退職理由、本音で話して後悔した薬剤師の末路
退職を決意したあなたは今、上司にどう伝えるか悩んでいるのではないでしょうか。
「人間関係が最悪だから辞めます」と正直に言うべきか。「年収が低すぎるので転職します」とストレートに伝えるべきか。それとも当たり障りのない理由で濁すべきか。
私は調剤薬局チェーンで約6年間、人事業務(うち人事部長として約4年間)に携わってきました。
その経験から断言します。退職理由を本音で話すかどうかは、あなたの今後のキャリアに想像以上の影響を与えます。
本音を話しすぎて引き止めが激化したケース、逆に曖昧すぎて不信感を抱かれたケース、適切な伝え方で円満退職を実現したケース。すべてを見てきた立場から、あなたが失敗しないための実践的な方法をお伝えします。
【結論】退職理由は「7割本音、3割建前」が正解
人事の立場から見て、最も賢明な退職理由の伝え方は「7割本音、3割建前」です。
完全に嘘をつくのは論外です。経験豊富な上司や人事担当者は、作り話をすぐに見抜きます。矛盾点を突かれて信頼を失い、引き止め交渉が長引く原因になります。
かといって、感情的な本音をそのままぶつけるのも危険です。「お局薬剤師の〇〇さんと働くのが耐えられない」「社長のワンマン経営についていけない」といった告白は、たとえ事実であっても、あなたの評価を下げるだけです。
本音の核心部分は残しつつ、表現を建設的に変換する。これが、円満退職と次のキャリアを両立させる唯一の方法です。
具体的な伝え方の技術をこれからお伝えします。
ポイント1:人事が「納得する退職理由」と「警戒する退職理由」の違い
人事が納得しやすい退職理由の3パターン
私が人事として退職面談を行ってきた中で、引き止めが最小限で済んだ退職理由には明確なパターンがありました。
1. キャリアの方向性を変える理由
「在宅医療に専念したい」「病院薬剤師としての経験を積みたい」といった、現職では実現できない専門性の追求です。会社側も引き止める材料がありません。
2. ライフステージの変化
「親の介護で実家に戻る必要がある」「配偶者の転勤に伴う引っ越し」など、物理的・時間的制約がある理由です。会社が解決できない事情として受け入れられやすい傾向があります。
3. 自己研鑽の必要性
「がん専門薬剤師を目指して症例数の多い環境に移りたい」といった、前向きな成長意欲を示す理由です。
これらに共通するのは、「会社を否定していない」という点です。
あくまで自分の都合や希望であり、職場への不満を匂わせない伝え方が重要です。
人事が最も警戒する退職理由
逆に、人事として最も警戒し、詳しく追及したくなる退職理由もあります。
「もっと良い条件の職場が見つかった」という理由は、実は人事にとって最も対処しやすい退職理由です。なぜなら、給与面での引き止め交渉の余地が生まれるからです。
私が人事時代、この理由で退職を申し出た薬剤師には必ず「具体的にどのくらいの年収アップなのか」を聞いていました。その上で「当社でも昇給の余地がある」と引き止めるのが常套手段でした。
「人間関係」を理由にする場合も要注意です。「誰と何があったのか」を詳しく聞かれ、配置転換や異動の提案をされる可能性が高まります。本当に辞めたいなら、この理由は避けるべきです。

ポイント2:「本音」を「建設的な表現」に変換する技術
退職理由の本音を、どう建設的な表現に変換するか。具体例を示します。
本音:「給料が安すぎる」
NG表現:「同じ業務量でもっと高い給料がもらえる職場があるので」
この言い方は、会社への不満を直接的に表明しています。人事は「いくらなら残るのか」と年収交渉を始めるでしょう。
OK表現:「自分の市場価値を正確に把握したいと考え、転職活動を通じて複数の評価をいただきました。その結果、新しい環境でキャリアアップを目指したいと決断しました」
この表現なら、給与への不満を匂わせつつ、あくまで前向きなキャリア選択として伝わります。
本音:「人間関係が最悪」
NG表現:「特定のスタッフとの関係が悪化して、職場に行くのが苦痛です」
これは感情的すぎます。上司は「誰のことか」を詮索し始め、退職面談が長引きます。
OK表現:「チーム全体のコミュニケーションスタイルと、自分の働き方の相性を見直した結果、別の環境で新たなスタートを切りたいと考えました」
個人攻撃ではなく、働き方の相性の問題として整理することで、冷静な印象を与えられます。
本音:「休みが取れない・残業が多い」
NG表現:「有給休暇が取れず、残業も多すぎるので限界です」
労働環境への直接的な批判は、会社側に「改善するから残ってくれ」と言われる余地を与えます。
OK表現:「ワークライフバランスを重視したキャリアプランを見直した結果、より自分のペースで働ける環境を選びたいと考えました」
あくまで自分の価値観の変化として説明することで、会社を責めない姿勢を示せます。
ポイント3:面談で「絶対に言ってはいけない」3つのNGワード
退職面談での発言は、あなたが思っている以上に記録され、共有されます。私が人事として面談を行う際、必ず記録していたのは以下の内容です。
- 退職理由の詳細
- 引き止めに対する反応
- 職場や上司への評価
この記録は、あなたの退職後も社内に残ります。最悪の場合、業界内で噂として広まることもあります。
だからこそ、以下の3つは絶対に口にしてはいけません。
NGワード1:「社長が〇〇だから」
経営者個人への批判は、どんなに事実であっても避けるべきです。人事や上司は、あなたの発言を経営層に報告する義務があります。
退職が決まっているとはいえ、最後に経営者の逆鱗に触れる必要はありません。円満退職が遠のくだけです。
NGワード2:「〇〇さんのせいで」
〇〇先生(門前医師)との相性や、店舗間の在庫融通トラブルを理由にするのは避けましょう。近隣店舗への異動を提案されるだけで、根本解決にならない上に、エリアマネージャーへの告げ口と捉えられかねません。
あなたが退職した後も、その人は職場に残ります。
あなたの発言が本人に伝われば、同じ業界で再会した時に気まずい関係になります。薬剤師業界は狭いので、将来的に同じ勉強会や研修で顔を合わせる可能性は十分にあります。
NGワード3:「もう次の職場が決まっているので」
転職先を具体的に伝える必要はありません。特に同じ地域の競合薬局に転職する場合、詳細を話すと余計なトラブルを招きます。
「いくつか選択肢を検討している段階です」程度に留めるのが賢明です。

ポイント4:引き止め交渉を長引かせないための「事前準備」
退職面談で最も重要なのは、あなたの決意が固いことを示す準備です。
人事の立場から言えば、引き止め交渉を続けるかどうかは、相手の「揺れ」を感じるかどうかで決まります。少しでも迷っている様子が見えれば、人事は徹底的に交渉を続けます。
準備1:退職日を明確に決めておく
「いつ辞めたいのか」が曖昧だと、「もう少し考えてみたら」と引き延ばされます。
法律上は退職の意思表示から2週間で退職できますが、円満退職を目指すなら1〜2カ月前の申し出が現実的です。
「〇月〇日をもって退職させていただきたいと考えています」と、具体的な日付を提示してください。
準備2:転職先の入社日を理由にする
「転職先の入社日が決まっているため、〇月〇日までの勤務となります」という理由は、交渉の余地を残しません。
たとえまだ入社日が正式に決まっていなくても、この理由を使うことで引き止めを最小限に抑えられます。
準備3:薬剤師ならではの「具体的引継ぎ計画」を持参する
単に「引継ぎします」と言うだけでなく、薬剤師実務に即した計画書をA4一枚で用意してください。私が人事として「これは完璧だ」と唸ったのは、以下の項目が網羅された計画書です。
- 薬歴未記載分の処理スケジュール(最終出勤日の3日前までに完了宣言)
- 担当していた「かかりつけ患者様」のリストアップと後任への申し送り方法
- 定期処方患者様の予製作成状況と、在庫発注の引継ぎ
- (管理薬剤師の場合)麻薬・向精神薬の譲渡・廃棄手続きのスケジュール案
ここまで具体的な「現場の懸念点」を先回りして提示できれば、会社側は「この人は最後までプロとして責任を果たそうとしている」と認めざるを得ません。引き止めよりも、スムーズな退職手続きを優先してくれるようになります。

ポイント5:「本音を話さない」ことで得られる3つのメリット
退職理由を建設的に伝えることは、単に角が立たないだけではありません。あなた自身にとって、具体的なメリットがあります。
メリット1:退職後の人間関係を良好に保てる
薬剤師業界は驚くほど狭い世界です。同じエリアで働き続ける限り、前職の同僚や上司と再会する機会は必ずあります。
研修会、勉強会、地域の薬剤師会活動。どこで顔を合わせるか分かりません。
感情的な本音をぶつけて辞めた場合、その後の関係修復は極めて困難です。逆に、建設的な理由で円満退職できれば、将来的に協力し合える関係を維持できます。
メリット2:予期せぬ「非公式な評判チェック」のリスクを回避できる
転職活動において、外資系企業や一部の大手薬局チェーンでは、選考プロセスの一環として「リファレンスチェック(前職への実績確認)」を求められるケースが増えています。
これは通常、あなたの同意を得て行われるものですが、薬剤師業界にはもっと厄介な「非公式なルート」が存在します。
「あの薬局の管理薬剤師と、あなたの転職先のエリアマネージャーが大学の先輩後輩だった」
「地域の薬剤師会で、人事担当者同士が繋がっていた」
こうした場合、公式な記録ではなく、飲み会や立ち話での「あの子、最後すごい揉めて辞めたよ」という一言が、あなたの評価を決定づけてしまうことがあります。
法的な「人事記録」以上に、こうした「感情的な記憶」による悪評を防ぐためにも、円満退職の演出は不可欠なのです。
メリット3:退職金や有給消化の交渉がスムーズになる
円満退職できれば、退職金の手続きや、未消化有給休暇の「全消化」もスムーズに進みます。
本来、有給休暇の取得は労働者の権利ですが、感情的に揉めて辞める場合、会社側から「引継ぎが終わらないなら有給は認めない」「繁忙期だから時期をずらしてほしい」と強硬に抵抗されるケースが多々あります。
逆に、建設的な引継ぎ計画を示して辞める薬剤師に対しては、会社側も「最後までしっかりやってくれるなら」と、最終出勤日までの有給全消化を快く認める傾向にあります。
ポイント6:面談当日の「態度」と「言葉遣い」で決まる印象
退職理由の内容だけでなく、面談当日の態度と言葉遣いも極めて重要です。
私が人事として関わった中で、「この人は信頼できる」と感じた薬剤師には、共通する特徴がありました。
態度のポイント1:感謝の気持ちを最初に伝える
面談の冒頭で、必ず感謝の言葉を述べてください。
「これまでお世話になり、ありがとうございました。この職場で学んだことは、次のキャリアでも必ず活かせると確信しています」
この一言があるだけで、上司や人事の受け止め方は大きく変わります。
態度のポイント2:冷静さを保つ
どんなに辛い経験をしてきたとしても、面談の場で感情的になってはいけません。
泣く、怒る、声を荒げる。これらの行動は、あなたの評価を下げるだけです。淡々と、しかし毅然とした態度で臨んでください。
態度のポイント3:具体的な引継ぎ期間を提案する
「引継ぎは責任を持って行います。〇月〇日までに完了させる予定です」と、具体的な期間を提案してください。
この姿勢が、「最後まで責任感のある薬剤師だった」という印象を残します。

ポイント7:「転職先が決まる前」に退職を伝えるリスク
退職を伝えるタイミングは、転職活動の進捗によって慎重に判断する必要があります。
最も危険なパターンは「転職先が決まる前に退職を伝えてしまう」ケースです。
リスク1:引き止め交渉が長期化する
転職先が決まっていない状態で退職を伝えると、「もう少し考えてみたら」「条件を改善するから」と、引き止め交渉が長期化します。
明確な転職先がない以上、あなたの決意が揺らいでいると判断されるからです。
リスク2:職場での立場が悪化する
退職の意思を伝えた後、転職活動が難航して職場に残らざるを得なくなった場合、立場は極めて悪化します。
このパターンで退職を撤回した薬剤師は、その後数カ月で結局辞めていきました。職場での居心地が悪くなり、働き続けることが困難になったからです。
正しいタイミング:内定承諾後、入社日の1〜2カ月前
最も安全なタイミングは、転職先の内定を承諾し、入社日が確定した後です。
このタイミングなら、引き止め交渉を受けても「転職先の入社日が決まっているため」と断る明確な理由があります。
ポイント8:エージェント経由の転職なら「退職の調整」もサポートしてもらえる
ここまで読んで、「自分一人で退職交渉をする自信がない」と感じた方もいるでしょう。
その不安は、薬剤師専門の転職エージェントに相談することで解消できます。
私が人事時代、実際に「交渉力が高く、信頼できる」と感じたエージェントは、求職者の退職の調整までサポートしていました。
具体的には、以下のような支援を提供しています。
1. 退職理由の整理と文章化
あなたの本音を聞いた上で、建設的な表現に変換する手伝いをしてくれます。
2. 退職願の書き方アドバイス
法的に問題のない退職願の書き方を指導してくれます。
3. 引き止め対策の事前準備
「こう言われたらこう返す」という想定問答集を一緒に作ってくれます。
4. 入社日の調整交渉
転職先との入社日調整も、エージェントが間に入って調整してくれます。
エージェントに任せれば、あなたは「エージェントに相談してから決めます」というスタンスを取れます。上司も「エージェントが介入しているなら仕方ない」と受け止めやすいのです。
私が人事時代、実際に「交渉力が高く、信頼できる」と感じた理由について、以下の記事で生々しく解説しています。失敗したくない方は、必ずチェックしてください。

ポイント9:退職理由を「前向きなストーリー」に変換する実例
最後に、実際の退職理由を「前向きなストーリー」に変換した実例を紹介します。
実例1:年収への不満 → キャリアアップ志向
本音:「同じ業務量なのに、他の薬局より年収が100万円も低い。納得できない」
変換後:「これまでの経験を活かしながら、より専門性の高い業務にチャレンジしたいと考えました。在宅医療に力を入れている薬局で、地域包括ケアに貢献できる薬剤師を目指したいと決断しました」
年収への不満を、専門性の追求にすり替えることで、前向きな印象を与えられます。
実例2:人間関係の悪化 → コミュニケーションスタイルの相性
本音:「お局薬剤師の〇〇さんが、新人をいじめているのを見て限界を感じた」
変換後:「チーム全体のコミュニケーションスタイルを見直す中で、自分がより貢献できる環境を探したいと考えました。少人数でフラットな関係性を築ける職場で、新たなスタートを切りたいと思います」
個人攻撃を避け、あくまで働き方の相性の問題として整理しています。
実例3:過重労働 → ワークライフバランスの重視
本音:「毎日2時間残業、休日出勤も多い。有給も取れない。身体が持たない」
変換後:「これまで業務に全力で取り組んできましたが、長期的なキャリアを考えた時、持続可能な働き方を実現したいと考えました。ワークライフバランスを重視できる環境で、より長く薬剤師として貢献したいと思います」
過重労働への批判を、長期的なキャリアプランの見直しとして説明しています。
あなたのキャリアは、あなた自身が守るべきもの
退職を決意したあなたは、すでに大きな一歩を踏み出しています。
その決断を後悔しないために、退職理由の伝え方という「最後の関門」を、戦略的に乗り越えてください。
本音を建設的な表現に変換することは、決して嘘をつくことではありません。あなた自身の未来を守るための、必要な自己防衛です。
感情的な本音をぶつけて、円満退職を逃すのはもったいない。あなたのキャリアは、これからもっと輝く可能性に満ちています。
退職理由の伝え方一つで、次のキャリアへの扉が開くか閉じるかが決まります。この記事で紹介した技術を実践して、あなたらしい新しいスタートを切ってください。
人事として、多くの薬剤師のキャリアを見守ってきた私から、最後に一つだけ伝えたいことがあります。
あなたの決断は、間違っていません。
今の環境で限界を感じているなら、新しい環境を探すことは逃げではなく、成長です。そして、その決断を実現するための最後の交渉こそが、退職理由の伝え方なのです。
あなたの未来が、より充実したものになることを心から願っています。


