※2025年9月時点の情報です
内定保留という選択の重さを理解する
「内定をいただいたけれど、他社の選考結果を待ちたい」
転職活動中のあなたは、今まさにこの状況に直面しているかもしれません。せっかく得た内定を保留するのは気が引けるでしょう。しかし同時に、比較検討せずに決めてしまうことへの不安もあるはずです。
内定保留は、転職活動において極めて重要な局面です。ここでの対応を誤ると、内定を取り消されるリスクがあります。逆に適切に対応すれば、複数の選択肢を比較して最良の決断ができます。
私は調剤薬局チェーンで人事部長として、幾多もの薬剤師採用に携わってきました。その経験から断言できるのは、内定保留の伝え方一つで、企業側の印象は180度変わるということです。
「他社の結果を待ちたい」と正直に伝えて内定を取り消された薬剤師がいました。一方、適切な言い回しで2週間の猶予を得て、納得のいく転職を実現した薬剤師もいます。両者の違いは、人事の心理を理解していたかどうかでした。
本記事では、元人事部長の立場から、内定保留の適切な期間と伝え方を解説します。企業が許容する回答期限の目安、人事を納得させる具体的な言い回し、そして保留期間中にすべきことまで、実務レベルでお伝えします。
あなたの転職を成功に導くために、人事の本音を知ってください。
ポイント1：企業が許容する内定保留期間は「1週間」が基本
内定保留の期間について、多くの人が誤解しています。
結論から言えば、企業が一般的に許容する内定保留期間は1週間です。これは私が人事部長として採用活動を行ってきた実感とも完全に一致します。
なぜ1週間なのか。それは企業側の採用スケジュールと密接に関係しています。
企業は内定を出した後、その人が入社するという前提で様々な準備を進めます。人員配置の調整、研修計画の策定、現場への通知などです。内定者の返事が遅れれば遅れるほど、これらの準備が宙に浮いてしまいます。
特に薬局業界では、シフト制の職場が多いため人員計画が重要です。欠員が出ればすぐに補充しなければならず、内定者の返事を待つ余裕は限られています。
私が人事部長時代に設定していた内定承諾の期限も、基本的に1週間でした。候補者には内定通知と同時に「1週間以内にご返事をいただけますか」と伝えていました。
ただし、これはあくまで「基本」です。状況によっては延長も可能です。
実際、私が対応したケースで、薬剤師のJさんは内定後に「もう1社の最終面接が控えている」と正直に話してくれました。Jさんの態度が誠実だったこと、そして当社への志望度の高さが伝わってきたため、私は2週間の猶予を認めました。
重要なのは、1週間という基本ルールを理解した上で、必要に応じて交渉することです。何の説明もなく「2週間待ってください」と言われれば、人事は不快に感じます。しかし理由を丁寧に説明されれば、柔軟に対応する余地は十分にあるのです。
ポイント2：人事が内定保留を嫌う3つの本音を知れ
内定保留に対して、人事がどのような感情を抱くか。
これを理解していないと、交渉は失敗します。人事部長として採用の最前線に立ってきた私が、本音をお伝えします。
人事が内定保留を嫌う理由は、大きく3つあります。
一つ目は「滑り止め扱いされている」という不快感です。特に、何の説明もなく「少し考えさせてください」とだけ言われると、人事は「他に第一志望があるのだろう」と感じます。
私が面接した薬剤師のKさんは、内定通知に対して「検討させていただきます」とだけ返答しました。その際、Kさんの表情には明らかに迷いがあり、当社が第一志望でないことが見て取れました。正直に言えば、その瞬間から私の中でKさんへの期待値は下がりました。
二つ目は「採用計画への影響」です。内定者の返事が遅れると、人事は次の候補者に連絡できません。もし内定を辞退されたら、再び選考プロセスを進める必要があります。
薬局チェーンでは、4月入社の新卒採用や、繁忙期前の中途採用など、時期が決まっています。内定保留が長引けば、採用スケジュール全体が狂ってしまうのです。
三つ目は「誠実さへの疑問」です。内定保留の理由を曖昧にされると、人事は「この人は入社後も重要な決断を先延ばしにするのでは」と不安になります。
ただし、これらはあくまで「説明がない場合」の話です。逆に言えば、適切な説明があれば人事の印象は大きく変わります。
薬剤師のLさんは、内定後にこう言いました。「御社には非常に魅力を感じています。ただ、現在選考中の企業があと1社あり、そちらの結果も見た上で総合的に判断したいのです。1週間お時間をいただけないでしょうか」
この言い方なら、人事は納得できます。志望度の高さを示しながら、理由を明確に伝えているからです。Lさんには1週間の猶予を認め、最終的に当社への入社を決めてもらいました。
人事の本音を理解し、それに配慮した伝え方をする。これが内定保留を成功させる鍵です。
ポイント3：内定保留を伝える具体的な言い回しテンプレート
内定保留をどう伝えるか。言葉選びが全てを決めます。
人事部長として数多くの内定保留に対応してきた経験から、効果的な伝え方をお伝えします。
まず、内定保留の連絡は電話で行うことが鉄則です。メールだけで済ませるのは失礼にあたります。電話で誠意を示した上で、その内容をメールで文書化するのが正しい手順です。
電話での基本的な流れは以下の通りです。まず内定への感謝を述べる、次に保留したい旨を伝える、そして具体的な理由を説明する、最後に希望する回答期限を提示する。
具体的な言い回しの例を示します。
「この度は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございます。御社の理念や働き方に大変魅力を感じており、ぜひ入社させていただきたいと考えております。ただ、現在もう1社選考が進んでおりまして、そちらの結果も踏まえて総合的に判断したいと思っております。大変恐縮ですが、1週間お時間をいただくことは可能でしょうか」
この言い方のポイントは3つあります。志望度の高さを明確に示していること、保留の理由が具体的であること、そして希望期限を自分から提示していることです。
逆に避けるべき言い方も示します。
「内定ありがとうございます。少し考えさせてください」これだけでは、人事に不信感を与えます。志望度が伝わらず、理由も不明確です。
「他社の選考があるので2週間待ってください」この言い方も良くありません。一方的で、相手への配慮が感じられません。
私が人事部長として対応したケースで、薬剤師のMさんの伝え方は見事でした。「御社の在宅医療への取り組みに感銘を受けております。ただ、現在最終面接を控えている企業があり、そちらも在宅医療に力を入れています。両社を比較検討した上で、自分のキャリアにとって最良の選択をしたいのです。5日間お時間をいただけませんでしょうか」
この伝え方なら、人事は納得します。なぜなら、比較検討の基準が明確で、真剣に考えている姿勢が伝わるからです。Mさんには希望通り5日間の猶予を与え、最終的に当社を選んでくれました。
メールで送るフォローアップの文面も重要です。電話での会話内容を整理し、改めて感謝と志望度を伝えます。
「本日はお忙しい中、お電話にてご対応いただきありがとうございました。改めまして、この度は内定のご連絡を賜り、心より感謝申し上げます。御社での勤務を心から楽しみにしております。お話しさせていただいた通り、○月○日までにご返事をさせていただきます。何卒よろしくお願い申し上げます」
このように、電話とメールの両方で誠意を示すことが重要です。
ポイント4：内定保留期間の延長交渉は「3日前」がリミット
状況によっては、当初の期限内に決断できないこともあります。
そんな時、期限の延長は可能なのか。答えは「可能だが、タイミングが全て」です。
延長交渉のリミットは、当初の期限の3日前です。これ以降になると、人事は既に次の行動を考え始めており、延長を認めてもらえる可能性が下がります。
私が人事部長時代、内定者のNさんから期限前日に「もう少し時間がほしい」と連絡がありました。正直に言えば、その時点で既に他の候補者への連絡を準備していたため、対応に困りました。結果的に2日間の延長を認めましたが、印象は良くありませんでした。
逆に、薬剤師のOさんは内定後4日目に連絡をくれました。「当初1週間とお伝えしましたが、比較検討する企業の最終面接が予定より遅れてしまい、あと3日お時間をいただけないでしょうか」という丁寧な依頼でした。
Oさんの対応は完璧でした。早めに連絡したこと、理由が明確だったこと、そして追加で必要な期間が短かったこと。これらの要素により、私は快く延長を認めました。
延長交渉の際の具体的な言い回しも示します。
「先日は1週間の猶予をいただき、ありがとうございました。御社への入社を前向きに検討しております。ただ、比較検討している企業の選考スケジュールが変更になり、当初の期限内に結論を出すことが難しくなりました。大変申し訳ございませんが、あと3日間お時間をいただくことは可能でしょうか」
この言い方なら、人事も理解を示しやすいです。重要なのは、あくまで志望度の高さを維持しながら、やむを得ない事情を説明することです。
ただし、延長交渉は1回が限度です。2回、3回と延長を求めれば、確実に内定取り消しにつながります。人事の忍耐にも限界があるのです。
ポイント5：複数内定時の優先順位付けで見るべき3つの基準
内定保留の目的は、複数の選択肢を比較検討することです。
では、何を基準に選べばいいのか。年収、通勤時間、人間関係。判断材料は無数にあります。しかし、人事部長として多くの薬剤師のキャリアを見てきた私から言えるのは、優先すべき基準は明確だということです。
一つ目は「5年後のキャリアパス」です。目先の年収や条件だけで選ぶと、後悔します。
私が採用した薬剤師のPさんは、当社ともう1社で迷っていました。もう1社の方が初任給は30万円高かったのです。しかしPさんは、当社の管理薬剤師育成プログラムに魅力を感じ、当社を選びました。
3年後、Pさんは管理薬剤師に昇格し、年収も大きく上昇しました。一方、もう1社を選んだ同期の薬剤師は、年収は横ばいのままだったそうです。
短期的な条件ではなく、中長期的な成長機会を見るべきです。在宅医療への取り組み、かかりつけ薬剤師制度の運用実態、研修制度の充実度。これらが、あなたの市場価値を高める要素です。
二つ目は「労働環境の実態」です。求人票には書かれない部分を見抜く必要があります。
面接時の質問で、実際の残業時間、有給休暇の取得率、離職率などを確認すべきです。これらの質問に対して曖昧な回答をする企業は要注意です。
薬剤師のQさんは、2社の内定で迷っていました。どちらも年収は同程度でしたが、片方の企業は面接時に「残業はほとんどありません」と言いながら、具体的な数字を示しませんでした。Qさんは違和感を覚え、転職エージェントに実態を確認したところ、その企業は月平均30時間の残業があることが判明しました。
三つ目は「企業の安定性と将来性」です。特に調剤薬局業界は、調剤報酬改定の影響を大きく受けます。
経営基盤が脆弱な薬局は、報酬改定のたびに経営が揺らぎます。複数店舗を展開している企業か、親会社の経営状態は安定しているか、在宅医療や予防医療など将来性のある分野に投資しているか。これらを確認すべきです。
これらの基準で比較する際、転職エージェントの活用は有効です。ファルマスタッフ、レバウェル薬剤師、ファル・メイトといった薬剤師専門のエージェントは、求人票には載らない企業の実態情報を持っています。
複数内定を得た時点で、エージェントに相談し、各企業の詳細情報を収集することをお勧めします。
内定保留中にすべき4つの情報収集アクション
内定保留期間は、ただ待つ時間ではありません。
この期間をどう使うかで、あなたの決断の質が変わります。人事部長として採用活動を行ってきた経験から、内定保留中に必ずすべき4つのアクションをお伝えします。
一つ目は、内定企業の口コミ情報の確認です。転職サイトの口コミページや、知人のネットワークを活用して、実際に働いている人の声を集めます。
ただし、口コミ情報には注意が必要です。不満を持って退職した人の意見が多く、ネガティブに偏りがちだからです。複数の情報源を比較し、バランスよく判断することが重要です。
二つ目は、内定企業の店舗見学です。可能であれば、実際に配属予定の店舗を訪問し、雰囲気を確認します。
私が人事部長時代、内定後に店舗見学を希望する候補者には、積極的に対応していました。現場を見ることで、求人票や面接では分からない情報が得られるからです。
薬剤師のRさんは、内定後に店舗見学を申し出ました。訪問した店舗で、スタッフ同士のコミュニケーションを観察し、質問もいくつかしました。その結果、当社の職場環境に納得し、入社を決めてくれました。
店舗見学を申し出ることは、決して失礼ではありません。むしろ、真剣に検討している証拠として、人事は好意的に受け止めます。
三つ目は、労働条件通知書の詳細確認です。内定時に提示される労働条件通知書には、雇用契約の全てが記載されています。
給与の内訳、賞与の計算方法、試用期間の有無、福利厚生の詳細。これらを一字一句確認し、不明点があれば必ず質問すべきです。
特に注意すべきは「みなし残業」の記載です。基本給に含まれる残業時間が何時間なのか、超過分はどう扱われるのか。これを確認せずに入社し、後悔する薬剤師は多いのです。
四つ目は、転職エージェントへの相談です。複数内定を得た場合、エージェントは客観的なアドバイスをくれます。
各企業の特徴、業界内での評判、将来性の比較。これらの情報を提供してもらい、判断材料とします。ファルマスタッフやレバウェル薬剤師は、こうした比較検討のサポートも行っています。
内定保留期間は、情報収集の貴重な時間です。この期間を有効活用し、後悔のない選択をしてください。
内定辞退する場合の正しい伝え方と注意点
複数内定を比較検討した結果、辞退する企業が出てきます。
内定辞退は、伝え方を誤ると業界内での評判に影響します。特に薬剤師業界は狭い世界です。丁寧な対応が、将来の自分を守ります。
内定辞退の連絡は、決断したらすぐに行うことが鉄則です。人事は次の候補者への連絡を待っています。1日でも早く伝えることが、最低限のマナーです。
連絡方法は、電話が基本です。メールだけで済ませるのは失礼にあたります。電話で謝罪と感謝を伝えた上で、メールで改めて連絡する形が正しい手順です。
具体的な言い回しを示します。
「この度は内定をいただき、誠にありがとうございました。大変申し訳ございませんが、他社への入社を決断いたしました。選考の過程で多くのお時間をいただいたにもかかわらず、このような結果となり、深くお詫び申し上げます」
重要なのは、辞退の理由を詳しく説明しないことです。「年収が高い企業があった」「通勤が便利な企業を選んだ」といった具体的な理由は、相手に不快感を与えます。
私が人事部長として内定辞退の連絡を受けた際、最も印象が良かったのは薬剤師のSさんです。Sさんは「総合的に判断した結果、他社への入社を決めました」とだけ伝え、詳細な理由は述べませんでした。この配慮が、人事として受け入れやすかったのです。
逆に避けるべき対応もあります。連絡を先延ばしにすること、メールだけで済ませること、そして嘘をつくことです。
薬剤師のTさんは、内定辞退の連絡を2週間も先延ばしにしました。その間、私たちは他の候補者への連絡を保留していました。Tさんの対応は、明らかにプロフェッショナルではありませんでした。
また、辞退理由として「家庭の事情」などと嘘をつくのも良くありません。薬剤師業界は狭く、後に真実が分かることもあります。嘘は信頼を失う最も確実な方法です。
内定辞退後のメールも重要です。電話での会話内容を整理し、改めて謝罪と感謝を伝えます。
「本日はお忙しい中、お電話にてご対応いただきありがとうございました。改めまして、貴重なお時間を割いていただいたにもかかわらず、ご期待に添えず申し訳ございません。選考を通じて多くを学ばせていただきました。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます」
このように、最後まで誠実な対応を心がけることが、あなたの評判を守ります。
あなたの決断が未来を変える、後悔しない選択を
内定保留という選択に迷いを感じていたあなたを、誰も責めることはできません。
転職は人生の重要な決断です。慎重に検討し、比較することは当然の権利です。しかし同時に、企業への配慮も忘れてはいけません。
本記事でお伝えした内容を実践すれば、内定保留は決して失礼な行為ではなくなります。適切な期間設定、誠実な伝え方、そして保留期間中の積極的な情報収集。これらを行うことで、あなたは企業からの信頼を保ちながら、最良の選択ができます。
私が人事部長として見てきた多くの薬剤師たちは、内定保留を正しく活用することで、キャリアの成功を手にしています。焦って決断し後悔する人もいれば、時間をかけて比較検討し理想の職場を見つける人もいました。
両者の違いは、人事の心理を理解し、適切なコミュニケーションを取れたかどうかです。
内定保留の基本期間は1週間です。ただし、誠実な説明があれば延長も可能です。重要なのは、志望度の高さを示しながら、具体的な理由を伝えることです。
人事は、あなたの誠実さを見ています。曖昧な対応や一方的な要求は、確実に評価を下げます。逆に、配慮ある伝え方は、入社前から良好な関係を築く第一歩になります。
複数内定を得た場合、目先の条件だけで判断しないでください。5年後のキャリアパス、労働環境の実態、企業の将来性。これらの基準で比較し、長期的な視点で選ぶべきです。
その際、転職エージェントの活用は有効です。ファルマスタッフ、レバウェル薬剤師、ファル・メイトといった薬剤師専門のエージェントは、企業の内部情報や業界動向に精通しています。彼らの助言を参考にすることで、より確かな判断ができます。
内定保留期間は、あなたの未来を決める貴重な時間です。この期間を有効に使い、後悔のない選択をしてください。
店舗見学に行く、労働条件通知書を精査する、口コミ情報を確認する。できることは全てやりましょう。そして最終的には、あなたの直感も信じてください。
今日から、一歩を踏み出してください。内定企業に丁寧な連絡を入れる、転職エージェントに相談する、比較検討のための情報を集める。どれでも構いません。
あなたのキャリアは、今日のあなたの行動で変わります。適切な内定保留を通じて、最良の未来を掴んでください。
