【元人事部長が警告】個人情報の取り扱い、薬剤師が知っておくべき法律と日常業務での注意点

2025年11月時点の情報です


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あなたの薬局は大丈夫?個人情報漏洩がキャリアを終わらせる現実

患者さんの処方箋を受け取るたび、あなたは膨大な個人情報を預かっています。

氏名、生年月日、住所、電話番号。さらに病歴、服薬歴、アレルギー情報まで。これらは個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当し、一般的な個人情報よりもはるかに厳格な管理が求められるのです。

処方箋を別の患者の薬袋に入れてしまった。患者リストをプリントアウトしたまま紛失した。お薬手帳の写真をSNSに投稿してしまった。

こうした事故の多くは、法律知識の不足と日常業務での油断から生まれています。

個人情報保護法は2022年4月に大幅改正され、罰則も強化されました。薬剤師個人が刑事責任を問われるケースも増えているのです。今こそこの問題を真剣に考える時だと感じています。

本記事では、元・調剤薬局チェーン人事部長としての経験から、薬剤師が知っておくべき法律知識と、日常業務で実践すべき具体的な対策を解説します。あなた自身のキャリアを守るためにも、最後までお読みいただければ幸いです。


薬剤師が関わる個人情報保護法の基礎知識

個人情報保護法が薬剤師に求める責任とは

薬剤師が扱う患者情報は、個人情報保護法において最も保護レベルの高い「要配慮個人情報」に分類されます。

要配慮個人情報とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪歴、犯罪被害の事実など、不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮が必要な情報です。薬剤師が日常的に扱う病歴、処方内容、服薬状況はすべてこれに該当します。

2022年4月の法改正により、要配慮個人情報の取り扱いルールはさらに厳格化されました。具体的には以下の点が変更されています。

まず、個人データの漏洩が発生した場合、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務化されました。報告を怠った場合、法人には最大1億円以下の罰金が科されます。薬剤師個人も刑事責任を問われる可能性があるのです。

次に、本人の権利が強化されました。患者は自分の個人データの開示請求、訂正請求、利用停止請求ができます。薬局側はこれに応じる義務があり、対応を怠れば行政指導の対象となります。

薬剤師法と個人情報保護法の関係性

薬剤師には刑法第134条第2項により守秘義務が課されています。この守秘義務と個人情報保護法の関係を正しく理解している薬剤師は意外と少ないのです。 薬剤師法の守秘義務は、業務上知り得た秘密を漏らしてはならないという刑事罰を伴う規定です。違反した場合、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。※なお、国家公務員薬剤師の場合は国家公務員法によりさらに重い罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)が適用されます。

これは個人情報保護法とは別の法律であり、両方の罰則が同時に適用される可能性があります。

つまり薬剤師は、個人情報保護法と薬剤師法という二重の規制を受けているのです。

厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」によれば、薬局は患者の同意なく個人情報を第三者に提供できません。ただし例外として、生命の危険がある場合や法令に基づく場合などは提供可能とされています。

この例外規定を誤解している薬剤師が多いのです。私が相談を受けたケースでは、患者の家族から電話で服薬状況を聞かれ、「家族だから」という理由で答えてしまった薬剤師がいました。しかし成人患者の情報を家族といえども本人の同意なく提供することは、原則として第三者提供の制限に抵触します。

厚労省ガイダンスでは、同席している場合などは「黙示の同意」があるとみなされますが、電話や不在時の対応には細心の注意と、事前の同意確認が必要です。


日常業務で起こりがちな個人情報漏洩リスク

【危険】調剤室での会話が招く情報漏洩

調剤室での何気ない会話が個人情報漏洩につながるケースは驚くほど多いのです。

「さっきの○○さん、またあの薬増えてたね」「△△さん、最近調子悪いのかな」といった会話を、あなたも一度はしたことがあるのではないでしょうか。調剤室は密室ではありません。待合室に声が漏れている可能性を常に意識すべきです。

ある事例では、薬剤師同士の会話を待合室の患者が聞いており、「自分の病気のことを話されていた」とクレームになりました。調剤室と待合室の間の壁が薄く、声が筒抜けだったのです。

さらに危険なのは、近隣住民の噂話が調剤室で話題になるケースです。「あの人、最近見ないと思ったら入院してたらしいよ」「○○さん、またあの薬もらいに来てる」など、患者のプライバシーを軽んじる発言は完全にアウトです。

調剤室での会話ルールを明確化している薬局は意外と少ないのが現状です。以下のルールを徹底してください。

患者の個人情報に関する会話は必要最小限にする。患者の氏名は呼ばず、受付番号で呼称する。調剤室のドアは必ず閉める。これだけで情報漏洩リスクは大幅に減少します。

処方箋・薬袋の取り違えが招く重大事故

処方箋と薬袋の取り違えは、個人情報漏洩の典型例です。

A さんの処方箋がBさんの薬袋に入ってしまった。Bさんはその処方箋を見て、Aさんの病名、処方内容、通院先の医療機関をすべて知ることになります。これは明確な個人情報漏洩であり、薬剤師法違反にも該当する可能性があります。

私が聞いた事例では、ある患者が他人の処方箋が入っていたことに気づき、その内容がHIV治療薬だったため大きな問題になったとのことでした。処方箋を受け取った患者は「もし自分の病気が他人に知られたらと思うとゾッとする」と強く抗議し、最終的に薬局は謝罪と再発防止策の提示を余儀なくされたそうです。

この事故の原因は、調剤棚の整理不足とダブルチェックの形骸化です。忙しい時間帯になると、複数の患者の処方箋が調剤台に混在し、取り違えのリスクが高まるのです。

取り違え防止のための具体的対策は以下の通りです。

調剤台には一度に一人分の処方箋のみを置く。薬袋への封入時に必ず処方箋と氏名を照合する。最終監査時に薬袋の外側と中身の氏名を声出し確認する。これらを徹底するだけで、取り違え事故は激減します。

お薬手帳と電子データの管理ミス

お薬手帳の取り扱いも個人情報保護の観点から注意が必要です。

患者がお薬手帳を忘れた場合、薬局で一時的に預かることがあります。しかし預かったお薬手帳を調剤台に放置したり、他の患者の目に触れる場所に置いたりすることは個人情報保護法違反です。

さらに深刻なのは、お薬手帳の写真をスマートフォンで撮影し、SNSに投稿してしまうケースです。「こんな珍しい処方があった」「この組み合わせは勉強になる」と軽い気持ちで投稿した写真から、患者が特定されてしまう可能性があるのです。

問題となったケースでは、新人薬剤師が学習目的でお薬手帳を撮影し、個人のクラウドストレージに保存していました。患者の氏名や生年月日は写っていなかったものの、薬局名と処方内容から患者が特定される可能性があり、重大な問題となりました。

電子お薬手帳の管理も要注意です。薬局の端末に患者の電子お薬手帳データが表示されたまま放置されていないでしょうか。他の患者や来客から画面が見える位置に端末が置かれていないでしょうか。

お薬手帳と電子データの管理ルールを以下の通り徹底してください。

預かったお薬手帳は引き出しなど他人の目に触れない場所で保管する。お薬手帳の撮影は業務上必要な場合を除き禁止する。電子お薬手帳の画面は使用後すぐに閉じる。これらの基本ルールを守るだけで、情報漏洩リスクは大幅に低減します。


【完全版】個人情報保護のための実践対策

患者情報の適切な管理体制を構築する

個人情報保護で最も重要なのは、組織としての管理体制です。

しかし多くの調剤薬局では、個人情報保護に関する責任者が明確でなく、ルールも曖昧なまま運用されています。

個人情報保護委員会のガイドラインによれば、すべての事業者は個人情報保護方針を策定し、従業員に周知徹底する義務があります。薬局でも同様です。

まず薬局内で個人情報保護責任者を明確に定めてください。通常は管理薬剤師がこの役割を担います。責任者は個人情報の取り扱いルールを作成し、全スタッフに教育する責任があります。

次に患者情報へのアクセス権限を明確化してください。レセプトコンピュータや電子薬歴システムに誰でもアクセスできる状態は危険です。IDとパスワードを個人ごとに設定し、不要なアクセスを制限します。

私が推奨する管理体制は以下の通りです。

個人情報保護責任者を選任し、店舗内に掲示する。個人情報取り扱い規程を作成し、全スタッフに配布する。年1回以上の個人情報保護研修を実施する。患者情報へのアクセスログを定期的にチェックする。これらを実行している薬局では、個人情報トラブルの発生率が明らかに低いのです。

廃棄書類の適切な処理方法

処方箋や薬袋の控え、レセプトなど、薬局では毎日大量の個人情報が記載された書類が発生します。これらの廃棄方法を誤ると、重大な情報漏洩につながるのです。

個人情報が記載された書類は、必ずシュレッダーで裁断してから廃棄しなければなりません。しかしシュレッダーにも注意点があります。クロスカット方式でない単純な裁断では、復元される可能性があるのです。

廃棄書類の適切な処理手順は以下の通りです。

処方箋の控えは法定保存期間(3年間)経過後に廃棄する。廃棄時は必ずクロスカット方式のシュレッダーを使用する。大量の書類廃棄は専門業者に委託し、溶解処理を行う。廃棄記録を作成し、いつ誰が何を廃棄したか記録する。

これらの手順を守ることで、廃棄時の情報漏洩リスクをゼロに近づけることができます。

システムセキュリティとパスワード管理

レセプトコンピュータや電子薬歴システムのセキュリティ対策は、個人情報保護の要です。

しかし多くの薬局で、パスワードが「123456」のような推測しやすいものだったり、全員が同じパスワードを使っていたりする状況を私は何度も目撃しました。これでは外部からの不正アクセスはもちろん、内部からの情報持ち出しも防げません。

2024年の医療機関へのサイバー攻撃が社会問題化しました。薬局も例外ではないのです。ランサムウェアに感染し、患者データが暗号化されて業務が停止する可能性が出てきています。

システムセキュリティで最低限実施すべき対策は以下の通りです。

パスワードは12文字以上で英数字と記号を組み合わせる。パスワードは3カ月ごとに変更する。システムへのログイン時には必ず個人IDを使用する。USBメモリなどの外部記憶媒体への患者データのコピーを禁止する。ウイルス対策ソフトを最新の状態に保つ。

特に重要なのは、システムからのログアウトの徹底です。席を離れる際に画面をそのままにしていないでしょうか。たった数分の離席でも、その間に第三者がデータを閲覧できてしまいます。

私が推奨するのは、自動ログアウト機能の設定です。一定時間操作がない場合、自動的にログアウトする設定にすることで、ログアウト忘れを防ぐことができます。


個人情報漏洩が発生した際の対応手順

初動対応が被害拡大を防ぐ

個人情報漏洩が発覚した場合、初動対応の速さと適切さが被害の大きさを左右します。

個人情報漏洩が発覚した際の初動対応は以下の通りです。

まず直ちに管理薬剤師に報告してください。自己判断で対応を遅らせることは厳禁です。次に漏洩の範囲と内容を正確に把握します。誰の、どんな情報が、誰に、どの程度漏れたのかを明確にするのです。

そして速やかに被害者である患者に連絡し、事実関係を説明して謝罪します。この際、言い訳をせず事実を正直に伝えることが重要です。患者への説明と謝罪を怠ると、後々の訴訟リスクが高まります。

さらに漏洩の原因を分析し、再発防止策を立案します。単なる個人のミスで片付けるのではなく、システムや業務フローに問題がなかったか検証するのです。

個人情報保護委員会への報告義務

2022年4月の法改正により、一定規模以上の個人情報漏洩が発生した場合、個人情報保護委員会への報告が義務化されました。

報告が必要なのは以下のケースです。

要配慮個人情報が漏洩した場合。不正アクセスにより個人データが漏洩した場合。1000人以上の個人データが漏洩した場合。これらに該当する場合、漏洩を知った日から速やかに、遅くとも3〜5日以内に報告しなければなりません。

報告を怠った場合、法人には1億円以下の罰金が科される可能性があります。個人にも刑事責任が及ぶことがあるのです。

報告は薬局の経営者または管理薬剤師が行いますが、現場の薬剤師も報告義務の存在を知っておくべきです。情報漏洩を発見したら、すぐに管理薬剤師に報告し、必要に応じて個人情報保護委員会への報告を促してください。

再発防止と信頼回復のために

個人情報漏洩が発生した後、最も重要なのは再発防止策の実施と信頼回復です。多くの薬局では、事故後に形だけの再発防止策を作成し、実際には何も変わらないまま同じような事故を繰り返しています。これでは患者の信頼を回復することはできません。

再発防止策は具体的で実行可能なものでなければならないのです。「気をつける」「注意する」といった抽象的な対策では意味がありません。

効果的な再発防止策の例を以下に示します。

処方箋の取り違えが原因なら、バーコード管理システムを導入する。調剤室での会話が問題なら、患者情報に関する会話ルールを明文化し、定期的にチェックする。システムの不正アクセスが原因なら、アクセスログの監視を強化し、不審なアクセスを即座に検知する仕組みを作る。

そして全スタッフに対して再教育を実施します。事故の詳細、原因、再発防止策を共有し、全員が同じ認識を持つことが重要です。

信頼回復には時間がかかります。しかし誠実に対応し、確実に再発を防ぐことで、患者は再び薬局を信頼してくれるようになるのです。


より良い職場環境を求めるあなたへ

個人情報保護の体制が整っていない薬局で働き続けることは、あなた自身のキャリアにとって大きなリスクです。

もし今の職場で個人情報保護に関する教育が不十分だったり、管理体制が曖昧だったりするなら、それは将来的にあなたが責任を問われるリスクを抱えているということです。

あなたのキャリアを守るためには、個人情報保護の体制が整った薬局で働くことが重要です。面接時に以下の質問をすることで、その薬局の個人情報保護への意識を確認できます。

個人情報保護責任者は誰か。個人情報保護に関する研修は年何回実施しているか。過去に個人情報漏洩事故が発生したことがあるか、その際どう対応したか。

これらの質問に明確に答えられる薬局なら、個人情報保護の体制がしっかりしていると判断できます。

もし転職を考えているなら、個人情報保護の体制が整った薬局を見つけるために、薬剤師専門の転職エージェントを活用することをお勧めします。

私が人事部長として多くの紹介会社と付き合う中で、信頼できたのは「求人票のデータ」だけでなく、「現場の空気感」まで足を使って確認しに来てくれる担当者でした。

私たちの薬局の「規律を重んじる厳しい雰囲気(コンプライアンス意識)」を肌で理解し、それに合う薬剤師さんだけを紹介してくれたのは、以下の3社です。

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あなたの市場価値は、あなたが守る情報の重要性と同じくらい高い

個人情報保護は、薬剤師としての専門性の一部です。患者さんは私たちに、最もプライベートな情報を託してくれます。病気のこと、飲んでいる薬のこと、家族のこと。それらを守ることは、薬剤師としての使命なのです。

私が人事部長として多くの薬剤師と面談する中で感じたのは、真面目で責任感の強い薬剤師ほど、この問題について真剣に悩んでいるということでした。「今の薬局の管理体制で大丈夫だろうか」「もし事故が起きたら自分はどうなるのだろう」と。

その不安は正しいのです。個人情報保護の体制が不十分な薬局で働き続けることは、あなた自身のキャリアを危険にさらすことになります。今の職場で不安を感じているなら、その知識とスキルを活かせる新しい職場を探すことも選択肢の一つです。

薬剤師としてのあなたのキャリアは、あなた自身が守るべきものです。患者さんの情報を守るように、あなた自身の未来も守ってください。

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この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

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