医療DXで生き残る薬剤師とは?取り残されないためのスキルとキャリア戦略

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※2025年11月時点の情報です

目次

医療DXの波が、あなたのキャリアを左右する時代

「このままで、自分の薬剤師としての価値は維持できるのか?」

マイナ保険証の利用率による加算の差、電子処方箋への対応義務化、そして電子カルテ情報共有サービスの本格稼働。2025年を境に、医療現場のデジタル化は急加速しています。

厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均年収は599.3万円です。一見安定した数字に見えますが、問題はここからです。医療DXへの対応力の差が、今後の収入格差を生む時代が到来しています。

実際、2025年4月から医療DX推進体制整備加算の要件が厳格化され、電子処方箋に対応できない薬局は加算を算定できなくなりました。マイナ保険証の利用率も段階的に引き上げられ、2026年3月以降は最大70%という高いハードルが設定されています。

対応できる薬局とできない薬局で、月々数万円の収益差が生まれる。これは経営面だけの問題ではありません。

収益性の高い「DX対応薬局」は、そこで働く薬剤師への還元(給与・設備)も手厚くなる傾向にあります。つまり、「医療DXへの対応力」を身につけることは、あなた自身の「年収」と「働きやすさ」を守る最強の防具になるのです。

これまで多くの薬剤師のキャリアを見てきた経験から断言します。今この瞬間、あなたが医療DXへの対応を「自分事」として捉えられるかどうかが、5年後のあなたの市場価値を大きく左右します。

本記事では、医療DXの実態と今後の展開を正確に理解し、薬剤師として生き残るための具体的なスキルとキャリア戦略を解説します。


第一章:医療DXの正体を知る──2026年以降、薬剤師に何が求められるのか

医療DXとは何か?国が推進する3つの柱

医療DXとは、デジタル技術を活用して医療の効率化と質の向上を実現する取り組みです。厚生労働省は「医療DX令和ビジョン2030」において、以下の3つを柱として推進しています。

【柱1】全国医療情報プラットフォームの創設
患者の医療情報を全国の医療機関で共有できる仕組みです。2025年度中に電子カルテ情報共有サービスが本格稼働し、診療情報提供書や退院時サマリーなどの「3文書6情報」が共有されます。

【柱2】電子カルテ情報の標準化
医療機関ごとにバラバラだった電子カルテのフォーマットを統一し、情報連携を円滑にします。標準型電子カルテシステムの開発が進行中です。

【柱3】診療報酬改定DX
レセプト請求や診療報酬の算定プロセスをデジタル化し、医療機関の事務負担を軽減します。

この3つの柱を支える基盤として、マイナンバーカードを活用したオンライン資格確認と電子処方箋の普及が急務とされています。

2025年4月改定で何が変わったのか

2025年4月、診療報酬改定の経過措置が終了し、猶予期間が終わりました。これは、国が求める薬局機能の『新基準(スタンダード)』が明確化されたと言えます。この改定により、医療DX推進体制整備加算の要件が大幅に見直されています。

調剤報酬における医療DX推進体制整備加算は、マイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無によって3つの区分に分かれました。

重要なのは、2025年4月から電子処方箋への対応が必須要件になった点です。電子処方箋に未対応の薬局は、マイナ保険証の利用率がどれほど高くても、この加算を算定できません。

さらに、マイナ保険証利用率の要件は今後も段階的に引き上げられます。2025年10月からは加算1で60%、2026年3月からは70%という高い水準が求められる予定です。

電子処方箋の普及率が示す現実

ここで冷静に現状を見てみましょう。2025年1月時点での電子処方箋の導入率は以下の通りです。

  • 全体:22.5%
  • 薬局:63.2%
  • 病院:3.9%
  • 医科クリニック:9.9%
  • 歯科クリニック:1.7%

薬局の導入率は60%を超えていますが、処方箋を発行する医療機関側の導入が極めて低調です。この状況で薬局側だけが電子処方箋に対応しても、実際の運用は限定的にならざるを得ません。

しかし、だからといって対応を先送りにするのは危険です。2025年9月30日までに電子カルテ情報共有サービスへの参加体制も整える必要があり、対応できない薬局は段階的に加算を失います。


第二章:生き残る薬剤師が身につけるべき3つのスキル

スキル1:デジタルリテラシー──システムを「使いこなす」力

医療DXの時代、薬剤師に求められるのは単なる「操作ができる」レベルではありません。システムを理解し、効率的に活用し、トラブル時に適切に対応できる力が必要です。

具体的に身につけるべきスキル

  1. 電子処方箋管理サービスの理解
    電子処方箋では、処方情報の登録、調剤結果の速やかな登録、重複投薬チェックなどの機能を使いこなす必要があります。紙の処方箋とは異なる運用フローを理解し、患者への説明も的確に行えることが求められます。
  2. オンライン資格確認システムの活用
    マイナ保険証による資格確認だけでなく、取得した薬剤情報や診療情報を実際の服薬指導に活かす技術が重要です。「システムで確認できる」と「服薬指導に活かせる」は別次元のスキルです。
  3. 電子カルテ情報共有サービスへの対応
    2025年度中に本格稼働する電子カルテ情報共有サービスでは、他の医療機関の診療情報にアクセスできます。これらの情報を適切に読み解き、患者の全体像を把握する力が求められます。
  4. データ管理とセキュリティ意識
    医療情報を扱う以上、情報セキュリティは必須です。パスワード管理、アクセス権限の理解、個人情報保護法への対応など、基本的なセキュリティ知識を持つ必要があります。

優秀な薬剤師は、新しいシステムに対して「難しそう」ではなく「どう活用すれば患者さんのためになるか」という視点で向き合っています。この姿勢の差が、5年後のキャリアを分けます。

スキル2:地域包括ケアにおける連携力──多職種との協働

2025年問題により、団塊の世代がすべて75歳以上となり、医療・介護のニーズが急増しています。この状況下で薬剤師に求められるのは、地域包括ケアシステムの一員として機能する能力です。

なぜ連携力が重要なのか

医療DXは情報共有を容易にしますが、それを活かせるかは薬剤師の連携力次第です。医師、看護師、ケアマネジャー、訪問介護員など、多職種との円滑なコミュニケーションが不可欠です。

在宅医療の現場では、薬剤師が患者宅を訪問し、服薬状況を確認し、他職種と情報共有することが日常的に求められます。電子カルテ情報共有サービスによってデータ上の連携は進みますが、対面でのコミュニケーション力も同時に必要です。

連携力を高める具体的な方法

  1. 地域の医療・介護関係者との勉強会に参加する
    薬剤師会や地域包括支援センターが主催する多職種連携の勉強会に積極的に参加しましょう。顔が見える関係を作ることで、実際の連携がスムーズになります。
  2. 在宅医療の経験を積む
    在宅医療は多職種連携の最前線です。病院や調剤薬局で働いている方も、可能であれば在宅医療の現場を経験することで、連携の重要性を実感できます。
  3. 疑義照会のスキルを磨く
    医師への疑義照会は、最も日常的な連携の場です。単に確認するだけでなく、患者の状態を踏まえた提案ができるレベルを目指しましょう。

優秀な薬剤師は、例外なく連携力に優れていました。ある薬剤師は、在宅医療でケアマネさんから得た情報をもとに、医師に処方変更を提案し、患者のQOL向上に貢献していました。こうした実績が、昇進や年収アップにつながるのです。

スキル3:対人業務へのシフト──調剤だけでは生き残れない

医療DXの進展により、調剤業務の一部外部委託が検討されています。厚生労働省の「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」では、安全性を担保した上で調剤業務の外部委託を検討することが示されています。

つまり、調剤機器の進化や業務外部委託の検討が進む中で、『対物業務』のウェイトは減り、薬剤師にしかできない『対人業務』の価値が相対的に高まっています。生き残る薬剤師は、対人業務にシフトしなければなりません。

対人業務で差をつけるポイント

  1. 服薬指導の質を高める
    マニュアル通りの説明ではなく、患者一人ひとりの生活背景や理解度に合わせた指導が求められます。オンライン資格確認で得られる過去の薬剤情報を活用し、より深い服薬指導を実践しましょう。
  2. かかりつけ薬剤師として患者との関係を構築する
    かかりつけ薬剤師として患者から選ばれることは、薬剤師としての価値を証明する最も確実な方法です。24時間対応や在宅対応など、責任は重くなりますが、その分やりがいと評価も得られます。
  3. 健康サポート機能を強化する
    処方箋がなくても相談できる「健康サポート薬局」の機能を強化することで、地域住民の健康増進に貢献できます。これは2025年問題における健康寿命延伸の取り組みとも合致します。
  4. 専門性を深める認定薬剤師の取得
    がん、感染症、糖尿病、精神科など、特定領域の認定薬剤師資格を取得することで、専門性の高い対人業務を担えます。資格手当が支給される職場も多く、年収アップにも直結します。

ある薬剤師は、患者からの信頼が厚く、「あの薬剤師さんがいるからこの薬局に来る」という声が複数届いていました。こうした薬剤師こそが、医療DX時代に生き残れる人材です。


第三章:キャリア戦略──医療DX時代の薬剤師としての立ち位置を決める

戦略1:今の職場で医療DXの推進役になる

もしあなたの職場が医療DXへの対応に遅れているなら、それはチャンスです。自ら率先してDX推進の役割を担うことで、職場での存在価値を高められます。

具体的なアクションプラン

  1. 医療DXに関する情報を収集し、共有する
    厚生労働省のホームページや薬剤師会の情報を定期的にチェックし、職場のスタッフに共有しましょう。情報を持っている人は、組織内で頼りにされます。
  2. 電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの導入を提案する
    導入に向けた課題を整理し、上司や経営者に具体的な提案を行いましょう。補助金制度の情報も併せて提示すると、前向きに検討されやすくなります。
  3. マイナ保険証の利用促進に取り組む
    患者への丁寧な説明、院内掲示物の工夫など、マイナ保険証利用率を上げる施策を実行しましょう。利用率向上は加算の算定に直結し、薬局の収益に貢献します。

戦略2:転職でDX先進薬局に移る

現在の職場が医療DXに消極的で、改善の見込みがない場合、転職も有力な選択肢です。DX対応が進んでいる薬局では、先進的な環境で経験を積めます。

DX先進薬局の見分け方

  1. 求人票での確認ポイント
  • 電子処方箋に対応済みか
  • オンライン服薬指導を実施しているか
  • 医療DX推進体制整備加算を算定しているか
  • 在宅医療に積極的に取り組んでいるか
  1. 面接で必ず確認すべき質問
  • 電子処方箋の運用状況と今後の展開
  • マイナ保険証の現在の利用率
  • 電子カルテ情報共有サービスへの対応予定
  • 薬剤師のDXスキル向上に向けた研修制度
  1. 避けるべき薬局の特徴
  • 経営者がDXに無関心、または否定的
  • 「今のままで問題ない」という姿勢が強い
  • 薬剤師の意見を聞かない風土


転職活動において、求人票だけで「その薬局が本気でDXに取り組んでいるか」を見抜くのは至難の業です。
だからこそ、現場の内部事情に精通した薬剤師職業紹介会社をパートナーにする必要があります。

私が人事部長として多くのエージェントと関わる中でとりわけ薬局の実態把握に非常に注力していたのがこの3社でした

下記記事にて、「なぜこの3社か」を人事視点で生々しい実体験を踏まえ、暴露しています。

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転職を決断する際、重要なのは「今すぐ決める」必要はないということです。まずは情報収集から始め、自分の市場価値を把握することが大切です。

戦略3:専門性を高めてキャリアを差別化する

医療DX時代において、他の薬剤師との差別化を図る最も確実な方法は、専門性を高めることです。認定薬剤師や専門薬剤師の資格取得は、あなたのキャリアの選択肢を大きく広げます。

キャリアアップにつながる認定・専門薬剤師資格

  1. がん薬物療法認定薬剤師
    抗がん剤治療の専門知識を持つ薬剤師として、病院や在宅医療で需要が高まっています。高齢化に伴いがん患者が増加する中、この資格は大きな強みになります。
  2. 感染制御専門薬剤師
    新型コロナウイルス感染症の経験から、感染制御の重要性が再認識されました。病院だけでなく、高齢者施設や薬局でも需要があります。
  3. 糖尿病療養指導士
    生活習慣病患者の増加に伴い、糖尿病の療養指導ができる薬剤師の価値が高まっています。薬局でも糖尿病患者への継続的な支援が求められます。
  4. 在宅療養支援認定薬剤師
    2025年問題により在宅医療のニーズが急増しています。在宅に対応できる薬剤師は、今後ますます求められるでしょう。

あなたの決断が、5年後のキャリアを決める

医療DXの波は、もう止められません。2025年4月の改定は始まりに過ぎず、今後も段階的に要件は厳しくなります。2030年に向けて、医療現場は劇的に変化していくでしょう。

この変化を「大変だ」と感じるか、「チャンスだ」と捉えるかで、あなたの未来は変わります。

あなたが今日から始められること

  1. 情報収集を習慣化する
    厚生労働省のホームページ、薬剤師会の情報、業界ニュースを定期的にチェックしましょう。知っているか知らないかで、行動が変わります。
  2. 職場での小さな行動から始める
    マイナ保険証の利用を患者に勧める、電子お薬手帳の活用を提案するなど、できることから始めましょう。小さな行動の積み重ねが、大きな変化を生みます。
  3. 自分のキャリアプランを描く
    5年後、10年後、どんな薬剤師になりたいですか。そのために今何をすべきか、具体的に考えましょう。漠然とした不安ではなく、明確な目標を持つことが重要です。
  4. 転職を視野に入れた情報収集を始める
    転職するかどうかは別として、自分の市場価値を知ることは大切です。薬剤師職業紹介会社に登録し、どんな求人があるのか、自分にどんな選択肢があるのかを把握しましょう。

私が人事部長として多くの薬剤師を見てきた中で、成功した人には共通点がありました。それは、「変化を恐れず、自ら学び、行動した」ことです。逆に、「様子を見よう」と先送りにした人は、気づいたときには取り残されていました。

あなたの薬剤師としての価値は、あなた自身が思っているよりもずっと高いはずです。今の職場で正当に評価されていないなら、それは職場の問題であって、あなたの能力の問題ではありません。

医療DXという大きな変化の中で、自分のキャリアを主体的に切り開いていく。その決断をするのは、今です。

あなたが理想とするキャリアを実現するために、あなたの市場価値が暴落する前に、まずは『今の自分の適正年収』や『DX対応薬局の求人動向』を知るつもりで、無料登録だけ済ませておきましょう。

自分一人で悩むより、プロの持っている「非公開情報」に触れるだけで、選択肢は一気に広がります。薬剤師職業紹介会社への登録は無料です。

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あなたの未来は、今日のあなたの決断から始まります。医療DX時代を生き抜く薬剤師として、一歩を踏み出しましょう。あなたのキャリアが、より充実したものになることを心から願っています。


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この記事を書いた人

調剤薬局チェーン元人事部長・薬剤師・中小企業診断士。
約4年間、人事責任者として薬剤師の採用・評価制度設計に従事。大手を中心に20社以上の紹介会社と折衝し、採用の舞台裏から「紹介会社の実力差」を熟知する。現在は経営コンサルタントとして、調剤薬局の採用戦略や人事考課制度の設計支援を行う一方、薬剤師個人のキャリア支援も行っている。採用側と求職側、双方の視点を持つ「情報の非対称性を解消する」解説に定評がある。

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