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「地元に行きたい（帰りたい）」その気持ちは、キャリアを変える原動力になる
「地方に行けば、年収も上がってのんびり暮らせる」
もしそう思っているなら、今すぐその考えを捨ててください。
元人事部長の私が断言します。準備なしの地方転職は、都会の満員電車より過酷な「人間関係の密室」への片道切符になりかねません。
私は元・調剤薬局チェーンで人事部長を務めていました。採用担当として6年、人事部長として4年の経験の中で、Uターン・Iターン転職を希望する薬剤師を数多く見てきました。その中には、夢見て地方へ行った半年後に、憔悴しきって戻ってきた薬剤師もいます。
その違いは何か。結論から申し上げると、「事前の情報収集の質」と「地方ならではの求人の見極め方」にあります。
厚生労働省が公表した「薬剤師偏在指標」によると、病院薬剤師に関しては全都道府県で必要数を確保できていません。青森県では偏在指標0.55と、必要数の半分強しか薬剤師がいない状況です。秋田県も0.56と深刻な不足に直面しています。この偏在は、地方での薬剤師ニーズが依然として高いことを示しています。
一方で、地方転職には都市部とは異なるリスクも存在します。正直に言います。地方の「年収800万円」には、必ず裏があります。 その裏事情を知らずにハンコを押すのは、目隠しで崖を歩くようなものです。
しかし、正しい「見極め」さえできれば、そこは確かに楽園です。 本記事では、人事部長として採用の現場を見てきた経験をもとに、Uターン・Iターン転職を成功させるための具体的な方法と注意点を解説します。
都市部と地方の年収逆転現象を理解する
一般的なビジネスパーソンの場合、東京や大阪などの都市部のほうが給与水準は高い傾向にあります。しかし、薬剤師の世界ではこの常識が通用しません。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の全国平均年収は約578万円です。都道府県別に見ると、広島県が約706万円で最も高く、次いで秋田県が約681万円、宮城県が約673万円と続いています。一方、東京都は約548万円で、全国平均を下回る水準にとどまっています。
この逆転現象の背景には、薬剤師の地域偏在があります。都市部には薬学部を有する大学が集中しており、卒業後そのまま都市部で就職する薬剤師が多いのです。結果として、都市部では薬剤師の供給が充足傾向にある一方、地方では慢性的な人手不足が続いています。
人手不足の地域では、薬剤師を確保するために給与水準を高く設定せざるを得ません。加えて、地方は物価や家賃が都市部より低いため、実質的な生活の豊かさは年収以上に向上する可能性があります。
| 比較項目 | 都市部（東京・大阪など） | 地方（東北・北陸・中国など） | 元人事部長の視点 |
| 平均年収 | 500〜550万円（供給過多） | 650〜800万円（慢性不足） | 地方は交渉次第でさらに上積み可能です。 |
| 家賃相場 | 1K：8〜10万円 | 2LDK：5〜6万円 | 同じ家賃で、地方なら「家族で住める広さ」になります。 |
| 必須経費 | 満員電車の定期代（会社支給） | 自家用車（維持費：月3〜5万） | 地方は「車」が必須。年収差分の一部は車代に消えます。 |
| 通勤ストレス | 大（満員電車・往復2時間） | 小（車で15分・渋滞なし） | 自分の好きな音楽を聴きながら通勤できるのは大きいです。 |
| 人間関係 | ドライ・希薄 | 濃密・ウェット | ここが最大の壁。「ご近所付き合い」が仕事にも影響します。 |
| 転職難易度 | 求人は多いがライバルも多い | 求人は少ないが「来てほしい」 | あなたが「選ぶ側」になれるのが地方の強みです |
Uターン・Iターン・Jターンの違いと特徴
地方転職を考える際、まず理解しておきたいのがそれぞれの違いです。
Uターン転職
地方出身者が都市部で就職した後、再び故郷に戻って働くケースです。土地勘があり、家族や旧友などの人的ネットワークも活用できるため、移住後の生活が安定しやすいというメリットがあります。実家に住める場合は住居費を大幅に抑えられますし、親の介護が必要になった場合もサポートしやすくなります。
Iターン転職
都市部出身者が、縁のない地方に移住して働くケースです。自分の理想とする暮らし方を実現できる可能性がある一方、土地勘がなく、人間関係もゼロからのスタートになります。Iターンを成功させるには、移住前に現地を複数回訪問し、気候や生活環境を体験しておくことが重要です。
Jターン転職
地方出身者が都市部で就職した後、故郷ではなく別の地方に移住するケースです。故郷には求人が少ないが、近隣の地方都市なら働き口があるという場合に選択されます。故郷の近くで暮らせるメリットを享受しつつ、選択肢を広げられます。
| 種類 | 移動パターン | メリット | デメリット・リスク | 失敗リスク判定 |
| Uターン | 都会 → 故郷 | ・土地勘がある ・親や友人がいる ・実家なら住居費ゼロ | ・「一度失敗して帰ってきた」と思われる世間体 ・昔の人間関係のしがらみ | 低 |
| Iターン | 都会 → 未知の地方 | ・しがらみがない ・理想の田舎暮らし ・高待遇求人が多い | ・土地勘ゼロで職場選びがギャンブル ・余所者扱いの孤独感 | 高 |
| Jターン | 都会 → 故郷近くの都市 | ・程よい都会度で生活しやすい ・実家に帰りやすい | ・中途半端な立地になりがち ・故郷ほどのサポートはない | 中 |
地方求人を探す効果的な方法
薬剤師専門の転職エージェントを活用する
地方転職で最も効率的なのは、薬剤師に特化した転職エージェントの活用です。
エージェントを使う最大のメリットは、求人票には載らない「リアルな情報」を入手できる点にあります。実際の残業時間、職場の人間関係、経営状態など、自分で調べるには限界がある情報をエージェント経由で確認できます。
特に地方の薬局経営者は、良くも悪くも「義理人情」や「印象」を重視します。 面接であなたが直接「残業代は出ますか？」「有給は取れますか？」と聞くと、「権利ばかり主張する使いにくい薬剤師だ」と、一発で不採用フラグが立つことが多々あります。
だからこそ、「言いにくい質問」はすべてエージェントに言わせてください。採用側としても、エージェントからの条件確認はビジネスライクに処理できるので、実はありがたいのです。地方転職で失敗しない最大のコツは、「自分はニコニコ、泥仕事はエージェント」という役割分担です。
私が人事部長時代、実際に『交渉力が高く、信頼できる』と感じた理由について、以下の記事で解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。
自治体の移住支援制度を活用する
多くの自治体がUターン・Iターン希望者向けの支援制度を設けています。東京23区から地方への移住者を対象とした「移住支援金」制度では、単身で最大60万円、世帯で最大100万円が支給される自治体もあります。
また、自治体が主催する「移住フェア」や「転職相談会」に参加することで、地元企業の採用担当者と直接話ができる機会もあります。自治体の移住ポータルサイトには、住居費の補助や子育て支援制度など、生活に関わる情報も豊富に掲載されています。
地方求人を見極める「6つのチェックポイント」
地方には魅力的な求人がある一方、「高年収」の裏に隠されたリスクもあります。人事部長として見てきた経験から、求人を見極めるためのポイントをお伝えします。
チェック1：「年収800万円」の内訳を確認する
求人票に「年収800万円可能」と記載されていても、その内訳を確認しなければ意味がありません。基本給はいくらか、残業代込みの金額か、管理薬剤師手当は含まれているか、賞与は何ヶ月分を想定しているか。
私が人事部長だった頃、他社の事例としてこんなケースを見ました。「年収800万円」という触れ込みで入社した薬剤師がいましたが、実際は残業月40時間を前提とした金額でした。入社後、残業削減の方針が出され、年収は100万円以上下がることに。求人票には「見込み残業代込み」と記載されていたのですが、薬剤師はその点を見落としていたのです。
「基本給20万、手当と残業代で40万」なんて給与体系はザラにあります。
年収の内訳は、必ず書面で確認してください。
チェック2：実際の退職率を確認する
「アットホームな職場です」という文言は、裏を返せば「狭いコミュニティで人間関係が濃い」ことを意味する場合があります。離職率が高い職場には必ず理由があります。
人事部長時代の経験から言えば、3年以内の離職率が30%を超える薬局は要注意です。直接聞きにくければ、「直近3年間で何名採用し、現在何名在籍していますか」という聞き方をしてみてください。
チェック3：経営者の年齢と後継者の有無を確認する
中小薬局への転職を検討する場合、経営者の年齢は重要な判断材料です。経営者が70代で後継者がいない場合、近い将来、事業承継や廃業の可能性があります。せっかくUターンしたのに、数年後に職場がなくなるというリスクは避けたいところです。
面接時に「今後の事業展開について教えてください」と質問し、経営のビジョンを確認しましょう。社長が倒れたら翌月解散。冗談ではなく、地方では現実に起きています。
チェック4：一人薬剤師体制かどうかを確認する
地方の薬局では、薬剤師一人で店舗を回す「一人薬剤師」体制が珍しくありません。裁量権が大きいというメリットがある反面、休憩が取れない、有給が取りにくい、急な体調不良時に代わりがいないなどのデメリットもあります。
「一人薬剤師でも年収が高いから」という理由だけで飛びつくと、心身ともに疲弊する可能性があります。
チェック5：通勤手段と交通事情を確認する
地方では公共交通機関が発達していない地域も多く、車通勤が前提となるケースがほとんどです。免許を持っていない場合は取得が必要になります。また、冬場の積雪地帯では、スタッドレスタイヤや四輪駆動車が必要になることもあります。
駐車場の有無、ガソリン代の支給、車通勤手当の有無なども確認しておきましょう。
チェック6：研修制度とキャリアパスを確認する
「地方だから研修機会が少ない」と決めつけるのは早計です。大手チェーンの地方店舗であれば、本部主催のオンライン研修や、エリア合同の勉強会が用意されていることもあります。
転職後のキャリアパスについても確認しておきましょう。管理薬剤師へのステップアップは可能か、5年後、10年後の自分を想像できる職場を選んでください。
| チェック項目 | 危険信号（ブラックの可能性） | 安全信号（ホワイトの可能性） | 推奨される確認方法 |
| ① 年収の内訳 | 見込み残業45時間込み 年俸制（賞与なし） | 基本給が高い 残業代は1分単位で別途支給 | 書面確認（必須） |
| ② 離職率 | アットホームを強調 過去3年で30%以上が退職 | 勤続10年以上の薬剤師が複数名在籍 産休・育休復帰率が高い | エージェントに離職率を調査依頼 |
| ③ 経営状況 | 経営者が70代で後継者不在 設備が古く投資されていない | 経営者が40〜50代、または組織化済み 分包機などの設備が最新 | 面接で事業承継について質問 |
| ④ 人員体制 | 常時一人薬剤師 管理薬剤師が頻繁に変わる | 事務員が充実している 急な休みにヘルプ体制がある | 店舗見学で休憩中の様子を見る |
| ⑤ 研修制度 | OJT（見て覚えろ）のみ 学会参加費の補助なし | オンライン研修の導入 認定薬剤師の取得支援あり | エージェントに教育体制を確認依頼 |
面接で確認すべき質問リスト
地方転職の面接では、通常の転職面接とは異なる視点からの質問が重要になります。以下のリストを参考に、気になる点を確認してください。
給与・待遇に関する質問
- 「提示年収の内訳を教えてください。基本給、各種手当、賞与の比率はどのようになっていますか」
- 「住宅手当や社宅制度はありますか。引越費用の補助はありますか」
労働環境に関する質問
- 「月平均の残業時間はどのくらいですか」
- 「有給休暇の取得率はどのくらいですか。連休取得は可能ですか」
キャリアに関する質問
- 「研修制度や資格取得支援制度について教えてください」
- 「在宅医療への取り組み状況を教えてください」
これらの質問は、面接で直接聞きにくい場合もあるでしょう。そんな時こそエージェントを活用してください。エージェントに任せれば、あなたは「エージェントが勝手に交渉してくれた」というスタンスを取れます。
地方転職でよくある失敗パターンと回避法
失敗パターン1：年収だけで判断してしまう
「年収800万円」に惹かれて入社したものの、実態は月60時間の残業込み。休みも取れず、体調を崩して退職。
回避法：年収の内訳を書面で確認。残業代込みか、固定残業制かを必ずチェックする。
失敗パターン2：現地を見ずに決めてしまう
求人票の情報とエージェントの話だけで入社を決めたが、職場の雰囲気が合わず3ヶ月で退職。
回避法：面接時には必ず職場見学を申し込む。可能であれば、入社前に複数回現地を訪問する。
失敗パターン3：家族の同意を得ずに進めてしまう
「いつかは地元に戻る」と伝えていたが、いざ内定が出たら配偶者に猛反対されてお見送り。
回避法：転職活動を始める前に、家族としっかり話し合う。移住後の生活設計を共有する。
失敗パターン4：地域の生活環境を調べずに移住する
憧れの田舎暮らしを始めたが、冬の寒さと雪の多さに参ってしまい、1年で都市部に戻ることに。
回避法：気候が厳しい時期（真夏・真冬）に現地を訪問し、自分が適応できるか確認する。
地方転職のスケジュール感を把握する
地方転職には、通常の転職よりも時間がかかります。調査によると、移住を検討してから勤務開始までの期間は平均5ヶ月程度とされています。通常の転職が2〜3ヶ月で完了することを考えると、約2倍の期間を見込んでおく必要があります。
転職活動のスケジュール例
- 6ヶ月前：情報収集開始、転職エージェントへの登録
- 4〜5ヶ月前：求人への応募開始、可能であれば現地訪問
- 3ヶ月前：面接、内定獲得、条件交渉
- 2ヶ月前：現職への退職意思表示、引継ぎ準備開始
- 1ヶ月前：引越準備、退職手続き完了
焦って転職先を決めると、妥協を強いられます。余裕を持ったスケジュールで動くことが、成功への近道です。
地方転職後のキャリア戦略
在宅医療のスキルを磨く
地方では高齢化が進んでおり、在宅医療のニーズが高まっています。訪問服薬指導のスキルを磨くことで、地域に欠かせない存在になれます。在宅医療に積極的に取り組む薬局では、経験を積むことで認定薬剤師などの資格取得も目指せます。
かかりつけ薬剤師を目指す
地方では、患者さんとの関係性が都市部より密接になります。「かかりつけ薬剤師」として信頼を得ることで、やりがいと収入の両方を手に入れられます。
あなたの「地方転職」は、新しい人生の始まり
地方転職は、単なる「職場の移動」ではありません。生活の拠点を変え、新しいコミュニティに飛び込み、これまでとは異なる人生を歩み始めることを意味します。
だからこそ、慎重になる気持ちはよく分かります。「本当にうまくいくのだろうか」「都会に戻れなくなるのではないか」という不安を抱えている方も多いでしょう。
しかし、その不安を乗り越えて行動した薬剤師の多くが、「転職して良かった」と語っています。満員電車のストレスから解放され、家族との時間が増え、自然に囲まれた環境で働く。そんな暮らしを手に入れた薬剤師たちは、年収以上の「豊かさ」を実感しています。
あなたの薬剤師としてのスキルと経験は、地方で大きな価値を持ちます。都市部では埋もれていた市場価値が、地方では正当に評価される可能性があるのです。
正直にお伝えします。12月10日のボーナス支給後は、一年で最も転職希望者が増える人材争奪戦のピークです。 完全週休二日制かつ年収650万以上の求人、本当に残業のない求人は、すぐに埋まってしまう恐れがあります。残り物で妥協しないよう、年内に「求人の枠（席）」だけは確保してください。
ただし、焦って変なエージェントを選ばないでください。
私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。
彼らは、私が求人者として「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報（実際の残業時間や離職率の高さ）まで、求職者に包み隠さず伝えていました。
あなたの市場価値を正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントとその理由を記事にしました。転職に失敗したくない方はぜひご覧ください。
あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。
あなたの「地方転職」という決断が、より豊かな人生への第一歩となることを願っています。
- 本当に地方に行くだけで年収は上がりますか？
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上がるケースが大半ですが、注意が必要です。 都市部から地方へ行けば、相場として年収は100〜200万円上がる傾向にあります。ただし、記事内で解説した通り「見込み残業代」が含まれていないか、「一人薬剤師手当」込みでないかは必ず確認してください。提示額だけで判断せず、時給換算や労働環境も含めた「実質賃金」で比較することが重要です。
- 移住支援金は誰でももらえますか？
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条件があります。 基本的には「東京23区（在住または通勤者）」から地方への移住が対象となるケースが多いですが、自治体によって独自要件が異なります。また、就業先が「都道府県がマッチングサイトに移住支援金の対象として掲載する求人」である必要があります。自分だけで調べるのは複雑なため、転職エージェント経由で「移住支援金に該当するか調査して欲しい」と依頼するのが確実です。
- 地方の人間関係が不安です。馴染めるでしょうか？
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「郷に入っては郷に従う」姿勢があれば大丈夫です。 最初から「東京ではこうだった」と主張すると反発を招きやすいですが、現地のやり方を尊重し、謙虚に学ぶ姿勢を見せれば、地方の方は温かく受け入れてくれます。不安な場合は、エージェントを通じて「県外出身者が多く活躍している職場」や「大手チェーンの店舗」を選ぶと、人間関係のリスクを下げられます。
