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後輩指導、本当にうまくいっていますか?
「また新人が辞めてしまった」「何度教えても同じミスを繰り返す」「後輩との関係がギクシャクしている」
このような悩みを抱えていませんか?
調剤薬局の現場では、薬剤師としての専門知識だけでなく、後輩や新人を育成するティーチングスキルが強く求められます。しかし実際には、多くの薬剤師が指導方法に悩んでいるのです。
厚生労働省の「雇用動向調査」において、離職理由の常に上位を占めるのが「職場の人間関係」です。また、各種民間調査では「スキルアップできない」「教育環境がない」といった不満も若手薬剤師の退職理由として目立ちます。
私は元・調剤薬局チェーンの人事部長として、多くの薬剤師のキャリア面談を行ってきました。その中で痛感したのは、優秀な薬剤師ほど「教えること」に苦戦しているという現実でした。
薬学の知識は豊富でも、それを効果的に伝える技術を学ぶ機会はほとんどありません。結果として、自己流の指導で後輩を潰してしまったり、自分自身が疲弊したりするケースを数多く見てきました。
本記事では、私が培ったティーチングスキルの本質を、薬剤師の現場に即した形で解説します。明日から使える具体的な指導テクニックから、絶対に避けるべきNG行動まで、実践的な内容をお届けします。
後輩育成で悩むあなたの状況は、決して珍しいものではありません。適切なスキルを身につければ、誰でも優れた指導者になれるのです。
後輩育成で陥る3つの典型的な失敗パターン
まず知っておくべきは、多くの薬剤師が同じような失敗を繰り返しているという事実です。これらのパターンを理解することが、効果的な指導への第一歩になります。
パターン1:「見て覚えろ」式の放置指導
「私もそうやって育ってきた」という理由で、具体的な説明なしに業務を任せてしまうケースです。この方法は、一部の優秀な人材には有効かもしれません。
しかし大多数の新人にとっては、不安とストレスを増大させるだけです。結果として、新人は質問することを恐れ、ミスを隠すようになります。
私が過去に面談した新人薬剤師Cさんは、こう訴えていました。「先輩から『これ、やっといて』とだけ言われて、何をどうすればいいのか分からなかった。聞きたくても忙しそうで声をかけられず、結局大きなミスをしてしまった」
このような指導では、新人の成長機会を奪うだけでなく、医療安全上のリスクも高まります。
パターン2:完璧主義による過干渉
逆に、すべてを細かく管理しようとするタイプも問題です。新人の一挙手一投足をチェックし、少しでも自分のやり方と違えば指摘する。
このような指導を受けた後輩は、自分で考える力を失います。常に指示を待つだけの受動的な薬剤師になってしまうのです。
ある管理薬剤師から聞いた話ですが、後輩の調剤過程をすべて見張っていた先輩薬剤師がいました。その結果、後輩は先輩がいないと何もできなくなり、独り立ちまでに通常の2倍以上の時間がかかったそうです。
適度な失敗を経験させることも、成長には必要なのです。
パターン3:感情的な叱責と不明確な指示
「何でこんなこともできないの」「前も言ったよね」といった感情的な叱責は、最も避けるべき行動です。このような言葉は、後輩の自尊心を傷つけ、学習意欲を完全に奪います。
加えて、「ちゃんとやって」「しっかり確認して」といった抽象的な指示も問題です。「ちゃんと」の基準が人によって異なるため、後輩は何をすればいいのか理解できません。
若手薬剤師から「先輩の指導が怖くて、薬剤師を続ける自信がなくなった」という声を聞きました。感情的な指導は、業界全体の人材損失につながっているのです。
ティーチングスキルの基本5原則
効果的な後輩育成には、明確な原則があります。これらを理解し実践することで、あなたの指導力は劇的に向上します。
原則1:目標を具体的に共有する
指導を始める前に、「何ができるようになればいいのか」を明確にします。この目標設定が曖昧だと、指導の方向性がブレてしまうのです。
例えば「調剤業務を覚える」ではなく、「1週間後には、処方箋を見て正確に薬剤を取り揃えられるようになる」と具体的に伝えます。
さらに重要なのは、その目標を後輩と一緒に確認することです。「今週はこれができるようになろう。どう思う?」と問いかけることで、後輩の主体性を引き出せます。
目標が明確であれば、後輩は何を頑張ればいいのか理解できます。そして達成感を積み重ねることで、自信とモチベーションが高まっていくのです。
原則2:「やってみせる→説明する→やらせる→フィードバックする」の4ステップ
これは教育の基本中の基本です。まず自分が手本を示し、なぜそうするのかを説明します。次に後輩にやらせて、その過程を観察する。
最後に具体的なフィードバックを与えるのです。
重要なのは、この4ステップをすべて実行することです。多くの指導者は「やってみせる」だけで終わってしまいます。または「やらせる」だけで、フィードバックを怠るのです。
例えば疑義照会の指導なら、まず自分が医師に電話する様子を見せます。その際、「最初に薬剤師の名前を名乗る」「疑問点を具体的に伝える」といったポイントを説明するのです。
次に後輩に実際に電話をかけさせ、その様子を観察します。終わったら「最初の挨拶が丁寧で良かった。次は疑問点をもう少し簡潔に伝えられるといいね」と、良かった点と改善点を両方伝えます。
このサイクルを繰り返すことで、後輩は確実にスキルを習得していきます。
原則3:「Why(なぜ)」を必ず説明する
単に手順を教えるだけでなく、その理由を説明することが重要です。理由が分かれば、後輩は応用力を身につけられます。
「この薬は冷所保管だから冷蔵庫に入れて」ではなく、「この薬は室温で分解が進むから、品質保持のために冷所保管が必要なんだ」と説明します。
理由を理解していれば、類似の状況で自分で判断できるようになるのです。また、仕事の意義を理解することで、モチベーションも高まります。
これまで多くの優秀な管理薬剤師を見てきましたが、彼らに共通していたのは「なぜそうするのか」を常に説明する姿勢でした。
この習慣が、考える力を持った薬剤師を育てるのです。
原則4:段階的に難易度を上げる
いきなり難しい業務を任せるのではなく、簡単なことから始めて徐々にレベルアップさせます。この「スモールステップ」の原則が、挫折を防ぐのです。
調剤業務なら、まずは薬剤の取り揃えから始めます。それができるようになったら監査、次に患者対応と、段階を踏んで教えていきます。
各ステップで成功体験を積ませることが、自信の構築につながるのです。
原則5:失敗を責めず、改善点を一緒に考える
新人のミスに対して、感情的に叱責するのは最悪の対応です。代わりに「なぜそうなったか」を一緒に分析し、「次はどうすればいいか」を考えます。
「何でこんなミスをしたの」ではなく、「この処方箋のどこで判断に迷った?」と質問するのです。そして「次は薬剤情報を先に確認してから調剤しようか」と、具体的な改善策を提案します。
失敗は学習の機会です。この認識を持つことで、後輩は委縮せずに成長できます。
私が重視していたのは、「失敗を報告しやすい文化」の醸成でした。ミスを隠さず報告できる環境があれば、大きな事故を防げるのです。
現場で即使える具体的な指導テクニック
理論だけでなく、明日から実践できる具体的なテクニックを紹介します。これらは私が現場で効果を確認してきた方法です。
テクニック1:「3つのステップ」で説明する
複雑な業務も、3つのステップに分解して説明すると理解しやすくなります。人間の短期記憶は3〜4つの情報が限界だからです。
例えば薬歴記入なら、「1. SOAPの各項目を意識して患者情報を整理する」「2. 薬学的な判断を加えて記録する」「3. 次回の確認事項をメモする」といった具合です。
このように構造化することで、後輩は全体像を把握しやすくなります。
テクニック2:「オープンクエスチョン」で考えさせる
「これで合ってる?」といった「はい・いいえ」で答えられる質問ではなく、「この薬剤選択について、どう思う?」と考えを引き出す質問をします。
オープンクエスチョンは、後輩の思考力を鍛えます。最初は答えられなくても、考える習慣がつくのです。
テクニック3:「ポジティブサンドイッチ」でフィードバックする
改善点を伝える際は、「良かった点→改善点→期待」の順で伝えます。これがポジティブサンドイッチ法です。
「今日の患者対応、笑顔が素晴らしかったね。ただ、薬の説明がちょっと早口だったから、もう少しゆっくり話せるといいね。君なら次はもっと上手にできるよ」
このように伝えることで、後輩は前向きに改善に取り組めます。批判だけでは、やる気を失ってしまうのです。
テクニック4:「1日1つ」の振り返りを習慣化する
業務終了時に5分だけ、その日の学びを振り返る時間を設けます。「今日、新しく学んだことは何?」「明日はどこを改善したい?」と質問するのです。
この習慣が、後輩の自己成長力を高めます。毎日少しずつ成長している実感が、モチベーション維持につながるのです。
テクニック5:「成功体験」を意識的に作る
小さなことでも、できたことを認めて褒めます。「今日は昨日より処方箋の確認が速くなったね」「その質問、いいところに気づいたね」
このような言葉が、後輩の自信を育てます。成功体験の積み重ねが、困難な状況でも諦めない力を生むのです。
人間は、認められることで成長します。これは心理学の基本原則であり、教育の現場でも証明されています。
後輩のタイプ別:効果的なアプローチ方法
すべての後輩に同じ指導方法が通用するわけではありません。タイプを見極めて、アプローチを変える必要があります。
慎重タイプ:不安が強く、ミスを恐れる
このタイプには、安心感を与えることが最優先です。「ミスは誰でもする。大事なのは報告すること」と伝え、失敗を許容する姿勢を示します。
小さな成功を積み重ねさせ、自信をつけることが重要です。最初は簡単な業務から始め、確実にできることを増やしていきます。
積極タイプ:自信があり、早く成長したい
このタイプには、適度なチャレンジを与えることが効果的です。ただし、過信によるミスに注意する必要があります。
「できる」と思っていることほど、基礎を丁寧に確認させます。そして、少し難しい課題を与えて、成長機会を提供するのです。
マイペースタイプ:自分のペースを崩されるのを嫌う
このタイプには、無理に急がせず、自分で考える時間を与えます。ただし、最低限の目標は明確に設定する必要があります。
「今月中にはこれができるようになろう」と期限を示しつつ、達成方法は本人に任せるのです。
絶対にやってはいけないNG指導5選
ここまで効果的な指導方法を解説してきました。次に、絶対に避けるべき指導方法を紹介します。
NG1:他の薬剤師と比較する
「Kさんはもうできるのに、なんであなたはできないの」といった比較は、最悪の指導です。人はそれぞれ成長のペースが違います。
比較は後輩の自尊心を傷つけ、やる気を完全に失わせます。同時に、比較される相手との関係も悪化させるのです。
これは薬剤師業界全体の損失です。絶対に避けなければなりません。
NG2:「前も言ったよね」という言葉
人間は一度の説明で完璧に理解できるわけではありません。特に初めての業務では、何度も確認が必要なのです。
「前も言ったよね」という言葉は、後輩に「質問してはいけない」というメッセージを送ります。結果として、分からないまま業務を進め、大きなミスにつながるのです。
代わりに「ここは重要だから、もう一度確認しよう」と、繰り返し説明することを前提とした対応をします。
NG3:忙しさを理由に指導を後回しにする
「今忙しいから後で」と何度も言われると、後輩は質問することを諦めます。そして自己流で業務を進め、間違った方法が習慣化するのです。
指導は、後回しにできない重要業務です。5分でいいので、その場で対応する時間を作ります。
もしどうしても無理なら、「15時になったら時間を取るから、それまで○○をやっていて」と具体的な時間を約束します。
NG4:感情的になって叱る
ミスに対して感情的に怒鳴ることは、何の解決にもなりません。後輩は萎縮し、次のミスを隠すようになります。
冷静に事実を確認し、改善策を一緒に考える。これが正しい対応です。
怒りを感じたら、一度深呼吸をして落ち着きます。感情をぶつけることと、適切な指導は全く別物なのです。
NG5:完璧を求めすぎる
新人に最初から完璧を求めるのは不可能です。段階的に成長することを前提に、今のレベルに合わせた期待を持ちます。
「もっとちゃんとして」「まだまだだね」といった言葉は、具体性がなく、後輩を追い詰めるだけです。
「今日はここまでできたね。次はここを目指そう」と、一歩ずつ前進することを評価します。
ティーチングスキル向上のための自己研鑽
後輩を育てる能力は、一朝一夕には身につきません。継続的な学習と実践が必要です。
自分の指導を振り返る習慣
月に一度、自分の指導方法を振り返る時間を作ります。「今月、後輩の成長を感じた瞬間は?」「改善すべき指導方法は?」と自問するのです。
この振り返りが、指導力の向上につながります。
コーチング・ティーチングの専門書を読む
薬学の知識だけでなく、教育やコーチングの専門書を読むことも重要です。体系的な知識が、指導の質を高めます。
おすすめは『コーチングの基本』『ティーチングの技術』といった入門書です。これらを読むことで、指導の理論的背景を理解できます。
理論と実践を組み合わせることで、指導力は確実に向上します。
他の先輩薬剤師の指導方法を観察する
優れた指導者がどのように教えているか、観察することも学びになります。良い点は取り入れ、自分なりの指導スタイルを確立するのです。人事部長時代、私は定期的に現場を巡回していました。優れた管理薬剤師の指導方法を観察し、それを他の店舗に共有していたのです。
このような横展開が、組織全体の指導力向上につながります。
後輩からのフィードバックを求める
勇気がいることですが、後輩に「私の指導方法で改善してほしい点はある?」と聞いてみることも有効です。後輩の視点を知ることで、自分では気づかなかった問題点が見えてきます。オープンな対話が、相互の信頼関係も深めるのです。
ティーチングスキルが高い薬剤師の市場価値
ここで重要な事実をお伝えします。後輩育成ができる薬剤師は、転職市場で非常に高く評価されるのです。
管理薬剤師候補として引く手あまた
多くの薬局が、管理薬剤師候補を探しています。そして管理薬剤師に求められる最も重要なスキルの一つが、人材育成能力なのです。ティーチングスキルを持つ薬剤師は、通常より高い年収を提示されることも珍しくありません。
転職時の強力なアピールポイント
職務経歴書や面接で、「新人薬剤師を○名育成し、うち○名が管理薬剤師に昇格」といった実績は、極めて強力なアピール材料になります。単に「調剤ができる」だけでなく、「人を育てられる」という付加価値が、市場価値を大きく高めるのです。
在宅医療・地域包括ケアでも必須スキル
これからの薬剤師には、他職種と連携し、チームで患者を支える能力が求められます。そこでも、ティーチングスキルは重要です。新人の看護師や介護職に薬の知識を教える。患者家族に服薬管理を指導する。このような場面で、教える力が活きるのです。
地域医療の現場で活躍する薬剤師ほど、高い指導力を持っています。
理想の職場環境を求めるなら、戦略的転職も選択肢
もしあなたが、後輩育成に力を入れたいと考えているなら、それを評価する職場で働くべきです。残念ながら、すべての薬局が人材育成を重視しているわけではありません。
「人を育てる時間がない」「とにかく処方箋をさばけ」という職場では、あなたの能力は活かせないのです。
教育体制が整った薬局の特徴
優れた薬局には、教育に対する考え方が明確にあります。新人研修のカリキュラム、指導者向けの研修、定期的なフォローアップ体制。
これらが整っている職場では、あなたのティーチングスキルが正当に評価されます。そして、指導に専念できる環境が用意されているのです。
指導者を育て、その指導者が次の世代を育てる。このサイクルが、組織を強くするのです。
ただし、注意すべき「残酷な事実」があります
ここまで、あなたの指導力を高める方法をお伝えしてきました。しかし、元人事部長として、一つだけ言いにくい真実をお伝えしなければなりません。
それは、「教育評価制度」がない薬局では、どれだけ後輩を育てても給料は1円も上がらないということです。
あなたが必死にスキルを磨き、後輩を一人前に育て上げ、薬局の利益に貢献したとします。しかし、経営者や人事がそれを「当たり前の業務」としか捉えていなければ、あなたの市場価値は社内で埋もれたままです。
「人を育てる力」は、本来もっと高く売れるスキルです。
もし今の職場が、あなたの教育への貢献を具体的な「評価」や「対価」として還元してくれないのであれば、そのスキルを持って、教育体制の整った大手や優良中小薬局へ移るべきです。そこでは、あなたの指導経験が「管理薬剤師候補」や「エリアマネージャー候補」として、今よりはるかに高い待遇で歓迎されるでしょう。
薬剤師職業紹介会社の戦略的活用
自分に合った職場を見つけるには、専門家の力を借りることが賢明です。薬剤師専門の職業紹介会社は、各薬局の教育体制や社風を詳しく把握しています。
転職を考える際は、「現場のリアルな情報(特にネガティブ情報)」を持っているエージェントを選んでください。
私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「この会社は求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。
彼らは、私が「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報(実際の残業時間や離職率の高さ)まで、求職者に包み隠さず伝えていました。
あなたの指導スキルを正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントは以下の3社です。

これらの会社は、あなたのティーチングスキルを正当に評価する職場を見つけてくれます。人材育成に力を入れられる環境で働くことが、あなた自身の成長にもつながるのです。

