繁忙期の薬局を辞めるのは裏切り?『身体が限界』なら今すぐ逃げるべき3つの法的根拠

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繁忙期に辞める薬剤師を責める職場は本当に「まとも」なのか

インフルエンザシーズンや花粉症シーズンで処方箋枚数が急増する繁忙期。そんな時期に退職を切り出すと、薬局長から「今辞められたら困る」「無責任だ」と引き止められる薬剤師は少なくありません。

しかし、本当に無責任なのはあなたでしょうか。

私は元・調剤薬局チェーンの人事部長として、多くの薬剤師の退職面談に立ち会ってきましたが、無責任と感じるシーンはほぼありませんでした。会社側が慢性的な人手不足を放置していたことが原因と感じることがほとんどでした。

身体が限界なら、今すぐ逃げるべきです。あなたの健康と人生は、会社の都合より重要です。

この記事では、法的根拠に基づき「繁忙期でも辞められる権利」を明確に解説します。


法的根拠①:民法627条「2週間前の予告で退職できる」は労働者の権利

就業規則より法律が優先される

多くの薬局では就業規則に「退職は1ヶ月前までに申し出ること」と記載されています。しかし、民法627条では「期間の定めのない雇用契約は、2週間前の予告で退職できる」と明記されています。

この民法の規定は、労働者が不当に拘束されないよう保護するための強行規定です。就業規則と法律が矛盾する場合、法律が優先されます。

つまり、就業規則で「1ヶ月前」と書かれていても、法律上は2週間前に退職の意思を伝えれば退職できるのです。

「2週間」のカウント方法

退職を申し入れた翌日から起算し、土日祝日を含めて14日後が退職日となります。例えば3月1日に退職を申し入れた場合、最短で3月15日に退職できます。

人事部長だった頃、繁忙期の退職申し出に対して「せめて1ヶ月待ってほしい」と交渉したことは何度もあります。しかし、それはあくまで「お願い」であり、法的拘束力はありません。薬剤師が2週間後の退職を主張すれば、会社側は受け入れざるを得ないのです。

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「人が足りない」は会社の責任

「今辞められたら薬局が回らない」という理由で引き止められるケースがあります。しかし、一人の薬剤師が辞めただけで業務が回らなくなる体制こそ問題です。

適正な人員配置と業務分担ができていない責任は、経営側にあります。あなた一人に責任を押し付けるのは筋違いです。


法的根拠②:労働基準法15条「労働条件が違えば即日退職可能」

面接で聞いた条件と違う場合の強力な武器

労働基準法15条2項には、「明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除できる」と規定されています。

これは、2週間の予告期間すら不要で即日退職できる強力な権利です。

具体的には以下のケースが該当します。

  • 面接時に「残業は月10時間程度」と聞いたのに、実際は月40時間以上
  • 「週休2日」のはずが、シフト上は隔週しか休めない
  • 「調剤専任」と聞いていたのに、OTC販売や品出しまで強要される
  • 求人票に「年収500万円」とあったのに、実際の給与明細が大幅に低い

労働条件通知書との相違を証拠にする

入社時に交付される労働条件通知書と実態が異なる場合、この書面が証拠になります。私が人事部長だった頃、労働条件通知書には「所定労働時間8時間」と記載しながら、実際は毎日9時間以上働かせている薬局がありました。

このケースでは、薬剤師が労働基準法15条を主張して即日退職し、会社側は何も反論できませんでした。

繁忙期であろうとなかろうと、労働条件の相違があれば即日退職は正当な権利です。

「身体が限界」は労働条件相違の証拠となり得る

面接時に「一人薬剤師ではありません」と説明されたのに、実際は長時間一人体制を強いられている。これは、安全配慮義務違反の観点からも、労働条件の相違(労働環境の著しい悪化)に該当する可能性が極めて高いです。

「身体の限界」は命を守るための立派な労働条件相違の証拠です。


法的根拠③:労働基準法5条「強制労働の禁止」で退職妨害は違法

「辞めさせない」行為は刑事罰の対象

労働基準法5条では、「使用者は、暴行・脅迫・監禁その他精神または身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」と規定されています。

違反した場合、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金という重い刑事罰が科せられます。

以下のような引き止め行為は違法です。

  • 「辞めたら損害賠償を請求する」と脅す
  • 離職票や源泉徴収票の発行を拒否する
  • 退職届を受理せず、無断欠勤扱いにする
  • 「ボーナスを返せ」と金銭を要求する

実際にあった違法引き止めの実例

知り合いの薬局の話ですが、ある地方(僻地)の薬局に勤務する退職希望の薬剤師に対して代表が「今辞めたら後任が見つかるまで毎日電話する」と言ったという話を聞きました。

これは精神的な拘束に該当する可能性があり、労働者の退職の自由を侵害する行為は違法です。

繁忙期を理由に退職を妨害する行為も、この法律に抵触する可能性があります。

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「裏切り」と言われても、あなたの健康が最優先

罪悪感を植え付けられていませんか

「繁忙期に辞めるなんて非常識」「同僚に迷惑がかかる」と言われると、多くの薬剤師は罪悪感を覚えます。しかし、その罪悪感を利用して退職を阻止しようとする行為自体が問題です。

人事部長として何度も見てきましたが、「裏切り者」と責められた薬剤師の多くは、すでに心身ともに限界を迎えていました。そのような状態で無理に働き続けた結果、うつ病や過労で倒れたケースもあります。

あなたの健康と人生は、薬局の繁忙期より重要です。

離職率の高さは経営の問題

厚生労働省の調査によると、薬剤師を含む医療・福祉業界の離職率は約13.9%です。入社後3年以内に辞める薬剤師はさらに高い印象です。

これほど離職率が高いのは、薬剤師個人の問題ではなく、職場環境や労務管理に課題があるからです。繁忙期に人手不足になるのは、経営側が適切な人員配置を怠った結果です。

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実際に「身体が限界」で辞めた薬剤師の体験談

ケース①:過労で倒れる前に退職を決断したAさん

都内の調剤薬局で働いていたAさん(28歳・女性)は、インフルエンザシーズンに一人薬剤師体制を強いられ、連日12時間勤務が続いていました。休憩もろくに取れず、昼食はカウンター越しにおにぎりをかじる毎日。

ある日、調剤中に手が震えて止まらなくなり、このままでは重大な調剤過誤を起こすと恐怖を感じたAさんは、翌日に退職届を提出しました。薬局長からは「今辞められたら困る」と引き止められましたが、労働基準法15条を根拠に労働条件の相違を主張し、2週間後に退職しました。

退職後、Aさんは「あのまま働き続けていたら命に関わっていたかもしれない」と振り返ります。

ケース②:繁忙期の退職で「裏切り者」扱いされたBさん

地方の門前薬局で働いていたBさん(35歳・男性)は、花粉症シーズンのピークに退職を申し出ました。薬局長からは「今が一番忙しい時期なのに裏切るのか」と責められ、同僚からも冷たい目で見られました。

しかし、Bさんは既に転職先も決まっており、民法627条に基づき2週間後に退職しました。退職後に振り返ると、「自分の人生を他人の都合で犠牲にする必要はなかった」と確信したそうです。

現在は年収100万円アップの職場で、完全週休2日を実現しているそうです。

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円満退職にこだわる必要はない

「引継ぎができない」という罪悪感

繁忙期に辞める場合、十分な引継ぎができないことに罪悪感を覚える薬剤師は多いです。しかし、2週間あれば最低限の引継ぎは可能です。

業務マニュアルがない、後任が決まっていないという状況は、会社側の準備不足です。引継ぎ資料を作成し、必要事項を文書で残せば、あなたの責任は果たしたことになります。

「円満退職」は理想だが必須ではない

人事部長だった頃、私自身も「できるだけ円満に退職してほしい」と願っていました。しかし、身体が限界の薬剤師に対して円満退職を強要することは本末転倒です。

円満退職は理想ですが、あなたの健康を犠牲にしてまで実現すべきものではありません。

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退職を伝える際の具体的な手順

ステップ①:退職届を書面で提出する

口頭での退職申し出は「言った・言わない」のトラブルになりやすいため、必ず書面で提出しましょう。退職届には以下の内容を明記します。

  • 退職日(申し出た日から最短2週間後)
  • 退職理由(「一身上の都合により」で十分)
  • 提出日と署名

退職届は内容証明郵便で送付すると、法的に確実な証拠となります。

ステップ②:労働条件の相違を記録する

労働基準法15条を根拠に即日退職を主張する場合、労働条件通知書と実態の相違を証拠として残しましょう。

  • 労働条件通知書のコピー
  • 実際の勤務時間を記録したメモやタイムカード
  • シフト表や給与明細

これらの証拠があれば、会社側は反論できません。

ステップ③:引き止めには毅然と対応する

「今辞められたら困る」と引き止められても、法的権利を主張して毅然と対応しましょう。以下のフレーズが有効です。

「民法627条に基づき、2週間後の退職を申し入れます」 「労働基準法15条により、労働条件の相違を理由に即日退職します」 「これ以上の引き止めは、労働基準法5条に抵触する可能性があります」

人事部長として、このような主張をされた場合、会社側は法的に反論できないことを理解していました。


退職後の手続きと次のステップ

離職票と源泉徴収票の受け取り

退職後、会社は以下の書類を発行する義務があります。

  • 離職票(失業保険の手続きに必要)
  • 源泉徴収票(年末調整や確定申告に必要)
  • 雇用保険被保険者証
  • 年金手帳(会社に預けている場合)

これらの書類が発行されない場合、労働基準監督署に相談しましょう。会社が書類発行を拒否する行為は違法です。

次の職場選びで失敗しないために

繁忙期に辞めざるを得なかった薬局は、明らかに労務管理に問題があります。次の職場選びでは、同じ失敗を繰り返さないよう以下の点を確認しましょう。

  • 薬剤師の配置人数と処方箋枚数のバランス
  • 有給休暇の取得率
  • 残業時間の実態
  • 離職率と平均勤続年数

これらの情報は、転職エージェントを通じて確認できます。

私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じたエージェントについては、以下の記事で実名を挙げて解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

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あなたの人生は、会社の都合より重要

繁忙期に薬局を辞めることは「裏切り」ではありません。

あくまでも最後の手段ではありますが、そうは言っても身体が限界なら、今すぐ逃げるべきです。

民法627条、労働基準法15条、労働基準法5条という3つの法的根拠があれば、繁忙期であろうとなかろうと退職できます。「人が足りない」「迷惑がかかる」という理由で退職を妨害する行為こそ、違法です。

私がこれまで多くの薬剤師を見てきた中で、身体を壊してまで働き続けた人で幸せになった人はいません。一方で、勇気を持って退職し、新しい職場で活躍している薬剤師は数え切れないほどいます。

あなたの市場価値は、あなたが思っているよりずっと高い。繁忙期を理由に我慢する必要はありません。

今の環境で悩み続けたあなたを、誰も責めることはできません。自分の人生を守るために行動することは、決して「裏切り」ではないのです。

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この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

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