳しい時期には、賞与を削減しやすい給与体系にしていたのです。
転職時には、必ず「基本給」「固定手当」「変動手当」の内訳を確認してください。そして「賞与の計算基準」も明確にしておくべきです。
UIターン転職で年収を下げないための交渉術
交渉術1:「地域給差」の存在を逆手に取る
多くの薬局チェーンには「地域給差」が設定されています。都心部の給与を100とした場合、地方は80〜90程度に設定されているのが一般的です。
しかし、この地域給差は「交渉可能」な場合が多いのです。特に薬剤師不足が深刻な地域では、優秀な人材には地域給差を適用しないケースもあります。
交渉の際は「都心部での経験とスキルを活かし、地域医療に貢献したい」という姿勢を示しつつ、「ただし、生活水準を大きく下げることは難しい」と率直に伝えてください。
私が人事部長として採用した薬剤師の中には、地域給差なしの条件で入社した方もいます。決め手は「在宅医療の経験」と「地域貢献への明確なビジョン」でした。
交渉術2:「段階的な年収アップ」を契約書に明記させる
地方の薬局では、入社時の年収は抑えめでも、その後の昇給で調整するケースがあります。しかし、口約束だけでは不安が残ります。
交渉時には「1年後、3年後の年収」を明確にし、可能であれば労働条件通知書に記載してもらってください。「3年後に年収650万円到達」といった具体的な数字があれば、安心して転職できます。
ただし注意点があります。「業績による」「評価次第」といった条件が付いている場合は要注意です。その評価基準が明確でなければ、結局は会社の裁量次第になってしまいます。
交渉術3:転職エージェントに「代理交渉」を依頼する
年収交渉は、多くの薬剤師が苦手とする部分です。特に地方の薬局では、対面での面接が多く、その場で年収の話をするのは気まずいものです。
だからこそ、転職エージェントの活用が有効です。エージェントは「代理交渉のプロ」であり、あなたが直接言いにくいことも、適切に伝えてくれます。
私が人事部長として転職エージェント経由の応募者と面談した際、エージェントから事前に「年収650万円を希望」という情報が入っていました。そのため、面接では業務内容やキャリアプランに集中でき、年収の話はエージェントを通じて後日調整する流れがスムーズでした。
エージェントを利用する際は「年収交渉を代行してほしい」と明確に伝えてください。優秀なエージェントであれば、あなたの市場価値を適切に評価し、妥当な年収を引き出してくれます。

地方転職で見落としがちな「隠れたコスト」
UIターン転職を検討する際、年収だけを見ていては不十分です。地方生活には「隠れたコスト」が存在するからです。
まず「車の維持費」です。地方では車が必需品ですが、駐車場代、保険料、車検費用など、年間で数十万円のコストがかかります。
次に「交際費」です。地方では地域のコミュニティとの付き合いが重要です。町内会費、冠婚葬祭への参加など、都心部では考えられない出費が発生します。
一方で、地方には「隠れたメリット」もあります。住居費が大幅に安くなる、通勤時間が短縮される、家族との時間が増えるなどです。
重要なのは、これらの「見えないコスト・メリット」を含めて、総合的に判断することです。年収が100万円下がっても、生活コストが150万円下がれば、実質的には収入増になります。
転職後の「ギャップ」を最小化する事前準備
どれだけ情報を集めても、転職後に何らかのギャップを感じることはあります。重要なのは、そのギャップを最小化する事前準備です。
準備1:「試用期間」の条件を明確にする
多くの薬局では、入社後3〜6ヶ月の試用期間が設けられています。この期間中は、給与が本採用時より低く設定されている場合があります。
試用期間中の給与、本採用への移行条件、もし合わないと感じた場合の退職条件などを、事前に確認しておいてください。
準備2:「メンター制度」の有無を確認
地方の薬局では、教育体制が整っていないケースも少なくありません。特に中小の薬局では、いきなり一人前の業務を任されることもあります。
転職先にメンター制度があるか、入社後のフォロー体制がどうなっているかを確認してください。不安があれば、入社後3ヶ月程度は定期的な面談を設定してもらうよう交渉することも可能です。
準備3:「住居探し」は転職エージェントも活用
地方での住居探しは、土地勘がないと難しいものです。転職エージェントの中には、住居探しのサポートをしてくれるケースもあります。
また、薬局によっては社宅や住宅手当が充実している場合もあります。この点も交渉材料になりますので、積極的に確認してください。
あなたの決断を後押しする最後のメッセージ
ここまで読んでいただいたあなたは、UIターン転職に対して真剣に向き合っている方だと思います。
地方への転職は、確かに不安を伴う大きな決断です。しかし、適切な情報収集と戦略的な準備があれば、あなたのキャリアにとって大きなプラスになる可能性があります。
私が人事部長として多くの薬剤師のキャリアを見てきた中で確信していることがあります。それは「環境を変える勇気を持つ人こそが、真の成長を遂げる」ということです。
都心部で消耗しながら働き続けるのか。それとも、地方で自分らしいキャリアを築くのか。その選択肢を持っているあなたは、すでに多くの可能性を手にしています。
重要なのは「正しい情報」と「信頼できるパートナー」です。下記の薬剤師転職支援サービスは信頼性が高く、おすすめできます。

今の環境で悩み続けるのか。それとも、新しい可能性に向けて一歩踏み出すのか。
その決断は、あなたにしかできません。しかし、その決断を下すために必要な情報と戦略は、この記事で十分にお伝えしました。
あなたの市場価値は、あなたが思っているよりもずっと高いのです。その価値を正当に評価してくれる職場は、必ず存在します。
地方には、あなたを待っている患者さんがいます。あなたの専門性を必要としている地域があります。そして、あなたらしく働ける環境があります。
さあ、情報収集から始めましょう。まずは信頼できる転職エージェントに登録し、地域専任の担当者と話をしてみてください。その一歩が、あなたの未来を大きく変える可能性があります。

