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あなたの残業時間、本当に「普通」ですか？
毎日の残業が当たり前になっていませんか？
「閉局後も薬歴が終わらない」「処方箋が途切れず定時で帰れない」「休憩時間も患者対応に追われる」。こんな日々を送っている薬剤師は決して少なくありません。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、薬剤師全体の平均残業時間は月10時間程度とされています。しかし、これはあくまで平均値です。現場では月30時間、40時間と残業している薬剤師も珍しくありません。
ここで知っておいていただきたい重要な事実があります。厚生労働省は、残業時間が月45時間を超過して長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が徐々に強まると明記しています。
つまり、月45時間を超える残業は、単に「忙しい」だけでなく、あなたの命に関わる危険信号なのです。
私はこの業界で、長時間労働に苦しむ薬剤師を数多く見てきました。その中で確信したことがあります。真面目で責任感が強い人ほど、自分の健康を犠牲にして働き続けてしまう傾向にあります。
しかし、あなたが倒れてしまえば、患者さんにも、職場にも、そして何よりあなた自身にとっても大きな損失です。この記事では、長時間労働の実態と、そこから脱出するための具体的な行動法をお伝えします。
1. 残業45時間超が「危険信号」である医学的根拠
過労死ラインと45時間の関係性
過労死ラインは、発症前1カ月間の100時間を超える時間外労働、または発症前2～6カ月の平均月80時間を超える時間外労働とされています。
「自分は80時間も残業していないから大丈夫」と思うかもしれません。しかし、それは誤解です。
厚生労働省の認定基準では、月45時間を超える残業をするとこれらの疾患を発症しやすくなると明確に示されています。45時間は「安全」と「危険」の境界線なのです。
具体的に計算すると、月45時間の残業は1日あたり約2時間15分に相当します。毎日2時間以上の残業が常態化している職場は、すでに健康障害のリスクが高まっている状態だと認識してください。
薬剤師に多い健康被害の実態
多くの薬剤師と関わる中で、長時間労働による健康被害は深刻でした。
慢性的な睡眠不足による集中力の低下。それが調剤ミスのリスクを高めます。精神的ストレスによる不安障害やうつ症状。さらには脳梗塞や心筋梗塞といった重大疾患のリスクまで。
過労死の法的な定義は、業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡、または業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡とされています。
これは決して他人事ではありません。
労働基準法が定める残業の上限
労働基準法では、36協定を締結して労働基準監督署長へ届け出ることで時間外労働が可能になりますが、原則として月45時間を超える時間外労働は認められていません。
特別条項により年6ヶ月まで上限を超えられますが、その場合でも月100時間未満、2～6ヶ月平均で80時間以内 という絶対的な上限があります。
つまり、月45時間を超える残業が常態化している職場は、労働基準法の原則を逸脱している可能性が高いということです。
2. 薬剤師の残業実態：職場別の長時間労働パターン
調剤薬局における残業の構造的問題
薬剤師全体の平均残業時間は月10時間程度とされていますが、これは実態を正確に反映していません。
調剤薬局の場合、閉局時間ギリギリに来局する患者への対応が残業の主な原因です。処方箋応需義務があるため、閉局時間を過ぎても門前医院の診療が続いている限り、患者を断ることはできません。
さらに問題なのは、見えない残業です。開局前の準備、閉局後の薬歴記載、在庫管理。これらの業務時間が適切に残業として認識されていないケースが多々あります。
私が人事部長として面接した薬剤師の中には、入社前には「残業はほぼありません」と言われながら、実際は30時間以上働くことが常態化しており納得感がないので転職したいという方もいました。開局前30分、閉局後1時間の業務が「当たり前」として就業にカウントされていなかったのです。
病院薬剤師の過酷な勤務実態
病院で働く薬剤師の残業理由の第1位は「患者対応」、第2位が「人員不足」という調査結果があります。
病院薬剤師は、調剤業務だけでなく、病棟業務、医師への情報提供、チーム医療への参加など、業務が多岐にわたります。加えて、時間外の会議や勉強会も頻繁に開催されます。
これらの業務が重なることで、残業時間が長時間化しやすい構造になっています。中には月100時間を超える残業をしているという回答もあったとのことです。
ドラッグストアの特殊性
ドラッグストアの場合、営業時間の長さが残業の主因です。夜21時や22時まで営業している店舗では、シフト制であっても残業が発生しやすくなります。
3. 長時間労働を生み出す「見えない圧力」の正体
「みんなも残業している」という同調圧力
長時間労働が常態化している職場には、独特の空気があります。
「定時で帰る人は仕事への熱意がない」「残業しないのは周りに迷惑をかけている」。こうした無言の圧力が、薬剤師を長時間労働に追い込んでいます。
私がコンサルタントとして面談したある薬剤師は、こう語っていました。「定時で帰ろうとすると、先輩から『もう帰るの？』と言われる。その一言が重くて、結局残ってしまう」
これは組織文化の問題です。個人の努力だけでは解決できません。
「薬剤師は責任が重い」という呪縛
「患者の命を預かる仕事だから」「医療従事者としての責任」。こうした言葉で、長時間労働が正当化されることがあります。
しかし、これは論理のすり替えです。責任の重さと労働時間の長さは本来、無関係です。
むしろ、過労状態で働く薬剤師の方が、調剤ミスのリスクが高まり、患者の安全を脅かします。適切な労働時間で働くことこそが、プロフェッショナルとしての責任を果たすことにつながります。
人手不足を理由にした搾取構造
「人手が足りないから仕方ない」という説明で、長時間労働を強いる職場があります。
しかし、人手不足は経営の問題であり、現場の薬剤師が犠牲になる理由にはなりません。適切な人員配置を行わず、現場に負担を押し付けているだけです。
人事部長としてこれまで同業他社の多くの薬局を見てきましたが、人手不足を本気で解決しようとしている経営者と、人件費削減を優先する経営者には明確な差がありました。
後者の経営者は、「今は我慢してほしい」と言いながら、何年経っても人員を増やしません。これは構造的な搾取です。
4. 今すぐできる労働時間の「見える化」手法
正確な労働時間の記録方法
長時間労働から脱出する第一歩は、自分の労働時間を正確に把握することです。
多くの薬剤師が、自分の実際の労働時間を正確に認識していません。タイムカードを押した後の業務、休憩時間中の患者対応、持ち帰り仕事。これらが「見えない労働時間」として積み重なっています。
具体的な記録方法をお伝えします。スマートフォンのメモアプリやエクセルを使って、以下の項目を記録してください。
出勤時刻（実際に業務を開始した時刻）、退勤時刻（実際に業務を終えた時刻）、休憩時間（完全に業務から解放されていた時間）、業務内容（どんな作業に時間がかかったか）。
この記録を最低でも1ヶ月続けることで、あなたの労働時間の実態が明確になります。
休憩時間の虚構を暴く
休憩時間として労働時間から除外するためには、労働者が労働から解放されており、その時間を自由に利用できる必要があります。
一人薬剤師の店舗や、人手不足の職場では、休憩時間中でも処方箋が持ち込まれれば対応せざるを得ません。これは法律上、休憩ではなく労働時間です。
休憩時間中に患者対応をした回数と時間を記録してください。それらは全て、残業代の請求対象になる可能性があります。
開局前・閉局後の業務時間を可視化
薬局では、計測機械の準備、店舗内の清掃やミーティング、制服の着用などの作業があるため、30分～10分前には出勤する必要があります。また、閉店後についても、在庫確認や翌日の調剤準備、分包機の清掃、営業時間中に記入しきれなかった薬歴の記入、業務報告などがある為、30分程度は帰ることが出来ません。
これらの時間が「当たり前」として残業にカウントされていないなら、それは違法です。
毎日の開局前業務に15分、閉局後業務に30分かかっているとします。これだけで月に約15時間の未払い残業が発生している計算になります。
【衝撃の事実】あなたは年間これだけ損をしているかもしれません
「多少の残業代が出なくても勉強代だと思えば」と考えていませんか？
その考えは捨ててください。時給換算で計算すると、あなたは高級車が買えるほどの金額を会社に寄付していることになります。
年収500万円（時給約2,500円）の薬剤師が、月30時間のサービス残業をした場合
| 項目 | 計算式（残業単価：時給×1.25倍） | 損失額 |
|---|---|---|
| 1時間の残業代 | 2,500円 × 1.25 | 3,125円 |
| 1ヶ月の損失 | 3,125円 × 30時間 | 93,750円 |
| 1年間の損失 | 93,750円 × 12ヶ月 | 1,125,000円 |
| 3年間の損失 | 1,125,000円 × 3年 | 3,375,000円 |
ご覧の通り、年間100万円以上の手取りが消えています。
「月45時間の残業」が常態化しているなら、損失はさらに膨らみます。これはあなたの正当な権利です。この金額を取り戻せる職場へ転職することは、「逃げ」ではなく「経済合理的な判断」です。
5. 職場に改善を求める具体的アプローチ
労働時間削減の提案書作成術
長時間労働の改善を求める際、感情的な訴えだけでは経営陣は動きません。具体的なデータと解決策を提示することが重要です。
提案書には以下の要素を含めてください。
現状の労働時間データ（自分で記録した実態）、業務効率化の具体案（システム導入、業務フローの見直し）、人員配置の改善案（ピークタイムに合わせたシフト調整）、期待される効果（残業削減による人件費の最適化、離職率の低下）。
数値で示すことが鍵です。「毎日2時間の残業があります」ではなく、「月平均43時間の時間外労働が発生しており、これは月45時間の上限に近い危険水準です」と表現してください。
管理者との効果的な面談方法
改善提案を行う際は、タイミングと伝え方が重要です。
繁忙期ではなく、比較的落ち着いた時期を選んでください。面談の場では、批判ではなく協力的な姿勢を示すことが大切です。
「現在の労働環境について相談があります」という切り出しから始め、記録した労働時間のデータを提示します。「改善のために協力したい」という姿勢を示しながら、具体的な提案を行ってください。
ただし、ここで注意すべき点があります。経営陣が真摯に対応しない場合、それは職場を変えるべきサインかもしれません。
労働基準監督署への相談という選択肢
職場での改善が見込めない場合、労働基準監督署への相談も選択肢の一つです。
労働基準監督署は、労働基準法違反を取り締まる機関です。月45時間を超える残業が常態化している、残業代が適切に支払われていないなどの問題があれば、相談することができます。
ただし、これは最終手段です。監督署への相談は職場との関係を決定的に悪化させる可能性があります。相談する前に、転職も視野に入れて検討することをお勧めします。
6. 転職による環境改善：ホワイト薬局の見極め方
求人票で読み解く長時間労働のサイン
求人票には、職場の実態を示すヒントが隠れています。
【危険なサイン】として、以下の表現に注意してください。
「やる気のある方歓迎」（長時間労働を美化している可能性）、「アットホームな職場」（人間関係に問題があることの裏返し）、「頑張り次第で高収入」（固定給が低く、残業前提の給与体系）、「みなし残業30時間」（30時間の残業がある可能性が高いということ）。
逆に、労働環境が整っている職場の求人票には、具体的な数字が明記されています。「平均残業時間：月5時間」「完全週休2日制」「有給消化率90%」など、客観的データが示されている求人を選んでください。
エージェント経由で必ず確認すべき5つの質問
面接は、あなたが職場を選ぶ機会でもありますが、下記の質問を直接行うことはリスクがあります。
「薬剤師1人あたりの1日の処方箋応需枚数は平均何枚ですか？」
「平均的な残業時間と、繁忙期の残業時間を教えてください」
「休憩時間中に患者対応が発生した場合、どのように対応していますか？」
「有給休暇の取得率を教えてください」
「残業代は1分単位で支給されますか？」
これらの質問に対して、具体的な数字で答えられない、曖昧な回答しか得られない職場は避けるべきです。
しかし、採用側から見たときに、これらの質問を面接で直接ぶつけるのは諸刃の剣です。「権利ばかり主張する」「扱いづらい人物」というレッテルを貼られ、不採用になるリスクがあるからです。
では、どうすれば良いのでしょうか？
ここでこそ、「転職エージェント」を活用すべきです。
聞きにくい年収交渉や残業の実態確認こそ、第三者であるエージェントに代行してもらうのが、賢い転職戦略です。
職場見学で確認すべきチェックポイント
可能であれば、職場見学を申し出てください。実際の職場を見ることで、求人票や面接だけでは分からない実態が見えてきます。
チェックポイントは以下の通りです。
スタッフの表情（疲れ切っていないか、笑顔があるか）、業務の進め方（スタッフ間の連携、業務の効率性）、職場の整理整頓状況（整理されていない職場は業務も非効率）、閉局時間近くの様子（残業が発生しているか）。
特に重要なのは、スタッフ同士のコミュニケーションです。ギスギスした雰囲気の職場は、長時間労働と人間関係の問題を抱えている可能性が高いです。
関連記事：地方の高額求人には裏がある？元人事が暴露する「年収800万の罠」とホワイト薬局の見極め方
7. 転職エージェントを活用した戦略的転職術
なぜ転職エージェントが長時間労働脱出に有効なのか
転職エージェントは、求人票には載らない職場の実態を把握しています。
平均残業時間、有給消化率、離職率、職場の雰囲気。これらの情報は、エージェントが実際に職場を訪問し、経営者や現場の薬剤師と会話することで得られます。
私自身、信頼できるエージェントとは密にコミュニケーションを取っていました。「この店舗は繁忙期は残業が多いので、ワークライフバランスを重視する人には不向きです」と正直に伝えることもありました。
良いエージェントは、あなたの希望に合わない職場を紹介しません。むしろ、「この職場はあなたの希望に合わないと思います」とはっきり言ってくれます。
信頼できる薬剤師専門エージェントの選び方
全ての転職エージェントが同じではありません。薬剤師の転職に精通し、本当にあなたの利益を考えてくれるエージェントを選ぶことが重要です。
私が人事部長として実際に接してきた中で、交渉力が高く、信頼できると感じたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。
ここでエージェントの活用ポイントをお伝えします。
複数のエージェントに登録し、担当者の対応を比較してください。あなたの話をしっかり聞いてくれるか、希望条件を理解しているか、求人を押し付けてこないか。これらを確認することが大切です。
良いエージェントは、「この職場は残業が多いのでお勧めしません」「サービス残業が度々発生しているようです」とはっきり言います。悪いエージェントは、とにかく応募させようとします。
労働条件通知書の徹底確認
内定が出たら、必ず労働条件通知書を確認してください。口頭での説明と、書面での条件が異なるケースは珍しくありません。
特に確認すべき項目は以下の通りです。
所定労働時間、休憩時間、時間外労働の有無と上限、残業代の計算方法、有給休暇の付与日数と取得方法。
曖昧な表現や、「相談の上決定」といった記載があれば、必ず具体的な数字を確認してください。後々のトラブルを避けるためにも、書面での確認は絶対に必要です。
8. 長時間労働から抜け出せない人の共通点
「もう少し頑張れば」という思考の罠
長時間労働に苦しみながらも転職を踏み出せない薬剤師には、共通するパターンがあります。
「もう少し頑張れば、職場が改善されるかもしれない」「今辞めたら、同僚に迷惑がかかる」「次の職場も同じかもしれない」。
こうした思考は、あなたを長時間労働に縛り付ける罠です。
採用担当として多くの転職理由を聞いてきましたが、「もっと早く転職すればよかった」という声は数え切れないほど聞きました。逆に、「転職して後悔した」という声は、準備不足で転職した人がほとんどでした。
「患者のため」という自己犠牲の正当化
「患者のために」という思いは、薬剤師として大切です。しかし、それを理由に自分の健康を犠牲にすることは、決して正しくありません。
あなたが過労で倒れたら、その患者はどうなりますか？ あなたが健康を害したら、誰が責任を取ってくれますか？
患者のために最善を尽くすためには、まずあなた自身が健康でなければなりません。適切な労働環境で働くことは、患者への責任を果たすための前提条件です。
転職活動を始めない理由探し
「今は忙しくて転職活動する時間がない」「もう少し経験を積んでから」「年齢的に厳しいかもしれない」。
これらは全て、転職活動を先延ばしにする言い訳です。
転職活動は、今すぐ転職しなくても始められます。エージェントに登録し、求人情報を見るだけでも、あなたの市場価値や、他の職場の労働環境を知ることができます。
私が採用担当として面談した薬剤師の中には、60代で転職に成功した方もいます。年齢は言い訳になりません。
残業月45時間超から抜け出す決断を
月45時間を超える残業は、単なる「忙しさ」ではなく、あなたの健康と人生を脅かす危険信号です。
厚生労働省が明確に示しているように、月45時間を超える残業は、脳・心臓疾患の発症リスクを高めます。これは医学的根拠に基づいた事実です。
真面目で責任感が強い薬剤師ほど、自分を犠牲にして働き続けてしまいます。しかし、あなたが倒れてしまえば、誰も幸せにはなりません。
今の職場で改善を試みることは大切です。しかし、経営陣が真摯に対応しないなら、環境を変える決断も必要です。
あなたには、健康的に働く権利があります。適切な労働時間で、専門性を発揮できる職場を選ぶ権利があります。
まずは現状を正確に把握することから始めてください。自分の労働時間を記録し、それが本当に適切なのか確認してください。
そして、必要であれば転職という選択肢を検討してください。転職エージェントに登録するだけでも、あなたの選択肢は大きく広がります。
あなたの専門性と経験は、もっと適切に評価される職場があるはずです。あなたの健康と人生を守れるのは、あなた自身だけです。
今日から、長時間労働から抜け出すための第一歩を踏み出してください。
