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「時給3,000円超」という数字に惹かれたあなたへ
「派遣薬剤師は時給3,000円以上。正社員より稼げるらしい」
そんな話を聞いて、働き方の選択肢として派遣を検討し始めた薬剤師の方は少なくないでしょう。確かに、派遣薬剤師の平均時給は約3,300円とパート薬剤師(約2,000円台前半)を大きく上回ります。
厚生労働省の最新の統計によれば、正社員薬剤師の平均年収は約600万円前後で推移していますが、時給3,000円でフルタイム勤務すれば年収576万円に達する計算です。
しかし、この高時給には理由があります。その理由を正しく理解しないまま派遣を選ぶと、キャリア形成において取り返しのつかない選択をしてしまう可能性があるのです。
私は調剤薬局チェーンで人事部長を4年、採用担当を6年務めてきました。派遣薬剤師を受け入れる立場として、また派遣から正社員への転換を希望する薬剤師の面接官として、派遣という働き方の実態を数多く見てきました。この記事では、派遣薬剤師の「高時給」の裏側にある構造的なリスクと、今後のキャリアを見据えた賢い活用法について解説します。
派遣薬剤師の時給が高い本当の理由
派遣薬剤師の時給がパートより高いのは、単に「需要があるから」ではありません。その構造を理解することが、派遣という働き方を正しく評価する第一歩です。
ボーナス・退職金の「前払い」という側面
派遣薬剤師には基本的にボーナスや退職金が支給されません。派遣の時給には、本来正社員が受け取るボーナスや退職金相当額が「分割払い」として含まれていると考えるべきです。
つまり、時給3,000円という数字は「見かけ上」高いだけであり、年間の総収入で比較すると正社員と大きな差がないケースも珍しくありません。厚生労働省のデータをもとに計算すると、正社員薬剤師の平均年収(ボーナス含む)は約599万円。一方、時給3,000円の派遣薬剤師がフルタイムで働いた場合の年収は約576万円となり、ボーナスを含めた正社員の方がわずかに高くなるケースがあります。
| 項目 | 派遣薬剤師 (時給3,000円) |
正社員薬剤師 (平均的モデル) |
|---|---|---|
| 月収目安 | 約48万円 | 約35〜40万円 |
| 賞与(ボーナス) | なし(0円) | 年2回(計100万円〜) |
| 退職金 | なし | あり(積立) |
| 実質年収 | 約576万円 | 約600万円前後 |
即戦力に対する「プレミアム」
派遣先は、教育コストをかけずにすぐ現場で活躍できる人材を求めています。研修期間なしで調剤業務をこなせることへの対価として、時給が高く設定されているのです。
私が人事部長時代、派遣薬剤師を受け入れる際に最も重視していたのは「初日から戦力になれるか」という点でした。処方箋の内容を見て即座に動ける薬剤師と、「この調剤機器、初めて使います」という薬剤師では、現場の負担がまったく異なります。高時給を維持するためには、常に「即戦力」であり続ける必要があることを忘れてはなりません。
派遣会社のマージンを含む「総コスト」
薬局側が派遣会社に支払う金額は、薬剤師本人が受け取る時給の1.5倍程度になることが一般的です。時給3,000円の派遣薬剤師であれば、薬局側は時給換算で4,500円から5,000円程度を派遣会社に支払っています。薬局経営者から見れば「非常に高コストな人材」であり、正社員やパートが確保できれば派遣は解約されやすいのです。
派遣薬剤師の働き方|仕組みと法的制限を理解する
派遣薬剤師として働く前に、必ず理解しておくべき法的な制限があります。これを知らずに派遣を選ぶと「こんなはずじゃなかった」という後悔につながります。
同一職場は最長3年|労働者派遣法の規制
労働者派遣法により、派遣薬剤師が同じ職場で働ける期間は最長3年と定められています。どれだけ職場に馴染んでも、患者との信頼関係を築いても、3年経てば別の職場に移らなければなりません。
実際には3年を待たず、正社員やパートが採用されれば契約更新されないケースがほとんどです。私の経験では、派遣薬剤師の平均的な契約期間は数カ月から1年程度でした。「居心地が良いからずっと働きたい」という希望が叶うことは稀だと考えてください。
病院への派遣は原則禁止
医療関連業務への派遣は労働者派遣法で原則禁止されています。そのため、派遣薬剤師の主な勤務先は調剤薬局とドラッグストアに限られます。病院勤務が可能なのは以下の例外的なケースのみです。
紹介予定派遣として正社員登用を前提とした派遣(最長6カ月)、または産休・育休代替として休業中の薬剤師の代わりに一時的に勤務するケースに限定されます。病院での臨床経験を積みたい、チーム医療に携わりたいという希望がある場合、派遣という選択肢はほぼないと考えるべきです。
管理薬剤師にはなれない
薬機法の規定により、派遣薬剤師が管理薬剤師として働くことは認められていません。管理薬剤師の経験は年収アップやキャリアアップにおいて非常に重要な要素です。派遣を長く続けることで、この経験を積む機会を逃してしまうリスクがあることを認識してください。
| 制限項目 | 内容とリスク |
|---|---|
| 契約期間の壁 | 同一事業所で最長3年まで。 ※3年ごとに職場が変わるため、役職に就けない。 |
| 病院勤務 | 原則禁止(産休代替など例外のみ)。 ※臨床スキルを積む機会がほぼない。 |
| 管理薬剤師 | 就任不可(薬機法の規定)。 ※年収アップに必須のマネジメント経験が積めない。 |

派遣薬剤師のメリット|こんな人には向いている
ここまでリスクを強調してきましたが、派遣という働き方が適している人もいます。人事部長として多くの薬剤師のキャリア相談に乗ってきた経験から、派遣が向いている人の特徴をお伝えします。
| ✅ 向いている人(短期戦略) | ❌ 向いていない人(長期リスク) |
|---|---|
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|
ライフステージに合わせた柔軟な働き方が必要な人
子育て中のママ薬剤師にとって、派遣は有効な選択肢になり得ます。「週3日、9時から15時まで」といった希望に沿った勤務条件を見つけやすく、残業もほぼありません。契約で決められた時間内で働くことが前提なので、保育園のお迎えに間に合わないといった心配も少なくなります。
派遣会社が間に入ることで、「今日は子どもの熱で休みたい」といった連絡も比較的しやすくなります。直接雇用の場合、上司や同僚に気を遣いながら休みを申請する必要がありますが、派遣会社を通すことで精神的な負担が軽減されるという声は多く聞きました。
短期間で集中的に稼ぎたい人
留学資金を貯めたい、一時的に収入を増やしたいといった明確な目標がある場合、派遣の高時給は魅力的です。特に地方の薬剤師不足エリアでは時給4,000円を超える求人もあり、都市部より高い収入を得られる可能性があります。ただし、これは「期間限定」で活用する場合の話です。
様々な職場を経験してスキルの幅を広げたい人
複数の薬局で働くことで、異なる処方箋、異なる調剤機器、異なる患者層への対応を経験できます。この経験は将来的に正社員として転職する際のアピールポイントになり得ます。ただし、それだけでは管理職候補としての評価にはつながりにくいという点も正直にお伝えしておきます。
派遣薬剤師のデメリット|長期的なキャリアへの影響
派遣という働き方を選ぶ前に、必ず理解しておいてほしいリスクがあります。これらは短期的には見えにくいものですが、5年後、10年後のキャリアに大きな影響を与えます。
キャリアアップの機会損失
派遣薬剤師は管理薬剤師やエリアマネージャーといった管理職に就くことができません。また、かかりつけ薬剤師になることも困難です(同一薬局での継続勤務が要件となるため)。
50代になったとき、同世代の正社員薬剤師が管理薬剤師手当やマネジメント経験による年収アップを実現している一方で、派遣を続けてきた薬剤師は時給ベースの収入から抜け出せないという状況になりかねません。
私が過去に経験した事例をお話しします。50歳、派遣歴20年。「そろそろ正社員として落ち着きたい」と面接に来られた女性薬剤師の方です。様々な薬局を渡り歩いてきたため、調剤スキルは完璧でした。
しかし、結果は「不採用」。
理由はシンプルです。20年間、誰かの指示で動くことはあっても、部下を指導したり、薬局の利益を考えたりしたマネジメント経験が皆無だったからです。年収などの条件面はベテラン並みを希望されましたが、組織にとっては扱いづらい高コストな新人でしかありませんでした。派遣で気楽に稼ぐことの代償は、50代になってから利子がついて回ってくるのです。
雇用の不安定さ
派遣契約は派遣先の都合で更新されないことがあります。正社員やパートが採用できれば、派遣は解約の対象になりやすいのが現実です。また、景気後退や診療報酬改定の影響で薬局の経営が厳しくなった場合、真っ先にコスト削減の対象になるのは派遣です。
記憶に新しいのはコロナ流行初期です。処方箋枚数が激減した際、真っ先に契約を打ち切られ、職を失ったのは派遣薬剤師でした。
福利厚生の違い
派遣薬剤師の福利厚生は派遣会社の制度が適用されますが、正社員と比較すると限定的なケースが多いです。退職金がないことで生涯収入は正社員より低くなる可能性があります。また、短期契約の場合は社会保険の適用外となるケースもあるため、登録前に必ず確認してください。

派遣薬剤師の将来性|業界動向を踏まえた見通し
派遣薬剤師の将来性を考える上で、薬剤師業界全体の動向を把握しておく必要があります。
薬剤師の需給バランスの変化
厚生労働省の需給推計によれば、将来的に薬剤師の供給が需要を上回る可能性が指摘されています。需給バランスが崩れれば派遣薬剤師の時給は下落圧力を受けることになります。「高時給だから派遣」という選択理由が将来的に成り立たなくなる可能性を考慮しておくべきです。
AI・自動化の影響
調剤業務の自動化は着実に進んでいます。自動錠剤ピッキングシステムや一包化監査支援システムの導入により、薬剤師が担ってきた対物業務の一部は機械に置き換わりつつあります。派遣薬剤師に求められる「即戦力としての調剤業務」はAIが得意とする領域です。
将来的に価値が高まるのは、患者とのコミュニケーションや在宅医療への対応など人間にしかできない対人業務のスキルです。これらは長期的な信頼関係の構築が必要であり、短期間で職場を移る派遣では身につけにくい面があります。
求められる薬剤師像の変化
2025年問題により在宅医療や地域包括ケアへの対応が薬剤師に強く求められています。かかりつけ薬剤師としての継続的な患者対応や多職種連携への参画など、「一つの地域に根ざした活動」が重視される時代です。この流れは職場を転々とする派遣薬剤師にとっては逆風となる可能性があります。

派遣薬剤師を賢く活用するための戦略
ここまで読んで「派遣はやめておこう」と思った方もいるかもしれません。しかし、派遣を一時的な手段として賢く活用する方法はあります。
期間と目的を明確にする
「2年間だけ派遣で働いて留学資金を貯める」「子どもが小学校に上がるまでの3年間は派遣で働く」といったように、期間と目的を明確に設定することが重要です。漫然と派遣を続けると、気がついたときには正社員への道が閉ざされているというケースは今後生じうる可能性があります。
派遣中もスキルアップを怠らない
派遣だからといって日々の業務をこなすだけで満足してはいけません。認定薬剤師の資格取得、在宅医療の研修参加など、将来の正社員転職を見据えたスキルアップを継続することが大切です。派遣会社によっては研修制度や資格取得支援を提供しているところもあります。
また、非常に高いスキルを持った方であれば、どんな職場でも引く手あまたですから、派遣薬剤師として働き続ける選択肢も取りやすくなります。
紹介予定派遣という選択肢
「派遣から正社員へ」という道を最初から見据えるなら紹介予定派遣という選択肢があります。最長6カ月の派遣期間を経て正社員として採用されることを前提とした働き方で、病院への派遣も可能です。職場の雰囲気や業務内容を確認してから正社員になれるためミスマッチを防げます。

信頼できる派遣会社の選び方
派遣薬剤師として働く場合、派遣会社選びは非常に重要です。時給だけでなく、求人数、福利厚生、研修制度、トラブル時のサポート体制を確認してください。
私が人事部長時代、実際に「交渉力が高く、信頼できる」と感じたエージェントについては、以下の記事で生々しく解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。下記のうち派遣薬剤師求人の取り扱いがあるのはファルマスタッフとファル・メイトです。

私が採用担当をしていた頃、10年以上派遣を続けてきた40代/50代の方の紹介案内を受けると、正直なところ警戒しました。なぜなら、長年の派遣生活で「自分の役割範囲以外はやらない」という癖がついている方が多かったからです。
薬局等の現場では、急患対応やクレーム処理などマニュアル外の動きこそが重要です。契約外なのでというスタンスが見え隠れするベテランより、経験が浅くても組織にコミットできる方を採用したくなる。これが、40代以降の派遣薬剤師が正社員に戻れなくなる最大の理由なのです。
あなたのキャリアは、あなた自身が選ぶもの
派遣薬剤師という働き方にはメリットもデメリットもあります。高時給は魅力的ですが、その裏にある構造的なリスクを理解した上で選択することが重要です。
5年後、10年後の自分を想像してください。管理薬剤師として薬局を任されている姿でしょうか。在宅医療の現場で地域に貢献している姿でしょうか。それとも変わらず派遣として様々な職場を転々としている姿でしょうか。
どの姿が「正解」ということはありません。
大切なのは、あなた自身が望むキャリアを明確にし、そのために今何をすべきかを考えることです。
もし今の職場に不満があるなら、派遣という選択肢だけでなく正社員としての転職も視野に入れてください。あなたの市場価値は、あなたが思っているよりずっと高い可能性があります。
- 派遣薬剤師はずっと同じ薬局で働き続けることはできますか?
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できません。労働者派遣法により、同じ事業所で働けるのは最長3年までと決まっています。どれだけ職場環境が良くても、3年経てば必ず異動するか、契約終了となります。正社員のように腰を据えて働くことは制度上不可能です。
- 時給3,000円なら、やっぱり正社員より稼げるのでは?
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一時的には稼げますので、若く目標を持たれている方にとってはむしろ派遣薬剤師はお勧めです。ただし、生涯年収では逆転される可能性もあります。派遣にはボーナスや退職金がなく、昇給も頭打ちになりがちです。また、50歳を過ぎると契約更新が難しくなり、収入が途絶えるリスクも高まります。
- それでも短期間だけ派遣で稼ぎたい場合、どの会社が良いですか?
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トラブルを避け、高時給案件を確実に得るなら会社選びが重要です。派遣登用において私が信頼できたのはファルマスタッフとファル・メイトでした。詳しくは【元人事部長が厳選】採用側から見て「本当に信頼できた」薬剤師転職エージェント3選で裏事情を含めて解説しています。
2月は求人数が最大化しますが、同時に「4月入職」を目指すライバルも激増します。人事の経験上、この時期に焦って転職先を決め、入社後に「聞いていた話と違う」と後悔する薬剤師の方を数多く聞きます。
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あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。

