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「このまま3年我慢すべきか」という問いへの答え
入社1年目、2年目。朝の調剤室で、ふと手が止まることはありませんか。
「もう少し頑張れば何か変わるのでは」「でも、この環境で3年耐えて何が得られるのだろう」
私は元・調剤薬局チェーンの人事部長として、また調剤薬局向けの経営コンサルタントとして、多くの薬剤師の入退社に立ち会ってきました。採用する側だからこそ知っている「裏の評価基準」。それは求職者の皆様が想像しているものとは全く違います。
元人事責任者の立場から、きれいごとなしの事実を断言します。20代の第二新卒薬剤師は、あなたが思っている以上に「価値のある存在」です。
ただし、その価値を正しく理解し、適切なタイミングで行動しなければ、その価値は目減りしていきます。
私が歯がゆく感じたのは、「あと1年早く相談してくれれば」というケースでした。30代になってから「あの時、決断しておけばよかった」と後悔する薬剤師を何人も見てきたのです。
この記事では、第二新卒・20代薬剤師が持つ本当の市場価値と、後悔しないキャリア選択のために知っておくべき実務的なポイントをお伝えします。人事部長の視点から見た「採用側の本音」も包み隠さずお話しします。
第二新卒薬剤師の「市場価値」を数字で理解する
薬剤師転職市場の現状
厚生労働省の「一般職業紹介状況(医師・薬剤師等)」によると、2024年9月時点での有効求人倍率は依然として2倍を超える高水準で推移しています(多くの民間データでも薬剤師単体で2〜3倍程度)。全職業の平均が約1.2倍であることを考えると、薬剤師は依然として売り手市場にあるといえます。
しかし、この数字だけを見て安心するのは危険です。
2018年には有効求人倍率が5倍を超えていた時期もありました。コロナ禍の受診控えによる処方箋枚数の減少、薬剤師数の増加、調剤報酬改定の影響などにより、「薬剤師免許があれば無条件で転職できる」時代は終わりつつあります。
私が人事部長として実感していたのは、「誰でも良いから採用したい」という時代から「スキルと人柄を見て採用したい」という時代への移行です。
第二新卒が「高く評価される」理由
私が人事部長時代に第二新卒を積極的に採用していた理由をお伝えします。
第一に、教育コストが抑えられること。新卒を一人前に育てるには約2年かかりますが、第二新卒は基礎スキルと社会人マナーがすでに身についています。
第二に、柔軟性があること。入社3年目以降は前職の考え方が染み付いてきますが、第二新卒は新しい環境に適応しやすい。
第三に、長期的な戦力として期待できること。20代であれば30年以上のキャリアが見込めるため、企業は「将来への投資」として評価します。

人事部長が見ていた「第二新卒の採用基準」
「すぐ辞めるのでは」という懸念をどう払拭するか
正直に申し上げると、第二新卒を面接する際、私が最も注意深く見ていたのは「またすぐに辞めないか」という点でした。
入社1〜2年で転職を考えている薬剤師に対して、採用側は必ずこの懸念を持ちます。これを払拭できなければ、どれだけスキルがあっても採用には至りません。
ではどうすればいいのか。
転職理由を「過去の不満」ではなく「未来への意欲」に変換する
面接で「人間関係が悪くて」「残業が多くて」とストレートに伝えてしまう薬剤師は、残念ながら採用を見送ることが多かったです。なぜなら、同じ不満が次の職場でも発生したとき、また辞めてしまうのではないかと判断されるからです。
例えば、「人間関係の問題」であれば、「チームで協力しながら患者様に向き合える環境で働きたい」と変換する。「残業が多い」であれば、「業務効率化を重視する環境で、患者対応の質を高めたい」と表現する。
本質は同じでも、伝え方で印象は180度変わります。
実際に採用を見送った第二新卒の特徴
私が採用を見送った第二新卒薬剤師には、いくつかの共通点がありました。
一つ目は、「具体的なキャリアビジョンがない」ケースです。「なんとなく今の職場が合わない」「もっと良い条件があるはずだ」という漠然とした理由では、採用側は「うちに入っても同じことを繰り返すのでは」と考えます。
二つ目は、「前職の悪口を言う」ケースです。薬剤師の業界は狭い。前職の悪口を面接で言う人は、うちの会社でも同じことをするだろうと判断されます。
三つ目は、「自分のスキルを過大評価している」ケースです。入社2年目で「管理薬剤師を任せてほしい」「年収600万円は譲れない」という要求をされることがありましたが、経験年数と市場価値のバランスを理解していない印象を受けました。

20代薬剤師の年収相場と交渉のリアル
年齢別・経験別の年収相場
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(令和5年)によると、薬剤師全体の平均年収は約577万円です。ただし、これは全年齢の平均であり、20代の相場とは異なります。
第二新卒が年収交渉で「やってはいけないこと」
私が面接官として不快に感じたのは、「とにかく年収を上げてほしい」という姿勢だけが前面に出ている薬剤師でした。
第二新卒の段階で強気の年収交渉をすることは、正直おすすめしません。なぜなら、経験年数に見合わない年収を獲得しても、入社後にそれ以上の成果を求められ、プレッシャーで潰れてしまうケースを何度も見てきたからです。
むしろ第二新卒が重視すべきは、「入社後にどれだけ成長できる環境か」です。教育体制、資格取得支援、キャリアパスの明確さ。これらが整っている職場であれば、3年後、5年後の年収は自然と上がっていきます。
ただし、明らかに相場より低い年収を提示された場合は、遠慮なく交渉すべきです。その際、自分で交渉するのではなく、転職エージェントを介することをお勧めします。
私が人事部長だった頃、エージェント経由で年収交渉を受けることがありました。求職者本人が言うと角が立ちますが、エージェントが言うと「業界の相場観として」という形で受け止められます。結果として年収を上方修正することも少なくありませんでした。

第二新卒が「今」転職すべきかの判断基準
転職すべき3つのサイン
心身の健康に影響が出始めている
日曜夜に「サザエさん症候群」を超えた胃痛や吐き気を感じるなら、それは危険なサインです。私自身、無理をして過労で倒れ、しばらく静養した経験があります。「休職」の二文字が頭をよぎる前に動いてください。
スキルアップの機会がない
毎日同じ処方箋を機械的に処理するだけ。在宅医療やかかりつけ薬剤師の経験を積む場がない。このような環境に3年いても市場価値は上がりません。
会社の将来性に不安がある
経営者の発言が一貫しない、退職者が相次いでいる。このような兆候がある場合、早めに行動を起こすべきです。

転職を「急ぐべきでない」ケース
入社1年未満での転職検討
入社1年未満は「短期離職」として履歴書に残ります。ハラスメントなどの事情がない限り、少なくとも1年は続けることをお勧めします。
漠然とした不満しかない
「なんとなく合わない」という理由での転職は、次の職場でも同じ不満を抱える可能性が高いです。まずは「何が不満か」を具体化してください。
転職先を決めずに退職しようとしている
離職期間が長くなるほど、次の面接で不利になります。必ず在職中に転職活動を進めてください。

第二新卒が転職で「勝つ」ための職務経歴書
不採用と判断する職務経歴書のパターン
「調剤業務全般を担当」という一行だけの経歴書は評価のしようがありません。「1日の処方箋枚数」「担当科目」「かかりつけ薬剤師の取得状況」など、具体的な情報を記載してください。
誤字脱字やフォーマットの乱れも要注意です。薬剤師は注意力が求められる職業。書類の不備は「注意力が足りない」と判断されます。
第二新卒が「書くべき」アピールポイント
研修で学んだこと、取得した資格は第二新卒ならではの強みです。「〇〇研修修了」「認定薬剤師資格取得中」など、学びへの姿勢をアピールしてください。
「1日平均80枚の処方箋を担当」「かかりつけ薬剤師として10名を担当」など、数字で実績を表現することも重要です。

面接で「第二新卒ならでは」の質問への答え方
「なぜ短期間で転職を考えているのですか」への回答
悪い例 「人間関係がうまくいかなくて、毎日がストレスでした。」
良い例 「調剤の基礎スキルを身につける中で、より患者様に寄り添った対人業務を深めたいという思いが強くなりました。御社は在宅医療に力を入れておられると伺い、その環境で成長したいと考え応募いたしました。」
ポイントは、「前職への不満」ではなく「自分のキャリアビジョン」を軸に話すことです。
「前の会社で何を学びましたか」への回答
「入社1年半で調剤の基本スキルを習得しました。特に印象に残っているのは、先輩から教わった服薬指導の姿勢です。患者様の話を最後まで聞き、不安を受け止めてから説明に入る。この姿勢は今後も大切にしていきたいと考えています。」
具体的なエピソードを交えることで、「学ぶ姿勢がある人」という印象を与えられます。

第二新卒が「選ぶべき職場」と「避けるべき職場」
成長できる職場の条件
「入社後は先輩が教えてくれます」という曖昧な説明ではなく、教育担当が明確に決まっている会社は信頼できます。
「頑張れば管理薬剤師になれます」ではなく、「入社3年目で管理薬剤師候補、5年目で管理薬剤師」という具体的なキャリアパスが示されている会社も安心です。
離職率を具体的な数字で開示できる会社は誠実です。面接で質問してみてください。
避けるべき求人票の危険ワード
「アットホームな職場」は、他にアピールポイントがないときに使われることが多いです。教育体制やキャリアパスの記載がない場合は注意が必要です。
「やる気次第で高収入」は、やる気の定義が曖昧です。具体的な評価基準や昇給テーブルを確認してください。
「急募」は、急募の理由を確認してください。退職者が相次いでいるための急募であれば、その職場には問題があるかもしれません。

転職エージェントの「正しい使い方」
エージェントを上手く使う薬剤師の特徴
上手く使っている人は「自分の軸が明確」です。「在宅医療に携わりたいので、在宅に力を入れている薬局を紹介してください」と具体的に伝えているから、紹介される求人の質が高くなるのです。
「とにかく年収が高いところ」という曖昧なオーダーは、悪質なエージェントにとって「カモ」でしかありません。 彼らは「年収は高いが、人間関係最悪で離職率80%の薬局」を、さも優良物件のように紹介してきます。なぜなら、そこが一番「内定が出やすく、紹介料が早く入るから」です。 こうした「紹介会社の都合」に巻き込まれないために、自分の軸を言葉にする必要があるのです。
エージェントに「聞くべき」質問
「この求人の離職率を教えてください」「直近1年で何名が退職していますか」「残業時間の実態はどうですか」「有給休暇の取得率は」
これらの質問に曖昧な回答しかできない場合、その求人は避けた方が無難です。良いエージェントは、企業に直接確認して回答してくれます。
私が人事部長時代、実際に「交渉力が高く、信頼できる」と感じたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。

20代で「やっておくべき」キャリア戦略
30代で市場価値が上がる人の共通点
20代で転職した薬剤師が30代でどうなったかには、はっきりとした傾向がありました。
市場価値が上がった人は、在宅医療の経験を積み、かかりつけ薬剤師として実績を作り、認定薬剤師や専門薬剤師の資格を取得し、管理薬剤師を経験していました。
一方、「とりあえず楽な職場」を選んだ人は、30代になっても年収は上がらず、転職市場での競争力も低いままでした。
今すぐ始められる3つの行動
認定薬剤師の取得を目指す
かかりつけ薬剤師になるために必要な資格です。eラーニングで取得でき、転職市場でも評価されます。
在宅医療の経験を積む
高齢化が進む中、在宅医療に携われる薬剤師の需要は高まっています。現在の職場で機会があれば積極的に手を挙げてください。
コミュニケーションスキルを磨く
服薬指導の質、多職種連携の能力、患者対応力。これらは経験を積むことでしか身につきません。日々の業務の中で意識的にスキルを磨いてください。
あなたの市場価値は、あなたが思っているよりずっと高い
ここまで読んでくださったあなたは、すでに「行動する準備」ができているはずです。
私が人事部長として見てきた中で、確信していることがあります。20代での決断は、その後の薬剤師人生を大きく左右するということです。
今の環境で悩み続けているあなたを、誰も責めることはできません。むしろ、「このままでいいのか」と疑問を持てるあなたは、自分のキャリアに真剣に向き合っている証拠です。
第二新卒・20代の薬剤師は、採用市場で「伸びしろのある若い戦力」として高く評価されます。その価値を正しく理解し、適切なタイミングで適切な行動を取れば、あなたの市場価値は確実に上がります。
ただし、時間は有限です。「来年考えよう」「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしているうちに、第二新卒としての価値は目減りしていきます。
正直にお伝えします。12月10日のボーナス支給後は、一年で最も転職希望者が増える人材争奪戦のピークです。 完全週休二日制かつ年収650万以上の求人、本当に残業のない求人は、すぐに埋まってしまう恐れがあります。残り物で妥協しないよう、年内に「求人の枠(席)」だけは確保してください。
ただし、焦って変なエージェントを選ばないでください。
私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。
彼らは、私が求人者として「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報(実際の残業時間や離職率の高さ)まで、求職者に包み隠さず伝えていました。
あなたの市場価値を正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントとその理由を記事にしました。転職に失敗したくない方はぜひご覧ください。
あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。

