※2025年11月時点の情報です
服薬指導で患者の信頼を勝ち取ることがキャリアに直結する理由
あなたは患者から「ありがとう」と言われたことが、最近どれくらいありますか?
服薬指導は薬剤師の基本業務です。しかし、ただ薬の説明をして終わりでは、患者の心には何も残りません。 私が人事部長時代、採用面接で「患者からどんな言葉をもらいましたか」と質問すると、答えに詰まる薬剤師が少なくありませんでした。
患者満足度の高い薬剤師は、評価も年収も上がります。逆に、機械的な対応しかできない薬剤師は、どれほど調剤が正確でも「代わりがきく存在」と見なされてしまうのです。
本記事では、私が人事部長として目の当たりにした「患者から信頼される薬剤師」の服薬指導術を、具体的な実例とともに解説します。一歩踏み込んだ対応法を身につければ、あなたの市場価値は確実に上がります。
患者が本当に求めているのは「薬の説明」ではなく「安心感」
服薬指導で最も重要なのは「情報提供」ではない
多くの薬剤師が誤解しているのが、服薬指導の目的です。 薬の効能や副作用を正確に伝えることは当然必要ですが、それだけでは不十分です。
患者が薬局に求めているのは、専門知識の羅列ではなく「自分のことを理解してくれている」という安心感なのです。
私が人事部長時代、ある新人薬剤師がクレームを受けたことがありました。内容は「説明が早口で何も頭に入らなかった」というものでした。彼女は薬の情報を完璧に伝えていました。しかし、患者の不安に寄り添う姿勢が欠けていたのです。
「傾聴力」と「共感力」が信頼関係を築く
服薬指導において、薬剤師に求められるコミュニケーションスキルは複数あります。 その中でも特に重要なのが「傾聴力」と「共感力」です。
傾聴力とは、相手の話をしっかり聞く力のことです。 患者の言葉を遮らず、相づちを打ちながら話を聞くことで「この薬剤師は私の話を真剣に聞いてくれている」という安心感を与えられます。
共感力とは、相手の気持ちに寄り添う力です。 患者が不安を口にしたとき、すぐに解決策を提示するのではなく、まず「それは心配ですよね」と患者の感情を受け止めることが大切です。

一歩踏み込んだ対応法①:患者の「言葉にならない不安」を引き出す質問術
「何か気になることはありますか?」では何も聞き出せない
服薬指導の最後に「何か質問はありますか?」と尋ねる薬剤師は多いです。 しかし、この質問では患者の本音は引き出せません。
なぜなら、患者は自分が何を聞けばいいのか分からないからです。特に高齢者や初めて服用する薬の場合、漠然とした不安を抱えていても、それを言語化できないことがよくあります。
具体的な質問で患者の不安を顕在化させる
一歩踏み込んだ対応とは、患者が自分でも気づいていない不安を、薬剤師が質問によって引き出すことです。
例えば、次のような質問が有効です。
「この薬は食後に飲んでいただくのですが、普段は朝食を召し上がっていますか?」 「今回の薬は眠気が出ることがあります。お仕事で車の運転をされることはありますか?」 「前回処方された薬は、飲み忘れなく続けられましたか?」
これらの質問は、患者のライフスタイルや服薬習慣に踏み込んだ内容です。 このような質問をすることで、患者は「この薬剤師は私のことを考えてくれている」と感じます。
実例:血圧の薬を飲み忘れがちな患者への対応
私が人事部長時代、ある薬剤師から相談を受けました。 高血圧の薬を処方された60代男性患者が、いつも飲み忘れを繰り返していたというのです。
その薬剤師は、患者に「なぜ飲み忘れてしまうのか」を丁寧に聞き取りました。すると、患者は朝の出勤前に薬を飲むのを忘れてしまうことが判明しました。
薬剤師は「夜に飲むタイプの薬に変更できないか、医師に確認してみましょうか?」と提案しました。その結果、患者は服薬を継続できるようになり、後日「あのときの提案のおかげで助かった」と感謝の言葉を伝えに来たそうです。
この事例のポイントは、薬剤師が「飲み忘れの理由」を具体的に聞き取ったことです。単に「忘れないでくださいね」と注意するだけでは、患者の行動は変わりません。
一歩踏み込んだ対応法②:医療用語を一切使わず「患者の言葉」で説明する
専門用語は患者の理解を妨げる最大の壁
薬剤師は日常的に医療用語を使います。 しかし、患者にとっては「アドヒアランス」「コンプライアンス」といった言葉は馴染みがありません。
私が人事部長として現場を視察していたとき、ある薬剤師が患者に「この薬はCYP3A4を阻害するので」と説明していました。患者は困惑した表情でうなずいていましたが、明らかに理解していませんでした。
専門用語を使うことは、薬剤師としての知識をアピールすることにはなりますが、患者の理解には全く寄与しません。
患者が使う言葉で言い換える技術
一歩踏み込んだ対応とは、患者が普段使っている言葉で説明することです。
例えば、次のような言い換えが有効です。
「副作用」→「体に合わない症状が出ることがあります」 「併用禁忌」→「この薬と一緒に飲むと危険なものがあります」 「アドヒアランス」→「薬を続けて飲むこと」
患者の年齢や職業、教育レベルに応じて、説明の仕方を変えることも重要です。 高齢者には「ゆっくりと、一文を短く区切って」、若い世代には「結論から先に、スマホで見せるように」といった形で、相手の情報処理スタイルに合わせた表現を選びましょう。
実例:抗凝固薬の説明で信頼を得た薬剤師
ある薬剤師が患者から絶大な信頼を得ていました。
その薬剤師は、ワルファリン(抗凝固薬)を服用する高齢患者に対し、次のように説明していました。
「この薬は血液をサラサラにする薬です。しかし、納豆やクロレラなどに含まれる『ビタミンK』という成分を摂ると、薬の効果が弱くなってしまいます。最近は納豆を食べても良い種類の薬(DOAC等)も増えていますが、今回処方されたお薬は特に注意が必要なんです。普段、納豆は召し上がりますか?」
この説明のポイントは、薬ごとの特性を正確に把握した上で、専門用語を使わず患者が日常的に食べる具体的な食品名を挙げたことです。
患者は「納豆がダメなんだな」と明確に理解できました。
その後、患者は「あの薬剤師さんの説明が一番分かりやすかった」と周囲に話し、その薬局の評判は大きく上がりました。
一歩踏み込んだ対応法③:患者の「小さな変化」に気づき声をかける
信頼される薬剤師は「観察力」が違う
服薬指導で差がつくのは、患者の小さな変化に気づけるかどうかです。
例えば、いつも元気な患者が疲れた表情をしている、歩き方がいつもと違う、声のトーンが低いといった変化です。こうした変化に気づき、声をかけることで、患者は「この薬剤師は私のことを見てくれている」と感じます。
ある薬剤師が患者の異変に気づき、重大な副作用を未然に防いだことがありました。 その患者はいつもと違って顔色が悪く、薬剤師が「大丈夫ですか?」と声をかけたところ、実は新しく処方された薬で吐き気が続いていたことが判明しました。
薬剤師は医師に連絡し、薬を変更することで患者の症状は改善しました。患者は後日、薬局に菓子折りを持って感謝を伝えに来たそうです。
「共感的繰り返し」で患者の言葉を受け止める
患者の変化に気づいたとき、効果的なコミュニケーション技術が「共感的繰り返し」です。
これは、患者が言った言葉をそのまま繰り返すことで、患者の感情や考えを確認し、整理するのを助ける手法です。
例えば、次のようなやり取りです。
患者「この薬を飲むと食欲がなくなると聞いたのですが」 薬剤師「食欲がなくなると聞いてご心配なのですね」
このように、患者の言葉をそのまま繰り返すことで、患者は「自分の気持ちを分かってもらえた」と感じます。
実例:認知症の初期症状に気づいた薬剤師
ある薬剤師が患者の認知症の初期症状に気づいたケースがありました。
その患者は70代女性で、毎月同じ薬を受け取りに来ていました。しかし、ある日「この薬は初めてもらう」と言い出したのです。薬剤師は違和感を覚え、患者の家族に連絡を取りました。
その結果、家族も最近の患者の様子がおかしいと感じていたことが分かり、すぐに医療機関を受診することになりました。早期発見により、患者は適切な治療を受けることができました。
家族から後日、「あの薬剤師さんのおかげで母の異変に気づけた」と感謝の手紙が届きました。
このように、患者の小さな変化に気づくことは、薬剤師の重要な役割です。
なぜ「一歩踏み込んだ対応」が年収アップに繋がるのか
患者満足度が高い薬剤師は評価される
患者から「ありがとう」と言われる薬剤師は、職場での評価も高くなります。
薬剤師の評価基準の一つに「患者からの評価」を設けている調剤薬局もあると聞きます。 患者満足度調査で高評価を得た薬剤師には、賞与や昇給で報いる仕組みを導入しているそうです。
また、患者から名指しで感謝される薬剤師は、薬局の評判を高める存在として重宝されます。 結果として、管理薬剤師やエリアマネージャーへの昇進機会も増えるのです。
転職市場でも「患者対応力」は武器になる
転職活動においても、患者対応力は大きな武器になります。
面接で「患者からどんな言葉をもらいましたか?」と聞かれたとき、具体的なエピソードを語れる薬剤師は高く評価されます。 逆に、調剤スキルだけをアピールする薬剤師は、他の候補者と差別化できません。
私が人事部長として採用面接を行っていたとき、「患者に寄り添う姿勢」を持つ薬剤師を優先的に採用していました。 なぜなら、調剤スキルは経験で身につきますが、患者への共感力や観察力は簡単には育たないからです。
関連記事:採用担当が語る面接の真実|薬剤師が落ちる理由と合格する人の3つの特徴

服薬指導スキルを高めるために今すぐできること
①患者の話を「最後まで」聞く習慣をつける
今日からできる最も簡単な改善は、患者の話を最後まで聞くことです。
薬剤師は忙しいため、つい患者の話を途中で遮ってしまいがちです。しかし、患者が何を伝えたいのか、最後まで聞くことで初めて見えてくることがあります。
特に高齢者は、話が長くなることがあります。しかし、その中に重要な情報が含まれていることが多いのです。
②自分の説明を録音して聞き直す
自分の服薬指導がどのように聞こえているか、客観的に確認することも有効です。
スマートフォンで自分の説明を録音し、後で聞き直してみてください。 早口になっていないか、専門用語を使いすぎていないか、患者の質問に丁寧に答えられているかを確認しましょう。
③患者からのフィードバックを積極的に求める
服薬指導の最後に、「今日の説明で分かりにくいところはありましたか?」と尋ねることも効果的です。
患者からのフィードバックを得ることで、自分の改善点が明確になります。
「一歩踏み込んだ対応」を学べる環境に身を置く重要性
成長できる職場とできない職場の決定的な差
服薬指導スキルを高めるには、成長できる環境に身を置くことが不可欠です。
服薬指導の研修制度が充実している薬局とそうでない薬局では、薬剤師の成長スピードに明確な差があるように感じます。
成長できる職場の特徴は、次の通りです。
・先輩薬剤師が積極的にフィードバックをくれる
・患者対応のロールプレイング研修がある
・定期的に患者満足度調査を実施し、改善に活かしている
逆に、「とにかく枚数をさばくこと」しか評価されない職場では、あなたがいくら丁寧な服薬指導で患者さんの信頼を得ても、それは「作業が遅い」とマイナス評価されかねません。
あなたの「優しさ」を正当に評価してくれる薬局へ
もし今の職場で「患者さんのために」という行動が評価に繋がっていないなら、それはあなたが悪いのではなく、会社の「評価制度」が合っていない可能性が高いです。
人事部長として断言できますが、評価制度(人事考課シート)の中身は、入社してみないと分かりません。表向きの求人票には、研修制度の詳細は書かれていても、評価基準のウラ側までは書かれていないからです。
だからこそ、内部事情に詳しい転職エージェントを活用して、「患者対応をしっかり評価してくれる薬局」を見つけることが重要なのです。
私が人事部長時代、信頼できるエージェントとは定期的に「どんな人材が評価されるか」という情報交換をしていました。 なぜ私が人事部長時代、この3社の電話は優先的に取っていたのか?採用裏話を含む、本当に信頼できるエージェントの選び方についてはこちらの記事をご覧ください。

あなたの服薬指導が患者の人生を変える
服薬指導は、単なる業務ではありません。 患者の健康を守り、生活の質を向上させるための重要な役割です。
あなたが一歩踏み込んだ対応をすることで、患者は安心して薬を服用できるようになります。 そして、患者からの「ありがとう」という言葉が、あなたのキャリアを確実に前進させます。
私が人事部長として多くの薬剤師を見てきた中で、患者から信頼される薬剤師は例外なく高い評価を受けていました。 逆に、機械的な対応しかできない薬剤師は、どれほど経験を積んでも評価が上がりませんでした。
今日から、患者の言葉にならない不安を引き出す質問をしてみてください。 専門用語を使わず、患者の言葉で説明してみてください。 患者の小さな変化に気づき、声をかけてみてください。
そうした積み重ねが、あなたの市場価値を高め、年収アップへと繋がります。


