【元人事部長が断言】有給が取りやすい職場は「作れる」!薬剤師のための3つの伝え方テクニック

2025年10月時点の情報です

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「また有給、無理そうだな」その諦め、本当に必要ですか?

「来月、友人の結婚式があるんだけど、有給申請したら嫌な顔されるだろうな」
「子どもの運動会に行きたいけど、人が足りないから言い出せない」
「体調が悪くても、休むと周りに迷惑がかかるから我慢するしかない」

薬剤師として働くあなたは、こんな思いを何度も抱えてきたのではないでしょうか。

有給休暇は労働者の権利で、法律で保障されています。それなのに、実際の職場では「申請しづらい空気」が蔓延しています。人手不足、お局薬剤師の無言のプレッシャー、管理薬剤師の顔色。

こうした目に見えない壁が、あなたの正当な権利を奪っているのです。

私は調剤薬局の経営コンサルタントとしても活動しており、その中で、ある店舗の有給取得率を大きく改善させた実績があります。その経験から断言できますが、職場の空気は変えられます。

この記事では、有給休暇を申請しやすい職場環境をあなた自身の手で作り出すための具体的な交渉術をお伝えします。これまでの実務経験に基づいた、再現性の高い方法です。

あなたのキャリアと健康を守るために、ぜひ最後までお読みください。


【前提知識】なぜ薬局では有給が取りづらいのか?人事が見た3つの構造的問題

交渉術に入る前に、まず「なぜ薬局では有給が取りづらいのか」という根本原因を理解しておく必要があります。

敵を知らなければ、戦いようがないからです。

構造的問題①:慢性的な人員不足という経営課題

調剤薬局の多くは、ギリギリの人員で運営されています。これは経営判断です。

薬剤師の平均年収は500万円から600万円程度ですが、会社が負担する社会保険料や採用コストを含めた「1人あたりの人件費」は、年間700万円から900万円近くに達します。多くの中小薬局にとって、この固定費は極めて重い負担なのです。

結果として、誰か一人が休むだけで業務が回らなくなる体制が常態化しています。経営者は「効率的な人員配置」と言いますが、実態は従業員の権利を犠牲にしたコスト削減です。

構造的問題②:「休むこと=迷惑」という歪んだ職場文化

多くの薬局では、有給を取得することが「周囲に迷惑をかける行為」だと認識されています。

これは完全な誤りです。有給休暇は権利であり、その取得によって他のスタッフに負担がかかるのは、人員配置を適切に行わない経営者の責任なのです。

しかし、現場ではこの論理が通用しません。「あの人、また休むんだ」という陰口、管理薬剤師の露骨な不満の表情。こうした圧力が、権利行使を躊躇させます。

構造的問題③:不透明な承認プロセスと属人的な判断

有給申請の承認基準が明文化されていない薬局は驚くほど多いのです。

「いつまでに申請すれば良いのか」「誰の承認が必要なのか」「どんな理由なら認められるのか」。これらが口頭での慣習や、管理薬剤師の裁量に委ねられています。

結果として、「あの人の申請は通ったのに、私のは却下された」という不公平感が生まれます。そして、申請すること自体がリスクだと感じるようになるのです。

これらの構造的問題を理解した上で、次のセクションでは具体的な交渉術をお伝えします。


ポイント1:【準備段階】あなたの「有給取得権」を数字で武装せよ

交渉の第一歩は、自分の権利を正確に把握することです。
感情論ではなく、法的根拠と数字で武装してください。

まず確認すべき3つの数字

あなたは以下の数字を即答できますか?

1. 付与されている有給日数
入社後6ヶ月で10日、以降は勤続年数に応じて増加します。フルタイム勤務なら、最大で年間20日です。

2. 現在の残日数
給与明細や勤怠システムで確認してください。多くの薬剤師が、自分の残日数すら把握していません。

3. 過去1年間の取得日数
ここが重要です。もし取得日数が5日未満なら、それは会社が法令違反を犯している可能性があります。

労働基準法では、年間10日以上の有給が付与される労働者に対し、そのうち5日を必ず取得させる義務が使用者に課されています(2019年4月施行)。

職場の有給取得率を調べる具体的方法

次に、職場全体の有給取得状況を把握してください。
同僚に直接聞くのは角が立つ可能性があります。おすすめは以下の方法です。

方法①:シフト表の分析
過去3ヶ月のシフト表を見返し、各スタッフが有給を取得した日数を数えます。客観的なデータが得られます。

方法②:人事部門への問い合わせ
チェーン薬局なら、本社の人事部門に「当店舗の有給取得率」を質問できます。情報開示を拒否されても、その反応自体が一つの情報です。

「権利を主張する姿勢」を周囲に示す準備

データを揃えたら、次は心理的な準備です。

有給を申請することは、わがままでも迷惑でもありません。法律で保障された権利の行使です。この認識を、あなた自身がまず持ってください。

そして、その姿勢を日常の会話の中で少しずつ示していくのです。

「有給って、ちゃんと消化しないともったいないですよね」
「法律で5日は必ず取らせないといけないって、知ってました?」

こうした何気ない発言が、職場の空気を少しずつ変えていきます。


ポイント2:【実践段階】「申請しやすい空気」を自分で作る3つの戦術

権利を把握したら、次は実際に申請しやすい環境を作る具体的な行動に移ります。

戦術①:早期申請と代替案の同時提示

有給申請は、少なくとも2週間前、できれば1ヶ月前に行ってください。

「来週休みたい」という直前の申請は、たとえ権利であっても職場に混乱を与えます。早期申請は、あなたの誠実さを示す行動です。

そして、申請時には必ず代替案を提示してください。

「○月○日に有給を取得したいのですが、その日の業務は前日までに済ませておきます」

「当日の処方箋枚数が多い場合は、△△さんに事前に相談しておきます」

このように、あなたが休むことで生じる影響を最小化する提案をセットで行うのです。これは単なる配慮ではありません。戦略です。

管理薬剤師は「この人が休んでも大丈夫だ」と感じれば、承認せざるを得なくなります。

戦術②:「チーム全体の有給取得」を提案する

あなた一人が有給を取りやすくなっても、根本的な解決にはなりません。

職場全体の空気を変えるには、全員が有給を取得できる仕組みを提案することが効果的です。

具体的には、スタッフミーティングで以下のような提案をしてください。

「法律で年5日の取得が義務化されていますし、全員が計画的に有給を取得できるよう、年間スケジュールを作りませんか?」

「各自が希望日を出し合って、重ならないように調整すれば、誰にも負担がかかりません」

この提案のポイントは、「みんなのため」という大義名分を掲げることです。自分だけが得をするのではなく、チーム全体の利益になるという形にすれば、反対しづらくなります。

戦術③:労働組合や本社人事を味方につける

もし管理薬剤師や店舗責任者が有給申請に難色を示すなら、上位組織を活用してください。

チェーン薬局なら本社の人事部門、労働組合があるなら組合の相談窓口に連絡します。

「店舗で有給が取得しづらい状況があります。法令遵守の観点から、本社として指導をお願いできないでしょうか」

この一文をメールで送るだけで、状況が一変することがあります。

なぜなら、企業にとって労働基準法違反は大きなリスクだからです。行政指導や訴訟リスクを避けるため、本社は速やかに対応せざるを得ません。

ただし、この方法は最終手段です。まずは現場での解決を試みてください。


ポイント3:【交渉段階】管理薬剤師を動かす「言い方」のテンプレート

有給申請は、ただ希望日を伝えるだけでは不十分です。
相手が承認したくなる「言い方」が存在します。

NG例:感情に訴える言い方

「もう限界なんです。休ませてください」
「みんな休んでるのに、私だけ休めないのはおかしいです」

こうした感情的な訴えは逆効果です。管理薬剤師は「この人は不満を抱えている」と警戒し、承認をためらいます。

OK例①:業務への配慮を示す言い方

「○月○日に有給を取得させていただきたいのですが、前日までに薬歴入力を終わらせ、在庫確認も済ませておきます。当日の処方箋枚数が例年少ない日なので、ご負担も最小限になるかと思います」

このように、あなたが休むことで生じる業務への影響を具体的に軽減する提案をしてください。

OK例②:法的根拠を穏やかに示す言い方

「年間5日の有給取得が義務化されていますので、計画的に取得したいと考えています。店舗運営に支障が出ないよう、早めにご相談させていただきました」

法律の話を持ち出すと角が立つと心配する人もいますが、穏やかなトーンで伝えれば問題ありません。むしろ、「法令遵守」という企業にとって無視できない理由を提示できます。

OK例③:代替案を複数用意する言い方

「第一希望は○月○日ですが、もし難しければ△月△日でも構いません。いずれかの日程で調整いただけないでしょうか」

選択肢を提示することで、管理薬剤師に「承認する/しない」ではなく「どちらの日程にするか」を選ばせる構図を作れます。

人は選択肢を与えられると、その中から選ぼうとする心理が働きます。これは交渉術の基本です。

【警告】「自力交渉」にはリスクもあることを知っておく

ここまで具体的な交渉術をお伝えしましたが、元人事部長として、あなたを守るために一つだけ注意点をお伝えしなければなりません。

それは、「正当な権利を主張することで、上司や経営者との関係がこじれるリスクがある」ということです。

悲しいことですが、正論が通じない職場も存在します。そうした職場で無理に戦うと、「あの人は理屈っぽい」「使いづらい」とレッテルを貼られ、逆に居心地が悪くなってしまう可能性があります。精神的に消耗してしまっては本末転倒です。

だからこそ、私はこう提案します。
「戦う準備(交渉)」と同時に、「逃げる準備(転職活動)」も水面下で進めておくこと。

これが、最も賢いリスクヘッジです。
「いざとなれば、もっと良い条件の職場がある」という事実を知っているだけで、交渉時のあなたの態度は堂々としたものに変わります。心に余裕が生まれるからです。


【重要】それでも改善しないなら、環境を変える選択肢を持つべき理由

ここまでお伝えした方法を実践しても、職場の空気が変わらないケースがあります。
その場合、あなたが取るべき行動は一つです。環境を変えることです。

有給を取得できない職場は、他にも問題を抱えている

有給休暇を取得しづらい職場は、多くの場合、他の労働条件にも問題があります。サービス残業の常態化、不透明な評価制度、キャリアアップの機会がない。こうした問題が複合的に存在しているのです。

なぜなら、従業員の権利を軽視する経営姿勢は、一つの分野だけに現れるものではないからです。

私が人事部長としてこの業界を見てきた中で、有給取得率が低い会社は、離職率も高い傾向があるように感じました。もちろん具体的なデータはないので体感的なものに過ぎませんが、優秀な薬剤師ほど早く見切りをつけて転職していくのです。

あなたの市場価値は、今の職場での評価より高い

「転職しても、どうせ同じような環境だろう」

そう思っていませんか?それは間違いです。

薬剤師の転職市場は、あなたが思っている以上に流動的で、選択肢が豊富です。有給取得率80%以上、年収600万円以上、残業月10時間以内。こうした好条件の求人は確実に存在します。

転職エージェントを活用した「環境リサーチ」のすすめ

転職を決断する前に、まず情報収集から始めてください。

「有給取得率が70%以上の薬局の求人はありますか?」
「実際の労働時間や職場の雰囲気を教えてもらえますか?」
「離職率のデータはありますか?」

私が人事部長時代、実際に「この担当者は手強い(=候補者のために本気で交渉してくる)」と感じ、信頼関係を築いたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。

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本当に大切なのは、あなた自身の人生を守ること

有給休暇を取得できないという状況は、単なる「休みが取れない」という表面的な問題ではありません。

それは、あなたの健康、家族との時間、自己成長の機会が奪われているという深刻な問題なのです。

この記事でお伝えした交渉術を実践してください。それでも状況が改善しないなら、迷わず次のステップに進んでください。

あなたの人生は、今の職場だけで完結するものではありません。もっと良い環境は必ず存在します。そして、その環境を手に入れる権利が、あなたにはあるのです。

今の職場で我慢し続けるのか、新しい可能性に踏み出すのか。その決断を下すのは、あなた自身です。

でも、私は知っています。この記事をここまで読んだあなたは、すでに変化を求めているのだと。その一歩を、勇気を持って踏み出してください。あなたのキャリアと人生を、心から応援しています。

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この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

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