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「運転免許がなくても薬剤師はできる」は本当か
「そのスキルなら年収750万出せたのに、免許がないんですね。今回はご縁がなかったということで。」
これは私が運転免許がないという理由だけで、優秀な薬剤師の方を見送りにした時の偽らざる本音です。「駅前の調剤薬局で働くだけなら不要」と思っていませんか?その油断が、あなたの生涯年収を大きく下げている可能性があります。
もちろん、薬剤師免許さえあれば調剤業務は可能です。駅前の調剤薬局で働く限り、運転免許がなくても日々の業務に支障はありません。しかし、それは「今の仕事に支障がない」というだけの話であり、将来の選択肢を狭めていることに気づいていない薬剤師が実に多いのです。
私が採用面接を担当していた頃、在宅医療に力を入れている薬局への応募者に対して、必ず運転免許の有無を確認していました。なぜなら、在宅訪問を行う薬局では社用車での移動が基本であり、運転免許は事実上の必須条件だからです。
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均年収は約595万円とされています。しかし在宅医療に携わる薬剤師は、この平均を大きく上回る年収を得ているケースが少なくありません。運転免許の有無が、まさに年収の分かれ道になっているのです。
本記事では、元・調剤薬局チェーン人事部長として数多くの採用・人事評価に携わってきた経験から、薬剤師が運転免許を取得すべき理由と、それによって広がるキャリアの可能性について詳しく解説します。
運転免許が薬剤師のキャリアを左右する2つの領域
ポイント1:在宅医療への参入には運転免許が「事実上必須」
在宅医療を受ける患者数は年々増加しています。厚生労働省の「2023年社会医療診療行為別統計」によれば、在宅患者訪問診療料の算定患者数は100万人を突破しました。この流れを受けて、薬剤師による訪問薬剤管理指導へのニーズも急速に高まっています。
ところが現実はどうでしょうか。在宅訪問を行う薬局の求人票を見てください。「普通自動車運転免許(AT限定可)」が応募条件として明記されているケースがほとんどです。
なぜ運転免許が必須なのか。在宅患者の自宅は公共交通機関だけではたどり着けない場所にあることが多いからです。1日に複数の患者宅を訪問するには、効率的な移動手段として自動車が不可欠となります。
在宅医療における薬剤師の役割は、単なる薬の配達ではありません。患者の服薬状況の確認、残薬管理、医師やケアマネジャーとの情報共有など、多岐にわたります。これらの業務を円滑に行うためには、機動力のある移動手段が必要不可欠なのです。
ポイント2:地方の高年収求人は運転免許が「前提条件」
以前、地方の薬局チェーンへの転職を希望する薬剤師の相談を受けたことがあります。年収750万円という好条件の求人だったのですが、運転免許を持っていなかったため応募を断念せざるを得ませんでした。その薬剤師は都内の薬局で年収550万円で働き続けることになりました。運転免許の有無だけで、年収に200万円の差が生じてしまったのです。
以下の表を見てください。これが免許の有無による「生涯賃金の差」の現実です。
【比較表】運転免許の有無で変わる薬剤師の生涯年収
| 項目 | 免許なし(都市部・駅前) | 免許あり(地方・在宅・管理職) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 平均年収 | 約500〜550万円 | 約700〜800万円 | 年間 約200万円 |
| 主な業務 | 調剤・投薬(対物中心) | 在宅・ラウンダー・管理(対人中心) | – |
| 求人の競合 | 高い(買い手市場) | 低い(売り手市場) | – |
| 10年間の総収入 | 5,500万円 | 7,500万円 | 2,000万円 |
※年収は地域や経験により異なりますが、免許必須の求人は手当や基本給が高く設定される傾向にあります。

運転免許がないと応募できない求人の実態
採用担当として数多くの求人票を作成してきた経験から、運転免許が条件となる求人の特徴をお伝えします。
まず、在宅訪問を行う薬局の求人では「普通自動車運転免許必須」と明記されているケースがほとんどです。社用車を使用するため、AT限定でも問題ありません。しかし「入社後に取得予定」という条件では通らないことが多いのが実情です。
次に、地方の調剤薬局やドラッグストアの求人です。通勤手段として車が必要な立地にある店舗では、運転免許が応募条件に含まれます。駐車場完備の薬局で患者対応を行う場合、薬剤師自身も車通勤が前提となっているケースが少なくありません。
ある転職エージェントの話では、薬剤師の求人のうち約3割が何らかの形で運転免許を条件としているとのことでした。つまり免許がないだけで、最初から市場の3割(しかも好条件が多い層)にアクセスできないことになります。
具体的に、どのような求人を逃しているのかを整理しました。
【求人種別】運転免許が「必須」となる高待遇求人リスト
| 求人タイプ | 運転免許の必要性 | 期待できる年収 | 特徴・メリット |
|---|---|---|---|
| 在宅特化型薬局 | 必須 | 600〜750万円 | 今後最もニーズが伸びる分野。多職種連携スキルが身につく。 |
| 地方・郊外店舗 | 必須 | 700〜900万円 | 人材不足エリアのため超高待遇。車通勤可で満員電車なし。 |
| エリアマネージャー | 必須 | 800万円以上 | 複数店舗の巡回指導。キャリアアップの王道ルート。 |
| 都市部・駅前店舗 | 不要 | 450〜550万円 | 通勤は便利だが、年収頭打ちになりやすく競争も激しい。 |

運転免許を活かしてキャリアの幅を広げる具体的方法
では、実際に免許を取得した後、どのようにキャリアを広げていけばよいのでしょうか。重複を恐れずに言えば、鍵は「専門性」と「情報収集」です。
1. 在宅療養支援認定薬剤師を目指す
単に「運転ができる」だけでなく、その機動力を活かして在宅医療のスペシャリストを目指しましょう。「在宅療養支援認定薬剤師」などの資格取得を視野に入れ、多職種連携の経験を積むことで、あなたの市場価値はさらに高まります。
2. エージェントを使って「隠れた実態」を探る
地方転職や在宅求人で失敗しないコツは、事前の情報収集です。 「車通勤可とあるが、駐車場代は自己負担か?」「1日の訪問件数は現実的か?」といった現場のリアルな情報は、求人票には書かれていません。 私が人事部長時代、「このエージェントは交渉力が高く、隠れた情報も共有してくれる」と信頼していた会社については、以下の記事で解説しています。

エリアマネージャーへのキャリアパス
運転免許があれば、複数店舗を統括するエリアマネージャーやスーパーバイザーへのキャリアパスも開けます。これらの役職では、担当エリア内の店舗を巡回する必要があるため、運転免許は必須条件となります。
エリアマネージャーの年収は、一般の管理薬剤師より100万円以上高いケースもあります。マネジメント経験を積みながら年収アップを目指せる、魅力的なキャリアパスです。

運転免許取得のタイミングと費用
運転免許の取得は、早ければ早いほど良いというのが私の考えです。特に新卒薬剤師や転職を考えている方は、キャリアの選択肢を広げるためにも優先的に取得することをお勧めします。
費用については、通学制の教習所で25万円から35万円程度が相場です。合宿免許であれば20万円前後で取得できることもあります。 以下の表を見てください。転職で年収が上がれば、教習所の費用など一瞬で回収できてしまうことがわかります。
免許取得・講習にかかる費用と「回収期間」の目安
| あなたの状況 | 必要な費用(投資) | 必要な期間 | 転職による回収期間の目安 |
|---|---|---|---|
| 免許なし | 20〜30万円(教習所) | 2週間〜数ヶ月 | 年収200万UPなら約1.5ヶ月で黒字 |
| ペーパードライバー | 1〜2万円(講習) | 数時間〜1日 | 最初のボーナスで十分お釣りがくる |
| 運転に不安あり | 0円(会社の研修) | 入社後OJT | リスクゼロで市場価値アップ |
ポイント: 免許取得費用は決して安くありませんが、薬剤師としての年収アップ幅を考えれば、最もリターンの大きい自己投資と言えます。

運転に不安がある薬剤師へのアドバイス
「免許は持っているけど、ペーパードライバーで不安」という声をよく聞きます。この不安は、多くの薬剤師が抱えているものです。
ペーパードライバー講習を受けることで、運転技術を取り戻すことができます。多くの教習所では、2時間から4時間程度の講習プランを用意しています。費用は1万円から2万円程度です。
また、在宅訪問を行う薬局では、入社後に先輩薬剤師と同行しながら運転に慣れていく期間を設けているところもあります。面接時に「運転に不安がある」と正直に伝えた上で、会社のサポート体制を確認することをお勧めします。
ペーパードライバーから在宅専任薬剤師として活躍するようになる方も何人も見ています。最初は不安でも、経験を積むことで確実に上達していきます。大切なのは、チャレンジする姿勢を持つことです。

運転免許を持たない薬剤師が取るべき行動
現時点で運転免許を持っていない薬剤師の方には、以下のステップをお勧めします。
まず、自分のキャリアプランを明確にしてください。今の勤務に満足しており、在宅医療への転向を考えていないのであれば、運転免許取得の優先度は下がります。しかし、将来的に年収アップやキャリアの幅を広げたいと考えているなら、今すぐ行動を起こすべきです。
次に、現在の職場で在宅医療への参入予定があるか確認してください。もし会社が在宅に力を入れる方針であれば、運転免許取得は急務となります。会社からの補助制度の有無も確認しておきましょう。
そして、転職を視野に入れている場合は、転職エージェントに相談してみてください。運転免許の有無で応募できる求人がどれだけ変わるか、具体的な数字を教えてもらうことができます。
薬剤師としての市場価値を高めるために
運転免許は、薬剤師としての市場価値を高めるための重要な「武器」の一つです。薬剤師免許という専門資格に加えて、運転免許を持つことで、あなたのキャリアの選択肢は確実に広がります。
在宅医療のニーズが高まる中、運転免許を持つ薬剤師は今後さらに求められる人材になっていくでしょう。地方の高年収求人へのキャリアチェンジなど、運転免許があることで開ける道は数多くあります。
今の環境で満足していますか。年収や働き方に不満を感じているなら、運転免許の取得を検討してみてください。それは単なる資格取得ではなく、あなたの未来を切り拓くための投資なのです。
あなたの市場価値は、あなたが思っているよりずっと高い可能性があります。その価値を最大限に発揮するために、必要な準備を今から始めてください。
正直にお伝えします。12月10日のボーナス支給後は、一年で最も転職希望者が増える人材争奪戦のピークです。 完全週休二日制かつ年収650万以上の求人、本当に残業のない求人は、すぐに埋まってしまう恐れがあります。残り物で妥協しないよう、年内に「求人の枠(席)」だけは確保してください。
ただし、焦って変なエージェントを選ばないでください。
私は人事責任者として、大手を中心に20社以上の紹介会社と渡り合ってきました。その中で、「この担当者は信用できる」「求職者の利益を第一に考えている」と私が裏側から認定できたのは、わずか数社しかありません。
彼らは、私が求人者として「担当者の固定化」などの厳しい要望を出しても誠実に対応し、何より薬局側にとって都合の悪い情報(実際の残業時間や離職率の高さ)まで、求職者に包み隠さず伝えていました。
あなたの市場価値を正当に評価してくれる職場を見抜くために、私が人事の裏側から見て「本物だ」と確信したエージェントとその理由を記事にしました。転職に失敗したくない方はぜひご覧ください。
あなたの薬剤師としてのキャリアが、より良い方向に進むことを心から願っています。

