※2025年11月時点の情報です
「辞めさせない」圧力との闘い
退職を決意し、上司に伝えたその日から始まる引き止めの嵐。
「今は人手不足で困る」「後任が見つかるまで待ってほしい」「給料を上げるから残ってくれ」
薬剤師の転職市場において、優秀な人材ほど強く引き止められる現実があります。しかし、引き止めに負けて退職を先延ばしにすることは、あなたのキャリアにとって大きな損失です。
私が見てきた数多くの退職交渉の現場では、引き止めに屈した薬剤師が後に再び退職を決意するケースが非常に多くありました。一度は引き止めに応じたものの、根本的な問題は何も解決していないからです。
この記事では、強引な引き止めに遭遇した際の具体的な対応法と、退職の意思を貫くための実践的な交渉術を解説します。
第一部:引き止めの実態を知る
【データで見る】離職率の現状と企業の本音
人材の流動性が高まる中、企業側は採用と育成にかけたコストを無駄にしたくないという強い動機を持っています。
特に薬剤師のような専門職は、新たな人材を採用してから戦力化するまでに時間がかかります。企業が「何としてでも引き止めたい」と考えるのは、経済的な理由からも当然なのです。
引き止めが「強引」になる3つの理由
人事部長として採用側の立場にいた私が断言します。引き止めが強引になるのは、以下の3つの理由からです。
理由1:人材補充のコストと時間を避けたい
薬剤師1人を採用するには、多額の採用費もさることながら、求人の出し直し、面接調整、合否連絡といった膨大な「管理職の手間」が発生します。
さらに、やっと採用できても、その新人が戦力化するまでには3〜6ヶ月かかり、その間は現場の誰かが教育係を負担しなければなりません。
上司があなたを引き止める最大の理由は、「あなたがいないと困る(寂しい)」からではなく、「あなたの代わりを探して育てるプロセスが面倒で非効率だから」です。この組織の事情を冷静に見抜いてください。
そのため、多少強引な手段を使ってでも引き止めようとするのです。
理由2:上司の評価への影響
部下が退職すると、上司の人事評価にマイナスの影響を与えます。「マネジメント力が不足している」「職場環境に問題がある」と見なされるリスクがあるためです。
特に短期間で複数の退職者を出した場合、上司自身の立場が危うくなることもあります。このため、上司は自分の保身のために必死で引き止めてくるケースが多いのです。
理由3:業務の継続性を守りたい
一人薬剤師の店舗や、特定の業務に精通した薬剤師が辞めると、業務が回らなくなるリスクがあります。後任が決まるまでの間、他の薬剤師に負担がかかり、サービスの質が低下する可能性もあります。
このような状況を避けるため、企業は「引き継ぎが完了するまで」「後任が見つかるまで」と、退職時期を先延ばしにしようとします。

引き止めの典型的な5つのパターン
私がこれまでに見聞きした引き止めのパターンを分類すると、以下の5つに集約されます。
パターン1:待遇改善の提示
「給料を上げる」「希望の部署に異動させる」「管理薬剤師に昇格させる」など、待遇面での改善を提示してくるケースです。
一見魅力的に見えますが、これらの提案が実現する保証はありません。口約束だけで終わることも多く、仮に実現しても一時的な対応に過ぎないことがほとんどです。
パターン2:感情に訴える引き止め
「あなたがいなくなったら困る」「期待していたのに裏切られた」「他のスタッフにも悪影響が出る」など、罪悪感を煽る言葉で引き止めるパターンです。
これは、あなたの承認欲求や責任感を利用した心理的な圧力です。冷静に考えれば、一人の退職で業務が回らなくなるのは企業側の責任であり、あなたが罪悪感を持つ必要はありません。
パターン3:不安を煽る引き止め
「転職先で本当にやっていけるのか」「今の職場を離れたら後悔する」「新しい環境に適応できないかもしれない」など、あなたの不安を増幅させるパターンです。
これは、あなたの自信を揺るがし、現状維持を選択させようとする戦術です。しかし、転職にリスクはつきものであり、挑戦しなければ成長もありません。
パターン4:期間延長の交渉
「3ヶ月だけ待ってほしい」「後任が見つかるまで」「繁忙期が終わるまで」など、退職時期を先延ばしにしようとするパターンです。
このパターンは一見合理的に見えますが、実際には延長された期間が終わっても、さらなる延長を求められることが多いです。いつまで経っても退職できない状況に陥る危険があります。
パターン5:強引・威圧的な引き止め
「退職届は受け取れない」「損害賠償を請求する」「離職票を発行しない」「給与を支払わない」など、法的に問題のある方法で引き止めようとするパターンです。
これは明らかな違法行為であり、労働者の権利を侵害するものです。このような引き止めに遭遇した場合は、法的措置を検討する必要があります。
第二部:退職の法的権利を理解する
民法が保障する「退職の自由」
退職は労働者に認められた権利です。民法第627条第1項により、期間の定めのない雇用契約の場合、退職の意思を伝えてから2週間が経過すれば、会社の同意がなくても退職できます。
これは法律で保障された権利であり、会社側がどれだけ引き止めても、この権利を侵害することはできません。
ただし、就業規則に「退職の申し出は1ヶ月前まで」「退職の申し出は3ヶ月前まで」といった規定がある場合、可能な限りその規定に従うことが円満退職につながります。
違法な引き止めの具体例
以下のような引き止めは、法的に許されません。
1. 退職届の受け取り拒否
退職届の受け取りを拒否することは、労働者の退職の権利を侵害する行為です。受け取ってもらえない場合は、内容証明郵便で会社宛てに郵送する方法があります。
2. 給与・退職金の不払い
退職を理由に給与や退職金を支払わないことは、労働基準法違反です。未払い賃金は法的に請求できます。
3. 有給休暇の取得拒否
退職前の有給休暇の取得を拒否することも違法です。労働者には有給休暇を取得する権利があり、会社はこれを制限できません。
4. 離職票の不発行
離職票の発行は会社の義務です。発行を拒否された場合は、ハローワークに相談することで発行を促すことができます。
5. 損害賠償請求の脅し
「退職したら損害賠償を請求する」と脅すことも違法です。実際に損害賠償が認められるケースはほとんどありません。

就業規則との関係
就業規則に「退職は3ヶ月前までに申し出ること」と記載されている場合でも、民法の規定が優先されます。つまり、2週間前の申し出で法的には退職可能です。
ただし、円満退職を目指すのであれば、就業規則に従った方がトラブルを避けられます。特に、引き継ぎに必要な期間を考慮して、余裕を持って退職の意思を伝えることが望ましいです。
第三部:引き止めを回避するための事前準備
準備1:転職先を確定させる
引き止めに負けないための最も効果的な方法は、転職先を事前に決めておくことです。転職先が決まっていることを伝えれば、「退職は決定事項である」という強いメッセージになります。
転職先の入社日が決まっていれば、退職日も明確に設定でき、引き止めによる先延ばしを防ぐことができます。
逆に、転職先が未定の状態で退職を申し出ると、「もう少し考えたら」「転職先を探しながら働いたら」と引き止められやすくなります。
エージェントの活用が鍵
一人で転職活動をしていると、強引な引き止めに遭った際、「入社日をずらしてもらえばいい」と上司に押し切られてしまう恐れがあります。
しかし、エージェントを介している場合、「エージェントを通じて先方と入社日を確約してしまったため、変更はできません」という強力な断り文句が使えます。
スムーズに退職するためは、「自分の一存ではスケジュールを変えられない状況」を上手く作れば良いわけです。交渉の矢面に立たず、エージェントという第三者の存在を「盾」にすることで、精神的な負担を大幅に減らすことができます。
私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じた理由について、以下の記事で生々しく解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

準備2:退職理由を明確にする
引き止めに屈しないためには、退職理由を明確にし、ブレない姿勢を持つことが重要です。
退職理由は、以下のポイントを押さえて整理しましょう。
ポイント1:ポジティブな理由を前面に出す
「新しい分野に挑戦したい」「専門性を高めたい」「在宅医療に携わりたい」など、前向きな理由を伝えることで、引き止めにくくなります。
逆に、「給料が安い」「人間関係が悪い」「残業が多い」などネガティブな理由を伝えると、「それなら改善する」と交渉の余地を与えてしまいます。
ポイント2:会社では実現できない理由を選ぶ
「病院薬剤師として働きたい」「在宅医療に特化した薬局で経験を積みたい」など、現在の職場では実現できない理由を伝えることで、引き止めの余地をなくします。
待遇面や職場環境の改善を理由にすると、「昇給する」「配置転換する」と提案されて引き止められやすくなります。
ポイント3:一貫性を保つ
一度伝えた退職理由を変えないことが重要です。理由がコロコロ変わると、「本当は迷っているのでは」と思われ、引き止めの材料を与えてしまいます。

準備3:退職日を明確に設定する
退職日を明確に決めておくことで、ズルズルと先延ばしにされることを防げます。
退職日を設定する際のポイントは以下の通りです。
タイミング1:引き継ぎ期間を考慮する
引き継ぎに必要な期間を逆算して、退職日を設定します。一般的には、退職希望日の1.5~2ヶ月前に退職を申し出るのが理想的です。
引き継ぎが不十分だと「まだ退職できない」と引き止められる口実を与えてしまいます。
タイミング2:繁忙期を避ける
調剤報酬改定の時期や年末年始など、繁忙期に退職を申し出ると、強く引き止められる可能性が高まります。
可能であれば、業務が落ち着いている時期を選んで退職を申し出ることが望ましいです。
タイミング3:プロジェクトの区切りを待つ
新規出店のプロジェクトや、地域支援体制加算の取得など、重要なプロジェクトの途中で退職を申し出ると、引き止めが強くなります。
プロジェクトが一段落したタイミングで退職を切り出す方が、円満に進みやすいです。

準備4:書面で退職の意思を残す
退職の意思は口頭で伝えるだけでなく、書面でも提出することが重要です。
退職願または退職届を提出することで、「聞いていない」「そんな話はしていない」と言われるトラブルを防げます。
退職願と退職届の違い
退職願は「退職させていただきたい」とお願いする文書であり、会社側が承認するまでは撤回可能です。
退職届は「退職します」と一方的に通告する文書であり、提出後は原則として撤回できません。
引き止めを回避したい場合は、退職届を提出する方が効果的です。
提出方法
上司に直接手渡しするのが基本ですが、受け取りを拒否された場合は、人事部に提出するか、内容証明郵便で会社宛てに郵送します。
内容証明郵便で送付すれば、「退職届を受け取っていない」という言い逃れを防ぐことができます。
第四部:引き止めパターン別の対応術
対応術1:待遇改善を提示された場合
「給料を上げる」「管理薬剤師に昇格させる」といった待遇改善の提案は、一見魅力的に見えますが、安易に応じるべきではありません。
対応のポイント
口約束だけの提案には、「具体的な金額と実施時期を書面で提示してください」と要求しましょう。書面での提示を求めることで、本気度を確認できます。
ほとんどの場合、書面での提示を求めると、曖昧な回答しか返ってきません。これは、実現する気がない証拠です。
また、仮に待遇改善が実現しても、退職を決意した根本的な理由が解決されていなければ、再び退職を考える日が来ます。一度決めた退職の決意を、安易な提案で曲げるべきではありません。
回答例
「ご提案いただきありがとうございます。しかし、私の退職理由は待遇面ではなく、新しい分野に挑戦したいという強い意志によるものです。既に転職先も決まっており、退職の意思は変わりません」

対応術2:感情に訴えられた場合
「あなたがいなくなったら困る」「期待していたのに」といった感情的な引き止めには、冷静に対応することが重要です。
対応のポイント
感情的な言葉に流されず、自分の決断を貫きましょう。罪悪感を持つ必要はありません。
一人の退職で業務が回らなくなるのは、企業側のマネジメントの問題です。あなたの責任ではありません。
また、「期待していた」という言葉は、あなたを引き止めるための常套句です。本当に期待していたのであれば、退職を考えるような状況にはならなかったはずです。
回答例
「ご期待に応えられず申し訳ございません。しかし、私のキャリアプランを真剣に考えた結果、退職が最善の選択だと確信しています。引き継ぎは責任を持って行いますので、ご理解いただけますと幸いです」

対応術3:不安を煽られた場合
「転職先で本当にやっていけるのか」「今の職場の方が良かったと後悔する」といった不安を煽る言葉には、自信を持って反論しましょう。
対応のポイント
転職にはリスクがつきものですが、それ以上に得られるものがあるはずです。転職先を慎重に選び、エージェントからの情報も収集していれば、過度に不安を感じる必要はありません。
また、「今の職場の方が良かった」という言葉は、単なる脅し文句です。本当にそう思っているなら、退職を決意するような状況は作られていなかったでしょう。
回答例
「不安がないわけではありませんが、新しい環境で成長したいという思いの方が強いです。転職先についても十分に情報収集を行い、自分に合った職場だと確信しています」
対応術4:期間延長を交渉された場合
「3ヶ月だけ待ってほしい」「後任が見つかるまで」という交渉には、明確な線引きが必要です。
対応のポイント
期間を明確にせずに先延ばしを受け入れると、いつまでも退職できない状況に陥ります。
もし期間延長を受け入れる場合は、「◯月◯日までなら対応可能ですが、それ以降は転職先との約束もあり、延長はできません」と明確に伝えましょう。
また、延長期間中に再び延長を求められる可能性があるため、書面で合意内容を残しておくことが重要です。
回答例
「転職先との調整もあり、退職日の延長は難しいです。ただし、引き継ぎを確実に行うため、退職日までの期間で最大限サポートいたします」

対応術5:強引・威圧的な引き止めへの対処
「退職届は受け取れない」「損害賠償を請求する」といった違法な引き止めには、法的措置を検討する必要があります。
対応のポイント
このような引き止めは明らかに違法であり、労働者の権利を侵害しています。冷静に対応し、必要であれば外部機関に相談しましょう。
相談先1:労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法違反の事案を取り扱う公的機関です。給与の不払いや離職票の不発行など、明確な法律違反がある場合は相談できます。
相談先2:弁護士
弁護士に相談すれば、法的な助言を受けられるだけでなく、退職代行サービスを利用することも可能です。弁護士による退職代行であれば、未払い賃金の請求や損害賠償の交渉も代行してもらえます。
相談先3:総合労働相談コーナー
各都道府県の労働局に設置されている無料の相談窓口です。労働問題全般について相談できます。
こうした発言をする上司は、勢いや感情で言っているケースがほとんどです。アドバイスとしては、「冷静に記録に残す姿勢を見せること」です。
回答例
「非常に重要なことですので、今の『損害賠償』や『離職票を出さない』というお話、後で認識の齟齬がないように書面またはメールでいただけますでしょうか? それを確認した上で、専門家にも相談して回答させていただきます」
「書面に残す」と言われた瞬間、違法な発言をしていた上司は急にトーンダウンします。証拠に残ると自分が不利になることを知っているからです。喧嘩をする必要はありません。「大事なことなので記録させてください」と静かに伝えるだけで十分な抑止力になります。

第五部:退職交渉を成功させる実践テクニック
テクニック1:退職の意思は直属の上司に伝える
退職の意思を最初に伝える相手は、直属の上司です。上司を飛び越えて人事部や経営者に伝えると、上司のメンツを潰すことになり、その後の交渉が難航する可能性があります。
まずは上司にアポイントを取り、個室で落ち着いて話せる環境を整えましょう。
伝え方のポイント
「お時間をいただけますでしょうか。大切なお話があります」と、事前にアポイントを取ります。
会議室など個室で、他のスタッフに聞かれない環境で話すことが重要です。
テクニック2:退職理由は簡潔に、そして一貫して伝える
退職理由を長々と説明すると、反論の余地を与えてしまいます。簡潔に、そして一貫した理由を伝えることが重要です。
例文
「このたび、一身上の都合により、◯月◯日をもって退職させていただきたく存じます。新しい分野に挑戦したいという強い思いがあり、既に転職先も決まっております」
テクニック3:引き継ぎ計画を提示する
引き継ぎ計画を具体的に提示することで、「業務に支障が出る」という引き止めの口実を封じることができます。
引き継ぎ計画に含めるべき内容
- 担当業務のリスト
- 引き継ぎに必要な期間
- 引き継ぎ方法(マニュアル作成、OJTなど)
- 後任者への教育計画
引き継ぎ計画を書面で提示することで、「退職後も業務が円滑に回るように配慮している」という姿勢を示せます。
テクニック4:有給休暇の消化を計画する
退職前に有給休暇を消化する権利があります。有給休暇の消化を含めた退職スケジュールを提示しましょう。
計算例
最終出勤日を◯月◯日、退職日を◯月◯日と設定し、その間に有給休暇を消化する計画を立てます。
有給休暇の残日数を確認し、計画的に消化することで、実質的な引き継ぎ期間を確保しつつ、権利も行使できます。
テクニック5:上司との面談は記録を残す
退職交渉の内容は、後でトラブルにならないよう記録を残しておくことが重要です。
面談後に、話し合った内容をメールで上司に送り、認識の齟齬がないか確認しましょう。
メール例
「本日はお時間をいただきありがとうございました。退職に関する話し合いの内容を確認させていただきたく、以下の通り整理いたしました。
- 退職日:◯月◯日
- 最終出勤日:◯月◯日
- 引き継ぎ期間:◯月◯日~◯月◯日
- 有給休暇消化:◯日間
認識に相違がございましたら、ご指摘いただけますと幸いです」
このようなメールを送ることで、後で「そんな話はしていない」と言われることを防げます。
テクニック6:退職届は確実に提出する
退職の意思を口頭で伝えた後、必ず退職届を提出しましょう。
退職届は、上司に直接手渡しするのが基本ですが、受け取りを拒否された場合は、人事部に提出するか、内容証明郵便で会社宛てに郵送します。
退職届の書き方
退職届
令和◯年◯月◯日
株式会社◯◯◯◯
代表取締役 ◯◯◯◯ 殿
◯◯部 ◯◯◯◯(氏名) 印
私は、一身上の都合により、令和◯年◯月◯日をもって退職いたします。
以上
簡潔に、そして明確に退職の意思を示すことが重要です。
第六部:引き止めに負けそうになったときの心構え
心構え1:退職を決意した理由を思い出す
引き止めに遭い、心が揺らぎそうになったときは、なぜ退職を決意したのかを思い出しましょう。
給与への不満、人間関係のストレス、キャリアの停滞感──あなたが退職を決意した理由は、一時的な感情ではなく、長期間にわたって蓄積された思いのはずです。
その思いを忘れず、退職という決断を貫きましょう。
紙に書き出す効果
退職を決意した理由を紙に書き出し、いつでも見返せるようにしておくことをお勧めします。引き止めに遭ったときに見返すことで、初心を思い出し、決意を固めることができます。

心構え2:引き止めは「あなたのため」ではない
引き止めの言葉は、一見あなたのことを思っているように聞こえますが、実際には企業の都合を優先しているに過ぎません。
「あなたがいなくなったら困る」という言葉は、「人材補充のコストと手間を避けたい」という本音の裏返しです。
本当にあなたのことを思っているなら、退職を考えるような状況は作られていなかったはずです。
心構え3:一度引き止めに応じると、再び辞めにくくなる
引き止めに応じて退職を撤回すると、次に退職を申し出たときに「また迷っているのでは」「本気ではない」と思われ、さらに強い引き止めに遭う可能性があります。
また、一度引き止めに応じた実績ができると、会社側は「この人は引き止められる」と認識し、今後も同じ手法で引き止めようとします。
一度決めた退職の意思は、貫くべきです。
心構え4:転職は「逃げ」ではなく「挑戦」
「転職は逃げだ」と言われることがあるかもしれませんが、それは間違いです。
より良い環境を求めて行動することは、自分のキャリアに責任を持つ姿勢の表れです。現状に甘んじることなく、成長を追求する姿勢は、むしろ評価されるべきものです。
転職は、新しい環境で自分の可能性を試す「挑戦」なのです。

心構え5:未来のあなたを優先する
引き止めに負けて現職に留まることは、未来のあなたの可能性を狭めることになります。
5年後、10年後のあなたは、今の決断をどう評価するでしょうか。
「あのとき退職しておけば良かった」と後悔するよりも、「あのとき決断して良かった」と振り返れる選択をすべきです。
未来のあなたを優先し、今の決断を貫きましょう。
第七部:円満退職を実現するための最終チェック
チェック1:退職のタイミングは適切か
退職のタイミングを見誤ると、引き止めが強くなるだけでなく、職場に迷惑をかけることにもなります。
避けるべきタイミング
- 調剤報酬改定の時期
- 新規出店や大規模リニューアルの直前
- 繁忙期(年末年始、花粉症シーズンなど)
- 決算期
これらの時期は業務が集中するため、退職を申し出ると強く引き止められる可能性が高まります。
適切なタイミング
- 業務が比較的落ち着いている時期
- プロジェクトが一段落した後
- 後任を育成する時間的余裕がある時期
チェック2:引き継ぎ準備は万全か
引き継ぎが不十分だと、「まだ退職できない」と引き止められる口実を与えてしまいます。
引き継ぎチェックリスト
- 担当業務の一覧作成
- 業務マニュアルの作成または更新
- 取引先や患者様への挨拶
- パソコンのデータ整理
- 後任者へのOJT実施
これらを計画的に進めることで、円満な退職が実現しやすくなります。
チェック3:必要書類の準備は整っているか
退職時には、さまざまな書類の提出や受け取りが必要です。
提出する書類
- 退職届
- 健康保険証
- 社員証・名札
- 貸与されていた制服や備品
受け取る書類
- 離職票
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票
- 年金手帳(会社が保管している場合)
これらの書類のやり取りをスムーズに行うことで、退職後のトラブルを防げます。
関連記事:退職前チェックリスト|最終出勤日までに必ずやるべき引継ぎ・挨拶・手続きまとめ
チェック4:転職先との連絡は密に取れているか
転職先との連絡を密に取り、入社日や初日のスケジュールを確認しておくことが重要です。
退職交渉が長引いた場合、転職先に状況を報告し、入社日の調整が可能かどうか相談しましょう。
転職エージェントを利用している場合は、エージェントが転職先との調整を代行してくれます。
エージェントに任せれば、あなたは「エージェントが勝手に交渉してくれた」というスタンスを取れます。企業側も「エージェントの要求だから仕方ない」と受け止めやすいのです。実際に私が人事の裏側を見て「ここは信頼できる」と判断したエージェントだけを厳選しました。

チェック5:最後まで誠実な態度を保てるか
退職が決まった後も、最終出勤日まで誠実に業務を遂行することが大切です。
「どうせ辞めるから」という態度は、周囲のスタッフに悪印象を与え、業界内での評判を落とすことにつながります。
薬剤師の業界は意外と狭く、転職先で前職の関係者と再会することもあります。最後まで誠実な態度を保つことで、将来的な人脈も維持できます。
あなたのキャリアは、あなたが決める
退職の意思を伝えてから、強い引き止めに遭うことは珍しくありません。しかし、その引き止めに負けて現職に留まることは、あなたのキャリアにとってプラスにはなりません。
私が人事部長時代に見てきた多くのケースでは、一度引き止めに応じた薬剤師が、数ヶ月後に再び退職を決意することがほとんどでした。根本的な問題が解決されていないからです。
退職は、労働者に認められた権利です。会社側がどれだけ引き止めても、この権利を侵害することはできません。
あなたが退職を決意したのには、明確な理由があるはずです。その理由を忘れず、自分のキャリアに責任を持つ姿勢を貫きましょう。
引き止めは「企業の都合」、退職は「あなたの権利」
引き止めの言葉に惑わされず、自分の未来を優先してください。5年後、10年後のあなたが「あのとき決断して良かった」と思える選択をすることが、何よりも大切です。
転職は、新しい環境で自分の可能性を試す挑戦です。その挑戦を恐れず、一歩踏み出す勇気を持ってください。
あなたのキャリアは、あなたが決めるものです。誰にも、あなたの未来を奪う権利はありません。
最後に、転職活動を成功させるために
退職交渉と並行して、転職活動を効率的に進めることが重要です。転職先が決まっていることが、引き止めを回避する最大の武器になります。
実は、人事部長として多くの紹介会社と付き合う中で、「この会社の担当者からの電話なら、どんなに忙しくても取る」と決めていた会社が数社だけありました。なぜ彼らは特別だったのか?どうすれば、あなたの経験とスキルを、最大限評価してくれる職場を見つける「本物の担当者」に出会えるのか。
ここで書くと長くなるため、採用担当しか知らない「エージェント活用の裏ノウハウ」として別の記事にまとめました。本気で転職を成功させたい方だけご覧ください。推奨は、3社すべてに登録し、担当者の質や求人の内容を比較することです。


