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体力の壁に直面したあなたへ
「このまま立ち仕事を続けられるだろうか」
そんな不安を抱えながら、今日も調剤室で処方箋と向き合っていませんか。足のむくみ、腰の痛み、帰宅後の疲労感。薬剤師という仕事を愛しているのに、身体が悲鳴を上げている。私が人事部長として多くの薬剤師と面談してきた中で、こうした悩みを打ち明ける方は決して少なくありませんでした。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の1ヶ月あたりの超過実労働時間は平均10時間です。数字だけ見れば他職種と比較して特別多いわけではありません。しかし、この数字には表れない「立ち仕事による身体的負担」こそが、多くの薬剤師を苦しめている真の原因なのです。
調剤室での業務は基本的に立ちっぱなしです。処方箋の受付から調剤、監査、投薬まで、1日を通して座る時間はほとんどありません。採用面接の際も、「体力的な理由」を離職理由に挙げる薬剤師は一定数存在しました。
しかし、体力に自信がないからといって、薬剤師としてのキャリアを諦める必要はありません。この記事では、元・調剤薬局チェーン人事部長として、体力面に不安を抱える薬剤師がどのような戦略で職場を選び、キャリアを築いていくべきかを具体的に解説します。
体力面で「限界」を感じやすい薬剤師の特徴と背景
立ち仕事が身体に与える影響を正しく理解する
薬剤師の仕事が体力を消耗する最大の理由は、長時間の立ち仕事にあります。1日8時間、ほぼ立ちっぱなしで業務を行うことの身体的負担は、想像以上に大きいものです。
立ち仕事による身体への影響として、まず挙げられるのが足のむくみです。また、同じ姿勢を続けることで腰や背中の筋肉が硬直し、慢性的な腰痛を引き起こすリスクも高まります。私が経験した範囲では、30代後半から40代にかけて「体力に不安」を感じ始める薬剤師が増える傾向にありました。
体力面の不安を抱えやすい薬剤師のパターン
体力面で悩みを抱える薬剤師には、いくつかの共通パターンがあります。もともと体力に自信がない方、年齢とともに体力の衰えを感じ始めた方、持病や体調不良を抱えている方、そして産後や育児中で慢性的な疲労を抱えている方です。
体力がない薬剤師が選ぶべき職場の条件
処方箋枚数と業務量の関係を見極める
職場選びにおいて、まず確認すべきは処方箋枚数です。厚生労働省の省令により、薬剤師の配置基準として「薬剤師1人につき処方箋1日40枚」という標準が定められています。これを超えて受け付ける場合、法的に人員の増員が必要となるため、忙しさの客観的な指標となります。
ただし、処方箋枚数だけで忙しさは判断できません。眼科や皮膚科の門前薬局は、点眼薬や軟膏の処方が中心となるため、枚数が多くても比較的負担は軽めです。一方、急性期病院の門前薬局では、複雑な処方や一包化が多く、同じ枚数でも身体的負担は格段に大きくなります。
私が「体力的に楽な店舗」への異動を希望する薬剤師から相談を受けた際は、単純な枚数だけでなく、処方内容の複雑さ、患者層、繁忙時間帯の集中度合いなども考慮して配属先を検討していました。
転職活動においても、この視点は非常に重要です。求人票に記載された処方箋枚数の数字だけでなく、どの診療科の門前なのか、患者層はどうなのかまで確認することを強くお勧めします。
| 門前診療科・業態 | 身体的負担（立ち時間） | 精神的負担（処方複雑度） | 処方箋枚数/日（1人あたり） | 体力に不安がある方への推奨度 |
| 眼科・皮膚科 | ★☆☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | 多め（40枚〜） | S（最適） |
| メンタルクリニック | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | 普通（30〜40枚） | A（おすすめ） |
| 耳鼻咽喉科 | ★★★☆☆ | ★★☆☆☆ | 非常に多い（50枚〜） | B（繁忙期は注意） |
| 一般内科 | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | 普通（30〜40枚） | B（店舗による） |
| 総合病院門前 | ★★★★★ | ★★★★★ | 普通〜多め | C（回避推奨） |
| 在宅特化型 | ★★★★☆ | ★★★★☆ | 少なめ | C（移動等の負担大） |
※処方箋枚数は目安です。眼科などは「軽量品目」が多いため、枚数が多くても身体的負担は軽くなる傾向があります。この「枚数と負担のギャップ」を理解することが重要です。
人員配置に余裕がある職場を見つける方法
体力面で不安がある場合、人員に余裕がある職場を選ぶことが重要です。薬剤師の配置に余裕があれば、忙しい時間帯でも一人に負担が集中することを避けられます。また、体調が優れない日にフォローしてもらいやすい環境が整っています。
人員配置の余裕を見極めるポイントとして、まず薬剤師数と処方箋枚数の比率を確認しましょう。1人あたりの処方箋枚数が30枚以下であれば、比較的余裕のある職場といえます。
次に、休憩時間の取得状況を確認することも有効です。面接や職場見学の際に「休憩は取れていますか」と質問してみてください。「忙しい日は取れないこともある」という回答であれば、人員に余裕がない可能性が高いと判断できます。
さらに、有給休暇の取得実績も確認ポイントです。有給が取りやすい職場は、人員配置に余裕がある証拠です。こうした情報は、転職エージェント経由で確認することで、角が立たずに入手できます。
立ち仕事の負担を軽減する職場環境のチェックポイント
立ち仕事の負担を軽減する設備や環境が整っているかどうかも、職場選びの重要な基準です。調剤室内に座って作業できるスペースがあるか、床材にクッション性があるか、自動調剤機や分包機などの設備導入状況も確認ポイントです。
体力に自信がない薬剤師の具体的な転職戦略
戦略1：パート・時短勤務という選択肢
体力面での不安が大きい場合、フルタイム勤務にこだわらない選択も検討に値します。薬剤師の場合、パートでも時給2,000円以上が一般的です。厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の短時間労働者の平均時給は約2,400円（2,367円）です。エリアや経験によっては、時給2,600円以上も十分に狙える水準です。週4日、1日6時間勤務でも、年収200万円以上を確保できます。
時短勤務については、2009年の育児・介護休業法改正により、子どもが3歳になるまでは時短勤務が可能です。育児中の方は、この制度を積極的に活用することをお勧めします。
戦略2：デスクワーク中心の職種への転職
立ち仕事自体から離れたい場合は、デスクワーク中心の職種への転職も選択肢です。DI（ドラッグインフォメーション）業務は、製薬会社等で医薬品情報の管理・提供を行う仕事で、基本的にデスクワークです。薬事職は承認申請に関わる業務で、専門性が高く高年収が期待できます。品質管理・品質保証やメディカルライターも、在宅勤務が可能な場合があり体力面での不安がある方に適しています。
こうした企業薬剤師の求人は数が限られていますが、専門の転職エージェントを活用することで、非公開求人を含めた幅広い選択肢にアクセスできます。
戦略3：勤務時間帯と曜日の戦略的選択
同じ職場でも、勤務時間帯や曜日によって業務負担は大きく異なります。一般的に、調剤薬局は朝一番と夕方が最も混雑し、午前中遅めから午後早めは比較的落ち着いています。曜日については、週の前半より後半、土曜日の午後などが空いている傾向です。
こうした希望を転職時に伝える際は、「長く安定して働き続けられる環境を希望しています」と前向きな姿勢として伝えることで、好印象を与えられます。
戦略4：処方科目による負担の違いを活用する
門前の診療科によって、業務負担は大きく異なります。体力面での不安がある場合は、負担が比較的軽い診療科の門前薬局を選ぶことも有効な戦略です。
比較的負担が軽い診療科としては、眼科、皮膚科、耳鼻科が挙げられます。点眼薬や軟膏、シンプルな処方が中心となるため、調剤作業の複雑さが少なく、身体的負担も軽めです。
負担が大きい診療科としては、総合病院、精神科、がん専門病院の門前が挙げられます。多剤処方や一包化、複雑な処方監査が求められ、1件あたりの対応時間も長くなります。
ただし、処方内容がシンプルな薬局は、処方箋枚数が多い傾向にあります。1件あたりの負担は軽くても、件数をこなす必要があるため、結果的に忙しくなる場合もあります。面接時に「1人あたりの処方箋枚数」「繁忙期の状況」について具体的に確認することをお勧めします。
| 戦略 | 具体的なアクション | 予想年収変動 | 求人倍率（転職難易度） | 体力温存効果 | こんな人におすすめ |
| 戦略1 | パート・時短勤務 | 減少 | 低（見つけやすい） | 大 | 育児中の方、扶養内で働きたい方 |
| 戦略2 | 企業（デスクワーク） | 維持〜上昇 | 高（狭き門） | 特大 | 未経験でも学ぶ意欲が高い若手〜中堅 |
| 戦略3 | 時間帯・曜日調整 | 維持 | 中 | 中 | 現在の年収を下げたくない方 |
| 戦略4 | 「軽」科目の店舗へ | 維持 | 低〜中 | 中〜大 | 調剤スキルを維持したい |
転職活動で「体力面の不安」をどう伝えるか
面接で体力面の話題が出た際の対応法
面接で「体力には自信がありますか」「忙しい職場でも大丈夫ですか」といった質問を受けることがあります。正直に「体力に自信がない」と答えると、採用に不利になるのではないかと心配される方も多いでしょう。
しかし、体力面の不安を完全に隠して入社し、後から「こんなに大変だとは思わなかった」と早期離職に至るケースを何度も見てきました。双方にとって不幸な結果を避けるためにも、ある程度は正直に伝えることをお勧めします。
ポイントは、ネガティブな印象にならないよう、伝え方を工夫することです。
採用担当の本音を攻略！体力不安を強みに変える「魔法のフレーズ」
面接官として何千人もの薬剤師を見てきましたが、採用側が最も恐れているのは「体力がなくて働けないこと」ではありません。「入社後に想定外の体調不良で突然辞められること」です。
そのため、自身の課題を認識し、コントロールできている人はむしろ「自己管理能力が高い」と評価されます。以下のトークスクリプトを参考にしてください。
【元人事部長直伝：合格トークスクリプト】
「正直にお伝えしますと、過去に連勤が重なり体調を崩しかけた経験がございます。その経験から、現在は『自身のパフォーマンスを最大化できる働き方』を深く理解しております。
御社のように人員体制が整っており、休憩もしっかり取れる環境であれば、体調管理を徹底しながら、長く安定して貢献できると確信し、志望いたしました。突発的なお休みでご迷惑をおかけしないよう、日々の体調管理はプロとして徹底しております。」
この回答のポイント
- 隠さない： 正直に伝えることで誠実さをアピール（嘘をつく人は嫌われます）。
- 自己管理： 「自分の取扱説明書」を持っていることを示し、プロ意識をアピール。
- 環境への期待： 「御社の環境ならできる」と持ち上げることで、相手の会社を肯定する。
このように、マイナスの事実をそのまま伝えるのではなく、「長期的に貢献したい」という前向きな姿勢として言い換えることで、印象は大きく変わります。
転職エージェントを活用して角が立たない情報収集を行う
体力面での希望条件（処方箋枚数、人員配置、勤務時間など）を直接企業に確認するのは、どうしても角が立ちやすいものです。「この人は楽をしたいだけなのでは」と誤解されるリスクもあります。
こうした場面こそ、転職エージェントの活用が有効です。エージェントを通じて確認することで、求職者自身は「エージェントが確認してくれた」というスタンスを取れます。企業側も「エージェントからの質問だから」と受け止めやすいのです。
私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。
今の職場で体力面の負担を軽減する方法
転職以外にも、現在の職場で負担を軽減する方法があります。すぐに転職できない状況の方は、まずこれらの対策を試してみてください。
日常的なセルフケアの実践
立ち仕事による疲労を軽減するためには、日常的なセルフケアが重要です。
着圧ソックスの活用は、多くの薬剤師が効果を実感している対策です。足のむくみを軽減し、夕方の疲労感を抑えることができます。
仕事の合間のストレッチも効果的です。かかとの上げ下げ、ふくらはぎを伸ばすストレッチなど、短時間でできる運動を習慣化することで、血行を促進し疲労を軽減できます。
靴選びの見直しも重要です。クッション性があり、軽量で足にフィットする靴を選ぶことで、立ち仕事の負担を大幅に軽減できます。
上司への相談と業務調整
体力面での不安がある場合、上司に相談して業務調整を依頼することも検討しましょう。
具体的には、座って行える業務（薬歴入力、在庫管理、発注業務など）の比率を増やしてもらう、繁忙時間帯を外したシフトにしてもらうといった調整が考えられます。
相談する際は、単に「きつい」と訴えるのではなく、「〇〇の業務であれば、より高いパフォーマンスを発揮できると考えています」といった形で、貢献意欲を示しながら伝えることが重要です。
体力面を理由に転職する際の注意点
年収低下のリスクを正しく認識する
体力面での負担軽減を優先した転職では、年収が低下するケースも少なくありません。デスクワーク中心の企業薬剤師は、調剤薬局の管理薬剤師と比較して年収が低い傾向があります。また、パートや時短勤務を選択すれば、当然ながら収入は減少します。
しかし、体調を崩して長期休職に追い込まれるリスクを考えれば、計画的に働き方を調整する方が生涯収入では有利になる可能性もあります。短期的な年収だけでなく、長期的な視点でキャリアを考えることが重要です。
キャリアの継続性を意識した選択を
体力面での不安から、調剤業務から完全に離れてしまうと、将来的に調剤現場に戻りたくなった際にブランクが障壁となる可能性があります。
完全にデスクワークに移行するのではなく、調剤業務の比率を下げながらも一定程度は維持する、という選択肢も検討に値します。たとえば、パートで週2〜3日は調剤薬局で勤務しつつ、残りの日は在宅ワークでメディカルライターの仕事をするといった働き方も考えられます。
体力がない薬剤師でも輝けるキャリアの形
体力に自信がないことは、決して薬剤師としての価値を否定するものではありません。むしろ、自分の限界を正しく認識し、持続可能な働き方を選択できる人こそ、長期的に活躍できる薬剤師といえます。
厚生労働省の調査によると、医療・福祉業界の離職率は15%前後で推移しています。体力面での無理がたたって離職に追い込まれる薬剤師も少なくない中で、自分に合った環境を能動的に選択する姿勢は、むしろ評価されるべきです。
私が人事部長として見てきた中で、長く活躍している薬剤師に共通していたのは、「自分の限界を知り、それに合った環境で最大限の力を発揮する」という姿勢でした。フルタイムでバリバリ働くことだけが、薬剤師としての成功ではありません。
正直にお伝えします。12月10日のボーナス支給後は、一年で最も転職希望者が増える人材争奪戦のピークです。 完全週休二日制かつ年収650万以上の求人、本当に残業のない求人は、すぐに埋まってしまう恐れがあります。残り物で妥協しないよう、年内に「求人の枠（席）」だけは確保してください。
ただし、焦って変なエージェントを選ばないでください。
私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。
彼らは、私が求人者として「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報（実際の残業時間や離職率の高さ）まで、求職者に包み隠さず伝えていました。
あなたの市場価値を正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントとその理由を記事にしました。転職に失敗したくない方はぜひご覧ください。
あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。
あなたの市場価値は、体力で決まるものではない
今の環境で「体力がない自分はダメなのではないか」と悩み続けたあなたを、誰も責めることはできません。大切なのは、自分の特性を正しく理解し、それを活かせる環境を見つけることです。
薬剤師としての知識、患者への寄り添い、丁寧な服薬指導。あなたが長年培ってきた能力は、立ち仕事ができるかどうかとは全く別の次元にあります。体力面での制約があるからこそ、効率的な働き方を追求し、本当に価値のある業務に集中できるという側面もあるのです。
この記事が、体力面での不安を抱えながらも薬剤師として活躍し続けたいと願うあなたの、次の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
