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あなたの残業時間、本当に必要なものですか?
毎日の残業が当たり前になっていませんか?
閉局時間を過ぎても終わらない薬歴入力。 休憩時間を削って対応する在庫管理。 帰宅後も頭から離れない、明日の業務への不安。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、薬剤師の平均残業時間は月20時間を超えています。
しかし、私が人事部長として多くの薬局を見てきた経験から断言できます。 その残業の大半は、業務の進め方を変えるだけで削減できるものです。
「人手不足だから仕方ない」 「患者さんのためだから我慢するしかない」
そう諦めていた薬剤師たちが、業務効率化によって残業ゼロを実現した事例を、私は数多く見てきました。
本記事では、調剤薬局チェーンの人事部長として現場改善に携わってきた経験から、薬剤師が今日から実践できる業務効率化テクニックを10個厳選してお伝えします。
残業ゼロは夢ではありません。 正しい方法を知り、実践すれば必ず実現できます。
残業が発生する本当の理由
業務効率化の前に知るべき「残業の構造」
残業削減を語る前に、まず残業が発生する本質的な理由を理解する必要があります。
私が人事部長として様々な店舗を視察した際、残業が慢性化している薬局には共通点がありました。
それは「忙しいから残業する」のではなく「非効率な業務フローが残業を生んでいる」という事実です。
処方箋枚数が1日80枚の薬局で残業ゼロを実現している店舗がある一方、60枚でも毎日2時間残業している店舗もありました。
この差は何か?
業務の進め方です。
多くの薬剤師は、新人時代に教わった業務手順をそのまま続けています。 しかし、その手順は本当に最適でしょうか?
調剤報酬改定や電子薬歴の進化により、薬剤師業務は大きく変化しています。 にもかかわらず、10年前と同じやり方を続けている薬局が非常に多いのです。
残業ゼロを実現するには、まず「今の業務フローは最適か?」と問い直すことから始める必要があります。
ポイント1:処方箋受付の時点で業務量を8割決める
受付時の情報収集が全てを変える
残業削減の第一歩は、処方箋受付の段階にあります。
ここでの対応が、その後の業務負荷を大きく左右するからです。
私が管理していた薬局で、残業ゼロを実現したCさんの事例を紹介します。
Cさんは受付時に必ずこう患者さんに確認していました。
「今日は急いでいらっしゃいますか?お時間に余裕はありますか?」
この一言で、調剤の優先順位を瞬時に判断できるようになります。
さらに重要なのは、お薬手帳の確認です。 多くの薬剤師は調剤後に確認しますが、Cさんは受付時点で併用薬をチェックしていました。
この習慣により、疑義照会が必要なケースを事前に把握できます。 調剤中に「あ、これ疑義照会が必要だ」と気づいて作業が止まることがなくなるのです。
受付時に確認すべき5つのポイント
- 患者さんの待ち時間の余裕度
- お薬手帳での併用薬チェック
- 前回と処方内容の変更点
- ジェネリック医薬品への変更希望
- 服薬状況や残薬の有無
受付担当が事務員の場合でも、これらの情報をメモで共有する仕組みを作ることで、調剤の流れが劇的にスムーズになります。
受付は単なる「処方箋を受け取る作業」ではありません。 その後の業務全体を設計する重要なプロセスなのです。
ポイント2:調剤の優先順位を「見える化」する
混乱を防ぐ視覚的管理の威力
複数の処方箋が同時進行する調剤室では、優先順位の管理が残業削減の鍵を握ります。
私が視察したある薬局では、調剤棚に色分けされた付箋を貼るシンプルな方法で残業を30%削減しました。
赤い付箋は「急ぎ」、黄色は「通常」、青は「時間に余裕あり」という具合です。
この視覚化により、薬剤師全員が瞬時に優先順位を把握できるようになります。
「次はどれを調剤すればいい?」という確認作業がなくなるだけで、1日あたり15分の時短になるという試算もあります。
さらに効果的なのは、調剤の進捗状況も見える化することです。
付箋の位置を「未着手」「調剤中」「監査待ち」「投薬準備完了」と移動させることで、チーム全体の状況が一目で分かります。
一人薬剤師の場合でも、この方法は有効です。 自分の作業状況を視覚的に把握することで、「あれもこれも」という焦りが軽減されます。
業務の見える化は、特別なシステム導入を必要としません。 付箋とホワイトボードがあれば、今日から実践できるのです。
ポイント3:薬歴入力を「リアルタイム化」する
閉局後の薬歴地獄から解放される方法
薬剤師の残業理由で最も多いのが、閉局後の薬歴入力です。
「投薬が終わってから書こう」と後回しにした結果、閉局後に1時間以上かかるケースは珍しくありません。
しかし、残業ゼロを実現している薬剤師は、投薬直後に薬歴を入力しています。
私の元部下だったDさんは、この習慣で残業時間を月40時間削減しました。
Dさんが実践していたのは「5分ルール」です。 投薬終了後、5分以内に薬歴の骨子を入力してしまうというものです。
完璧な薬歴を書こうとすると時間がかかります。 しかし、骨子さえ残しておけば、後から詳細を追記するのは簡単です。
電子薬歴の多くには、音声入力機能やテンプレート機能が搭載されています。 これらを活用すれば、薬歴入力時間は大幅に短縮できます。
薬歴を素早く書くための実践テクニック
- 頻出する指導内容をテンプレート化する
- 音声入力機能を積極的に使う
- 患者さんとの会話中にキーワードをメモする
- SOAP形式にこだわりすぎない
- 完璧を目指さず、必要最小限の記録から始める
調剤報酬改定により、薬歴の記載要件は厳格化されています。 だからこそ、効率的な記録方法を確立することが重要なのです。
閉局後の薬歴入力は、もはや時代遅れの習慣です。 リアルタイム記録に切り替えることで、あなたの残業時間は確実に減ります。
ポイント4:在庫管理を「自動化」する
発注業務に時間を奪われるのは今日で終わり
在庫管理と発注業務は、多くの薬剤師が「仕方ない残業」と考えている領域です。
しかし、この業務こそ自動化の余地が最も大きいのです。
私が人事部長時代に導入を推進した在庫管理システムでは、発注作業時間が週5時間から30分に短縮されました。
最新の電子薬歴システムには、処方箋データと連動した自動発注機能が搭載されています。
設定した在庫基準を下回ると、自動的に発注リストが作成される仕組みです。
「うちの薬局にそんなシステムはない」という方も諦める必要はありません。
エクセルで簡易的な在庫管理表を作成するだけでも、効率は大きく改善されます。
ある薬局では、医薬品ごとに「最小在庫数」「発注単位」「発注先」を一覧化したエクセルシートを作成しました。
この表を見ながら発注するだけで、在庫確認の時間が半減したのです。
さらに効果的なのは、発注タイミングの最適化です。
多くの薬局では「在庫が少なくなったら発注」という曖昧な基準で動いています。 これでは欠品リスクもあれば、過剰在庫も発生します。
処方頻度データを分析し、薬剤ごとに最適な発注タイミングを設定することで、在庫管理の精度が飛躍的に向上します。
在庫管理業務は、あなたの専門性を発揮する場ではありません。 システムに任せられる部分は任せ、患者さんとの対話に時間を使うべきです。
ポイント5:疑義照会を「標準化」する
医療機関との連携をスムーズにする仕組み作り
疑義照会は避けられない業務ですが、その進め方次第で時間効率は大きく変わります。
私が視察した薬局の中で、疑義照会に最も時間がかかっていたのは、連絡先や確認項目が整理されていない店舗でした。
「あの先生の連絡先どこだっけ?」 「前回はどう対応したっけ?」
こうした確認作業が、疑義照会を長引かせているのです。
残業ゼロを実現した薬局では、医療機関ごとに「疑義照会シート」を作成していました。
このシートには、診療所の連絡先、対応時間、よくある疑義内容とその回答パターンが記録されています。
新人薬剤師でも、このシートを見れば迷わず疑義照会ができるのです。
さらに重要なのは、疑義照会の記録を共有することです。
電子薬歴に疑義照会内容を詳細に記録しておけば、同様のケースが発生した際に即座に対応できます。
疑義照会を効率化する5つのステップ
- 医療機関ごとの連絡先と対応時間を一覧化する
- よくある疑義パターンと回答例をデータベース化する
- 疑義照会の結果を電子薬歴に詳細記録する
- FAXやメールでの疑義照会テンプレートを作成する
- 緊急度の判断基準を明文化する
医師との良好な関係構築も、疑義照会の効率化には欠かせません。
日頃から処方傾向を把握し、必要に応じて情報提供を行うことで、信頼関係が生まれます。
信頼関係があれば、疑義照会の回答も迅速になるのです。
ポイント6:服薬指導の「型」を持つ
患者対応の質を保ちながら時間を短縮する技術
服薬指導は薬剤師の専門性が最も発揮される場面です。
しかし、丁寧さを追求するあまり、一人あたりの指導時間が長くなりすぎていませんか?
私が管理していた薬局で、患者満足度を維持しながら指導時間を短縮したEさんの方法を紹介します。
Eさんは、服薬指導を3つのフェーズに分けて進めていました。
第一フェーズは「安全確認」です。 患者さんの基本情報、アレルギー、併用薬を素早く確認します。
第二フェーズは「服薬指導」です。 用法用量、注意事項、副作用の説明を簡潔に行います。
第三フェーズは「コミュニケーション」です。 患者さんの困りごとや質問に丁寧に対応します。
この3フェーズを意識することで、指導の漏れがなくなり、かつ時間配分も最適化されるのです。
さらにEさんは、疾患別の服薬指導シートを自作していました。
高血圧、糖尿病、脂質異常症など、頻出する疾患については、説明すべきポイントがまとめられています。
このシートを頭に入れておくことで、説明が系統立てられ、結果として指導時間が短縮されたのです。
かかりつけ薬剤師として患者さんと継続的に関わる場合、毎回同じ説明を繰り返す必要はありません。
「前回お話しした血圧のお薬ですが、その後いかがですか?」
このように、前回の情報を引き継ぐことで、患者さんとの信頼関係も深まります。
服薬指導の効率化は、決して手抜きではありません。 本当に必要な情報に集中し、患者さんにとって価値ある時間を提供することなのです。
ポイント7:チーム全体の業務を「可視化」する
一人で抱え込まない働き方への転換
残業が多い薬剤師の共通点は、業務を一人で抱え込んでいることです。
「自分がやった方が早い」という考えは、短期的には正しいかもしれません。 しかし長期的には、あなた自身を疲弊させ、チーム全体の成長を妨げます。
私が人事部長として推進したのは、業務の可視化と分担です。
ホワイトボードに「今日のタスク一覧」を書き出し、誰が何を担当するか明確にする。 たったこれだけで、チームの生産性は大きく向上しました。
薬剤師業務の中には、必ずしも薬剤師でなくても対応できるものがあります。
在庫管理、発注業務、薬袋の準備、会計業務などは、適切に教育された事務員でも対応可能です。
「薬剤師がやるべきこと」と「事務員に任せられること」を明確に分けることで、薬剤師は専門性の高い業務に集中できます。
ある薬局では、朝礼で「今日の業務割り振り会議」を5分間実施していました。
処方箋の予想枚数、在庫確認の必要性、新薬の情報共有などを確認し、誰が何を担当するか決めるのです。
この習慣により、業務の偏りがなくなり、特定の薬剤師だけが残業する状況が解消されました。
業務分担を成功させる5つのポイント
- 朝礼で当日の業務を全員で確認する
- 薬剤師業務と事務業務を明確に区分する
- 事務員への教育時間を惜しまない
- タスクの進捗状況を可視化する
- 困ったときに助けを求めやすい雰囲気を作る
チームで働くことの本質は、お互いの強みを活かし合うことです。 あなたが全てを背負う必要はありません。
ポイント8:デジタルツールを「活用」する
アナログ業務からの脱却が残業削減の近道
多くの薬局では、いまだに手書きの業務日誌や紙ベースの申し送りが残っています。
しかし、デジタルツールを活用することで、これらの業務時間は劇的に短縮できます。
私が導入を支援した薬局では、チャットツールを使った申し送りシステムが大きな効果を上げました。
閉局時に次のシフトへの申し送り事項を紙に書くのではなく、グループチャットに投稿するのです。
この方法には3つのメリットがあります。
第一に、申し送り漏れが防げます。 文字として残るため、後から確認できるからです。
第二に、書く時間が短縮されます。 スマートフォンでの入力は、手書きより圧倒的に速いのです。
第三に、情報共有の範囲が広がります。 休日のスタッフも、チャットを見れば店舗の状況を把握できます。
電子薬歴の機能も、まだ使いこなせていない部分があるはずです。
テンプレート機能、音声入力、画像添付、患者さんへのメッセージ送信など、搭載されている機能を最大限活用していますか?
システム会社に問い合わせれば、効率的な使い方を教えてもらえます。 年間の保守料金を払っているのですから、サポートは遠慮なく利用すべきです。
さらに、調剤報酬の算定漏れを防ぐチェックシステムも有効です。
電子薬歴と連動した算定チェック機能を使えば、「あ、この加算を取り忘れた」という事態を防げます。
デジタル化は難しそうに見えるかもしれません。 しかし一度導入してしまえば、その利便性に驚くはずです。
ポイント9:業務マニュアルを「進化」させる
属人化を排除し、誰でも対応できる体制を作る
残業が発生する大きな要因の一つが、業務の属人化です。
「この業務は○○さんしかできない」という状態は、チーム全体の効率を下げます。
私が人事部長として取り組んだのは、全業務のマニュアル化でした。
調剤手順、在庫管理、疑義照会の進め方、レセプト業務など、全てを文書化したのです。
マニュアルがあれば、新人薬剤師でも迷わず業務を進められます。 ベテラン薬剤師に質問する時間も削減できるのです。
しかし、マニュアルは作っただけでは意味がありません。 定期的に見直し、現場の状況に合わせて更新する必要があります。
私が推奨するのは、月に一度の「マニュアル更新会議」です。
「このやり方、もっと効率的にできないか?」 「最近トラブルが多いこの業務、手順を見直そう」
こうした議論を通じて、マニュアルは常に進化し続けます。
さらに効果的なのは、動画マニュアルの作成です。
スマートフォンで業務の様子を撮影し、音声で説明を加えるだけで、分かりやすいマニュアルが完成します。
文字だけでは伝わりにくい調剤の手順や機器の操作方法も、動画なら一目瞭然です。
業務マニュアル作成の5つのコツ
- 誰が読んでも理解できる平易な言葉で書く
- 図や写真を多用して視覚的に分かりやすくする
- よくあるトラブルと対処法を必ず記載する
- 定期的に見直し、現場の声を反映する
- デジタルファイルで管理し、常に最新版にアクセスできるようにする
マニュアル化された業務は、誰でも対応できます。 これが残業削減の大きな武器になるのです。
ポイント10:「やらないこと」を決める勇気
本質的でない業務を手放す決断
最後のポイントは、最も重要かもしれません。
それは、やらないことを決める勇気を持つことです。
私が人事部長として多くの薬局を見てきた中で、残業が多い店舗には共通点がありました。
それは、本質的でない業務に時間を奪われているということです。
例えば、過度に丁寧な薬袋の装飾。 例えば、必要以上に詳細な業務記録。 例えば、効果の見えない店舗ミーティング。
これらは本当に必要でしょうか?
患者さんの安全と健康に直結する業務以外は、思い切って簡略化するか、やめてしまうことも検討すべきです。
ある薬局では、月に一度「業務断捨離会議」を開催していました。
「この業務、本当に必要?」と全ての業務を見直し、不要なものをリストアップする。 そして、店舗全体で「やめる」と決断するのです。
この取り組みにより、週5時間の業務時間削減に成功しました。
完璧主義を手放すことも大切です。
薬歴は完璧に書かなくても、必要最小限の記録があれば法的には問題ありません。 店舗の清掃は完璧でなくても、衛生基準を満たしていれば十分です。
「もっとちゃんとやらなきゃ」という思いが、あなたを残業に追い込んでいるのです。
業務削減を判断する3つの基準
- 患者さんの安全に直結するか?
- 法的に必須か?
- 費用対効果は適切か?
この3つの基準で判断し、当てはまらない業務は削減を検討すべきです。
やることを増やすより、やらないことを決める方が難しい。 しかし、それが残業ゼロへの最短距離なのです。
あなたの時間は、あなたのもの
ここまで、薬剤師の残業ゼロを実現する業務効率化テクニックを10個お伝えしてきました。
しかし、これらのテクニックを実践できる環境が、あなたの職場にあるでしょうか?
業務効率化を提案しても「今までのやり方を変えたくない」と拒否される。 システム導入を求めても「予算がない」と却下される。 チーム全体で取り組もうとしても、協力が得られない。
もしそうした環境にいるなら、職場を変えることも選択肢です。
私が人事部長として採用面接を担当していた際、「残業ゼロの実現」を目標に掲げる薬局は確実に増えていました。
働き方改革は、もはや時代の要請です。 優秀な薬剤師を確保するため、多くの薬局が労働環境の改善に本気で取り組んでいるのです。

あなたの市場価値は、あなたが思っているより高い。 薬剤師という資格は、それだけで大きな武器なのです。
残業が当たり前の環境に甘んじる必要はありません。 業務効率化を実現できる職場は、必ず存在します。
今の環境で悩み続けたあなたを、誰も責めることはできません。 しかし、これからのキャリアは自分で選ぶことができます。
残業ゼロの実現は、テクニックだけでなく、環境選びも重要です。 正しい情報を集め、戦略的に行動すれば、理想の働き方は必ず手に入ります。
あなたの時間は、あなたのもの。 その時間を、本当に大切なことに使ってほしい。

