あなたの老後資金、本当に大丈夫ですか?
「今の職場で定年まで働いたら、退職金はいくらもらえるのだろう」
こんな疑問を抱いたことはありませんか。
薬剤師として日々の業務に追われる中で、退職金や年金制度について深く考える機会は少ないかもしれません。しかし、老後の生活を支える重要な資金源である退職金について、正しい知識を持つことは極めて重要です。
特に近年は、従来の退職一時金制度から確定拠出年金への移行が進んでいます。この変化を理解していないと、数百万円単位で将来受け取れる金額に差が出る可能性があります。
本記事では、薬剤師の退職金の相場から確定拠出年金などの制度の仕組み、さらには転職時の注意点まで、これまでの実務経験に基づいて詳しく解説します。あなたのキャリアプランと老後資金設計の参考にしていただければ幸いです。
薬剤師の退職金、リアルな相場はいくら?
大手チェーンと中小薬局で大きく異なる実態
薬剤師の退職金額は、勤務先の規模や形態によって大きく異なります。
厚生労働省の「就労条件総合調査(平成30年)」等のデータを見ると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で勤続20年のモデル退職金は、全企業規模平均で約600万円〜800万円程度となっています。(※企業規模1,000人以上では約800万円台、それ以下では金額が下がる傾向にあります)
私が現場で見てきた調剤薬局業界の実態と比較すると、大手チェーンの金額感はこの上位層に近い印象です。一方、中小規模の薬局では、退職金制度そのものが存在しないケースも珍しくありません。
勤続年数による退職金の目安
具体的な金額の目安として、大手調剤薬局チェーンの場合を見てみましょう。
勤続5年では100万円から200万円程度、勤続10年では300万円から500万円程度、勤続20年では800万円から1200万円程度、勤続30年以上では1500万円から2500万円程度が一般的な水準です。
ただし、これらはあくまで目安です。同じ勤続年数でも、職位や評価によって金額は変動します。管理薬剤師やエリアマネージャーなどの役職者は、一般薬剤師よりも高額な退職金を受け取れる傾向にあります。
【注意】求人票の「退職金あり」に要注意
ここで重要な注意点があります。求人票に「退職金制度あり」と記載されていても、実際の支給額は大きく異なる可能性があるのです。
私が採用活動をしていた際、競合他社の求人票を分析する機会がありました。「退職金制度完備」と謳っていても、実際には勤続3年未満は支給対象外だったり、支給率が極端に低かったりするケースが多々あることを知りました。
入社までに、以下の点を必ず確認すべきです。
・支給条件として勤続何年から支給対象になるのか
・計算方法はどうなっているのか
・過去の実績として同じ勤続年数の薬剤師が実際にいくら受け取ったのか
・制度変更の有無として今後制度変更の予定はあるのか
これらの質問に明確に答えられない企業は要注意です。しかし、面接の場でこれらをあなた自身が質問するのは避けたほうが無難です。
「権利主張が強い人」「お金にしか興味がない人」というレッテルを貼られ、不採用になるリスクがあるからです。
だからこそ、「聞きにくい質問」はすべて転職エージェント経由で確認してもらうのが鉄則です。優秀なエージェントなら角を立てずに正確な情報を引き出してくれます。この「代理交渉機能」を使うためだけにエージェントを利用しても損はありません。
確定拠出年金とは?薬剤師が知るべき基礎知識
従来の退職金制度との根本的な違い
近年、多くの調剤薬局チェーンが退職一時金制度から確定拠出年金制度へ移行しています。この変化を理解することが、老後資金を最大化するカギとなります。
従来の退職一時金制度は、会社が定めた計算式に基づいて退職時に一括で支給される仕組みでした。一方、確定拠出年金は、会社が毎月一定額を拠出し、従業員自身が運用方法を選択する制度です。
企業型DCと個人型iDeCoの違い
確定拠出年金には、企業型DC(企業型確定拠出年金)と個人型iDeCo(個人型確定拠出年金)の2種類があります。
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員が運用する制度です。大手調剤薬局チェーンの多くが導入しています。掛金は会社負担なので、従業員の給与から天引きされることはありません。
一方、iDeCoは個人が任意で加入する制度です。自分で掛金を拠出し、自分で運用します。企業型DCに加入していても、一定の条件下でiDeCoに同時加入できる場合があります。
私が調査したケースでは、企業型DCの掛金は月額1万円から3万円程度が一般的でした。これは年間12万円から36万円の積立となり、30年間勤務すれば360万円から1080万円の元本となります。
運用次第で受取額が大きく変わる現実
確定拠出年金の最大の特徴は、運用次第で将来の受取額が変動することです。
例えば、月額2万円を30年間積み立てた場合、元本は720万円です。しかし、年利3%で運用できれば約1164万円、年利5%なら約1663万円になります。逆に、元本保証型の定期預金のみで運用した場合、ほとんど増えません。
私の知人は、確定拠出年金を積極的に運用し、10年間で元本の1.5倍にまで増やしていました。一方、別の知人は、リスクを恐れて定期預金のみで運用し、ほとんど増えませんでした。
この差は、最終的に数百万円単位の違いを生む可能性があります。
確定拠出年金のメリットとデメリット
【メリット】税制優遇と転職時の持ち運び
確定拠出年金には、大きく3つのメリットがあります。
第一に、掛金が全額所得控除の対象となることです。企業型DCの場合は会社負担なので従業員の税負担は変わりませんが、iDeCoの場合は大きな節税効果があります。
第二に、運用益が非課税であることです。通常の投資では運用益に約20%の税金がかかりますが、確定拠出年金では非課税です。長期運用では、この差が大きな金額になります。
第三に、転職時にも持ち運びできることです。従来の退職一時金制度では、転職すると勤続年数がリセットされることが多くありました。しかし、確定拠出年金は転職先に制度があれば、積立金をそのまま移管できます。
私が採用した中途薬剤師の一部は、前職の確定拠出年金を移管していました。これにより、キャリアの途中で転職しても、老後資金の積立を継続できるのです。
【デメリット】60歳まで引き出せない制約
一方で、確定拠出年金には重要なデメリットもあります。
最大のデメリットは、原則60歳まで引き出せないことです。急な出費が必要になっても、積立金を使うことはできません。
また、運用リスクは自己責任です。株式や投資信託で運用した場合、元本割れする可能性もあります。リーマンショック時に大きく資産を減らしたと仰られる方もいました。
さらに、運用の知識が必要です。投資の経験がない薬剤師にとって、どの商品を選べばいいのか判断するのは難しいかもしれません。
退職金制度の種類と仕組み
退職一時金制度の計算方法
従来型の退職一時金制度では、一般的に以下の計算式が使われます。
退職金額=基本給×支給率×勤続年数係数
支給率は企業によって異なりますが、私が勤めていた薬局では、自己都合退職で0.5〜1.0、会社都合退職で1.5〜2.0程度でした。勤続年数係数は、勤続年数が長いほど高くなる設計です。
例えば、基本給30万円、支給率0.8、勤続20年の薬剤師の場合、30万円×0.8×20年=480万円となります。
ただし、この計算式はあくまで一例です。企業によって全く異なる計算方法を採用している場合もあります。
確定給付企業年金(DB)との違い
確定給付企業年金(DB)は、退職時の給付額があらかじめ確定している制度です。確定拠出年金(DC)とは異なり、運用リスクは会社が負います。
DBのメリットは、将来もらえる金額が予測しやすいことです。私が知る限り、調剤薬局業界でDBを導入している企業は少数です。
中退共(中小企業退職金共済制度)の活用
中小規模の薬局では、中退共を利用しているケースがあります。
中退共は、独立行政法人が運営する退職金制度です。会社が毎月掛金を納付し、従業員の退職時に中退共から直接退職金が支払われます。
中退共のメリットは、会社の倒産リスクから退職金が守られることです。また、掛金は全額損金算入できるため、会社側の税制メリットもあります。
ただし、支給額は中退共の定める基準に従うため、大手企業の退職金と比べると少額になる傾向があります。私が見た範囲では、勤続20年で300万円から500万円程度が相場でした。
転職時の退職金、ここに注意
【重要】勤続年数がリセットされるケース
転職を検討する際、退職金について最も注意すべきは勤続年数の扱いです。
多くの企業では、中途採用者の勤続年数は入社日からカウントされます。つまり、前職での勤続年数は考慮されません。
転職を繰り返すと、退職金の面では不利になる可能性があります。
確定拠出年金の移管手続き
一方、確定拠出年金は転職時に移管できます。
転職先に企業型DCがあれば、前職の積立金を移管することで、継続して運用できます。転職先に企業型DCがない場合は、個人型iDeCoに移管する必要があります。
退職金の受け取り方と税金対策
退職金の受け取り方には、一時金として受け取る方法と年金として分割で受け取る方法があります。
一時金で受け取る場合、退職所得控除が適用されます。勤続20年以下の場合は40万円×勤続年数、20年超の場合は800万円+70万円×(勤続年数−20年)が控除額です。
例えば、勤続30年で2000万円の退職金を一時金で受け取る場合、控除額は800万円+70万円×10年=1500万円となり、課税対象は500万円です。さらにこの半分の250万円に対して所得税が課されます。
一方、年金として受け取る場合は、雑所得として課税されます。どちらが有利かは、個人の状況によって異なります。
私がアドバイスしたいのは、税理士やファイナンシャルプランナー(FP)に相談してみることです。特に高額な退職金を受け取る場合、専門家のアドバイスで数十万円単位の節税になる可能性があります。
老後資金を最大化するための戦略
20代・30代から始める資産形成
老後資金を最大化するには、できるだけ早く資産形成を始めることが重要です。
20代・30代の薬剤師であれば、確定拠出年金で積極的にリスクを取った運用が可能です。株式型の商品を中心に、長期的な成長を目指すべきです。
私が面談した20代の薬剤師Fさんは、確定拠出年金を外国株式インデックスファンドで運用していました。「40年近く運用できるので、短期的な値動きは気にしません」と話していたのが印象的でした。
また、企業型DCに加えて、個人でiDeCoやNISAも活用することをお勧めします。複数の制度を組み合わせることで、より多くの老後資金を準備できます。
40代・50代の戦略的アプローチ
40代・50代になると、老後までの期間が短くなるため、運用戦略を見直す必要があります。
徐々に安定資産の比率を高めることが必要です。株式100%の運用から、債券や定期預金を組み入れたバランス型に移行するのです。
また、この年代では転職によるキャリアアップも重要な選択肢です。年収が上がれば、確定拠出年金の掛金も増える可能性があります。
ただし、転職時には退職金制度を必ず確認してください。年収が上がっても、退職金制度が充実していなければ、トータルでは不利になる可能性があります。
転職エージェントを活用した退職金の確認方法
求人票だけでは分からない退職金の実態
転職活動において、退職金制度の詳細を正確に把握することは容易ではありません。
求人票には「退職金制度あり」「確定拠出年金導入」といった記載はあっても、具体的な金額や条件は書かれていないことが多いのです。
私が他社の求人票を調査していた際も、競合他社に情報を知られたくないという理由なのか、詳細を記載されていないケースを多く拝見しました。
私が信頼したエージェントが持つ「本当の情報」
ここで活用すべきなのが、薬剤師専門の転職エージェントです。
これらのエージェントは、過去の転職成功者からのフィードバックや、企業との長年の取引関係を通じて、求人票には載らない情報を蓄積しているのです。
ただ重要なことは、「現場のリアルな情報」を持っているエージェントを選ばなければ意味がないということです。人事として数多くの担当者と対峙してきた私が、「この会社なら求職者のために嘘をつかない」と確信しているのが以下の3社です。退職金のみならず、実労働時間、昇給実績、退職率など、表に出ない情報こそが職場選びの鍵なのです。

例えば、実際の退職金支給実績、確定拠出年金の掛金額、退職金制度の変更予定など、個人では入手困難な情報を提供してもらえます。
今日から始める老後資金対策
あなたの老後資金、本当にこのままで大丈夫でしょうか。
老後資金の準備は、今日から始めることができます。まずは、現在の職場の退職金制度を正確に把握してください。就業規則や給与明細を確認し、不明な点は人事部に問い合わせましょう。
確定拠出年金に加入している方は、運用状況を確認してください。定期預金のみで運用している場合、運用商品の見直しを検討する価値があります。
もし現在の職場に退職金制度がない、または不十分だと感じたなら、今すぐ行動を起こすべきです。 老後資金で後悔する方は、決まって「いつか考えよう」と先延ばしにした方々です。

