「休んだ気がしない」薬剤師へ|元人事部長が教える「脳の強制オフ」と「職場を見切る」基準

alt="薬剤師 転職"

2025年12月時点の情報です


目次

あなたの休日は「本当の休日」になっていますか?

日曜日の夕方、ソファでくつろいでいるはずなのに、頭の中では明日の処方箋のことが気になっている。夜、布団に入っても「あの患者さんの服薬指導、大丈夫だっただろうか」と考えてしまう。

そんな経験はありませんか?

私はこれまで、多くの薬剤師からこの悩みを聞いてきました。「休んでいるのに休めない」という状態は、真面目で責任感の強い薬剤師ほど陥りやすい傾向があります。

厚生労働省の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関して強い不安やストレスを感じている労働者の割合は52.9%に達しています。決してあなただけではありません。特に薬剤師は、調剤過誤への緊張感や患者対応のプレッシャーが常にかかるため、体感的なストレス値は平均よりもさらに高い傾向にあります。

休日に仕事のことが頭から離れない状態が続くと、心身の疲労が蓄積し、月曜日からのパフォーマンスにも影響します。本記事では、私が人事部長時代に自身の体験として実際に効果があった方法や、脳科学に基づいたオフスイッチの入れ方について具体的に解説します。


薬剤師が「仕事モード」から抜け出せない3つの理由

なぜ薬剤師は休日でも仕事のことを考え続けてしまうのでしょうか。私が人事部長時代に観察してきた経験から、3つの大きな要因があると考えています。

1つ目は「命を預かる責任感」です。

調剤業務は一つのミスが患者の健康や生命に直結します。この緊張感は職場を離れても簡単には消えません。私が面談した30代の女性薬剤師Aさんは、「帰宅してから『あの処方、本当に問題なかったか』と不安になり、スマホで薬の相互作用を何度も調べてしまう」と話していました。

2つ目は「閉鎖的な職場環境」です。

調剤薬局という限られた空間で、少人数のスタッフと長時間過ごすことになります。人間関係のストレスを抱えていると、休日であっても「明日、あの先輩とどう接しようか」と考えてしまいます。ある調査では、薬剤師がストレスを感じる要因として「職場の人間関係」が約5割を占めるという結果も出ています。

3つ目は「デジタル機器による境界線の消失」です。

スマートフォンで薬局のグループLINEを見てしまったり、業務用メールをチェックしてしまったりする習慣はありませんか。休日にも仕事の情報に触れてしまうことで、脳が「仕事モード」から切り替わらなくなります。

あわせて読みたい
正義感が強い薬剤師ほど危ない?元人事が教える「自分を守るメンタル術」とホワイト薬局の基準 2025年11月時点の情報です 真面目な薬剤師ほど、心が壊れやすいという現実 「患者さんのために正しい服薬指導を」「医療安全のためにダブルチェックを徹底」「ルールは...

脳科学が教える「考え続けてしまう」メカニズム

休日に仕事のことが頭から離れないのは、実は脳の仕組みに原因があります。

脳科学の研究で明らかになった「デフォルトモードネットワーク(DMN)」という概念をご存じでしょうか。これは、ぼんやりしているときや何もしていないときに活性化する脳のネットワークです。

驚くべきことに、このDMNは脳のエネルギー消費の60〜80%を占めるとも言われています。つまり、何も考えていないように見えても、脳は常に活動しているのです。そして、DMNが活性化しているとき、私たちは無意識のうちに過去の出来事を振り返ったり、未来の不安を考えたりしてしまいます。

「あの服薬指導は適切だっただろうか」「明日のシフト、一人薬剤師だけど大丈夫だろうか」。こうした思考が勝手に浮かんでくるのは、DMNの働きによるものです。

重要なのは、このDMNを「オフ」にする方法を知ることです。心理学者の研究によると、「考えないようにしよう」と意識すればするほど、かえってそのことを考えてしまう傾向があります。シロクマのことを考えないでくださいと言われると、かえってシロクマが頭に浮かぶのと同じ原理です。

つまり、「仕事のことを考えない」という発想ではなく、「別のことに脳を使う」という発想が必要なのです。

あわせて読みたい
【元人事部長が教える】薬剤師の残業ゼロを実現する業務効率化テクニック10選 2025年10月時点の情報です。 あなたの残業時間、本当に必要なものですか? 毎日の残業が当たり前になっていませんか? 閉局時間を過ぎても終わらない薬歴入力。 休憩時...

実践|心のオフスイッチを入れる5つの技術

では、具体的にどうすれば休日に仕事から心を切り離せるのでしょうか。私が過去に実践し、同僚にも勧めてきた方法を紹介します。

技術1:金曜日の「書き出しタイム」を設ける

週の最終出勤日、退勤前の10分間を使って、頭の中にある仕事の心配事をすべて紙に書き出してください。「月曜日に確認すること」「来週処理する案件」といった形でリスト化します。

書き出すことで、脳は「この情報は保存された」と認識し、休日中に繰り返し思い出そうとしなくなります。私が面談した薬剤師の中で、この習慣を続けた人の多くが「週末の不安が減った」と報告してくれました。

技術2:物理的に仕事の情報を遮断する

休日は、仕事用のスマートフォンを見えない場所にしまいましょう。業務用のカバンも、目につかない場所に置いてください。視界に入ると、それがきっかけで仕事を思い出してしまいます。

LINEの業務グループの通知をオフにすることも効果的です。「緊急の連絡があったらどうしよう」と不安になるかもしれませんが、本当に緊急なら電話がかかってきます。SNSの通知をチェックする習慣を断ち切ることで、脳は「今は仕事の時間ではない」と認識し始めます。

技術3:「集中できる活動」で脳を切り替える

心理カウンセラーが推奨する方法として、料理や楽器演奏、読書など「集中力を要する活動」があります。特に料理は、手順を考えながら進める必要があるため、仕事のことを考える余地がなくなります。

脳科学的に言えば、これは「エグゼクティブネットワーク」を活性化させる行為です。このネットワークが働いているとき、DMNの活動は抑制されます。つまり、何かに没頭することで「勝手に仕事を考えてしまう」状態から抜け出せるのです。

技術4:身体を動かして「今」に集中する

運動は、DMNの過剰な活動を抑制する効果があることが研究で示されています。週に1時間程度の運動でも、メンタルヘルスの改善効果が期待できます。難しければ、1日10分程度のウォーキングでも構いません。

運動中は呼吸や身体の動きに意識が向くため、自然と「今、ここ」に集中できます。散歩をするなら、スマートフォンは家に置いていきましょう。景色を眺めながら歩くだけで、脳のリフレッシュになります。

技術5:休日の「やることリスト」を作る

休日に予定がないと、脳は暇を持て余し、結果として仕事のことを考え始めます。事前に「友人と会う」「映画を見る」「新しいカフェに行く」など、休日中にやりたいことのリストを作っておきましょう。

このリストは仕事のToDoリストとは違い、楽しいことで埋めてください。予定があることで、脳は「今日やるべきこと」を仕事ではなくプライベートの活動として認識します。

あわせて読みたい
やりがいが見つからない時の整理術|離職を決める前に試すチェックリスト 2025年11月時点の情報です 今の職場に「やりがい」を感じられないあなたへ 毎日調剤をこなし、服薬指導を繰り返す。 気づけば「薬剤師として何がしたかったのか」が見え...

人事部長時代に見た「休めない薬剤師」の共通点

私が経験してきた中で、休日に仕事から離れられない人にはいくつかの共通点がありました。

ある40代の男性薬剤師Bさんは、管理薬剤師として店舗を任されていました。責任感が強く、部下のミスも自分の責任と捉える真面目な性格です。休日も「店舗で何か問題が起きていないか」と気になり、つい薬局に電話をかけてしまうことがありました。

私はBさんに伝えました。「あなたが休めないということは、あなたがいないと回らない組織を作ってしまっているということです。それは、マネジメントとして改善の余地があるということでもありますよ」。

Bさんは最初、この言葉に戸惑っていました。しかし、少しずつ業務の委譲を進め、部下を信頼することを学んでいきました。結果として、Bさん自身が休めるようになっただけでなく、部下の成長にもつながりました。

一方で、環境そのものに問題があるケースも少なくありません。慢性的な人手不足で一人薬剤師の日が多い、休日でも頻繁に業務連絡が来る、そもそも有給休暇が取りづらい。こうした職場では、個人の努力だけで「オフスイッチ」を入れることは困難です。

あなたの「休めない」原因が、個人の性格や習慣によるものなのか、職場環境によるものなのか。まずはその切り分けをすることが大切です。


「環境を変える」という選択肢を持つ重要性

休日に仕事のことが頭から離れない状態が長期間続いている場合、それは危険なサインかもしれません。厚生労働省の調査によると、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.4%に達しています。

「自分は大丈夫」と思っている人ほど、気づいたときには限界を超えていることがあります。

もし、今の職場環境自体があなたの心身を消耗させているのであれば、環境を変えることも選択肢として持っておくべきです。

転職を考える際に重要なのは、次の職場で同じ状況に陥らないことです。求人票の「完全週休2日」という文字だけを見て決めてはいけません。実際の残業時間はどうか、休日に業務連絡が来ることはあるか、有給休暇の取得率はどうか。こうした「求人票に載らない情報」を確認することが重要です。

しかし、面接で「休みの日に電話は来ますか?」とは聞けませんよね。「やる気がない」と判断され、不採用になるリスクがあるからです。

ここで、元採用担当として「裏技」をお教えします。

聞きにくい質問こそ、転職エージェントに「代行」させるのです。「本人は意欲的ですが、家庭の事情で連絡の頻度だけ気にしています」とエージェントに悪役になってもらうことで、あなたの評価を下げずに実態を探れます。

こうすることで、エージェントを「盾」にして、あなたの評価を下げずに職場の実態(ブラック度)を探り出すことができます。企業側も紹介会社の手前、嘘をつきにくくなります。

私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じた理由について、以下の記事で生々しく解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

あわせて読みたい
【元人事部長が厳選】採用側から見て「本当に信頼できた」薬剤師転職エージェント3選 2025年11月時点の情報です 採用する側だった私が、なぜ転職エージェントを「選別」するのか 薬剤師の転職市場には、現在100社を超える薬剤師転職エージェントが存在しま...

今日から始められる「小さな一歩」

ここまで読んでいただいた方の中には、「わかってはいるけど、なかなか実践できない」と感じている方もいるかもしれません。

大丈夫です。すべてを一度に変える必要はありません。

まずは今週末、ひとつだけ試してみてください。金曜日の退勤前に5分だけ時間を取り、頭の中の心配事を紙に書き出す。たったそれだけです。

あるいは、土曜日の朝だけ、スマートフォンを別の部屋に置いて朝食を取る。それだけでも、脳に「今は仕事の時間ではない」というメッセージを送ることができます。

小さな習慣の積み重ねが、やがて大きな変化につながります。私が人事部長時代に見てきた中で、うまく休める人と休めない人の違いは、才能や性格ではありませんでした。休むための「仕組み」を持っているかどうかの違いでした


あなたの市場価値は、あなたが思っているより高い

最後にお伝えしたいことがあります。

今の環境で悩み続けてきたあなたを、誰も責めることはできません。責任感が強く、患者のことを真剣に考えているからこそ、休日も仕事が頭から離れないのです。それは決して弱さではありません。

しかし、その真面目さがあなた自身を追い詰めているなら、立ち止まって考える時間が必要です。

薬剤師という資格を持ち、現場で経験を積んできたあなたには、選べる道がたくさんあります。今の職場だけが「正解」ではありません。完全週休2日で、休日に業務連絡が来ることもなく、有給休暇も取りやすい職場は存在します。

⚠️ 12月は「好条件求人」の争奪戦です

正直にお伝えします。12月10日のボーナス支給後は、一年で最も転職希望者が増える人材争奪戦のピークです。 完全週休二日制かつ年収650万以上の求人、本当に残業のない求人は、すぐに埋まってしまう恐れがあります。残り物で妥協しないよう、年内に「求人の枠(席)」だけは確保してください。

ただし、焦って変なエージェントを選ばないでください。

私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。

彼らは、私が求人者として「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報(実際の残業時間や離職率の高さ)まで、求職者に包み隠さず伝えていました。

あなたの市場価値を正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントとその理由を記事にしました。転職に失敗したくない方はぜひご覧ください。

あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。

あなたが心から休める環境を見つけ、月曜日を笑顔で迎えられる日が来ることを願っています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

目次