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片道1時間の通勤、年間で14.5日間を失っている現実
通勤電車に揺られながら「またこの時間か」とため息をついたことはありませんか。
総務省統計局の調査によると、日本人の平均通勤時間は往復で約1時間19分です。片道では約40分。月に22日勤務すると約29時間、年間では約348時間を通勤に費やしている計算になります。
これを日数に換算すると、年間約14.5日間。まるまる2週間以上の時間を、ただ移動するためだけに使っているのです。
調剤薬局で働く薬剤師の場合、店舗の立地によっては都心部への通勤が避けられないケースも少なくありません。門前薬局であれば病院の場所に左右され、チェーン薬局であれば転勤による通勤時間の変化もあります。

通勤時間そのものを短縮できないなら、その時間を「苦痛な移動」から「価値ある時間」に変える発想が必要です。本記事では、元・調剤薬局チェーン人事部長としての経験と、実際に長時間通勤を続けてきた薬剤師たちの実践例をもとに、具体的な活用法をお伝えします。
通勤ストレスが及ぼす深刻な影響
通勤時間30分を超えるとストレスは急増する
エアトリが実施した調査では、通勤時間が30分を超えるとストレスを感じる人の割合が急増することが明らかになっています。
通勤ストレスを感じない人の7割以上が「30分未満」と回答した一方、30分を超える通勤をする人の多くが何らかのストレスを感じていました。
ザイマックス不動産総合研究所の調査では、さらに踏み込んだデータが示されています。通勤ストレスが高いグループと低いグループを比較すると、「毎日楽しく働けている」と回答した割合に32.8ポイントもの差が生じていたのです。

つまり通勤ストレスは単なる移動の問題ではなく、仕事への満足度や職場での生産性にまで影響を及ぼしています。
仕事の満足度とプライベートの充実度を直撃する
通勤ストレスが低いグループの平均仕事満足度は5.9でしたが、ストレスが高いグループでは明らかに低下していました。
プライベート満足度においても同様の傾向が見られ、通勤ストレスが低いグループの平均は6.3。「ワークライフバランスがとれている」「自分の趣味の時間がとれている」と感じる割合が高かったのです。

私が面談した薬剤師の中には、こんな声がありました。
「通勤に往復2時間かかっていて、帰宅すると夜9時。夕食を食べてお風呂に入るともう寝る時間です。趣味のヨガに行く時間も、友人と会う余裕もなくなりました」
通勤時間の長さは、キャリアだけでなく人生全体の質を左右する要因なのです。
健康への影響も無視できない
長時間通勤がもたらす身体的負担も深刻です。
満員電車での不自然な姿勢や長時間の立ちっぱなしは、腰痛や肩こりの原因になります。ある調査では、通勤時間が長い人の約40%が腰痛や肩こりを訴えていると報告されています。

さらに運動不足による肥満のリスクも高まります。座りっぱなしや立ちっぱなしの通勤が続くと、基礎代謝が低下し、体重管理が難しくなるのです。
調剤薬局で立ち仕事をこなしながら、通勤でも体力を消耗する。この二重の負担が、薬剤師の健康を蝕んでいるケースを私は数多く見てきました。

通勤時間を「自己投資の時間」に変える5つの実践法
通勤時間は変えられなくても、その過ごし方は変えられます。
ここからは、実際に長時間通勤を続けながらキャリアアップを実現した薬剤師たちの具体的な活用法をご紹介します。
1. 専門知識のアップデートで市場価値を高める
薬剤師にとって、専門知識の更新は避けて通れません。医療は日々進化し、新しい薬剤や治療法が次々と登場します。
通勤時間を「強制的な学習時間」と捉え直すことで、専門性を高められます。
具体的な実践例
- 薬剤師向けオンライン講座の視聴(m3.com、日経DIオンラインなど)
- 専門雑誌の電子版を読む(日経ドラッグインフォメーション、調剤と情報など)
- 最新の添付文書や診療ガイドラインをチェック
- Podcastで薬学系の番組を聴く
私の同級生であるCさんは、認定要件に必要な実務経験を積みながら、片道1時間の通勤時間を筆記試験対策にフル活用しました。往路の30分はガイドラインの精読、復路の30分は演習に充てたのです。
1年後、Cさんは見事合格。その専門性が評価され年収も50万円アップしました。「激務の中で勉強時間を確保するには、通勤時間を使うしかありませんでした」とCさんは語っていました。
2. キャリア戦略の構築時間として活用する
通勤時間は、自分のキャリアを俯瞰して考える貴重な時間にもなります。
日々の業務に追われていると、長期的なキャリアプランを考える余裕がありません。しかし通勤中の30分から1時間は、強制的に「考える時間」を確保できる機会なのです。
具体的な実践例
- 今の職場で身につけたいスキルをリストアップする
- 3年後、5年後のキャリア目標を書き出す
- 転職市場での自分の市場価値を調べる
- 理想の働き方を具体的にイメージする

3. 英語力強化で選択肢を広げる
グローバル化が進む医療業界では、英語力が大きなアドバンテージになります。
外資系製薬会社への転職、メディカルライティング、海外論文の読解など、英語ができると選べるキャリアの幅が格段に広がります。
具体的な実践例
- 英語学習アプリを活用(Duolingo、スタディサプリなど)
- 医学英語に特化したPodcastを聴く
- 海外の医療ニュースサイトを読む(PubMed、Medscapeなど)
- 英会話アプリでシャドーイングを実践
Eさんは片道50分の通勤時間を全て英語学習に充てました。朝は医学英語のPodcast、帰りは単語アプリという使い分けです。2年後、TOEICスコアは400点から730点に上昇。企業の薬事部門への転職を実現し、年収は150万円アップしました。

4. 読書で視野を広げマネジメント力を養う
薬剤師としてキャリアを積むと、管理薬剤師やエリアマネージャーへの昇進機会が訪れます。しかし専門知識だけでは、組織をマネジメントできません。
通勤時間を使った読書習慣は、リーダーシップやマネジメントスキルを磨く絶好の機会です。
具体的な実践例
- マネジメント系のビジネス書を読む
- 薬局経営に関する書籍で経営視点を養う
- 人間関係やコミュニケーションの本を読む
- Kindleアプリで通勤中も快適に読書

5. 副業の準備と実践で収入の柱を増やす
薬剤師の中には、通勤時間を使って副業の準備や実践をする人もいます。
スマートフォンがあれば、場所を問わず様々な副業が可能です。本業の収入に加え、新たな収入源を構築できます。
具体的な実践例
- 薬剤師向けライティング案件に応募(医療メディアの記事執筆など)
- オンライン服薬指導の準備や勉強
- ブログやSNSで情報発信を始める
- 投資の勉強と資産運用の実践
通勤手段別の効果的な活用法
通勤手段によって、できることとできないことがあります。
ここでは通勤手段別に、最適な時間活用法をご提案します。
電車通勤の場合:座席確保が最優先
電車通勤の最大の利点は、両手が自由になることです。
座席を確保できれば、読書や動画視聴、資格試験の勉強など、幅広い活動が可能になります。
立ちっぱなしの場合でも、音声学習やPodcastの聴取は可能です。
車通勤の場合:音声コンテンツを最大活用
車通勤の場合、視覚は運転に集中する必要がありますが、聴覚は自由に使えます。
音声学習やPodcast、オーディオブックが効果的です。
おすすめの活用法
- オーディオブックで読書量を増やす(Audibleなど)
- 薬学系のPodcastを定期購読
- 語学学習アプリの音声モードを活用
- 時事ニュースやビジネス情報をラジオで収集
自転車・徒歩通勤の場合:健康投資と思考整理
自転車や徒歩での通勤は、運動不足解消という大きなメリットがあります。
朝の運動は脳を活性化し、1日のパフォーマンス向上につながります。
活用のポイント
- その日のタスクを頭の中で整理する時間にする
- 問題解決のアイデアを考える「思考の時間」にする
- 音楽やPodcastを聴きながらリフレッシュ
- 季節の変化を感じてメンタルケア
通勤ストレスを軽減する環境づくりのコツ
通勤時間の活用法だけでなく、ストレスそのものを減らす工夫も重要です。
通勤時間帯をずらして混雑を避ける
多くの企業でフレックスタイム制や時差出勤が導入されつつあります。
出勤時間を30分早めるだけで、満員電車を避けられるケースは少なくありません。
私の部下だったKさんは、出勤時間を8時から7時半に変更することで、座席確保率が劇的に上がりました。「30分早く起きるだけで、通勤ストレスが半減しました」
早めの出勤は、職場で始業前の準備時間も確保できるため、一石二鳥です。
通勤時間短縮を転職の条件に入れる
通勤ストレスが限界に達しているなら、転職も選択肢の一つです。
転職先を選ぶ際、年収や休日だけでなく、通勤時間も重要な判断基準にすべきです。
年収が少し下がっても、通勤時間が片道1時間から30分になれば、生活の質は大きく向上します。往復分で1日1時間、年間で約250時間程度の時間の余裕が生まれる計算です。その時間を家族と過ごしたり、趣味に充てたりできるのです。
転職を検討する際は、信頼できる転職エージェントに相談し、通勤時間も含めた総合的な条件で職場を選びましょう。
私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

通勤時間活用の成功事例:年収アップを実現した薬剤師たち
ここでは、通勤時間を有効活用してキャリアアップや年収アップを実現した薬剤師の具体例をご紹介します。
ケース1:専門資格取得で年収120万円アップ
Mさん(30代・調剤薬局勤務)は、片道1時間の通勤時間を専門資格の勉強に充てました。
朝は参考書の精読、帰りは研修認定薬剤師の単位取得のためのe-learningという使い分けを徹底。1年間の学習継続で知識を深め、難関である「外来がん治療認定薬剤師」の筆記試験を一発クリア。その学習意欲と資格を活かして専門性の高い薬局への転職に成功し、年収は550万円から620万円に上昇しました。
「通勤時間がなければ、勉強時間を確保できませんでした。苦痛だった通勤が、キャリアアップの時間に変わりました」
ケース2:英語力強化で企業薬剤師に転身
Nさん(30代・ドラッグストア勤務)は、片道50分の電車通勤を全て英語学習に充当しました。
2年間の継続で、TOEIC400点台から750点に上昇。その英語力を武器に外資系製薬会社のメディカルアフェアーズ部門への転職を実現し、年収は600万円から700万円に跳ね上がりました。
「30代からでも、毎日の積み重ねで人生は変えられる。通勤時間が私の可能性を広げてくれました」
ケース3:副業で年間60万円の副収入
Oさん(30代・病院薬剤師)は、通勤時間を使って医療ライターとしての活動を開始しました。
朝の通勤時間は案件探しと構成作成、帰りの通勤時間は執筆という流れで、月平均5万円の副収入を獲得。年間で60万円以上の収入増を実現しました。
「本業の収入だけでは不安でしたが、通勤時間を活用した副業で経済的な余裕が生まれました」
よくある質問:通勤時間活用のハードルと解決策
Q1. 疲れていて勉強する気力が出ません
通勤時間の活用は、常に「勉強」である必要はありません。
疲れている日は、好きな音楽を聴いてリラックスしたり、軽い読み物を楽しんだりするだけでも十分です。完璧を目指さず、できる範囲で続けることが重要です。
週5日のうち、3日だけ学習に充てるといった柔軟なルールを設定するのも良いでしょう。
Q2. 通勤時間を削る方法はないのですか?
通勤時間そのものを短縮したいなら、転職が最も確実な方法です。
職場の近くに引っ越すという選択肢もありますが、家賃や生活環境を考えると現実的ではないケースも多いでしょう。
転職先を選ぶ際は、通勤時間も重要な判断基準に含めるべきです。年収が同等であれば、通勤時間が短い職場を優先する価値は十分にあります。
【元人事部長の裏話】
実は採用選考において、通勤時間が片道60分を超える候補者は「離職リスクが高い」と判断し、採用ハードルを上げることがあります。入社してから「やはり通勤がきつかった」と言われても困るのです。通勤時間の短縮は、あなたの健康だけでなく、薬剤師としての「採用されやすさ」を高める戦略でもあるのです。
私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じた理由について、以下の記事で生々しく解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

通勤時間を変えられないなら、通勤時間の価値を変えよう
通勤時間が長いことは、確かにストレス要因です。
しかし片道1時間の通勤なら、往復で2時間。週5日で10時間、月に約40時間、年間では約480時間です。この時間を何に使うかで、1年後のあなたは大きく変わります。
専門資格を取得できるかもしれません。英語力を大幅に向上させられるかもしれません。管理薬剤師になるための知識を身につけられるかもしれません。副収入を得る道が開けるかもしれません。
通勤時間そのものを短縮したいなら、転職という選択肢もあります。年収や休日だけでなく、通勤時間も含めた総合的な判断で職場を選ぶべきです。
あなたの通勤時間は、苦痛な移動時間でしょうか。それとも、未来への投資時間でしょうか。

